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Column 海外R&D 拠点 >>> 欧州

欧州R&Dの展開

産官学連携を基軸として

筆者は2006年から3年間欧州CTOとして日立ヨーロッパ社に勤務した。ミッションの一つが産官学連携を中心とする欧州での研究開発の推進であった。

ケンブリッジ大学との産学連携

都築 浩一
産業・水業務統括本部 CTO

1989年に設立した日立ケンブリッジラボは,多くのノーベル賞受賞者を輩出しているケンブリッジ大学キャベンディッシュ研究所内に設立された先端量子物理分野を中核とするラボである。世界中の俊英が集まるケンブリッジ大との連携により,日立ラボにも英国,日本,ドイツ,韓国等,さまざまな国から優秀な人材が集まり,世界のライバルと物理の最先端でしのぎを削ってきている。筆者在欧中もスピントロニクスや量子コンピューティングで先駆的な研究を精力的に行っていたが,それらの成果は近いうちに量子暗号や量子計算機などインパクトのある実用技術に結実することが期待される。

ドイツでの産学連携

日立ケンブリッジラボで作成した半導体量子ドット

ミュンヘンには日立ミュンヘンラボが設立され,2006年当時は自動車機器技術のミュンヘン工科大学との共同研究や自動車機器欧州顧客向け技術フロントとしての役割を担っていた。また2008年頃から,ミュンヘンラボとは別にアーヘン工科大学やシュトゥットガルト大学などと燃焼関連の基盤技術に関する共同研究も行った。

ドイツは自動車などの主要産業向けの産官学連携技術開発に熱心な国であり,大学でも基礎から応用に至る広い範囲で企業と連携した開発を推進する。一流大学には大型の実験設備と実験設備を運転するテクニシャンが整っていて企業の研究開発を支援しており,われわれもそのようなドイツの大学の強みを生かした共同研究を行ってきた。

現在ドイツでは第4次産業革命やEV(電気自動車)など,日立にとって重要な分野の技術開発に国を挙げて邁進している。ドイツでの産学連携は今も変わらず重要かつ有効である。

フランスでの産官学連携

フランスの研究学園都市であるソフィアアンティポリスに日立ソフィアアンティポリスラボが設立され,2006年当時としてはかなり先駆的な,自動車自動運転化に向けた車車間通信や路車間通信方式などを中心としたシステム開発を行っていた。昔から域内に多くの国が存在して相互の交流が盛んな欧州では,技術やシステムの開発で標準化や互換性が重視される。ソフィアアンティポリスラボでの自動車自動運転に関する研究も欧州のそういった面を重視し,EUプロジェクトに参画して多くの機関,企業との共同研究を推進した。なお日立ソフィアアンティポリスラボと日立ミュンヘンラボは改組されて現在Automotive and Industry Research Laboratoryという一つの組織体として活動している。

欧州デザインセンター

1980年に欧州のデザインセンスを日立製品のデザインに生かすことを目的に,イタリアのミラノに欧州デザインセンターを設立した。かつてはデザインと言えば製品の意匠等を指し示していたが,次第に社会や事業の在り様までを含む広い概念となり,2008年頃からミラノのデザインセンターのメンバーも欧州での新事業の「デザイン」を志向するようになった。デザインセンターも2012年にロンドンを拠点とするExperience Design Laboratoryに改組されて,事業フロントとして欧州のお客様と一緒にコミュニティや事業の変革のイメージを創り上げていく活動を担っている。

これからの欧州における研究開発

日立は上述のケンブリッジラボ,Automotive and Industry Research Laboratory,Experience Design Laboratoryに加えてTransportation, Energy and Environment Research Laboratory(ロンドン・2011年),European Big Data Laboratory (マンチェスター・2013年,コペンハーゲン・2014年)を新設,さらに2017年にはロンドンに欧州社会イノベーション協創センタの中核拠点も設けるなど,欧州における研究開発を強化してきている。研究者数も2006年時点で約30名だったのが現在は70名に拡大している。欧州の強い基礎科学や基盤技術を生かして日立グループの将来の製品やサービスの種を生むことを主目的としていたのに加えて,例えばデンマークでの列車運行に関する検討など,現在では地域に密着したソリューションの創出を目的とする研究開発活動への期待も大きくなっているからである。それだけに過去30年間近く産学連携や産官学連携を通じて培ってきた地域ネットワークは貴重な財産であり,それを拡充していくことがこれまで以上に重要である。