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  • ムラット・ソンメズ世界経済フォーラム 第四次産業革命センター
    センター長
  • 鈴木 教洋日立製作所 執行役常務 CTO
    兼 研究開発グループ長

デジタル技術の進歩による高度なデータ利活用が,企業や社会が直面する課題の克服に新たな道を開きつつある。

産業分野では,IoTやAIを活用し,飛躍的な生産性向上や高付加価値の製品・サービスの創造をめざす第四次産業革命が世界的な潮流となっている。

進化したデジタル技術に対する期待が高まる一方で,その活用による社会変革を実現するためには課題も数多い。それらを解決し,デジタルイノベーションを推進するためには,どのような思想と行動が必要か─。

世界各国で第四次産業革命の推進に取り組む「世界経済フォーラム第四次産業革命センター」のムラット・ソンメズセンター長と,日立の鈴木教洋執行役常務・研究開発グループ長が語り合う。

格差の拡大を防ぐために

ムラット・ソンメズムラット・ソンメズ
世界経済フォーラム 第四次産業革命センター センター長
トルコ・ボスポラス大学工業工学部卒業,米国・バージニア工科大学にて産業工学およびオペレーションズリサーチの修士号取得。1989-1993年,カリフォルニア州の半導体工場自動化ソフトウェアプロバイダConsilium, Inc.にて,ソフトウェアエンジニアリング,製品マーケティング管理などに従事。1994-1997年,リアルタイム金融取引システムのプロバイダTeknekron Software Systems社の製品管理に携わる。1997-2014年,リアルタイム予測データ分析ソフトウェア会社のTIBCO Software社に創立メンバーとして参画し,グローバルフィールドオペレーション部門責任者,EMEA事業部長,最高マーケティング責任者などを歴任。2014年から,世界経済フォーラムのマネージングボードのメンバー。現在,サンフランシスコに置かれている第四次産業改革センターのセンター長。

鈴木:今日の世界は不確実性の時代に入ったと言われ,経済や社会情勢は不安定化し,先が見通せなくなっています。デジタル革命はリアルの世界を大きく変え,「データ資本主義」が新たなパラダイムとなりつつあります。一方でサイバーテロ,SNS(Social Networking Service)をベースとしたPost-truth(感情的な訴えかけが政治に影響を与える状況)とポピュリズムなどへの懸念も高まっています。スマートフォンの普及に伴って技術やサービスの拡散するスピードも速まり,今後AI(Artificial Intelligence)などのデジタル技術がさらに発展すれば,何もかもがスピードアップしていくでしょう。ソンメズさんは,今の時代をどうご覧になっていますか。

ソンメズ:おっしゃるように,もはや未来を予測することなど不可能に近いかもしれません。技術の進歩するスピードは専門家の予測を超えています。私たちにできるのは,互いに知恵を出し合い,どうしたらよい未来が描けるのかを話し合うことでしょう。また,技術の進歩するスピードよりも先に進んでいる必要があります。そのためには政府,企業,市民社会の相互協力と協調が必要です。

鈴木:確かに,官民連携の重要性が以前よりも増してきています。

ソンメズ:私たちの理解をはるかに超える速さで進行する変化を,社会と人間にプラスとなる方向に導くことができれば,発展のチャンスとなるでしょう。ただ,現実には懸念もあります。先ほどデータ資本主義とおっしゃいましたが,私のデータを誰が所有し,どのように活用し,それによってどんなメリットを得ようとしているのか。そうした疑問は,世の中が新しい方向へ進むときには付き物ですが,きちんと解消していくことが重要です。

鈴木:その通りですね。デジタライゼーションが進むことによって生じている課題について,もう少し詳しくお話しいただけますか。

ソンメズ:AIとビッグデータを活用すれば,病気の早期治療,農作物の収穫量増加,市街地の渋滞緩和,エネルギー消費量の削減など,さまざまな課題を解決できる可能性があります。反面,技術の進歩によるメリットを,ごく少数の恵まれた人々しか受けられないことが危惧されます。すでに現在でも生じている技術的・経済的な格差が,今後ますます拡大していくおそれがあるのです。すべての人が恩恵を享受できるようにするためには,技術面だけでなく社会的なアプローチも含め,今すぐ行動を起こさなければなりません。日本政府が標榜するSociety 5.0は,その社会的なアプローチに当たるのではないでしょうか。Society 5.0はさまざまな連携や協力の下で可能になる第四次産業革命が進むことで実現されるものですね。Society 5.0が実現できれば,世界中の人々にもメリットが行きわたるはずです。

