日立評論

技術革新 金融・社会・ヘルスケア

研究開発

ページの本文へ

Hitachi

日立評論

1. ブロックチェーンにおけるセキュアな取引を実現するPBI-ブロックチェーン連携技術

1.PBI-ブロックチェーン連携技術の概要PBI-ブロックチェーン連携技術の概要

ブロックチェーン(BC:Blockchain)は,第三者機関が仲介することなく取引を可能とする技術であり,P2P(Peer to Peer)電力取引などさまざまな分野での活用が期待されている。現在のBCでは,取引情報に対して電子署名を付与することで,取引の信頼性が担保されている。しかし,ユーザーが電子署名を生成するための秘密鍵を紛失,漏えいした場合は,BC上で取引した資産を喪失したり,なりすましにより不正に取引されるリスクが存在している。

そこで日立は,生体情報から秘密鍵を生成する日立独自のPBI(Public Biometrics Infrastructure)を活用することで,BC上でのリスクを低減する技術を開発した。本技術では,秘密鍵が必要となるたびに,ユーザーは生体情報から秘密鍵を生成することができるため,認証デバイスに秘密鍵を保存する必要がなくなり,秘密鍵の紛失,漏えいといったリスクを大幅に削減することができる。

今後は,顧客企業との実証実験などを通じて,本技術の社会実装を進めていく。

2. PBIとブロックチェーンを活用したデジタルID管理基盤

2.デジタルID基盤の活用イメージデジタルID基盤の活用イメージ

デジタルサービスでの決済やクーポン利用など金融サービスの浸透により,従来は銀行窓口で行われていた本人確認業務を,オンラインで確実に実行する技術が求められている。

そこで,日立独自のPBI技術を活用し,スマートフォンなど汎用的なモバイル端末から取得した生体情報より,厳密に個人を識別するデジタルIDの生成技術を開発している。さらに,このデジタルIDを,登録した機関だけでなく自治体や金融機関,小売店などのさまざまな事業者が参加して共有・再利用できるデジタルID基盤を開発している。データの耐改ざん性が高いブロックチェーン技術を活用することで,なりすましやデータ改ざんのリスクを減らし,各事業者が安心して協力できる新しいサービスを提供する基盤となる。

今後は,顧客企業との協創を通じて実用化を加速していく。

3. まれな事象の発生を予測する人工知能を用いて,融資データによる貸し倒れ予測の精度を向上

3.まれにしか起きない事象の発生を予測するAI技術(シグナルノイズ学習)とその実績まれにしか起きない事象の発生を予測するAI技術(シグナルノイズ学習)とその実績

まれにしか起きない事象の発生の予測は,例えば,取引における不正や融資における貸し倒れなどの判断に重要である。従来のディープラーニング(Deep Learning)では,実績データを用いて予測誤差が小さくなるように予測式を学習するが,まれにしか起きない事象の場合,実績データが少ないため学習が困難である。さらに,予測モデルを高精度化しようとすると,予測式が複雑になり,根拠の説明が難しいという課題があった。

今回,発生頻度の少ない事象の発生を高精度に予測し,その根拠を提示する人工知能(AI:Artificial Intelligence)を開発した。正常なデータに加え,偏ったデータや極端なデータに影響を受けないことも訓練するシグナルノイズ学習を開発し,融資データを活用した貸し倒れ予測に適用したところ,従来のディープラーニングを用いた場合と比較して 43%高い精度で予測できることを検証した。

4. 鉄道分野におけるデータモデリング技術

4.因果関係の推定アルゴリズムの概要因果関係の推定アルゴリズムの概要

近年IoT(Internet of Things)の進展に伴い,鉄道分野においても地上設備や車両の各機器からさまざまなデータが得られるようになり,これらのデータを活用したCBM(Condition Based Maintenance)やPdM(Predictive Maintenance)により,安全性を確保しつつ,保守効率を高めていく期待が膨らんでいる。CBMやPdMの実現には,設備や機器の挙動をモデル化し,故障予知や対策検討をしていくことが重要になるが,従来の機械学習によるモデル化は,人間にとって解釈が容易でなく,現場での適用が難しかった。

そこで,データ間の因果関係を自動的に推定する因果推定技術を開発した。本技術は(1)データ間の関係性を階層的にモデル化し,下位変数の貢献度を自動算出しておくことで,現場で影響の原因をたどりやすくした。また,因果の順序関係の特定が難しい変数群に対し,(2)自動的にグループ化し代替変数候補とすることで,現場で納得のいくモデルに修正可能とした。

今後,この技術を鉄道保守分野に適用していき,安全性を確保しつつ,保守効率を高めていくための支援システム化をめざしていく。

5. 公共交通利用を快適にする人流分析技術

都市部の鉄道機関の乱れ発生時や大規模イベント開催時において,交通事業者や自治体はできる限り早く交通機関の混雑状況を把握し,乗客を安全に目的地に運ぶことが求められる。そこで日立は,現場データを活用して公共交通機関を利用する人の流れを分析する技術を開発し,交通事業者や乗客に対して適切な情報を提供する取り組みを進めている。

以下にその事例を紹介する。

  1. 東日本旅客鉄道株式会社と共同で,首都圏在来線の列車がどこを走っているか,各列車の混雑度や遅れはどの程度であるかを地図上でリアルタイムに確認できるシステムを開発した。これにより,列車の運行を管理する指令員は,混雑状況を考慮した列車の手配ができるようになった。
  2. 大規模イベント時の交通状況を予測するシミュレーション技術を開発した。平成30年隅田川花火大会を対象として「時間をずらす」,「混雑する路線をさける」などの回避策の効果を予測し,混雑予想および回避情報を提供する実証実験に適用した※)

