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INSPIRATIONS 社会イノベーションをめぐる対話 vol.02INSPIRATIONS 社会イノベーションをめぐる対話 vol.02

  • 山中 伸弥
    京都大学 iPS細胞研究所 所長
  • 鈴木 教洋
    日立製作所 執行役常務 CTO
    兼 研究開発グループ長

人類の未来に貢献する
イノベーションをめざして

サイエンスに基づく協創が実現する価値創造

グローバル化やITの高度化などを背景に最先端のサイエンスが急速に進化・発展する中、
それらの研究成果によって、暮らしや社会のあり方を
根底から変革するイノベーションが生まれようとしている。
サイエンスがもたらす新たな価値を社会全体が享受するためには何が必要なのか──。
ヒトiPS細胞の誕生から10年。
再生医療や創薬に向けて挑戦し続ける京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥所長を迎え、
日立の研究開発グループを率いる鈴木教洋と論を交わした。

山中 伸弥Shinya Yamanaka
神戸大学医学部卒業、大阪市立大学大学院医学研究科修了(博士)。米国グラッドストーン研究所博士研究員、京都大学再生医科学研究所教授などを経て、2010年4月から京都大学iPS細胞研究所所長。2006年に世界で初めてマウスの皮膚細胞からiPS細胞の作製に成功。2012年ノーベル医学・生理学賞を受賞。同年、文化勲章を受章。
鈴木 教洋Norihiro Suzuki
1986年東京大学大学院工学系研究科修士課程修了、日立製作所入社。デジタル画像信号処理、組込みシステムなどの研究開発に従事後、2012年日立アメリカ社シニアヴァイスプレジデント兼CTO、2014年中央研究所所長、2015年研究開発グループ社会イノベーション協創統括本部長を経て、2016年から現職。工学博士。
進行武田 志津

日立製作所 研究開発グループ 基礎研究センタ
チーフサイエンティスト 兼 日立神戸ラボ長

臨床応用へ踏み出した
iPS細胞による医療の現在

武田医療分野では難病の克服が大きな課題となっていますが、現在治療法のない難治性疾患に対しても、根本的な治療を実現する再生医療に大きな期待が寄せられています。特にiPS細胞は、さまざまな疾患の治療に応用できるため、山中先生のご研究はまさに未来の医療を拓くものです。臨床研究も進んでいますが、再生医療と創薬の分野における現状の取り組みについて、山中先生からお話を伺いたいと思います。

山中ヒトiPS細胞(induced Pluripotent Stem Cell:人工多能性幹細胞)を作製してから10年になりますが、ようやく応用研究の第一歩まで来ました。
 2014年には理化学研究所の高橋政代先生が中心となり、自家iPS細胞を用いて世界で初めて網膜疾患の患者さんに移植手術が行われました。2017年3月からは京都大学で他人の細胞から作製した他家iPS細胞を活用して、網膜疾患の臨床研究を進めています。さらに、私たちは難病である進行性骨化性線維異形成症(Fibrodysplasia Ossificans Progressiva:FOP)の患者さんからiPS細胞をつくり、病態を再現する疾患モデルを作製しました。これを用いて複数の候補薬の効果を調べたところ、すでに薬として使用されている化合物が有力であることが判明し、もうすぐ臨床試験を実施することになっています。
 とはいえ、これらの成果はまだほんの第一歩です。マラソンで言えば、最初の5kmほどの地点に来た程度でしょうか。これからが本当に大変な道程になりますが、何とか乗り越えてさらなる応用へと進んでいけたらと思っ ているところです。

iPS細胞研究棟内4階のオープンラボの様子
京都大学
iPS細胞研究所
(CiRA)
iPS細胞研究棟内4階のオープンラボの様子

 iPS細胞作製技術を用いて新しい治療法の開発や病気の原因の解明、再生医療への応用をめざす研究機関。2030年までの目標として、(1)iPS細胞ストックを柱とした再生医療の普及、(2)iPS細胞による個別化医薬の実現と難病の創薬、(3)iPS細胞を利用した新たな生命科学と医療の開拓、(4)日本最高レベルの研究支援体制と研究環境の整備の四つを掲げ、iPS細胞の臨床応用に取り組む。
 現在、品質の保証されたiPS細胞を迅速に提供するために、再生医療用iPS細胞ストックを作製するプロジェクトを進め、再生医療に使用可能なiPS細胞ストックを研究・医療機関や企業に提供しているほか、難病に対する新薬の開発など、積極的な産学連携で研究開発を行っている。