鈴木:Society 5.0のめざす姿はデジタル技術によってQoL(Quality of Life)を向上できる人間中心の社会,まさにおっしゃるような技術の恩恵が隅々まで行きわたる社会です。日立は,お客様やパートナーとの協創により事業を通じた社会課題の解決をめざす,社会イノベーション事業を推進しています。社会イノベーション事業は,国連のSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)やSociety 5.0の実現に資するものであり,それは「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」という日立の企業理念の実践にほかなりません。このような日立の理念,Society 5.0のコンセプトは,ソンメズさんがセンター長を務めておられる「世界経済フォーラム第四次産業革命センター(C4IR)」の思想とも共通点があると思います。

ソンメズ:そうですね。社会のあらゆる分野の人々が連携して課題の解決をめざすことが,すべての人々が恩恵を受けられる社会の実現につながると考えています。

AIに倫理的概念を組み込む

鈴木 教洋鈴木 教洋
日立製作所 執行役常務 CTO 兼 研究開発グループ長
1986年東京大学大学院工学系研究科修士課程修了,日立製作所入社。デジタル画像信号処理,組込みシステムなどの研究開発に従事後,2012年日立アメリカ社シニアヴァイスプレジデント兼CTO,2014年中央研究所所長,2015年研究開発グループ社会イノベーション協創統括本部長を経て,2016年から現職。工学博士。

鈴木:デジタル技術の進展に対しては,大きな期待の一方で懸念も生じています。光と影はすべてのテクノロジーに付き物ですが,影,マイナスの要素を克服するためには,政策的な枠組みや法整備も不可欠で,そのためにも日立はC4IRとの協力を重視しています。

デジタル技術のマイナス要素を克服するためには,何が重要であると思われますか。

ソンメズ:倫理だと思います。特にAIでは使用するアルゴリズムが倫理に外れていないという条件が不可欠であり,技術に倫理的概念を組み込むこともカギとなるでしょう。私たちC4IRでは,倫理ルールをインテリジェントなデバイスに組み込むための仕組みとして,電気回路のブレーカーのようなコンセプトを持っています。倫理に外れた要求が外部から与えられたり,内部で発生したりすると,デバイスが実行を拒否するのです。

鈴木:AIと倫理の問題については日本の産業界でも注目されています。

ソンメズ:問題は,私たちがAIのアルゴリズムを制御できない点にあります。でもブレーカーの仕組みをAPI (Application Programming Interface)の形でデバイスに搭載すれば,倫理に外れないよう歯止めをかけることができます。保険会社は興味を示すかもしれません。ブレーカーの有無で保険料が変わることになれば,普及するのではないでしょうか。そのようなソフトウェアによるブレーカーを組み込む方法については,ぜひ日立にご相談したいところです。

鈴木:ブレーカーというのはよいアイデアですね。日本政府は,AIに関するルールやガイドラインの作成にも取り組んでおり,日立も参画しています。

AIについては人間の仕事が奪われると懸念する声もあります。ただ,ルーチンワークはAIに任せることができても,創造性の発揮などは人間にしかできないことです。

ソンメズ:そう思いたいですね。2台のAIがこのような会話をしているところなど想像できません。私たちは「人間らしさ」ということに自信を持つべきであるし,それができれば,現在起きているAIの急速な進歩をよりよい方向へ導く方法が見いだせるのではないかと考えます。電卓の発明によって人間が計算をしなくてもよくなったように,AIによるハイレベルな情報処理のサービスやユーティリティを利用することで,人間は自分にとってより価値のあることに時間や知的リソースを振り向けることができるようになります。それは,人間が自信を取り戻すことにもつながるでしょう。

このように私自身はAIと人間の未来について楽観的に見ています。

鈴木:私もそうです。

ソンメズ:ただ,そうした新しい世界における仕事やスキルのあり方については,社会全体でよく考える必要があります。また繰り返しますが,AIがプラスの効果をもたらすように設計されているかどうかという点だけは,しっかり確認しておかなければなりません。冒頭でも言ったように,技術の進歩は専門家の予想をはるかに超えており,未来を予測することはとても難しいですから。

