日立評論

デジタル技術を駆使した鉄道システムを世界へ

人と環境に優しいモビリティサービスの中核として

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デジタル技術を駆使した鉄道システムを世界へ

人と環境に優しいモビリティサービスの中核として

ハイライト

交通渋滞が深刻化する新興国や,社会インフラの更新期を迎えた先進国において,鉄道需要が拡大している。環境負荷の少なさや輸送効率の高さから,中長距離の公共交通の要として大きく発展してきた鉄道は,最新のデジタル技術を取り入れることにより,さらに効率や利便性を高めた次世代のモビリティへと進化し,持続可能な社会を支えていくことが期待されている。

こうした潮流を見据えて,日立は鉄道事業のグローバル展開を加速するとともに,さまざまな領域でデジタライゼーションを推し進め,顧客と一体となって鉄道の変革をリードしている。

日立は鉄道事業を通じてグローバル社会にどのように貢献していくのか,そして鉄道システムのこれからとは。日立製作所鉄道ビジネスユニットにおいて,日本・アジア太平洋エリアの業務および営業部門を統括する光冨眞哉執行役常務に聞く。

目次

グローバル化で大きく変わる景色

熊谷 則道

モビリティの中でも環境負荷が少なく輸送効率の高い鉄道は,近年,世界的に需要が拡大しています。一方で市場環境を見ると,世界最大の車両メーカーである中国中車股份有限公司が海外進出を強化する中で,2017年に業界2位のドイツ・シーメンス社と3位のフランス・アルストム社が鉄道事業を統合すると発表するなど,合従連衡による巨大化が進み,競争は厳しさを増しています。技術面では,デジタライゼーションの波が鉄道にも及び,IoT(Internet of Things)やデータ解析などの技術による変革が起き始めています。

日立の鉄道部門では,それらの動きを早くから見据え,ビジネス戦略の転換や体制強化に取り組んできました。その最も大きな柱はグローバル化の推進です。日本の鉄道技術は世界一と評され,われわれ日立も長年にわたってその一角を支えてきましたが,これからも事業を継続的に発展させるためには,真のグローバルプレーヤーへと成長しなければなりません。

その第一歩として英国への進出をめざし,2005年に日本の車両メーカーでは初めて英国で高速車両を受注しました。2014年には,鉄道ビジネスユニットの本社機能をロンドンへ移すとともに,日立レールヨーロッパ社の社長であったアリステア・ドーマーがCEOに就任しました。そして,2015年にイタリアの防衛・航空大手フィンメカニカ社から車両製造事業のアンサルドブレダ社,ターンキーおよび信号事業のアンサルドSTS社を買収し,海外事業を一気に拡大しています。

現在,鉄道ビジネスユニットの従業員は1万2,400名超,そのうち日本人は30%以下で,全体で見るとマイノリティになりました。鉄道事業の海外売上比率も,本社機能を移管した2014年度に38%だったものが,2017年度は83%を占めるまでになり,完全に逆転しています。トップマネジメントも3名が英国人,3名が日本人,4名がイタリア人,そのうち1人が女性と,ダイバーシティが進んでいます。ここ10年ほどの間に,社内の景色も大きく変わりました。

製造拠点が日米欧3地域11か所に拡大

海外における実績の筆頭として挙げられるのは,英国のロンドンと主要都市を結ぶ都市間高速鉄道の老朽車両更新計画(Intercity Express Programme/以下,IEPと記す。)です。車両866両の供給と27年半の保守業務が求められる大型プロジェクトで,日立は2009年に優先交渉権を獲得しました。その後,金融危機や政権交代に伴う紆余曲折を乗り越え,2017年にGreat Western本線を走る新型車両Class 800が運行を開始しています。

日立が英国進出に取り組み始めたのは20年近く前にさかのぼります。当初は受注失敗などもありましたが,多くの試練と苦労を経て2005年にClass 395の車両174両の受注に成功しました。この最初のプロジェクトを通じて,製品の品質,中長期的な視点でお客様との信頼関係構築をめざす姿勢などを認められたことが,IEPの入札で厳しい競争を勝ち得た最大の要因になったと思います。

IEPでは,受注に向けて日立ヨーロッパ欧州研究開発センタの鉄道R&D(Research and Development)部門と連携するとともに,現地での車両製造にも乗り出しました。2015年に,英国イングランド北東部のニュートンエイクリフに新たな車両製造工場を開設し,現在フル稼働しています。現地生産は入札条件にはありませんでしたが,鉄道をより快適にするだけでなく,現地での雇用創出も含めて英国社会に貢献するという日立の強い決意を示したプランでした。

英国工場には,日本からのデザインチームや,元アンサルドブレダ社(現 日立レールイタリア社)の技術者も入り,日英伊混成の活気ある仕事場となっています。基本的な車両設計は日本で行っていますが,内装デザインやバリアフリー規格への対応といったローカライズは現地で行います。

また,Class 800をベースとした車両は,IEP以外の路線からも発注があり,日立レールイタリア社のピストイア工場でも生産しています。日立レールイタリア社は米国にも工場を有しているため,われわれの製造拠点は3大陸に11か所となりました。現在,部品メーカーなど世界各国のパートナーと協力し,それらを結んで部品調達から車両製造までを最適化するサプライチェーンの構築をめざしています。