鈴木山中先生が2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞された時に、「まだ一人の患者も救っていない」とコメントされたことが印象的でしたが、いまやiPS細胞からつくった細胞が患者さんに移植されるようになり、創薬においても、難病を治療する薬の手がかりを得ることで、臨床に向けた応用研究が大きく進展しています。これもひとえに山中先生が率いられている京大iPS細胞研究所(CiRA)の方々や、協力機関の関係者の弛まぬ努力の賜物だと思います。
 一方で私ども日立も、2015年度から国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の国家プロジェクトにおいて、CiRAの高橋淳先生と共同研究を進めており、iPS細胞の大量自動培養技術の確立に向けご指導を頂いています。京大で推進されているiPS細胞の備蓄(ストック)プロジェクトによる再生医療の普及には高品質の細胞の量産化が重要な課題であり、そこに日立の細胞自動培養技術が貢献できるものと思っています。
 具体的には現在、京都大学と大日本住友製薬との三者でパーキンソン病治療に向けたiPS細胞大量自動培養装置の実用化に取り組んでいます。さらに2017年には、神戸医療産業都市に「日立神戸ラボ」を新設し、自動培養技術の実証試験をオープンイノベーションで推進しているところです。

武田また日立は、京大で取り組まれている健常人iPS細胞パネルの構築に向けて、日立健康管理センタの受診者からボランティアを募集し協力させていただいています。

山中はい、大変お世話になっております。これは先述の難病のFOPの例のように、さまざまな病気の患者さんの細胞からiPS細胞を作製し、病気の発症メカニズムの解明や治療薬の開発に役立てようという試みです。そのためには疾患を持つ方と持たない方の比較検討が欠かせないのです。

鈴木疾患モデルiPS細胞と正常細胞の比較により疾患の原因となるメカニズムを解明できるなど、サイエンスに立ち返った研究にもiPS細胞が役立つわけですね。

山中ええ、やはり実際の人間の細胞で研究ができるというのが重要です。従来はマウスによる実験が主でしたが、マウスと人間の遺伝子は8割程度しか同じではありませんし、見た目もまるで違いますからね。iPS細胞を活用すれば、実際の人間の細胞の働きや反応を詳しく調べることに役立つのです。
 こうした研究を進めるためにはさまざまなiPS細胞を収集する必要があり、日立さんの協力には大変感謝しています。

再生医療の普及を促す
量産化と品質の安定化へ向けて

武田日立では、2002年から自動培養装置の研究開発に着手し、量産化と品質の安定化をめざして取り組んできました。普及拡大においては、今後どのような点が重要になるとお考えでしょうか。

山中これまで再生医療の研究は大学が中心となって基礎研究の延長で進めてきましたが、この先、再生医療を広く普及させていくためには大学の力だけでは難しく、企業のさまざまなノウハウが必要になります。特に、iPS細胞を用いた細胞製造コストの削減は大きな課題です。
 京大のiPS細胞ストック活動は再生医療の普及における大変重要な取り組みであり、これに関連して自動培養装置での量産化によるコスト削減に大いに期待しています。また、自動培養における高い再現性や品質の安定化にも期待を寄せています。
 というのもこれまで細胞培養というのは専門技術者の手で行ってきたわけですが、AさんとBさんでは、同じ細胞を使い同じプロトコルで培養しても、Aさんならいい細胞ができるのにBさんではダメといった具合に、まったく違うものができてしまうことがあったんですね。ところが、AさんとBさんの違いを科学的に説明することが非常に難しい。自動培養装置でAさんの職人技を再現するためには、ITやAI(Artificial Intelligence)の力なども借りて、より良い方法を追究していく必要があるでしょう。