鈴木:はい。そういった意味でも,私たちは京都大学の生物や人文系の先生方と一緒に,予測できない未来を前提に新たな価値観や倫理についても議論を進めています。

世界経済フォーラム第四次産業革命センター

世界経済フォーラム(WEF :World Economic Forum)が,IoT,AIなどを活用した第四次産業革命に関する取り組みや法制度についての議論・提言,実証事業などを実施する拠点として2017年3月に米国・サンフランシスコに設立した。

WEFの活動は「社会を構成するすべての人々に対して責任を負う」という考え方に基づいて行われており,世界経済フォーラム第四次産業革命センター(C4IR)も政府,企業,市民団体,世界中の専門家と協力し,第四次産業革命に関する政策とガバナンスに対する新しいアプローチを共同で設計,牽引することをめざしている。2018年7月に日本に立ち上げた「第四次産業革命日本センター」では,データ政策,モビリティ,ヘルスケアを注力分野に選定し,インド,中国など他の拠点と連携しながら,必要な規制や技術活用のあり方に関する検討や提案活動を行っている。

かつてアメリカ陸軍の軍人の宿舎だった簡素な建物を事務所として使用している。

ワークショップルーム。世界中の企業が参画し,垣根を越えたオープンなディスカッションを交わしている。

C4IRで活動するメンバー。日立をはじめ,企業各社からも多くのスタッフが参画している。

インドで進む農業分野のデータ活用

鈴木:テクノロジーの光の部分をより輝かせることが重要ですね。

ソンメズ:インドの州立病院では市民1万2,000人に対して1人の医師しかいないという統計があります。そんな割合では適切な医療ケアを行えるわけがありません。でもAIなどの最新のデジタル技術を使えば,患者一人ひとりにより早く,よりよい医療ケアを提供できます。そこには影も潜んでいるかもしれませんが,光,プラスの効果がそれを上回るはずです。

鈴木:インドにおけるC4IRの活動のメイントピックはAIですか。

ソンメズ:いくつかのトピックがあり,国レベルではAIとブロックチェーンの活用,地方レベルでは農業分野でのデータ活用に重点を置いています。インドでは,気候変動の影響でモンスーンのサイクルが不規則になり,作物を植えるタイミングが難しくなっています。インドの農家はそれぞれの規模が小さいため,収穫が得られないと生活への深刻な影響があります。インド全体では約5億人が農業で生計を立てており,気候変動による収穫量の減少は大きな社会問題なのです。

C4IRは,約1,400万人が農業に従事しているマハラシュトラ州(Maharashtra State),およびアンドラプラデシュ州(Andhra Pradesh State)で,この課題の解決をめざしてAIとIoT(Internet of Things)を活用したプロジェクトを行っています。まず,農地にスマートセンサーを設置して,降水量,日射量,土壌のデータを集め,機械学習の手法で分析し,作付けのタイミングを予想します。また,ドローンとセンサーを利用した精密農業にも取り組んでおり,施肥と水やりの量を最適化して無駄を削減することや,収穫量のモニタリングを行います。もし収穫量が予想されていたよりも少なければ,行政はあらかじめ保険による補償の内容を充実させておくことができます。

鈴木:Society 5.0の重点テーマの一つがスマート農業です。日本でも台風の被害が増えるなど,気候変動の影響が大きくなっています。また,高齢化による人手不足によって農業を取り巻く環境が厳しくなっており,データを活用した生産性向上が求められています。

ソンメズ:インドで行われていることはスマート農業と言えるでしょう。データの活用はあらゆる分野で重要性を増しています。

急がれるデータの保護と流通基盤の構築

鈴木:そのデータの活用においても光と影があります。

ソンメズ:問題は,一部の企業にデータが独占されつつあるということです。もし私たちのデータがそれらの企業によって収益化に利用されてしまうと,社会全体の利益につながらなくなる可能性があります。

この問題に対して,一つビジョンがあります。データを収集した場所の近くで管理するケースを考え,その管理区域を越えたデータ流通に制限を加えます。さらに政府や同社のデータ管理者などが,例えばデータ所有者を識別したり,第三者が利用可能なデータの量やどのデータを使ってよいかを指定します。さらにはこれらの使用条件などをデータに添付し,利用者側で確認することもできるでしょう。

例えば,がんの研究者が遺伝子データを集めたい場合,「遺伝子データを探しています」とネットワーク上で広く伝えます。すると,使用条件が指定済みで提供される準備が整っているデータ側が,「ここにあります」と手を挙げるのです。こうした仕組みなら,利用者はデータを滞りなく使用でき,所有者は目的以外の使用を制限することができます。データの使用にそのつど所有者の同意が必要であれば,企業間におけるデータ交換プロトコルが応用できます。また,データ利用者に対価を求めることも可能になるでしょう。

