日立評論

デジタル技術と協創により日立がめざす社会とビジネスの変革

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日立評論

ハイライト

近年,IoTデバイスの急速な普及やAI・ビッグデータなどの発達により,社会の在り方そのものが大きくかわろうとしている。日立は,金融,社会,ヘルスケア分野で共通的に適用可能な基盤の確立を見据え,各分野で先進技術・ソリューションを開発・提供している。

目次

執筆者紹介

堀田 敦志Hotta Atsushi

  • 日立製作所 システム&サービスビジネス統括本部 経営戦略統括本部 事業戦略本部 戦略企画ユニット 所属
  • 現在,情報通信分野の事業戦略の立案・推進に従事

関口 知紀Sekiguchi Tomoki

  • 日立製作所 システム&サービスビジネス統括本部 経営戦略統括本部 事業戦略本部 戦略企画ユニット 所属
  • 現在,情報通信分野の研究開発戦略の立案,推進企画の立案・運営に従事

後藤 裕里Goto Yuri

  • 日立製作所 システム&サービスビジネス統括本部 経営戦略統括本部 事業開発本部 新事業企画ユニット 所属
  • 現在,情報通信分野での新事業開発に関する事業企画立案,推進に従事

市川 純理Ichikawa Junri

  • 日立製作所 システム&サービスビジネス統括本部 経営戦略統括本部 事業開発本部 新事業企画ユニット 所属
  • 現在,情報通信分野での新事業開発に関する事業企画立案,推進に従事

1. はじめに

デジタライゼーションの進展により,さまざまな価値がつながり,人々が安全・安心・快適に暮らすことができる持続可能な社会の実現をめざす動きが加速している。第4次産業革命の潮流の中で,わが国では政府が主導し,めざすべき未来社会の姿として「Society 5.0」という明確なコンセプトを打ち出した。Society 5.0には,狩猟社会→農耕社会→工業社会→情報社会という発展の歴史に続く,新たな社会の創生をリードしていくという強い思いが込められている。Society 5.0の特長は,経済的な豊かさだけを追求するのではなく,環境問題,少子高齢化,都市化などさまざまな社会課題を解決しながら,人間中心の新しい社会をめざす国家ビジョンであるという点にある。

2017年6月には,Society 5.0の実現に向けた具体策として「未来投資戦略2017 Society 5.0の実現に向けた改革」が閣議決定され,日本の強みを生かすことができる「健康寿命の延伸」,「移動革命の実現」,「サプライチェーンの次世代化」,「快適なインフラ・まちづくり」,そして金融を大きく変える「FinTech」という5つの注力分野が定められた。また,データ活用基盤の構築や人財育成という横断的な重要テーマを盛り込み,具体的な取り組みが始まっている。

Society 5.0はデジタルトランスフォーメーション,つまりデジタル化の進展によって産業や社会に大きな変革が起き,人々の生活をよりよくする新たな価値が生み出されることで実現される。デジタル化の大きな波は,すでにeコマースにとどまらず,社会のあらゆる領域に変化をもたらし始めている。例えばIoT(Internet of Things)は,ヘルスケア,製造業,エネルギーなどのさまざまな産業分野におけるモノや人の動きから個人の活動に至るまで,データの蓄積・収集を可能にした。さらに,AI(Artificial Intelligence)やビッグデータ解析などのデジタル技術の進化により,収集したデータから従来では気付くことができなかった解決策や,人々の生活を激変させる破壊的なサービスが生まれるようになってきた。デジタル技術により新たな価値を生み,未来の社会へ役立てていこうという動きが,日本のみならず,米国,欧州,中国,アジアなど世界各地で始まっている。

しかしながら,便利になる反面,さまざまなものがつながることから生じるリスクについても,十分配慮しなければならない。本稿では,セキュリティの確保とともにデータの裏側にあるプライバシーの保護についても取り上げてみたい。

2. 日立のめざすところ

日立はこれまで100年以上にわたり,社会インフラに関わるOT(Operational Technology)の開発や提供に幅広く取り組んできた。さらに50年を超える歴史をもつIT,デジタル技術を有しており,これらを組み合わせた社会イノベーション事業を展開している。

近年では,さまざまな国・地域で提供するシステムやソリューションにおいて,顧客の課題に応えるため独自にデジタル化を進めてきた。今後,デジタル技術によってそれぞれのシステムがつながるようになると,多様な考え方,互いのよさを吸収し合うことが可能になり,人々のより安全・安心・快適な暮らしに結びつくと考えられる。未来の人々の安全・安心・快適な暮らしを実現していくには,社会構造そのものを変革していく必要がある。

また,フロント機能を強化したマーケット別の事業体制を2016年からスタートし,「電力・エネルギー」,「産業・流通・水」,「アーバン」,「金融・社会・ヘルスケア」を4つの注力事業分野と位置づけた。各分野におけるシナジーを創出し,顧客のそばで,課題の発掘から価値創出まで一貫して支援し,顧客とのイノベーション協創に取り組んでいる。