鈴木これまで私どももいかにして熟練者と同等のレベルの細胞をつくるかに腐心してきましたが、ようやく最近、熟練者並みの品質のものができるようになりました。
 また現在、日立では、人のさまざまなノウハウを最新のセンシング技術やAIでデジタライズし、品質向上や生産性の向上、効率化につなげていく取り組みを進めています。これらの成果を蓄積し、IoTプラットフォームLumadaを通して幅広い分野で応用できる形にして提供しようとしています。日立グループを含む社内外の連携により細胞培養の自動化をはじめ、細胞製造プロセスの開発や品質管理など、IoT(Internet of Things)で貢献できればと思っています。

山中期待しています。一方で、先ほどお話しした熟練者のAさんの方法が本当にめざすべきものなのかどうか、その検証もしていく必要があると思っています。ゲノム解析をしてみたら、実はAさんが培養した細胞には変異が入っていて、それゆえに細胞が元気に見えたといったケースもあり得ます。技術の評価基準を定めていくことも重要な課題です。

鈴木そうですね。日立では売り上げや生産性などのアウトカムやKPI(重要業績評価指標)を最大化するためのAIを開発しており、すでにさまざまな分野に適用しています。医療分野でもお役に立てると思います。

山中そのためには、やはりAIにあらかじめ正しい情報をきちんとインプットすることが不可欠ですね。先端の医療分野では1か月前と現在では、劇的に考え方が変わってしまうこともあります。そのつど大学などの研究機関と企業が密接に連携しながら、最新の情報をAIに与えていく必要がある。大学の研究成果を、即座に企業へ提供していく必要があるでしょう。
 そうしたことから、私たちは武田薬品工業とともにT-CiRAを設立して、先方に常駐し100人規模のメンバーで共同研究に取り組んでいます。もはや産学連携というよりも本当のチームですね。こうした取り組みが実践できるかどうかが、今後の日本の研究開発の命運を分けると言ってもいいかもしれません。日本の研究機関も企業もそれぞれがんばっているのに、これまでは両者の間にいわゆる「死の谷」があって、社会実装に時間が掛かりました。そのため、日本発の研究なのに気づいたらアメリカでビジネスになっていたということもよくありました。今後は入口と出口をしっかりつないでいかなければなりません。

日立京大ラボ

 京都大学と日立製作所の協創によって未来の社会課題を洞察し、その課題解決と経済発展の両立に向けた新たなイノベーション創出に挑戦するため、2016年6月に日立未来課題探索共同研究部門(日立京大ラボ)が京都大学内に設立された。現在、日立京大ラボでは、(1)2050年の社会課題の設定と、その解決に向けた大学・企業の社会価値提案、(2)ヒトや生物の進化に学ぶ人工知能システムの探求、(3)基礎物理のための最先端計測の探求を目的として、常駐する日立の研究者と京都大学の多様な人材が一体となって共同研究を推進している。

鈴木大学の研究者が企業の研究所に出向き、共同研究を推進されていることは、大変画期的なことだと思います。同様に私どもも2016年に京大内に「日立京大ラボ」を開設し、オープンイノベーションを加速しています。企業と大学の双方が刺激し合うことで、新たな知が創生されることに期待しています。
 日立京大ラボでは、「生物やヒトの進化に学ぶAI」の研究に取り組んでいます。現在、山中先生がタモリさんとともにテレビ出演されているNHKスペシャルの『人体神秘の巨大ネットワーク』シリーズでも、人体の臓器や細胞が情報をやり取りし、それぞれが補いつつ機能しているといったお話がありました。これはITネットワークがめざす世界にも通じる話です。現在日立が手がけている鉄道システムでも、細胞のようにどこか一部で支障が起きても全体としてはきちんと運行できるような、自律分散と呼ぶシステムを実現しています。将来の鉄道システムを実現していく際にヒトの体や生物の進化は重要なヒントであり、これに学ぶことは大きなチャレンジだと思っています。

ITやAIの活用が
サイエンスの進化を促す

武田すでにお話にも出ていますが、やはりこれからのサイエンスや医療の進展には、ITやAIとの融合が不可欠ですね。

山中そう思います。私が医者になったのは30年ほど前ですが、当時、予想されていた科学の未来というのは必ずしも当たっていないんですね。まさか、たった1日で一人の人間のゲノムを解読できるようになるなんて、当時は夢にも思いませんでした。一方で、いまだにがんは克服されていません。科学の進歩というのは予想どおりにはいかないものです。ただ、ITやAIがサイエンスの進化を早めるのに役立つのは間違いないと思っています。
 実際に私自身、研究の初期段階で理化学研究所のデータベースを用いてiPS細胞の作製につながる遺伝子を絞り込みました。さらに現在、理研と共同でAIを用いてiPS細胞の品質管理に取り組もうとしています。

