日立評論

協創の森

武蔵野の森に誕生した世界へのイノベーション発信基地

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COVER STORY:CONCEPT

協創の森

武蔵野の森に誕生した世界へのイノベーション発信基地

ハイライト

近年,イノベーション創出の観点から,協創という方法に企業の注目が集まっている。社会イノベーション事業を推進するとともに,顧客協創方法論「NEXPERIENCE」を確立・活用してきた日立は,オープンイノベーション創出を加速するため,次なるステップとして東京・国分寺地区に「協創の森」を開設した。

今後,武蔵野の森に囲まれた「協創の森」では,日立と企業,大学,行政など多数のステークホルダーとのオープンな協創を推進していくことになる。「協創の森」の背景やねらい,新設された協創棟の工夫,将来に向けての展望などについて,2人のキーパーソンに聞いた。

目次

社会課題解決のカギを握る「協創」

矢川 雄一
日立製作所 研究開発グループ テクノロジーイノベーション統括本部 副統括本部長 兼 中央研究所所長

IoT(Internet of Things)やAI(Artificial Intelligence)に代表されるデジタル技術の目覚ましい進展は,生活やビジネスを大きく変えつつある。さらに今後は,地球温暖化や資源枯渇,経済格差の拡大,サイバーセキュリティの脅威,少子高齢化といった社会課題の解決に向けて,デジタル技術によるイノベーションが貢献すると期待されている。こうした現状を捉え,日立の研究開発をリードしてきた中央研究所の所長を務める矢川雄一(日立製作所 テクノロジーイノベーション統括本部 副統括本部長 兼 中央研究所 所長)は,次のように言う。

「2015年に国連で採択されたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)や日本政府が提唱するSociety 5.0の取り組みがめざしているのは,生きがいや持続的な経済発展を確保しつつ,社会課題を解決することです。しかし,不確実性の時代と言われる現在,複雑で深刻化する社会課題の解決にあたって日立の力だけでは限界があります。そこで,さまざまなステークホルダーとともに,よりよい未来に向けて解決すべき課題や将来ビジョンを共有し,お互いに知恵を出し合って新たな価値を生み出す『協創』が重要となってくるわけです。」

近年,日立は,社会イノベーション事業に注力するとともに,顧客のイノベーションパートナーとなるべく,さまざまな取り組みを推進してきた。その一環として,2015年に研究開発グループの体制を一新し,顧客とともにソリューションを開発する「社会イノベーション協創センタ(CSI)」,ソリューション開発に必要な技術基盤を開発する「テクノロジーイノベーションセンタ(CTI)」,長期的視点に立って未来の社会イノベーション事業を創生する「基礎研究センタ(CER)」の三つを柱とする顧客協創型の組織に再編した。これまでCSIをフロント組織として,顧客協創方法論「NEXPERIENCE」や,デジタルイノベーションを加速するLumadaを活用して顧客協創を進めてきた。

さらに日立は,次なるステージへ協創をステップアップさせる取り組みに着手した。その拠点となるのが,2019年4月,東京・国分寺地区の中央研究所内に開設した「協創の森」である(図1参照)。これからスタートする「協創の森」について,矢川はこう決意を語る。

「中央研究所の初代所長を務めた馬場粂夫博士は,『空己唯盡孚誠』(おのれむなしうして唯孚誠ただふせいつくす。)という言葉を残しましたが,その意味は,『わがままや先入観などの私心を取り去り,まっさらな心で相手を思いやり誠を尽くす』ということです。まさに協創の原点を示すものであり,ここからSDGsやSociety 5.0の早期実現に向け,5年〜10年後に実現する,社会にインパクトを与えるイノベーション創出をめざします。」

図1|中央研究所内の協創棟森の中に新設された協創棟は,自然採光・自然通風・換気の促進を行うハイサイドテラスの採用など,環境に配慮した建築設計がなされている。

日立がめざす「新たな協創のカタチ」

北川 央樹
日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ センタ長

「協創の森」において,日立が目標としているのは,人間中心でQoL(Quality of Life)の高い豊かで持続可能な社会の実現だ。その実現のため,「新たな協創のカタチ」,「自然との共生」,「創造力を高めるワークスタイル」という三つの基本方針の下,オープンイノベーションを創出させていく。これらの基本方針のポイントは,冒頭の矢川の言葉が示すように「複数のステークホルダーをつないだ,よりオープンで多角的な協創アプローチが必要」という視点である(図2参照)。

NEXPERIENCEを体系化するとともに,CSIの協創活動を牽引してきた北川央樹(日立製作所 東京社会イノベーション協創センタ センタ長)が,NEXPERIENCEの成果と課題を踏まえ,こう説明する。

「CSIの発足と同時に企業との協創をスタートさせ,2016年度に175件であったNEXPERIENCE適用件数が2018年度には1,000件に到達し,新しいソリューションを生み出すなどの成果を出してきました。しかし,1:1の協創という従来の方法では,N倍化やグローバルスケール化が難しい。スケールアップを成し遂げるには,日立の研究者やデザイナーと,スタートアップ企業や地域住民,大学など社内外のより広範な知と感性を掛け合わせ,大きな価値を創出するグローバルなイノベーションエコシステムを構築することが重要となってきます。そして,『協創の森』に構築したエコシステムの中で,1:1の協創を進化させたオープンな協創を通じて,革新的なデジタルソリューションやサービスを生み出すこと,それが私たちの目標としているところです。」