問題は,データの価値をどのようにして決めるかですが,それにはブロックチェーントークンが活用できます。それぞれの企業がトークンを発行して,データと交換するのです。そして,トークンを取引する公共の交換所を設置すれば,そこがデータの価値を決める役割を果たすことになります。

こうしたシステムが実現できれば,データの所有権という重要な問題の解となります。技術と倫理の両面でメリットがあり,国内におけるデータ流通が柔軟化するでしょう。さらに,このシステムを2国間,例えばインドと日本の間に適用すれば,国境を越えたデータ流通基盤を構築することも可能です。農業分野などで大きなデータセットが必要な場合も,素早くデータを連携し,ソリューションの開発時間を短縮できます。これはまだコンセプトの段階ですが,メリットをもたらす可能性を秘めており,インド政府は好意的に受け止めています。民間企業の視点ではどう思われますか。

鈴木:データ流通はとても重要な課題で,市場としても将来有望だと思います。ただ,データの保存は行政や公的機関などが行うのでしょうか。その場合,データサイロの問題が企業としては気がかりです。日本政府は,企業や行政機関などが持つビッグデータを集め,誰もが利用できるようにする「分野間データ連携基盤」を2020年に立ち上げる計画を打ち出していますが,連携の方法,流通の制度など,検討すべき課題は多くあります。

ソンメズ:私たちC4IRが第四次産業革命を推進する中心的存在として,さまざまな分野の企業と政府の対話を促進し,データ活用のためのプラットフォーム整備をアシストすることも可能です。例えば,特定の地域や期間のみ規制を緩和するサンドボックス制度を活用して実証実験を行い,その結果を基にデータ活用のフレームワークを検討するのはどうでしょうか。もちろん,個人のデータを扱ううえでは理解と合意が必要ですが,私は,先ほど言ったようなコンセプトによってデータ利用がコントロールできるのであれば,合意は得られると思います。ガイドラインづくりは急ぐ必要があります。日本にはぜひ,その先駆けになっていただきたいと思います。

データに光を当て,価値を生み出す

鈴木:データの活用は,日立のビジネスにおいても今後の発展のカギを握ると考えています。お客様のデータに光を当てて価値を創出し,デジタルイノベーションを加速するソリューションとして,日立は「Lumada(ルマーダ)」の提供を開始しました。この名前は,Illuminate(照らす・輝かせる)とdata(データ)を組み合わせたものです。Lumadaを利用することにより,データの解析からお客様の課題を可視化し,それらを解決するための仮説を立て,ソリューションのプロトタイプを作り,その価値を検証,評価し,実際に提供するという一連の流れをスピードアップできます。

不確実性の高まりによって企業や社会が直面する課題も複雑化,大規模化して,単独では解決できなくなりつつあります。また,おっしゃったように急速に変化が進行する中で,課題解決にはスピード感も求められます。Lumadaを活用してお客様との協創を強化することにより,日立はお客様や社会における課題を効果的に解決することをめざしています。

ソンメズ:データから価値を生み出すには,数値だけでは測れない成果にも注目することであり,「価値とは何か」を見つめ直すことにもなります。すばらしいことです。

鈴木:価値創出のためにはビジョンの共有も重要です。日立は,お客様と将来ビジョンを共有するためのアプローチ方法を用意しているほか,例えば高齢化社会におけるAIの役割やシェアリングエコノミーなどに関するビジョンをまとめた動画(図1参照)を作成し,公開しています。それらはお客様や社会とビジョンの共有において効果のあるツールとなっています。

図1|未来を描く利用シナリオ映像

ホームやエネルギーなどの領域を定めて,将来の生活者が直面するかもしれない問題と,その解決のアイデアを映像で分かりやすく紹介している。

図2|『Society 5.0 人間中心の超スマート社会』(日本経済新聞出版社)『Society 5.0 人間中心の超スマート社会』(日本経済新聞出版社)日立東大ラボで得られた知見に基づくSociety 5.0のビジョン,方法,技術開発を広く社会と共有するとともに現代の都市が抱える課題解決に向けた新たな方向性を提示している。

ソンメズ:社会課題の解決は企業や行政だけで進めるものではなく,市民が当事者になる必要があります。そのためにもそのような動画は非常に役立つでしょう。ニーズはたくさんありますし,動画の流通は容易にできますから。

