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日立評論創刊100周年記念サイト

Chapter1:Innovators:社会イノベーションの進化を牽引するグローバルR&D:創立100周年にあたっての決意と挑戦

「我国工業を振るわしむは吾人の任務」との小平浪平創業社長の熱い志から1910年,日立製作所は誕生した。

創業から8年後の1918年,研究開発部門が「久原鉱業株式会社日立製作所試験課研究係」として正式に発足し,積年の念願である自主技術,国産技術の確立に向けた挑戦が本格的に始まることとなった。

以来,星霜ここに100年。この間,日立は技術を通して人々の暮らしと社会を支えるグローバル企業へと成長し,研究開発部門はその原動力となって,最先端分野から未来につながるイノベーションを実現してきた。

創立100周年の今,これら未来創造の系譜を引き継ぎ,社会イノベーションの進化に向けて新たな挑戦をスタートする。

目次

社会課題解決に向けたオープンイノベーションを加速

[1]研究開発グループの組織体制グローバルな協創のドライバーとして,社会イノベーション事業のさらなる成長を牽引するために組織体制を一新している。

[2]顧客協創プロセス日立独自のNEXPERIENCEをLumadaに組み込み,顧客協創を強力推進していく。

今日,AI(Artificial Intelligence)やIoT(Internet of Things)を駆使したデジタルトランスフォーメーションが加速する一方,国連によるSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)や日本政府が提唱するSociety 5.0に見られるように,地球規模での課題解決が企業にとって最も重要な経営テーマとなりつつある。こうした時代を先取りすべく日立は,デジタル技術を活用して社会イノベーション事業を進化させ,「IoT時代のイノベーションパートナー」となることをめざし,新たな取り組みを進めている。

ここでは,顧客やパートナーと課題やビジョンを共有し,ビジネスモデルをデザインし,検証・シミュレーションを通して具現化する「協創」が不可欠となる。研究開発グループは,グローバルな協創に向けたドライバーとなるべく2015年,いち早く組織体制を一新した。それが「顧客協創」「技術革新」「基礎探索」をそれぞれ目標として掲げ,顧客との協創を推進する「社会イノベーション協創センタ(Global Center for Social Innovation: CSI)」,技術革新を推進する「テクノロジーイノベーションセンタ(Center for Technology Innovation:CTI)」,将来の社会課題解決に向けた研究開発を担う「基礎研究センタ(Center for Exploratory Research:CER)」である。これに続き2016年からは事業部門もフロント機能を強化したビジネスユニット制に移行したことにより,世界中のさまざまな社会課題に応える社会イノベーション創出に向けて,それを実現する体制が整ったと言える([1]参照)。

研究開発グループは,協創を通じて未来創造を牽引する役割を担い,電力・エネルギー,産業・流通・水,アーバン,金融・公共・ヘルスケアという注力4事業分野において次の三つの取り組みを加速している。

一つ目に掲げるのは「社会イノベーション事業創生」。オープンかつセキュアなIoTプラットフォームLumadaには多様な事業領域を知る日立ならではの「現場の知」を凝縮したユースケースが蓄積されており,さらに顧客協創のための独自の方法論であるNEXPERIENCEを活用しながら,顧客と共にスピーディーに新たな価値提供の実現をめざしていく([2]参照)。そのために2017年,世界各地のCSIの顧客協創を束ねるInsights Laboratoryを新設し,AI/アナリティクスを共通基盤としたソリューションコア開発,Lumadaユースケースのショーケース化などを海外200名体制で推進している。

二つ目が「世界No.1技術基盤の確立」である。世界中の顧客やパートナーとの協創には,他に真似のできない強力なコア技術が不可欠となる。研究開発グル―プは過去100年に及ぶ歴史の中で,世界トップに輝く技術を数多く生み出してきた。これらの実績と技術的蓄積の上に最新のデジタル技術を融合させることによって,多くの事業分野に応用できる共通基盤の確立をめざす。例えば,ロボティクスやAIを駆使した運用・保守サービスの高度化,センシング技術を用いた生産現場のスマート化・現場ノウハウのデジタル化,あるいは革新的プロダクトとIoT化による高付加価値の提供,電動化や自動運転に向けたシステム統合など,幅広い技術の蓄積があって初めて実現できる事例が多数出てきている。