一方,「自然との共生」という基本方針は,中央研究所の建設に際し,小平浪平創業社長の「よい立木は切らずに,よけて建てよ」の言葉を受け,構内の樹木を極力切ることなく武蔵野の自然環境を守り続けてきた中央研究所の伝統を踏まえたもの。「協創の森」という名称には,その豊かな自然環境の中,顧客やパートナーなどとの協創関係を発展させて,「森」とともに成長していくという想いが込められている。守られた豊かな自然との共生という価値が,研究者の探求心を深め,ここに集う人々の心をつなぎ,スケールの大きな発想を生み,やがて大きなイノベーションを育てることにつながるという考えなのだ。

そして,「創造力を高めるワークスタイル」という基本方針は,「協創の森」に集う人々全員が生き生きと活動できるよう,よりクリエイティブな働き方を実践することをめざしていくことを表す。このように,いずれにおいても「よりオープンで多角的な協創アプローチが必要」という視点が盛り込まれているわけだが,それは「協創の森」の開設に向けて取り組んできたプロジェクトのプロセスにも顕著に表れている。

図2|オープンなイノベーションエコシステムの概念図日立のオープンイノベーション創出のアプローチを示す。パートナーとの協創で社会課題に挑戦し,大きなビジネスを創生する。

「化学反応」を引き起こす協創棟の仕組み

「協創の森」は,既存の小平記念館と迅創棟,さらに中央研究所内の建物としては26年ぶりに新設された協創棟から成る。新棟の計画にあたっては,建物内部の用途ありきではなく,どのような「ワークスタイル」をするのかを基に設計デザインがなされた。2008年,東京・赤坂にCSI東京(旧デザイン本部)のオフィスが設置された際,創造的な働き方がしやすいデザインにした経験やノウハウが生かされているという。具体的には,協創棟にオフィスが移転するCSI東京のメンバーが中心となって「社外の人が,自分たちの課題を持ち込んで,日立と協創して解決」というビジョンを策定し,それを具現化するため,ワークスタイルのユースケースを作成するという進め方をした。

「従来の働き方では,研究所と事業部門,お客様の三者という関係でしたが,オープンイノベーション創出のためには,パートナーや大学,地域住民など外部の知を取り込む働き方をする必要があります。この『外部の知による協創の加速』というワークスタイルのほか,『アイデアを形にして検証』,『異分野の研究者との協創』,『自由なワーク』の四つのワークスタイルを設定しました。それぞれの典型的な働き方のユースケースを基に,空間の基本的な考え方や主な利用者,主な用途,セキュリティポリシー,空間・設備要件を抽出したうえで,要件定義したことを設計デザインに落とし込んでいったのです。」(北川)

また,プロジェクト推進にあたっては,全員参加型の活動を実施したことも重要なポイントだ。知識創造経営の第一人者として知られる多摩大学大学院の紺野登教授ら有識者を招き,国分寺地区に集うことになる全員が参加するワークショップを開催,ビジョンやユースケースなど基本的な考え方を共有したほか,繰り返し議論して論点を整理するなど,さながら研究開発グループの研究者同士による協創といった観を呈した。

こうしたプロセスを経て,「外部の知による協創の加速」を具現化する1階のカフェライブラリーとNEXPERIENCEスペース,「アイデアを形にして検証する」を具現化する2階のプロジェクトスペース,「自由なワーク」を具現化するコミュニケーションコリドーといった形に結実した(図3参照)。機密保持のために一部クローズの場はあるが,協創棟の印象は,一言でいうと「オープン」ということに尽きる。協創棟3階はCTIのデジタルテクノロジーイノベーションセンタ(DT研),4階はCSI東京のオフィスとなっているが,コミュニケーションコリドーを介して異なる分野の研究者同士が交流することが可能で,「フロアごとの壁を空間的にも組織運営のうえでも取り払うなど,組織を融合させることにより『化学反応』を起こそうとしている」(北川)のである。また,建物の骨格となる部分のみ壁が設けられているため,建物内のフロアのどの位置からも外への見通しが良く,「森」を実感できる協創空間ともなっている。

さらに,社外のパートナーとの協創において,アイデアを事業化させる確度とスピードをアップさせる仕組みも創りあげた。日立馬場記念ホールで提起された将来課題を受けて,NEXPERIENCEスペースでアイデアを創出,プロジェクトスペースで日立の先端技術を活用したプロトタイピングと実証をスピーディに繰り返し,イノベーションを創生する取り組みが協創棟内にビルトインされているのである。

「問題提起から,社会課題に対してどのようなアプローチをするべきか,アイデアソンやハッカソンを実施する一方,パートナーの技術も取り入れるなど,それぞれの空間に役割を持たせた形となっています。さらに,迅速にプロトタイプの開発ができる迅創棟と連携させることで,さらなるスピードアップも可能となっています。また,トライアルを繰り返す一連の流れは,不確実性の時代だからこそ,スパイラルにアジャイルに進めていくことが,より良いものをつくるうえで重要だと考えているからです。」(矢川)