鈴木ヒトゲノムの解読には日立もDNAシーケンサーを通じて解読の期間短縮に貢献しました。iPS細胞をはじめとする最新医療の進歩についても、装置だけでなくITやAIなどで貢献していきたいと思っています。
 数年前、AIが囲碁のチャンピオンに勝ったことが話題になりましたが、AIが強くなった理由はAIどうしが何万局も対戦することで進化していったからなんですね。iPS細胞についても実際につくる前にサイバー空間でシミュレーションを重ねることで、研究を加速させていくことができるのではないかと思っています。

山中ぜひ、よろしくお願いします。
 ただAIについては近い将来人間の能力を超えるという「シンギュラリティ」の議論がありますが、この先、どこまでいくのだろうという恐れもあります。果たして、AIで自動化が進むと人々の仕事はどうなってしまうのでしょう。一方で、いまだにがんが克服できていないように、AIも期待どおりに進化するのかどうか分かりません。飛行機にしても30年前と原理的には何も変わっていませんし、それどころか超音速ジェット機のコンコルド以来、大きく進化していません。必ずしも技術はリニアに進んでいくわけではないということでしょうね。

鈴木やはり、どんなにAIが進化しても人にしかできないことが残るのではないでしょうか。大量のデータを扱うのはAIは得意ですが、そこから次のアイデアを見い出すのはやはり人間の仕事です。人とAIが共に協調しながら新たな価値を生み出していくのがこれから望まれるイノベーションのあり方なのだと思います。

山中そうですね。そもそも100m走を人間とF1カーが競うのが無理なように、その分野に特化して進化したAIと人間が競っても人間が負けるのは当たり前でしょう。それでも人間の100m走が絶対になくなることはないし、それを見て皆が感動します。それは芸術でも同じですね。
 医療の世界も同様で、最近コンピュータ画面だけを見て診断を下し、薬を出すお医者さんもいますね。でも実際には対話や手当てによって癒されたり、安心したりする部分があるわけで、それが人間に残された最後の砦だとも思っています。ただ最近ではカウンセリングも人よりもロボットのほうが気兼ねなくしゃべることができていい、という声もあったりする。一体、私たちはどうしたらいいんでしょう(笑)。そうした部分も含めて、サイエンスの進歩とともに皆で議論して考えていかなければならない課題だと思っています。

AIや再生医療が抱える
倫理課題に向き合う

武田AIと同様に、遺伝子治療と再生医療の融合が新たな医療として期待される一方で、遺伝子改変に関わる生命倫理などの課題には慎重に取り組む必要がありますね。社会制度や教育などもますます重要な時代になったと感じています。

山中確かにiPS細胞は再生医療や創薬に大きな光明をもたらすものですが、一方で従来では考えられなかったような研究も可能にしています。
 例えばアメリカでは、脳の進化の研究にiPS細胞を活用し始めています。私が驚いたのが、ネアンデルタール人の脳の研究です。人間のiPS細胞をゲノム編集してネアンデルタール人型の細胞をつくり、そこからミニブレインをつくって、いかにしてネアンデルタール人と人が進化の過程で分かれていったのかを調べようとしているのです。こうした研究にさらにAIを取り入れれば、人類がどう進化してきて今後どのように進化していくのか、未来のスーパー人類を予測できるかもしれません。

鈴木それは日立京大ラボの次のテーマにもなり得るかもしれませんね(笑)。

山中興味深い研究ではありますが、AIも生命科学もあくまでも人類の幸福に貢献するものであってほしいと願っています。いまやiPS細胞から精子も卵子もつくることは可能ですし、ゲノム編集で遺伝子を自由に操作することもできますが、何でもやっていいというわけでは決してありません。

鈴木同感です。例えば、AIをうまく活用すれば、私が死んだ後も私のように思考するデジタル脳をつくることができるかもしれません。しかし、それが倫理的に許されるかどうかは議論が不可欠です。日立でも若い研究者たちが研究倫理について学び、考える機会を設けています。