そして三つ目は「将来ビジョンの実現」に向けた取り組みだ。経済や社会の激変に伴い,産業構造も急速に変貌する不確実性の時代においては,将来の社会課題を先取りし,多様なステークホルダーとそのビジョンを共有することが極めて重要となってくる。研究開発グループは国内外の大学や研究機関に協創拠点を設け,連携を強化するとともに,デザインや社会科学の知見を取り入れて,超スマート社会の先にある将来課題を生活者の視点から描くビジョンを発信しながら,多様なパートナーとのオープンイノベーションを推進している。

未来創造に向けて今,振り返る先人たちの精神

[3]小平浪平創業社長

[4]馬場粂夫博士

[5]昭和肥料納め水電解槽と八幡製鐵所納め圧延用直流電動機

[6]現在の返仁会となる博士号取得者の集まり「30人会」

[7]馬場博士の揮毫「空己唯盡孚誠」

[8]日立研究所創立三十周年記念論文集,「日立研究所30年記念に就て」(1964年)

2018年,日立の研究開発部門は「久原鉱業株式会社日立製作所試験課研究係」発足から100周年を迎えた。世界の最前線で進められる現在の取り組みもその淵源を辿れば,100年前の「イノベーター」だった先人たちの開拓者精神に行き着く。

日立は,これまで「技術の日立」を標榜し,「日立を見れば日本の将来がわかる」と言われ,長きにわたって日本の近代化と産業発展に大きな貢献を果たしてきた。その源泉は,「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」という小平浪平創業社長の企業理念にある([3]参照)。そして今日までの目を見張る躍進と拡大は,その志を我が心として連綿と継承してきた多くの先人たちの激闘があったからこそ成就したものにほかならない。

小平創業社長はみずからの理念を実現すべく創業まもない時期から先取的な施策を次々と実行した。研究部門の設置もその一つであった。技術者育成のための徒弟養成所(1910年),技術機関誌「日立評論」の創刊(1918年),発明考案の奨励ならびに特許業務専任者の配置(1921年)など,卓越した先見の明とともに国産技術に賭ける大志を痛感させる挑戦であった。

「産業や工業の発達は,研究にまたねばならぬ」というのが小平創業社長の考えであったが,それを全面的に一任されたのが馬場粂夫博士だ([4]参照)。創業より技術開発を統率し,世界恐慌時の不況下,日立の存亡を賭けて挑戦した昭和肥料(現在の昭和電工株式会社)納め水電解槽(1931年)や八幡製鐵所(現在の新日鐵住金株式会社)納め圧延用直流電動機(1933年)などでも陣頭に立って尽力した人物である([5]参照)。研究係発足と同じ年に「日立評論」の創刊を直訴したのも当時,設計係長の職にあった馬場博士であった。

馬場博士は1977年,92歳で亡くなるまで長寿を全うした。その間には膨大な著書を遺しており,日立の企業文化・風土の形成に多大なる影響を与えてきた。特に研究開発部門において,今もなお精神的支柱となっているのは馬場博士の教えと言っても過言ではない。

戦後,「落穂拾いの精神」を唱え,製品事故の後始末を誠実に行うように指導したのは社内ではよく知られている。「いくら一生懸命やっても,人は誰でも失敗するものである。これを教育の種として,自ら反省して改めるようにするなら,必ず正しく物を作れるようになる。自分の失敗を隠さないで,人にもそれを繰り返さないようにさせることが大切である」と説いて,「以過為福(過ちをもって福と為す)」という考えを全社員に浸透させた。これが厳しい品質管理や生産技術による現場力をもたらすこととなった。これらの主眼はもう一つ,馬場博士が重視した「有言実行(言っただけのことは約束どおりものにする)」にあり,その二つの教えは車の両輪のごとく日立のモノづくり精神の根幹として今日まで継承されている。

