日立評論

新しい協創アプローチによるイノベーション創生への挑戦

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日立評論

ハイライト

社会イノベーション協創センタは,新サービスやビジネスモデルの創造を担う研究開発のフロント部隊として,ワールドワイドな顧客協創活動を通じて,各地域の注力分野の協創を実践してきた。これからのデジタル時代のイノベーション創生に向けて,われわれは,日立独自の顧客協創手法「NEXPERIENCE」を,AIをはじめとしたデジタル技術を用いて進化させる。さらに,ビジョン創生・ルール形成,サービスアイデア創生,ソリューション開発・検証,ビジネスモデル/実証のすべての段階で,オープンな創発活動も進める。これらを通じて,顧客と共に社会・産業の課題解決に取り組み,イノベーションを起こし,顧客の成長に貢献していく。

目次

執筆者紹介

Umeshwar Dayal

  • 日立製作所 研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部 統括本部長
  • ハーバード大学博士課程修了。大規模データベースとデータマイニングの研究に一貫して従事。日立アメリカ社R&Dではビッグデータ解析・AIに関する研究と顧客協創活動を牽引。2019年4月から現職。博士(応用数学)。2010年ACM SIGMOD Edgar F. Codd Innovation Award受賞。ACMフェロー。

1. はじめに

2018年は,政治,経済のみならず,社会全般にわたってさまざまな出来事が続く一方で,デジタル技術が世界各地でイノベーションを可能にし,社会,産業の在り方を根本的に変えてしまう時代の到来を予感させる年であった。日立は,この不確実な時代に,社会イノベーション事業を通じてより良い社会の実現に貢献することをめざしている。

社会イノベーション協創センタ(Global Center for Social Innovation:以下,「CSI」と記す。)は,新しい製品,サービス,ビジネスモデルの創造を担い,世界の課題に対して,日立が何に取り組まなければならないか,どのような価値を提供すべきかを示すR&D(Research and Development)フロントとして,デジタル時代のイノベーション創生に挑戦していく。

本稿では,グローバルな顧客協創の実践,日立独自の顧客協創手法であるNEXPERIENCEのデジタル技術を活用した進化,次の時代に向けた新しい協創のアプローチについて,CSIの取り組み事例を含めて説明する。

2. グローバルな顧客協創の実践

CSIは,ワールドワイドな顧客協創活動を通じて,各地域の注力分野の協創を実践し,その結果をユースケースとして蓄積してきた。その結果,150件を超えるLumadaユースケース登録に貢献している。

石油・ガス,エネルギー,輸送などの資産集約型の産業分野では,遠隔地に設置された資産のオペレーション効率向上と,経年劣化による保守の効率向上をめざした資産のライフサイクル管理ソリューションの実証を行った。また,海運会社などのモビリティ分野では,顧客協創により,燃料効率が最も高くなるように船舶運行指標を推奨するフリート管理ソリューションの実証を行った。さらに,保険分野では,保険とリスク予測技術を掛け合わせたProactive型保険のコンセプト創出を行った1)

本稿に続く各論文では,北米を中心としたブロックチェーン技術を活用した金融サービスの取り組み,欧州を中心としたテレマティクス技術を活用したモビリティサービスの取り組み,中国を中心とした,日本で培った技術やノウハウを活用したスマートインダストリーの取り組み,日本・アジアを中心とした,デジタルスマートシティに関する取り組みを詳細に説明する。

3. デジタル技術を活用したNEXPERIENCEの進化

デジタル時代のイノベーション創出には,顧客との協創活動もデジタルにする必要がある。CSIでは,これまでの経験や蓄積したノウハウに基づき,イノベーションのアイデアやシナリオ,事業構想をデジタルモデル化し,シミュレーションにより効果や価値を検証,マネーフローや投資回収など事業性も評価可能な方法論「NEXPERIENCE」を構築し,2015年に体系化した2)。現在,NEXPERIENCEは,1,000件を超える適用実績を重ねるとともに,協創プロセスの課題分析・ビジョン共有,仮説構築,価値検証のすべての段階でデジタル技術を活用した進化を進めている(図1参照)。本稿では,特に課題分析と仮説構築での取り組みについて紹介する3)

図1|デジタル技術を活用したNEXPERIENCEの進化課題分析・ビジョン共有,仮説構築,価値検証のすべてのプロセスでデジタル技術を活用した進化を進めている。

3.1 フルバリューチェーンマップによる課題検討と抽出

NEXPERIENCEでは,顧客の長期的なビジョンやビジネスモデル(ビッグピクチャー)と,そこに至るロードマップを描くことを重視している。成長戦略を描くためには,顧客の取引先,調達先,販売パートナー,システム開発パートナーといった,さまざまなステークホルダーとのエコシステムを考慮して課題を抽出する必要がある。

そこで,「フルバリューチェーン(Full Value Chain:以下,「FVC」と記す。)マップ」という俯瞰(ふかん)図を開発した4)。FVCマップは,各業種の顧客を想定し,顧客のバリューチェーン全体を通して,経営課題(内部要因),社会課題(外部要因),それらの課題に対応するソリューションの関係を可視化したものである。顧客との協創ワークショップを実施する中で,各業種向けのFVCマップから顧客オリジナルのFVCマップを創り上げることで,特定された課題の解決に向けたソリューションの立案,ビジネスモデルの設計,プロトタイプ開発,事業性評価,実証などの段階へつなげていく。

