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CUTTING EDGE 2017

人の逸脱動作や設備の異常予兆をカメラでセンシングする「画像解析システム」

ものづくりを現場から革新する協創テクノロジー

先進的なものづくり現場では,品質向上や作業効率の改善に向け,人・設備・材料などの実績を連携・可視化する仕組みが求められている。そこで日立と株式会社ダイセルは,各種カメラをセンシング手段に,映像解析技術と製造実績データを連携し,ヒューマンエラーの防止と設備不具合の予兆を検出する「画像解析システム」を開発した。今後は製造現場に加え,グローバルサプライチェーンの全体最適化をめざす取り組みを進めていく。

標準作業との偏差チェックでヒューマンエラーを検知

画像解析システムは,どのような課題を解決するために開発されたのでしょう。

井坂ダイセル様は自動車エアバッグ用インフレータ(ガス発生装置)の生産工程革新に向けて,どのようなIoT(Internet of Things)活用が有効かを検討されていました。日立中央研究所でさまざまな要素技術をご覧いただいたところ,カメラによる画像解析技術に興味を示され,共同開発が始まりました。工場の製造実績データを3M(Man/Machine/Material)の観点から解析したところ,作業者の動作や設備・材料の状態をカメラで定量的に把握できれば,品質改善や生産性の向上,トレーサビリティの精度向上に有効であることがわかってきました。そこで,新システムに必要な技術とノウハウを持つメンバーを日立内から横断的に呼び寄せ,お客様と一緒に課題解決に向けた手法を編み出していったのです。

システムの技術的な仕組みを教えてください。

画像解析システムを用いた現場作業員・設備のセンシング例

永吉私はこれまで紙幣の真贋検知,人の安心・安全を目的とした監視映像の研究に取り組んできました。そのノウハウをベースに開発したのが「人の逸脱動作検知」です。これは3次元形状を取得できる距離カメラで作業員の手・肘・肩などの関節位置をデータとして取得し,基準となる標準動作モデルと実際の作業員の動きを比較しながら,異常な挙動を検知した場合にはアラートを出す技術です。「現場での逸脱動作とは何か」をまず理解するため,お客様から何度もヒアリングし,作業工程をすべて洗い出しながら逸脱行為をリスト化する作業には苦労しました。また,体の大きさに起因する個人差を正規化し,作業に関係する関節情報を選択的に利用する新技術も加え,逸脱動作を正確に判定する仕組みを構築しています。

遠藤発電プラント設備の非破壊検査で培った技術とノウハウを生かし,インフレータ製造工程の要となる溶接機の異常を検知する技術も開発しました。溶接時に発生する光は一見,均一に光っているイメージがありますが,実際は1秒足らずの短い間に光の分布が絶えず変化しており,欠陥が発生すると特徴的な様相を呈します。これに高速カメラでとらえた発光部の色分析と既存の設備電流・電圧データなどを併用すれば,通常時との相違から異常を検知できる仕組みです。金属がどのように接合しているかの知見をお客様から頂きながら,問題点を一つずつクリアしていきました。

画像解析システムの構成

製品情報の生産管理を「点」から「面」へとシフト

開発時の苦労や,お客様と協創した際の印象などを教えてください。

吉川映像解析がベースですので,お客様の現場の映像データがないと開発した技術の精度を検証できません。研究開発の過程では検証のための試行錯誤が必要ですが,製品を生産している実際のラインを研究開発のために停めることはできません。そこで研究所内に現場を模したモックアップを作り,ダイセル様からベテラン作業員の方を派遣いただき,実演していただいた作業データをベースにして研究開発を進めていきました。

山田このシステムを入れることで現場の作業負荷を上げないことが大前提でしたので,既存の作業プロセスに解析を連携させる仕組みづくりに苦労しました。ダイセル様にも既存現場システム連携などご協力いただきながら試験を重ね,それぞれの生産設備が持つ作業時刻データをキーにしたロジックでうまく連携できたのが嬉しかったですね。まさに協創でした。

遠藤製造業に携わる者同士,最終的なエンドユーザーであるお客様のために何をすべきか,どんなことができるのかを考えながら,ダイセル様と日立が同じ視点に立って開発を進めることができたのが印象的でした。日立内でも技術者同士の横連携による一体感を感じましたが,お客様とも一体になれた喜びがあります。

システム導入による効果と,お客様からの評価はいかがでしたか。

井坂これまでインフレータの生産ラインでは,人の作業や設備の品質検査を管理監督者の目視によるロット単位の「点」でしかとらえることができませんでした。しかし「人・設備・材料」すべてのプロセスを連続的な映像としてとらえて分析する画像解析システムを導入したことで,製品情報を「全点」,つまり「面」でとらえることができるようになり,ヒューマンエラーの防止に加え,製品の工程内保証率が格段に向上できたと高い評価を頂いています。今後は国内工場だけでなく海外6工場でもこのシステムを導入し,グローバルな品質・生産性の向上とサプライチェーン全体の最適化につなげていく予定です。

幅広い業種の課題解決に向けたソリューションへと進化させたい

日立ではこの技術を,どのように進化させていきたいですか。

山田まずは画像解析システムを,さまざまな製造業のお客様の現場でも使えるようにパッケージ化してご提供したいと考えています。同時に,日立のIoTプラットフォーム「Lumada」のソリューションコアとしても取り込み,お客様の個別課題を迅速に解決するソリューション開発に役立てていくつもりです。

永吉この技術は製造業に限らず,人の動作に関するリスク回避や,正しい動作の教育などにも使えるはずです。そのためにも今後は,画像解析とAI(Artificial Intelligence:人工知能)を組み合わせて,人の作業をアシストしたり,より効率のいい作業の仕方を提案したりできるような技術に磨き上げていきたいと思います。

産業・流通ビジネスユニット 産業ソリューション事業部 産業製造ソリューション本部 産業システム設計センタ 主任技師

井坂 英也

産業・水業務統括本部 技術開発本部 松戸開発センタ 電力システム部 主管技師

吉川 裕

研究開発グループ システムイノベーションセンタ メディア研究部 主任研究員

永吉 洋登

研究開発グループ エネルギーイノベーションセンタ 応用エネルギーシステム研究部 主任研究員

遠藤 久

産業・流通ビジネスユニット 産業ソリューション事業部 産業製造ソリューション本部 産業システムエンジニアリング部 主任技師

山田 敏広

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