日立の社会イノベーション事業は,Society 5.0が掲げる人間中心の社会に貢献することが大きな目標である。これを「ヒューマン・センタード・ソーシャル・イノベーションビジネス」と称し,技術はあくまでも手段として,エンドユーザーである人を中心に考え,人をいかに幸福にするかを追求することをめざしている。

3. 各分野の取り組み

本章では,日々の生活と深い関わりがある金融,社会,ヘルスケアの分野に焦点をあて,デジタライゼーションによる変革の事例を紹介する。

3.1 金融分野における変革

金融分野ではこれまでメガバンク,保険・証券,地域金融機関向けに長年にわたり,ミッションクリティカルな基幹系システムを提供してきた。これらのシステムインテグレーションの実績をベースに,「デジタライゼーション」と「FinTech」の潮流を捉え,データアナリティクス,AIといった先端ITを活用した,「デジタル金融イノベーション」として新たな取り組みを進めている。本節では,デジタル技術の活用例として,対話AI技術の金融サービスへの適用,医療ビッグデータの利活用による生命保険業務の高度化,モバイル端末の汎用カメラで実現できる指静脈認証技術とその応用例を紹介する。

(1)対話AI技術の金融サービスへの適用
近年大きく発達しているAI技術の中で,期待を集めているものの一つが対話AIである。音声処理と言語処理で構成され,デバイスを人間の声で操作する音声コマンドや,質疑応答を人間の代わりに行うFAQ(Frequently Asked Questions)チャットボットのような新しいインタフェースとしての活用が期待されている。
日立は,対話AIを金融機関の業務へ適用することで,顧客の利便性向上や省力化などに寄与できると考えている。例えば,各種手続きの音声による実行,問い合わせの自動応答,議事録のテキスト化,記録入力のハンズフリー化など,フロントエンドからバックエンドまで幅広い業務領域に適用することで,業務負荷の軽減だけでなくサービス向上にもつながることが期待される。対話AI
には応答精度や運用メンテナンスなどの面で課題もあるが,日立はそれらを克服する技術の開発に取り組み,対話AIの適用による顧客のビジネス革新をめざしている。
(2)医療ビッグデータの利活用による生命保険業務の高度化
保険業界ではサービスの高度化や新しい保険商品の開発に向け,急速に進展するビッグデータ分析技術を活用する動きが広がっている。日立は長年にわたる健康保険組合に対する保健事業高度化支援を通じ,健康診断結果や診療報酬明細書情報の分析ノウハウを蓄積し,病態遷移と医療費の予測モデルなどを確立してきた。この医療ビッグデータ分析ノウハウを応用し,第一生命保険株式会社(以下,「第一生命」と記す。)と共同で生命保険会社向けリスクシミュレーション技術の開発に挑んでいる。
共同研究では,第一生命が保険事業で蓄積してきた保険加入時の健康状態と保険給付実績を日立のノウハウを用いて分析することで,加入時の健康状態から将来の生活習慣病における入院日数を予測するモデルを開発した。このモデルを第一生命の引受基準最適化に適用し,新規加入者の増加を実現している。また,共同研究を通じて獲得したノウハウを生かし,保険会社向けの入院リスクシミュレーションサービスの立ち上げを計画している。
(3)モバイル端末の汎用カメラで実現できる指静脈認証技術とその応用
スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末の普及に伴い,それらを活用したモバイル決済や金融取引が急拡大している。しかし,利便性向上の一方でなりすましによる不正利用の被害も拡大し,モバイル端末におけるセキュリティの確保が求められている。セキュリティ対策では顔や指紋による生体認証が普及し始めているものの,モバイル端末向けの技術は認証精度の低さが課題となっていた。
日立は指静脈による生体認証技術を確立しているが,現行技術では赤外線を用いた専用センサーが必要である。そこで,モバイル端末に標準搭載されている汎用カメラを利用して高精度な指静脈認証を実現する技術を開発した。この技術と,日立が培ってきた暗号化技術を組み合わせることにより,モバイル端末で登録した生体情報を用いた自動決済やチケットレスサービス,公的個人認証など幅広い分野で安全な本人確認ソリューションの提供が可能になる。

3.2 社会分野におけるIoT技術の活用

少子高齢化は,社会分野のあらゆる領域に影響を及ぼし始めている。道路・交通分野においても,利用者・乗客および労働人口の減少が懸念されており,道路・交通事業者は利用者・乗客の利便性を維持・向上しつつ業務を効率化しなければならないという課題を抱えている。政府が推進するSociety 5.0においても,超スマート社会の実現を先導するシステムとして高度道路交通システムの実現が期待されており,道路・交通関係のさまざまなIoTデータの活用が求められている。

ここでは,プローブ情報などの各種IoTデータを分析し,利用者・乗客の利便性向上や業務の効率化を支援する交通データ利活用サービスについて紹介する。

このサービスの核となるのは,IoTプラットフォームLumadaを活用した交通データ分析基盤である。交通データ分析基盤では,プローブ情報や人・自動車が移動する起点と終点の情報などのIoTデータを蓄積し,交通/輸送需要,交通状況など多角的に分析した結果を地図やグラフなどで可視化し,道路・交通事業者に提供する。事業者は,それぞれの事業内容に応じたデータとその分析結果を活用することにより,利用者の利便性向上や新たなサービスの創出などにつなげることができる。日立は次世代の交通サービスであるMaaS(Mobility as a Service)の発展を視野に,交通データ利活用サービスを発展させ,交通社会全体の最適化に貢献することをめざしている。