研究者のあり方としては,「高度な発明を為すのは変人以外には期待し難い」と喝破し,有為な青年技術者を進んで招き入れた。合わせて社内の博士号取得者の集まりを「変人会」(後の「返仁会」)と名づけ,みずからを「大変人」と称して社内研究者の学位取得を奨励した([6]参照)。

また四書五経をはじめ東洋思想に造詣が深く,その教養に基づき,社員に向けて多くの指導を行った。特に好んで説いたのが「己を空しうして唯孚誠ふせいつくす」という一節である([7]参照)。

私心を無にすれば,自然と天の道にかない,そこに誠が現れるという意味合いだが,「孚」という一字に特別な思いを託していた。これは親鳥が卵を抱いて温める姿をかたどった字であると言われ,思いやりのある情愛,温かい心の大切さを説いたものであるが,ひと癖もふた癖もある「変人」揃いの研究者を束ねるリーダーに求められる心得として読むこともできる。

馬場博士の残した言葉はこれ以外にも枚挙に暇がないが,研究の要諦について以下のように述べている。

「研究の要義は,学,問,思,弁,行なる5段階を,学,問,行,思,弁,及び断の6段に考えられたいと念じて居る。何故に行を繰上げるかというと日本人の通弊性向として薄く行ったものを自ら篤く之を行ったと勘違いし易い。篤く之を行うというのは本来哲学的の辞ではあるが研究では到知格物論とし事を慎重綿密に為すに当る。然も思,弁,断は他人と協同せねば出来ない社会に相成って居る。故に後の3段に於て薄いものを篤いと伝えると全体として完璧になりかねる。(中略)是を総括的に見て格物一辺倒では全きを得ないから人として捨贋執真を望むという事で,心は唯一心不乱に真にくっつけ之を慎という処へ落付くべしという希望である」(「日立研究所30年記念に就て」より)([8]参照)

すなわち「学び」,「問う」た後には,「思い」,「弁ずる」前に「行うべし」との教えである。シミュレーションやプロトタイプなどの具体的な形を作り上げながら,顧客やパートナーと共に「思い,弁じ,断ずる」という,デザイン思考に基づくオープンイノベーションの手法を連想させる。さらに共通して追求すべき「真」とは今で言えば,社会課題の解決であり将来価値の創造にほかならない。今日のグローバルな協創にも通じる心構えとして拝することができるであろう。

「開拓者精神」という原点から社会イノベーションを起こしていく

今から100年前,日立工場試験課の片隅でわずか数名でスタートした研究係は,当初の役割であった試験研究とともに,純国産の技術開発の使命を果たし,1934年には研究所に昇格,日立工場副工場長だった馬場博士が初代所長の任命を受けた。続く1942年には「欧米に倣って将来を目標とした研究機関を持つ必要がある」との小平創業社長の構想の下,中央研究所が設立され,「10年,20年後を目標とするが,今日の問題も頭に入れてやる」との指針が示された。初代所長を務めたのはやはり馬場博士であった。戦後の高度経済成長期には時代の要請に応えるべく機械研究所,生産技術研究所,システム開発研究所などが相次いで設立され,さらに日立製作所創業75周年の1985年には最先端のサイエンスに基づく基盤技術創生を使命とする基礎研究所が加わった。

このように,馬場博士の精神をみずからのDNAとして研究開発部門は創立以来の100年間で大きく飛躍を遂げ,その中で日本初,世界初と言える数多くの技術革新を生み出していったのである([9]参照)。

[9]日立製作所研究開発部門100年の歩み1910年の創業,1918年の研究開発部門発足から重電機分野を中心に自主技術・製品の開発を重ね,1950年代以降はエレクトロニクスや情報・通信分野における研究開発を本格化し,日本初,世界初の技術革新を数多く生み出してきた。