米国やアジアにも広がるビジネス

アンサルドブレダ社と同時に買収したアンサルドSTS社は,鉄道システム全体の設計とエンジニアリングをまとめるターンキーソリューションと,信号システムのグローバルプレーヤーです。2社の地盤を生かし,米国ではハワイ州ホノルルの自動無人運転鉄道システムをはじめ,マイアミ,ボルチモアのメトロ案件などを受注しました。米国では鉄道の安全性を高めたいというニーズがあり,運行管理や信号システムも含めて米国市場でのシェア拡大をめざしています。さらに,台湾やベトナムでのターンキープロジェクト,デンマークのコペンハーゲンメトロ環状線の無人運転車両など,海外での案件が数多く動いています。

多種多様なサブシステムをまとめ上げるターンキーソリューションは,マネジメントノウハウや高いスキルを要します。それらについてはアンサルドSTS社に一日の長があり,多くを学んでいるところです。また,アンサルドブレダ社とは,モノづくりを大切にしてきた文化が共通しており,互いに親近感が広がっています。買収後,既存工場へ積極的に投資して,生産ラインやテスト棟などの設備を更新し,生産効率の改善を進めたことに,現地の従業員からも感謝の声があがるなど,良好な関係の中でインテグレーションが進んでいます。デザインや設計,モノづくりにおける考え方には違いもありますが,違いを学んで互いに生かすという点でも,得るところが大きいと感じています。

一方,国内事業も堅調で,2018年2月には,相模鉄道株式会社に納入した新型車両20000系が営業運転を開始したほか,東海旅客鉄道株式会社の次世代新幹線であるN700S試験車両,東日本旅客鉄道株式会社のE7系車両,阪急電鉄株式会社の1000・1300系車両,東京急行電鉄株式会社の運行管理システムなどを受注しています。

デジタルソリューションによる差異化を

現在,鉄道事業は世界27か国で展開しており,日立グループ内で海外展開のロールモデルと言われるまでになりました。車両とその付属機器だけでなく,信号・システム,サービス・メンテナンス,ターンキーまで事業ポートフォリオを拡大し,鉄道ソリューションをフルラインアップで提供できる体制の整備が進んでいます。

ただ,冒頭で触れたように競争環境は非常に厳しく,将来を楽観視することはできません。グローバルメジャープレーヤーに対し,いかにして差異化を図るのか。ポイントの一つがデジタルソリューションであると考えています。デジタル技術によって製品のコネクティビティを高め,データをメンテナンスやサービスに生かすことで,鉄道はまだまだ進化する余地があります。そうした試みはすでに始まっており,他社は買収などによるデジタル技術の取り込みを進めていますが,日立はもともとデジタル技術を有している点が大きな強みです。

例えば,コペンハーゲンメトロで実証実験を行っているダイナミックヘッドウェイソリューションは,駅に設置したセンサーで混雑度を可視化して乗客数を分析し,乗客数の増減に応じて列車の運行本数を自動で最適化するというもので,日立レールイタリア社の車両技術,アンサルドSTS社の列車制御技術に,日立のデジタル技術を融合させて実現しました。乗客に快適な移動を提供しつつ,事業者は省エネルギーや運行効率の向上,コスト削減を実現できる新しいデジタルソリューションです。

オーストラリアでは,アンサルドSTS社の列車制御技術による無人貨物鉄道の試験走行を実施しましたが,そうした技術に日立のITを組み合わせることで,いっそうの効率化や旅客鉄道における無人運転の拡大につなげられる可能性があります。

モビリティの未来を見据え,「マス」から「パーソナル」へ

光冨 眞哉光冨 眞哉
日立製作所 執行役常務
鉄道ビジネスユニット マネージングダイレクタ(日本・アジアパシフィック)兼 グループヘッドオブセールス
1982年日立製作所入社,営業本部国鉄部に配属され国内の鉄道事業の営業を担当した後,2004年4月交通システム事業部交通営業本部海外交通部長として海外の鉄道事業の営業に従事し,2012年4月交通システム社CSO兼経営企画本部本部長,2014年4月理事・交通システム事業グローバルCSO兼交通システム社CSOとしてロンドンに赴任,帰国後2016年4月鉄道ビジネスユニット マネージングダイレクタ(日本・アジアパシフィック)兼CSO,2018年4月より現職。

国内のお客様にも,車両を納めるだけでなく,IoTプラットフォームLumadaを活用した予兆保全ソリューションなどを提案しています。最新の車両には数百個のセンサーを搭載し,機器や車両の動きに関する大量のデータを収集しています。それらを分析して車両のパフォーマンスを常に把握し,故障の予兆をつかんで適切なタイミングで部品を交換することで保守コストを削減したり,設計の改善につなげたりできます。すでに日立のメンテナンス事業や,設計から生産のプロセスでもデータ活用を進め,経営効率向上を図っています。

