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シームレスな環境とボーダレスな連携が生み出す,
きたるべき未来と新たな価値

新春トーク
ユビキタス情報社会の展開と,日立グループの事業コンセプトuVALUE
 


ここから本文
 
写真
 
村上 輝康 氏
Teruyasu Murakami
株式会社野村総合研究所 理事長
 
写真
 
古川 一夫
Kazuo Furukawa
日立製作所 執行役専務
情報・通信グループ長&CEO
 インターネットをはじめとする情報ネットワークの普及・拡大により,時間や場所を問わず,だれもが自由に情報を利活用できるユビキタス情報社会が本格的に幕を開けつつある。この時代の大きな変革期にあって,日立グループは,中期経営計画「i.e.HITACHIプランII」の下,次代を切り開く新事業の創出と,その育成・発展に力を注いでいる。
 こうした中で,日立製作所は,2004年7月に新しい事業コンセプトとしてuVALUE(ユーバリュー)を発表した。uVALUEは,ユビキタス情報社会における新しい価値を顧客と共創するために,日立グループがこれまで多方面で培ってきたノウハウや,先進の技術力を結集したソリューションの提供に取り組み,新時代のビジネスモデルの確立を目指したコンセプトである。
 ますます注目されるユビキタス情報社会の展開は,そして,ユビキタス情報社会において求められる企業のあり方とは―。
 株式会社野村総合研究所の理事長として多忙を極める中,IT戦略本部評価専門調査会委員,さらには総務省のu-Japan政策懇談会座長を務め,ユビキタス情報社会推進の第一人者としてもご活躍中の村上輝康氏が,古川一夫 情報・通信グループ長&CEOと語り合った。
 
 

「あまねくつながる」世界の実現へ

 
古川 村上理事長は,野村総合研究所のリサーチコンサルティングやシステムソリューションの分野で長年にわたってご活躍されている中で,2000年に「ユビキタス・ネットワーク」という著書を通じ,ユビキタス情報社会へ向かう社会の潮流をいち早くとらえたコンセプトを打ち出されました。
 ユビキタスというと,ご承知のとおり,1988年に米国ゼロックス社パロアルト研究所の故マーク・ワイザー氏が提唱した「ユビキタスコンピューティング」という概念が知られていますが,村上理事長の提唱されている「ユビキタスネットワーク」は,それとは一線を画すものですね。

村上 私としては,両者をことさらに区別したいとは思っていないのです。ただ,インターネットブームが起こる直前の1988年当時では,いたるところにコンピュータが存在することが価値とされていたのに対し,私たちが本格的に研究を始めた1999年の段階では,いたるところでネットワークの利用が可能になることこそが重要だと考え,表現を変えました。いつでも,どこでもネットワークにアクセスができ,人と人,人と物,あるいは物と物が「あまねくつながる」ということを切り口に考えていくと,日本が出発点になるようなイノベーションを巻き起こせるのではないかと思ったのです。
 最近では,マスコミから「ユビキタスネットワーク」は長すぎて不便だと言われまして(笑い),「ユビキタスネット」と言うようになりましたが,総務省のu-Japan政策懇談会の取りまとめを担当し,ユビキタスネット化を進めるうえでのビジョンや,政策的なパッケージなどについて検討し始めています。
 
 
 

重視すべきは利活用の視点

 
古川 おっしゃるように,個人・企業・社会がつながるチャンスが飛躍的に拡大することは,単なる技術的な革新というだけでなく,社会的な革命となるはずです。そのような社会を,私どもは「ユビキタス情報社会」と呼び,それが現実のものとなってきたことによって,これまでにない新たな価値を創造できるようになったと考えています。
 日立グループは,2003年4月から中期経営計画「i.e.HITACHIプランII」に取り組んでおり,情報がこれからのライフラインの一つになるというビジョンの下,それを支えるソリューションとして,幾つかの新事業を創出し,育成・発展に力を注いでいます。
 その中で,日立製作所は,2004年7月に新しい事業コンセプトとしてuVALUE(ユーバリュー)を打ち出しました。お客様のニーズがより高度に,かつ幅広くなるユビキタス情報社会では,お客様と私どもが一体となって,お客様が手に入れる革新的な価値を共創していくこと,さらに,それらの価値と価値が融合することで価値の連鎖を生み出すことが重要であると考えています。その考えに基づいて,ビジネススタイルの革新を目指そうというものです。