今後,この技術を活用して複数交通事業者連携による都市交通最適化に貢献し,利用者が都市内を快適に移動できる社会の実現をめざす。

※)
本研究の一部は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託研究「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)自動走行システム/大規模実証実験/次世代都市交通/ART運行関連情報のデータ集約・蓄積とART利用者等への情報提供の仕組み構築および大規模実証実験の実施・管理」の一環として実施された。

5.首都圏在来線の混雑可視化システム(東日本旅客鉄道株式会社)と大規模イベント時の混雑予想結果首都圏在来線の混雑可視化システム(東日本旅客鉄道株式会社)と大規模イベント時の混雑予想結果

6. 心疾患患者の再入院リスクの高精度予測(米国Partners HealthCare社との協創活動)

6.根拠を説明できるAIの概要根拠を説明できるAIの概要

心疾患患者の再入院リスクを高精度に予測するAI技術を米国Partners HealthCare(以下,「PH」と記す。)社と共同で開発した。

米国では,いわゆるオバマケアの一環として,再入院低減プログラム(30日以内の再入院を必要とする患者がある割合以上の病院は,保険償還額全体の3%が減額される政策)が2012年に導入されている。PH社では,退院後の患者が血圧や体重などのデータをモバイル端末から登録し看護師が隔週で指導するCCCP(Connected Cardiac Care Program)という仕組みを導入し,再入院率の低減を図ってきたが,この仕組みの効率化のため,リスクの高い患者を割り出し,同時にリスクの根拠となる情報を抽出することが課題であった。

日立は,リスク要因を抽出可能なディープラーニングの技術(根拠を説明できるAI)を新たに開発し,リスク予測の精度が世界トップクラスのAUC(Area Under the Curve):0.71を達成し,約3,500あるリスク要因の候補をリスク寄与の大きさ順に出力することに成功した。これにより,提供するケアプログラムの効率化を図ることが可能になり,その実現に向けて共同研究を推進中である。

7. 超音波の検査時間短縮を実現する高精細三次元マトリックスプローブ

7.高精細三次元マトリックスプローブと最上位機種LISENDO 880高精細三次元マトリックスプローブと最上位機種LISENDO 880

循環器系疾患における超音波診断の検査時間短縮を目的に,三次元撮像用マトリックスプローブ※1)と診断装置の最上位機種(LISENDO 880※2))を製品化した。

開発したマトリックスプローブは,碁盤目状に配列された無数の微細な超音波振動子と超音波信号を高速処理する小型集積回路が内部に組み込まれており,被験者の体に当てるだけで高精細な心臓全体の三次元データを瞬時に取得可能である。

また,LISENDO 880は高速画像処理エンジンにより,マトリックスプローブで得られたデータから高画質な三次元ボリューム画像を生成可能であり,さらに,機械学習の応用により,循環器診断に必要な各種計測や解析作業を自動化するアプリケーションを搭載している。これらの技術により,超音波検査の大幅な短時間化が可能となっている。

今後は,三次元撮像技術のより幅広い診断領域への適用やAI技術の活用を推進し,被験者の負担軽減,診断の質向上,病院検査スループット向上などの顧客価値の実現に貢献する。

(販売開始時期:2018年6月)

※1)
販売名:MXS1プローブ(医療機器認証番号:第228ABBZX00097000号)
※2)
販売名:ALOKA LISENDO 880(医療機器認証番号:第228ABBZX00092000号)

8. 炭素線がん治療システム向け世界最小加速器

2018年10月,大阪重粒子線センターにて,日立として初となる炭素線がん治療システムが稼働し,治療を開始した。このシステムの大きな特徴は,炭素線がん治療向けとしては世界最小(2018年10月時点)となるシンクロトロン加速器(周長56.8 m)を採用したことであり,これにより大阪の中心という患者アクセス性の高い狭小地への設置を実現した。

この小型化は,粒子軌道シミュレーションを活用し,従来システムの3分の2まで電磁石数を削減させることで実現した。本加速器は,粒子を周回運動させて必要なエネルギーを蓄積し,軌道を一時的に不安定化して出射する。電磁石数減により生じる出射が容易となる性質を逆に利用することで,出射に必要な電磁石も減らすことに成功し,磁石数減につなげた。

今後は,今回の納入で得られた加速器の特性を基に,粒子線治療システムのさらなる小型化と性能向上に取り組む。

8.大阪重粒子線センター施設概観(左)と加速器室(右)大阪重粒子線センター施設概観(左)と加速器室(右)

9. 複合型自動分析装置3500の計測技術

9.散乱光度計の測定原理散乱光度計の測定原理

自動分析装置は病院の血液検査における主力の装置の一つであり,その測定対象項目が拡大すれば,1台で多項目の検査を実施できることから業務効率化に貢献できる。2017年に株式会社日立ハイテクノロジーズより販売された自動分析装置3500は,世界で初めて散乱光度計を追加搭載し,高感度化により測定対象項目の拡大を実現した複合型の自動分析装置である。

自動分析装置における免疫測定では,抗体を感作させたラテックス粒子を試薬として血液と混合し,反応液中に凝集塊を生成させ濁度変化から成分濃度を測定する。従来は,吸光光度計を用いて透過光検出により測定していた。

今回,ラテックス粒子に対して好適な光源波長と散乱光受光角度を選定することで,従来よりも低濃度の領域を測定可能な散乱光度計を開発した。これにより低濃度の領域については散乱光度計を用い,高濃度の領域については従来通り吸光光度計を用いることで測定範囲の拡大を実現した。

Adobe Readerのダウンロード
PDF形式のファイルをご覧になるには、Adobe Systems Incorporated (アドビシステムズ社)のAdobe® Reader®が必要です。