今後,特に国内では人手不足が深刻化していく中で,データ活用によるメンテナンスの効率化は必須となっていくでしょう。データ活用において重要なのは,分析技術だけではありません。真に有用なソリューションを開発するためには,お客様やわれわれ日立が事業を通じて蓄積してきたオペレーションの知見が必要です。日立では,「OT×IT×プロダクト」,すなわちお客様のデータやオペレーションの知見に日立の技術や製品を融合させることにより価値を協創し,課題解決をめざす社会イノベーション事業に力を入れています。鉄道分野でも,国内外のお客様との良好な関係を生かし,経営課題と社会課題を同時に解決していくプレーヤーをめざしています。

ダイナミックヘッドウェイソリューションのように,乗客サービスの向上にもデータ活用は有効です。これまでの鉄道は,マスに対する輸送サービスとして発展してきましたが,スマートフォンなどの情報端末が普及したことで,駅や鉄道を利用する方々に,その時,その場所でしか得られない情報提供や案内を行うなど,パーソナルなサービスの提供も可能になってきました。Society 5.0のめざす世界では,鉄道がオンデマンド運行や他の交通機関とのシームレスな連携により,一人ひとりの移動をサポートするモビリティとなる可能性があります。鉄道だけでなく自動車関連機器なども手がける日立グループには,お客様と一緒にそうしたモビリティ全体の将来像を考え,未来を切り拓いていくことも期待されています。

都市の発展において重要な役割を担うモビリティをよりよいものにしていくことは,環境負荷を軽減しながら生活の質を高めることにつながり,国連のSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の目標の一つである「住み続けられるまちづくりを」の実現に貢献します。この夏に世界各地で発生した異常気象,その原因とされる地球温暖化を克服していくためにも,お客様との協創やパートナーシップをより深化させ,鉄道の革新と発展に貢献していきます。

TOPICS 1 英国都市間高速鉄道(IEP)車両の営業運転開始

2017年10月16日,英国における日立初の都市間高速鉄道計画(IEP)の列車が,ロンドンとレディング,ブリストル,バース,カーディフなどの主要都市を結ぶGreat Western本線において営業運転を開始した。

Great Western本線は電化の途上にあり,鉄道車両が電力によって走行できるのは,路線全体の中のごく一部の区間に限られていた。この課題を解決したのが日立のバイモード技術であり,電化/非電化区間共用車両として設計された車両は,走行の途中でも乗客に影響を与えることなく,架線からの電力駆動とディーゼルエンジン発電システムからの電力駆動をシームレスに切り替えることができる。これにより,設備の更新が完了していない非電化路線においても新型車両を導入することが可能になった。

IEP車両の運行初日は,英国の鉄道業界にとって歴史的な一日となった。日立の最新型車両が,製造から40年の時を経た車両に代わり,1838年に初めて敷設された線路の上を走ったのである。英国が新型鉄道車両への投資を歓迎している中,先駆的なIEP車両は同国における鉄道輸送の新時代の象徴となった。

プラットフォームに進入するIEP車両

TOPICS 2 ハワイ州ホノルルで進む米国初の自動無人運転鉄道システムプロジェクト

アンサルドSTS社と日立レールイタリア社のハワイにおける事業体であるAnsaldo Honolulu Joint Venture(AHJV)は,2011年に受注したホノルル高速鉄道輸送機構(HART)向け車両の第一編成を納入し,ハワイ州ホノルルにある車両保守基地のHART Rail Operations Centerで公開した。

AHJVが受注したHonolulu Rail Transit Projectは,ホノルル市近郊のイーストカポレイと中心街のアラモアナセンターとの間,約32 kmを21駅で結ぶ新設の路線である。本路線は米国における初の自動無人運転システムであり,2018年に9駅分を先行開業し,全21駅の開業を2021年に予定している。

AHJVは,アンサルドSTS社の世界中でターンキープロジェクトを取りまとめた実績と,日立レールイタリア社の高信頼で最先端の鉄道車両を組み合せて提供することにより,ホノルルの慢性的な道路渋滞の緩和や,環境に配慮した安全で快適な街づくりに貢献していく。

HART Rail Operations Centerで公開された車両

TOPICS 3 マイアミ工場の開設と新型車両の運行開始

グローバル展開を加速する鉄道事業の一環として,日立レールイタリア社の米国事業会社である日立レールUSA社は,2016年3月,米国フロリダ州マイアミ・デイド郡に新たな鉄道車両工場を開設した。約4万8,000 m2の敷地面積を有する同工場は,製造棟,試験棟,事務棟など5つの建屋で構成され,日立が米国での事業を拡大するうえでの重要な拠点となっている。

2017年11月,このマイアミ工場で製造された新型車両の運行が開始され,当日に開催された記念式典には,マイアミ・デイド郡長,日本総領事,イタリア総領事など多くの来賓が出席した。本プロジェクトは,マイアミ・デイド交通局が運営するメトロレールの車両を新型車両に置き換えるもので,2012年に日立レールイタリア社(当時はアンサルドブレダ社)が鉄道車両136両を受注している。2019年末までには新型車両への置き換えが完了する予定である。

マイアミに開設した鉄道車両工場と運行開始したマイアミ・デイド郡のメトロレール向け新型車両

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