村上 ユビキタスネット化には,二つのプロセスがあると考えています。まず,ユビキタスネットのICT(Information and Communications Technology)環境を整備していくプロセス。これは,固定系ブロードバンド,高速無線,デジタル放送,ITS(Intelligent Transport Systems),さらに,RFID(Radio-Frequency Identification)技術を利用した,主に物と物を結ぶ「実物系」ネットワークの五つを整備し,相互接続性や相互運用性を全体として保ちながら,シームレスに利用できるようにするプロセスです。
 そして,そのICT環境を活用して,これから日本の社会が直面する問題を解いていくプロセス。こちらをおろそかにしてはなりません。IT戦略本部の評価専門調査会でも,評価の基本理念は「利用者視点の成果主義」であるとしています。ICTの環境整備は大事ですが,それは利用者にもたらす成果と連動して展開していかなければ意味がありません。ですから,uVALUEというユビキタスネットの利活用による価値に主眼を置き,ユビキタス情報社会をその実現手段として位置づけられているのは,実に適切なスタンスであると思います。

古川 村上理事長は,かねてからこの議論が技術に偏りがちになることに警鐘を鳴らしていらして,「e-Japan戦略II」でも利活用に重点が置かれていますね。

村上 そのために,まずは利用者の意見を聞くべきだということで,2010年にはどんなサービスが実現していてほしいか大規模アンケートを行いました。その結果で興味深かったのは,ご時世でしょうか,生活の安心・安全へのニーズが非常に高かったということです。また,少子高齢化の問題,働く女性に対する支援への関心も高く,ユビキタスネットのICTも,まずはそうした問題を解決するためのサービス基盤という形で展開していくでしょう。

古川 安心・安全は,日立グループでも今後の重要なキーワードとして位置づけ,研究所でもセキュアなネットワーク環境を実現する技術の研究を進めています。ネットワークそのものの安全性もさることながら,ネットワークを活用した安心・安全対策というソリューションも重要ですね。そうした社会全体に役立つ技術こそ,私どもが取り組むべきことだと考えています。
 少子高齢化に関しては,例えば遠隔医療や電子カルテなどによって医療の高度化や効率化を支援していくこと,また,働く女性のサポートについては,仕事と子育てを両立できるように,ユビキタスネットを活用してSOHO(Small Office,Home Office)的なワーキング環境を構築するといったソリューションが考えられます。
 
 
 

ユビキタス情報社会の三種の神器

 
村上 そのような展開を産業のサイドから見ていくと,いわば「ユビキタスエレクトロニクス」とでも呼ぶべきカテゴリーが重要になるのではないかと考えられます。
 今の日本経済を支えている,デジタルカメラ・薄型テレビ・DVD(Digital Versatile Disc)レコーダの,いわゆる新三種の神器。これらは今後,ネットワークにつながっていくことで新しい価値を得て,そこへネットワークに接続できる白物家電も加わっていくことで,「ユビキタス家電」が生まれると予想されます。
 そして,ITSの中に位置づけられる,ネットワークとのつながりを高めた「ユビキタス自動車」,さらに,ユビキタスネットのICT環境を活用した「ユビキタスオフィス」,この三つが一回り大きな三種の神器となり,それらにかかわる産業どうしが,ユビキタスエレクトロニクスというカテゴリーの中でどんどん連携し合い,バージョンアップしていく。そのような展開が期待されます。

古川 ユビキタス家電などは,ほんとうに生活スタイルまで変えてしまうと予想されますし,わが国の産業界が強みを発揮できる分野ですね。

村上 生活スタイルとともに,私は,オフィススタイルも相当大きく変わるのではないかと思います。高精細な動画をストレスなく扱える環境が整えば,知識やノウハウのやり取りも可能になり,より高度で知的な作業が遠隔地にいてもできるようになるでしょう。
 このように社会のあらゆる場面が変わっていくと,日立グループのような総合的に事業を展開しておられる企業にとっては,ほんとうに市場から目が離せない時代になるのではないでしょうか。

古川 私どもとしても,ユビキタス情報社会では,情報・通信だけではなく,電力,電機から自動車機器,都市整備,また医療,物流,素材など,さまざまな分野にわたるグループ全体がいかにシナジー効果を発揮できるかが重要だと考えています。
 具体的な例としては,RFID技術を活用したトレーサビリティ,地球環境問題の面からも注目度が高まっているPLM(Product Lifecycle Management)があげられるでしょう。原料の段階から,生産,物流,消費,あるいは保守,最終的には廃棄の段階までつながり,実物からそれに関連する情報をトレースできるようになったことで,さまざまな付加価値が追求できるようになります。これらを含めた幾つかのソリューションを「uVALUE創出モデル」とし,無線ICタグ「ミューチップ」などをキーデバイスに,グループ内の多様な得意分野を生かしつつ,外部との連携も深めながら,レベルの高いソリューションの提供を目指しています。
 ユビキタスネット化が可能にする産業横断的なシステムによって,社会全体の価値を高め,効率向上を図っていくことにグループをあげて取り組み,日本経済の活性化に貢献していきたいと思っている次第です。