日本やそのほかの国々と同様にインドでも,将来ビジョンの実現では市民が当事者として積極的に参加できるかどうかがカギとなっています。C4IRと日立がビジョン共有の面でも協力し合うことができれば,日本だけでなくさまざまな国々でも貢献できると思います。

鈴木:ぜひ協力させてください。社会課題については,日本は課題先進国と呼ばれ,高齢化やエネルギー問題などに世界で最初に直面しています。一方で日本は,生産工場や運転制御室などの「現場」から,現実世界のデータを集め,課題を発見し,その解決方法を見つけ出す能力と人材に恵まれています。私たちは現在,経済,社会科学,人文科学など,さまざまな分野の専門家と一緒に,エネルギーシステム,都市開発,データ連携プラットフォームなど,社会課題の解決を支援するテーマに取り組んでいます。

また,東京大学,京都大学,北海道大学それぞれに,共同研究を行うためのラボを設置し,「産学協創」のスキームの下でSociety 5.0の実現に向けた共通のビジョンをつくり,課題解決のアイデアとイノベーションの創出に取り組んでいます。東京大学と日立の共同ラボでは先日,『Society 5.0 人間中心の超スマート社会』という書籍も出版しました(図2参照)。残念ながら,まだ日本語版しかないのですが。

ソンメズ:これは急いで日本語を勉強しなければいけませんね(笑)。翻訳システムという「デジタル技術」も活用してみましょうか。

未来社会の構築へ,協力して行動を

鈴木:先ほどおっしゃっていたデータ利用のフレームワーク構築も含め,C4IRの活動にはとても期待しています。C4IRの魅力の一つとして,「Do Tank」であること,つまりデジタルトランスフォーメーションの実現に向けて,実際に行動するシンクタンクであるという点が挙げられます。標準化団体は数多くありますが,C4IRはデジタル社会の実現に焦点を絞り,具体的な成果をめざす先頭に立って活動されています。

日立とC4IRとの協創は,世界に向けてビジョンを発信し,具体的な行動を加速する原動力となるのではないでしょうか。私たちは,この第四次産業革命を加速させるために,国境を越えたデータ流通,ブロックチェーンといったテーマに重点的に取り組んでおり,日本以外の国々でも,これらの活動を促進したいと考えています。

ソンメズ:日立が取り組む社会イノベーションに協力できるのは,とても光栄で喜ばしいことです。重点を置くテーマにはIoTも挙げられるでしょう。IoTについては,実装の面で課題があると思っています。例えば,C4IRのパートナーであるブラジル政府もIoTに多くの資金を投入していますが,多くのIoTのプロジェクトは民間レベルにとどまっており,政府に採用されて社会全体に貢献するまでに至っていません。官民の連携によるIoTの推進については,日立がどのように取り組んでいるのか知りたいところです。

鈴木:日本政府がSociety 5.0のコンセプトの下でめざす人間中心の社会の実現には,まず生活環境全体を見直す必要があります。そのために,東京大学と日立の共同ラボでは,IoTによって人と生活環境のデータを結びつけて新しい価値を創出する「ハビタット・イノベーション」に取り組んでいます。その価値創出過程において,日立のインフラシステムや情報システムに関する経験やノウハウが役立つと確信しています。日常生活と密接に結びついたデータの利用には合意やサポート体制などが必要ですが,それらのデータに日立の強みであるOT(Operational Technology)とIT,そして社会インフラ製品を掛け合わせることにより,Society 5.0を実現していきます。

ソンメズ:おっしゃるようなことは,これからの行政や社会を動かす新たなオペレーティングシステムの要件と言えるでしょう。カギとなるのは市民社会も含めた共同での制度設計です。それがうまくいけば─私はできると信じていますが,多様性を包摂する未来,公正な未来,希望あふれる未来を実現できます。そこでは,今私たちが直面している課題に,はるかに迅速に対処できるはずです。

鈴木:同感です。実現にはここまで議論してきたような課題もありますが,協力し合って解決をめざしましょう。

今年(2019年)の4月に,日立の中央研究所に「協創の森」をコンセプトとした顧客協創型のイノベーションセンターを新しく開設します。そこを拠点に第四次産業革命の推進にも一層力を入れていきます。

ソンメズ:期待しています。日本は第四次産業革命のロールモデルとなれる可能性を有していると私は思っています。

鈴木:その先頭に立てるよう励みます。本日はありがとうございました。

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