3.2 AIを活用したイノベーティブな発想支援システム

NEXPERIENCEを活用してサービスアイデアを創出するワークショップにおいて,日立のOT(Operational Technology)とITの実績を凝縮したLumadaに蓄積された知見を活用し,エネルギー,産業,金融などの複数の事業領域をつなぐイノベーティブなアイデアの創出として,音声認識と発想レコメンドを行うAI(Artificial Intelligence)を用いた発想支援システムを開発した5)。本支援システムにより,ワークショップ参加者に既存の枠を越えた業種横断型のアイデアの創出を促すことで,新事業創生に貢献する。

社会課題を解決するSIB(Social Innovation Business)創生が一層求められてきているが,社会課題は複雑であり,単一業種にとどまらない多様な解決策の考案が課題である。そこで,CSIは,蓄積されたLumadaユースケースを掛け合わせて結合させた,業種横断型のSIBアイデア創出を可能にする支援システムを開発した。

本支援システムは,AI音声認識技術を活用し,ワークショップ中の発話から,課題に関するキーワードを抽出する。そして,蓄積したLumadaユースケースからキーワードに関連する事例を提示する。これらの機能により,複数業種の知見を持つエキスパートでなくても,ユースケースを組み合わせた業種横断型のアイデア発想を容易に行うことが可能となる。Lumadaユースケースの一部を蓄積した本支援システムを利用したワークショップによる社内検証の結果,創生アイデア中の業種横断型アイデアの割合が,従来に比べ約2倍増加することが確認できた。今後は,本支援システムをアイデア発想強化と協創人財育成強化に活用していく。

4. 次の時代に向けた新しい協創のアプローチ

4.1 オープンな創発によるイノベーション創生強化

本章では,次の時代に向けた協創のアプローチによるイノベーション創生強化について述べる(図2参照)。

前章に述べたとおり,これまでの顧客協創では,NEXPERIENCEを用いて顧客課題解決の糸口をつかみ,デジタルソリューション,ユースケースの実績を積み上げることができた。しかし,従来業務のデジタル革新では実績を積むことができたが,成長領域での実績作りが今後の課題と考える(図3参照)。

今後の顧客の成長領域での貢献に向けて,一つには,顧客の業務とお金の流れを理解し,OT×IT×プロダクトを生かす提案力強化を進め,顧客協創をさらに深める。

また,顧客協創の深化に加えて,顧客と日立だけでなく,オープンな創発による新事業創生に取り組む。図2に示すとおり,オープンな創発では,ビジョン創生・ルール形成,サービスアイデア創生,ソリューション開発・検証,ビジネスモデル/実証のそれぞれの段階が考えられる。ビジョン創生・ルール形成においては,東京大学や中国清華大学をはじめとする産学協創活動や,WEF-C4IR(World Economic Forum - Centre for the Fourth Industrial Revolution)と連携していく。サービスアイデア創生とソリューション開発・検証においては,社内外の参加者を招いたアイデアソンやハッカソンを開催し,既存業務の制約にとらわれることのない,オープンな知見を活用する。ビジネスモデル/実証では,顧客と日立だけではなく,パートナーの持つソリューションや技術も活用したエコシステム構築を進めていく。次に,地域の特徴を生かした新しい取り組みを紹介する。

図2|イノベーション創生強化顧客と日立の双方の成長領域における事業創生に向けて,オープンな創発を強化していく。

図3|これまでの顧客協創と今後の課題顧客の既存業務のデジタル革新での貢献に加え,成長領域での貢献が今後の課題である。

4.2 地域の特徴を生かした新しい協創の取り組み

図4|日立の北米西海岸新社屋日立アメリカ社と日立ヴァンタラ社が同床し,オープン協創をデジタルソリューションにつなげる活動を加速する。

北米では,カリフォルニア州サンタクララに新社屋を開設した6)。新社屋では,日立アメリカ社と日立ヴァンタラ社が同床し,顧客,アカデミア,パートナーとのオープンな協創から,人々のQoL(Quality of Life)を高めるデジタルソリューションにつなげる活動を加速する(図4参照)。

中国では,清華大学との連携関係を発展させ,「未来創新(イノベーション)連携計画」に関する戦略的提携協定を締結した7)。都市のデジタル化,ヘルスケア,エネルギーなどの領域で,ビジョン創生や共同研究を展開する。さらに,北京中関村や深センのエコシステムにも参画し,ソリューション開発・検証を加速させる。

また,中央研究所内に新設した「協創の森」においても,人間中心でQoLの高い豊かで持続可能な社会の実現に向けて,社内外のより広範な知と感性を掛け合わせ,大きな価値を創出するグローバルなイノベーションエコシステムの構築をめざす。その先がけとして,2018年10月に,国分寺市と日立は,「イノベーション創生による地域活性化に向けた包括連携協定」を締結し8),国分寺市の市民とともに「地域のつながり」をテーマにしたプロジェクトを推進する。

5. おわりに

本稿では,協創によるイノベーション創生への取り組みについて紹介した。2019年のCSIは,さらに進化したグローバルなR&D部隊として,これまで培った顧客協創のさらなる進化に加えて,社内外のさまざまなパートナーを巻き込んだ創発により,日立のグローバル成長に貢献していく。

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