村上 日立グループは,そういうスケールの大きなビジネスに最も適していると思いますし,ぜひ率先して取り組んでいただきたいと期待しています。
 
イラスト
 
情報技術パラダイムの進化とユビキタスネットワーク
 
 
 

組織の壁を越えたボーダレスな連携を

 
古川 ユビキタスネットの特性として,村上理事長は「情報機器のボーダレスコネクティビティ」,「マルチモーダルな広帯域ネットワーク」,「コンテンツのシームレスポータビリティ」という三つのポイントを指摘されていますね。

村上 その中でも私が今,強い関心を持っているのが情報機器,ユビキタス端末です。多様なネットワークを介して,さまざまなサービスを利用するためには,携帯性があって,しかもマルチユースな端末が必要になってきます。それは,携帯電話か,PDAか,あるいはテレビのどれかが進化するのか,それとも融合していくのかわかりませんが,とにかくある種の端末が必要になるであろうし,その技術的なデファクトスタンダードをだれが,どこが握るかというのは,非常に大きな問題ではないかと思うのです。
 ところが,そういう端末の開発には,幾つかの異なる事業部門が関与しなければならないためでしょうか,なかなか進展していないように見受けられます。
 これはシンボリックな例ですが,ユビキタスネットの実現には,そのような障壁があるというのも一つの側面です。行政にしても,複数の省庁がビジョンを共有して進めなければ創造的なソリューションは出てこない。ユビキタスネットは,構築の段階からボーダレスでなければならないのです。

古川 正にご指摘のとおりで,日立グループにも,伝統的に縦型の組織という傾向が見られます。uVALUEは,外部だけでなく内部に対しても,組織どうしが壁を破ってクロスファンクション的な動きをしていこうと提案していく運動でもあるのです。
 これは日立グループ全体で取り組まなければならない課題であり,今のお話はほんとうに重要なポイントをついておられます。

村上 ことにユビキタスの領域では,1990年代に注目されたモジュール型の産業よりも,日立グループのように総合型であるほうが強みを発揮しやすいと思います。

古川 そうあらねばならないと,日夜励んでおります。日立グループからイノベーションを起こし,さらには,それをグローバルに広げていけたら理想的です。

村上 わが国が2004年5月に「u-Japan構想」を打ち出したのと相前後して,お隣の韓国でもu-Korea構想を発表しています。ブロードバンド先進国である韓国,今後の発展が期待される中国とわが国がいっしょになって,ユビキタス情報技術をパイオニアとして世界に発信していくという可能性は十分にありうるのではないかと思います。そのためには,やはり,企業がイニシアティブをとりながら,ユビキタスネットを活用したソリューションを形として示していくことが先決でしょう。
 
イラスト
 
uVALUEの概念
 
 
 

2010年に向けて

 
古川 u-Japan政策でも2010年のあるべき姿を想定されていますが,実は2010年は日立製作所の創業100年という節目の年に当たるのです。そういう意味で,私どもとしても非常に意識している2010年は,どんな社会になっていると予想されますか。

村上 ユビキタスネットには,環境整備プロセスと利活用プロセスがあると申し上げましたが,2010年ころまでには前者が進展し,ユビキタスネットのICT環境が実現していると思われます。もちろんそれまでの間に,利活用プロセスのパイオニア的なソリューションも随所で実現されていくでしょう。

古川 現在,七つの業界でトレーサビリティシステムのトライアルを行っています。その中で強く感じるのは,このシステムによって非常に競争力のあるベースが形成され,その上にいかに優位化したサービスを載せられるかが各企業の特徴となり,世界的な競争力を高めるであろうということです。2010年には,さまざまな分野でそのような成果が見られるようにしたいものです。

村上 インターネットビジネスでは,技術がビジネスモデルを指し示してくれたと言えます。反対に,ユビキタスネットのICT環境では,まずビジネスモデルがあり,それが決まれば技術はどのようにでも活用できるという世界です。何でもできる環境ですが,それは,社会や顧客をじっと見つめてニーズを知り尽くさなければよいビジネスが創出できないという,難しい環境でもあります。

古川 日立グループとしても,いろいろな分野のノウハウを駆使しながら,ユビキタス情報社会における最適なソリューションをお客様に提供していきたいと考えています。それと同時に,5年後,10年後を見据えた技術開発にも力を注いでおり,ソリューションとテクノロジーの両輪でユビキタス情報社会を牽(けん)引しながら,2010年に向けて新しい価値の創出を目指していきます。

村上 ぜひ,“Inspire the Next”を形にしてください。

古川 いろいろご指導いただければ幸いです。本日はどうもありがとうございました。
 
 
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