[10]世界5極体制の社会イノベーション協創センタ(CSI)世界各地に研究拠点を設けて顧客の近くに研究者を配置することにより,グローバルな協創を加速する。

[11]大学共同研究拠点大学や地域の特色を生かして社会課題の解決に取り組む共同研究ラボを,国内3大学に開設している。

[12]馬場博士の揮毫「到知格物天道開 捨贋執眞人道完」

現在,全世界2,700名の研究者集団を率いる執行役常務CTO兼研究開発グループ長の鈴木教洋は,過去100年の軌跡を振り返って語る。

「『和』『誠』『開拓者精神』という日立創業の精神は,時代や社会がいかに変わろうとも,決して変わることのない私たちの原点,アイデンティティです。現在,社会イノベーション事業をグローバルに展開する中,これに対して世界の人たちから予想以上の共感や賛同を頂き,ここに託されたメッセージの普遍性を私たち自身,改めて認識しています。研究開発部門は100年前,まさにこの『開拓者精神』から誕生した組織であり,だからこそ,グローバルな舞台で社会イノベーションの進化を切り拓いていく使命を担う存在なのだと自負しています」

その具体的な形がビジョンの可視化・共有に基づくオープンイノベーションだ。研究開発部門が率先する新たな「開拓者精神」はすでに世界各地に広がっている。

地域ごとに異なる社会課題の解決に貢献するために,2015年の組織再編では,従来の海外研究拠点を拡充し,グローバルな顧客協創をリードするCSIを東京の他に北米,中国,欧州,そしてAPAC(Asia-Pacific)に設け,日本を含めて全世界5極体制で推進することとした([10]参照)。

各地の顧客やパートナーと連携しながら研究テーマを絞り込む海外CSIの活動は,おのずと地域の特性を色濃く反映しているが,共通して言えるのは,それぞれの地域特有の課題に応えるソリューション実績を,IoTプラットフォームLumadaのコアとして他の地域に展開するグローバルな「知の共有・連携」をめざしている点である。決して自分たちの優位性を追求するだけではなく,相互扶助や共存共栄の精神によって持続可能な未来社会を共に築き上げていく。ここにこそ,100年もの間,「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」という企業理念を掲げてきた日立R&Dならではの強みがあると言えるだろう。

また急速に進むデジタライゼーションを背景にオープンデータを活用した新たなサービスを創出するとともに,長期的な視野から将来の社会課題に取り組むには,人文科学・社会科学から自然科学にまたがるアカデミズムの幅広い知との連携が欠かせない。その先駆けとして2016年6月から東京大学,京都大学,北海道大学内に共同研究ラボを開設している。従来の産学連携を超えて大学や地域の特性を生かした課題解決に挑戦し,「課題先進国・日本」での成果を世界に向けて発信していく([11]参照)。

こうした社会イノベーション事業の先にある次の100年を見据えて鈴木はこう語る。

「AIやIoTの急速な進化により,これらの最先端技術に対して人々の期待と不安が高まる一方,iPS細胞をはじめとするバイオテクノロジーは社会や暮らしのあり方を根本から変える可能性を秘めています。私たちの社会イノベーション事業を進めていくうえで,最も大切なのは思想であり倫理であると痛感します。そして最後に問われるのはやはり人間であると。

馬場さんが私たちに残してくれた言葉の中に『到知格物,天道開き,捨贋執眞,人道まったし』があります。『ものごとについて知識あるいは良心を究めるときにはひとりでに天の道が分かってくる。また誠の心をもって贋の学問を捨て,正真の学問を取り上げてそれを追求していくなら,人間として踏むべき道は天の道と一つであることがわかってくる』という意味の非常に精神性の高い教えです。最先端の科学技術の成果を駆使して社会イノベーションを実現するためには,そこに携わる私たち研究者一人ひとりが,この言葉の通りに深く内を省みて,良心の命ずるところを明らかにしながら,本当に社会のためになるものは何かを考え続けることこそが重要なのだと思っています」([12]参照)

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