山中その気になれば、細胞を補完したり入れ替えたりすることで人を長生きさせることもできてしまいますからね。現状はどんなに長生きされる方でも120歳を超えることはまずありませんが、再生医療はさらなる延命を可能にするでしょう。
 先ごろ115歳の方の造血幹細胞を調べるという、大変興味深い論文が発表されました。造血幹細胞というのは骨髄にある細胞ですが、生まれたときは10万個ほどあり、赤血球や白血球など血球系細胞をつくり出すのに不可欠な細胞です。さて、この115歳の方は一体いくつの造血幹細胞を持っていたと思いますか。

武田10分の1くらいでしょうか。

山中それがなんと二つしか残っていなかったそうなのです。しかも、2個のうち1個は一つの細胞から生まれたものなので、実際にはたった1個の造血幹細胞が生命をつないでいたというわけです。造血幹細胞がなければ生き続けることはできません。要は人間の寿命は細胞の再生能力に掛かっているということですね。これをiPS細胞で補えば寿命を延ばすことができるでしょうが、果たしてそれで良いのか。難しい問題です。

武田人類の幸福のために何を優先すべきなのかをよく考える必要がありますね。

山中これまで平均寿命は右肩上がりに伸びてきた反面、ますます少子高齢化が進み多くの社会課題を生んでいます。長寿を追求する医療で私たちは本当に幸福になれるのでしょうか。もちろん個々の病気が治るのは望ましいことですが、社会全体として幸福なのかどうか。どうすれば社会全体の幸福度を上げられるのかを真剣に考える時期に来ていると思います。

人類のQoL向上に貢献する
イノベーションに向けて

鈴木私ども日立の研究開発グループでも、社会の「ハピネス」の探究は一つのテーマです。2017年、日立京大ラボでAI技術を活用して京大として政策提言を行うという取り組みに参画しました。具体的には少子化や環境破壊といった社会要因について因果関係モデルを構築しAIを用いて未来シナリオを予測し、これらの結果を踏まえて、有識者の方々が持続可能な未来に向けて重要な社会要因とその時期を特定、政策として提言するというものです。
 こうした取り組みを通じて日本が推進している超スマート社会「Society 5.0」を実現し、人々のQoL(Quality of Life)向上に貢献できればと考えています。そのためには科学の進歩、社会の要請、そして経済合理性の三つを軸に産学連携で進めていく必要があります。

山中これまでの医療分野におけるアメリカの産学連携は、シリコンバレーを中心に大学の研究成果に対してベンチャー企業が投資家から資金を集め新薬を開発し、それを大手企業が買収することで投資家やベンチャー企業に利益がもたらされるという構図で多くのイノベーションが生み出されてきました。
 しかしながらいくら革新的な新薬がでてきても、一人の投薬に何千万円などの高額費用が掛かるようではやはり社会として正しい姿とは言えません。日本の場合はその医療費を税金で賄うわけですからなおさらです。せっかく新薬ができても、社会全体のハピネスが下がってしまうようでは意味がない。そういった意味でこれまでの産学連携のあり方を反省する必要がありますね。

鈴木そうですね。現在、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・企業統治)投資が重視され、社会課題解決型のビジネスが注目されています。もとより日立は、「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」ことを企業理念としており、この姿勢はこれからも変わりません。
 一方でシリコンバレーのベンチャー企業に倣って常にアグレッシブにチャレンジできるようなワクワク感のある職場づくり、研究環境の場づくりをしていかなければならないとも思っています。

山中よく分かります。私自身も月に1度、1週間ほどサンフランシスコのグラッドストーン研究所に滞在するのは、日本でお山の大将にならないように自分を戒めるためでもあります。実際に全世界から集まってきた若い研究者たちと会話をしていると、自分などまだまだだという気持ちになります。

鈴木私も頻繁に海外に赴き、情報収集を欠かさないようにしています。また日立では東京・国分寺の中央研究所に「協創棟」という新棟を建設し、2019年4月にオープンを予定しています。お客様との対話や国際会議ができるスペースもありますので、ぜひ足をお運びいただければと思います。

山中対話の場は絶対に必要ですね。楽しみにしています。

武田本日は貴重なお時間を頂きまして誠にありがとうございました。