3.3 ヘルスケア分野でのデータ活用による価値創出

ヘルスケア分野では,データ活用により個々の患者に合わせた治療が普及するなど,医療機器の利用法や開発手法も変化している。日立はこれまでヘルスケアに関するステークホルダーとの幅広いチャネルを持つとともに,グループ内のリソースを生かしたデータ利活用技術を蓄積してきた。本節では,医療データ利活用による新たな価値の創出に向けた日立の取り組みと,デジタル技術を活用した医用画像診断支援ソリューションについて紹介する。

(1)医療データ利活用による新たな価値の創出
高齢化などを背景とした医療費の増大が大きな社会課題となっており,医療の質の向上と医療費削減の両立が求められている。その実現には,患者のベネフィット・リスクを適正化するために,治療や予防の臨床上の成果(アウトカム)を評価する必要があり,今後,アウトカム評価に欠かせない医療データの利活用が進むと予想される。
例えば,診療報酬明細書,電子カルテ,健康診断結果などの実診療行為に基づくさまざまなデータを分析することにより,製薬企業における新薬開発,医療機関における診断精度の向上,医療費抑制などにつなげることが期待されている。日立は高い機密性が要求される医療データの利活用を支援するため,秘匿情報管理サービス「匿名バンク」を活用したクラウド型のデータ管理サービスを提供しているほか,がん予測モデルの開発,ゲノム情報の活用支援など,多角的に医療データの利活用を推進し,患者中心の医療の実現に貢献していく。
(2)医用画像診断支援ソリューション
医療において画像診断は,疾病の早期治療につながる重要な役割を果たしているが,特に画像診断機器が広く普及している日本や急速に普及が進む中国では,画像診断の専門医の不足が深刻な問題となっている。
日立は,疾病の早期発見と診断に貢献するため,AI,ビッグデータ分析,IoTなどのデジタル技術を医用画像診断支援に応用したソリューションによる,放射線科の検査ワークフロー全体の効率化,高精度化の実現に取り組んでいる。画像診断において重要な検査時間の短縮に向けては,MRI(Magnetic Resonance Imaging)用の撮影位置設定支援機能を開発し,撮影の効率化に貢献している。MRI用の定量的磁化率マッピング機能は,生体組織の磁化率の変化を可視化する技術であり,神経変性疾患の早期診断などに寄与することが期待されている。また,AIを活用したCT(Computed Tomography)画像の読影支援システムでは,医用画像装置メーカーとして培ってきた画像処理技術と最新の深層学習技術を融合させることにより,読影の精度と効率の向上を図っている。このシステムは臨床評価の準備中であり,今後,ほかの機器やさまざまな疾患への応用も進めていく。

4. プライバシーへの取り組み

ビッグデータ利活用がビジネスとして注目されるようになった2011年以降,IoTやAI,ロボティクスなどの技術的な進展により,収集されるデータはますます増加するとともに,多種多様なデータの利活用による価値創出や超スマート社会の実現への期待が高まっている。

経済産業省が2017年5月にまとめた「新産業構造ビジョン」も,データの利活用が新たな産業構造システムの構築に必要であると指摘している。ただ,さまざまなデータの中でもパーソナルデータについては生活者からの関心が高い状況にあり,プライバシーの保護が求められるとしている。

日立のシステム&サービスビジネス部門では,このようなパーソナルデータの価値を引き出すためには,個人のプライバシーに十分に配慮することが不可欠であるという認識に立ち,個人や顧客の安全・安心に寄与するべく,プライバシー保護に積極的かつ先行的に取り組んでいる。具体的には,プライバシー保護に関する組織として,パーソナルデータ責任者・プライバシー保護諮問委員会の設置,さらにプライバシー保護に関する規則・マニュアルを整備している。そして,プライバシー影響評価,業務プロセス・開発業務におけるプライバシー保護対策を実施しているほか,意識調査や教育も適宜行っている。これらの経験に基づくノウハウをビジネスにおいて活用・展開していくことで,日立はプライバシー保護に配慮した製品・サービス・ソリューションを提供している。

5. おわりに

IoTやAI,FinTechなど急速にデジタライゼーションが進む中,顧客のニーズも新たなビジネスモデルや価値の創出へとシフトしている。これらに対し日立は,組織や産業,地域などの枠を越えたオープンイノベーションや知を結集することで,革新的なビジネスモデルを創出し,「IoT時代のイノベーションパートナー」として進化した社会イノベーション事業で顧客との協創を加速していく。

また,社会のデジタル化がどれほど進んだとしても,重要な場面で価値をつくりアイデアを出すのは人であり,それは10年後も変わらない。エンドユーザーである人をいかに幸福にしていくかが日立のめざすべき協創ではないだろうか。

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