このように,NEXPERIENCEとテクノロジーが一体化する活動が可能だという点で,「協創の森」は,すでに日立が開設している東京・赤坂の「顧客協創空間」や横浜研究所の「オープンラボ」などとは性格が異なる。都心に位置する赤坂の「顧客協創空間」は日立の協創のポテンシャルを示す場であり,そこを入口に「協創の森」ではオープンな協創を深化させるなど,それぞれの特長を踏まえた役割を担うとともに,これら拠点のネットワーク化も予定されている。

図3|協創を支援し,加速するための空間群カフェライブラリー(左上)は,本棚を空間の間仕切りにしたコミュニケーションスペース。カジュアルな講演会やワークショップの開催にも活用することができる。プロジェクトスペースは,日立の最先端技術を体感しながら,ワークショップ開催やフィジカルプロトタイプ開発が可能な,パートナーと共に協創を推進する空間で,プロジェクトベース(右上)とプロジェクトルーム(左下)から成る。日立馬場記念ホール(右下)は,350名を収容可能な多様なステークホルダーとの議論の場で,国際会議にも対応した仕様である。

世界へのイノベーション発信基地として

今後,「協創の森」では,人間中心でQoLの高い持続可能な社会の実現に向けて,具体的にどのような取り組みが推進されるのか。

「『協創の森』では,「プロジェクトスペース」で日立の先端技術やLumada IoTプラットフォームなどを活用したプロトタイピングと実証をスピーディに繰り返し,イノベーションの創生を加速します。これらを実現するために「協創の森パートナープログラム」を立ち上げ,お客様やパートナーと連携したプロジェクトを開始します。現在,CMOSアニーリングマシンを活用し,例えば交通渋滞などの実社会の複雑な問題を高速に解くプロジェクトをはじめ,デジタルスマートオフィス,フューチャーリビングラボのプロジェクトなどを検討しているところです。研究テーマとしては,自律協調ロボットやエネルギーマネジメント,スマートオフィスなど多々ありますが,『協創の森』での世界中の人々とのオープンな議論から生まれたアイデアを,デジタル技術と協創によって具現化し,社会に実装していくことをねらいとしています。」(矢川)

その観点から,地元である国分寺市とのパートナーシップが重要となってくる。すでに2018年10月,研究開発グループは,国分寺市とイノベーション創生による地域活性化に向けた包括連携協定を締結し,国分寺市の市民とともに「地域のつながり」をテーマにしたプロジェクトを推し進めているところだ。

「現在,国分寺市の野菜の地産地消を推進する『こくベジプロジェクト』をアプリによってサポートしているほか,電子地域通貨の実証にも取り組んでいます。社会イノベーション事業の在り方を考えるとき,やはりユーザーである地域住民の視点が欠かせません。地域住民のQoLや安全・安心,活性化といった社会課題に対し,国分寺市のような自治体への実装が一つの成功モデルとなれば,それを政令指定都市や国にまで拡大していく道筋にできるのではと考えています。」(北川)

日立は,SDGsやSociety 5.0を踏まえ,2021中期経営計画においては「経済価値」に加え,「社会価値」,「環境価値」の提供を打ち出している。こうした社会実装による「社会価値」,さらにデジタル技術によって豊かな自然を守る「環境価値」を生み出すという点でも「協創の森」に託される期待は大きい。そうした期待に対し,矢川は,「CSIのデザインの力,CTIのテクノロジーの力,さらに基礎研究センタのサイエンスの力が結集できるのは,ここ以外にそうありません。これらの総合力と,多数のステークホルダーとの協創によって強いイノベーションができる」と考えている。

2018年,研究開発部門は発足100周年を迎えた。次の100年に向け,イノベーションの種を大きな森に育てるとともに,世界へのイノベーション発信基地をめざす「協創の森」のチャレンジがいよいよ始まる(図4参照)。

図4|協創の森オープンに合わせリニューアルされた小平記念館オープンイノベーション創出の場であるとともに,小平記念館のビジョンラウンジなどを新設して,「協創の森」全体で日立の最新ケーパビリティを体験できるようにするなど,世界へのイノベーション発信基地をめざす。

レポート|「協創の森」オープニングセレモニー
持続可能な社会に向けたビジョンを共有した「協創の森」の第一歩

2019年4月11日,日立は新研究開発拠点「協創の森」を開設し,約300名の招待客を迎えオープニングセレモニーを開催した。SDGs,日本ではSociety 5.0が推進される中,「協創の森」を新たな出発点として,お客様やパートナーとの協創により価値創造をめざす日立の取り組みを,展示,記念式典,および「人間中心でQoLの高い豊かな持続可能社会の実現」をテーマに掲げたシンポジウムを通じて幅広く紹介した。

記念式典
それぞれの立場から「協創の森」を語る

東原 敏昭

中村 道治氏

馬場記念ホールに満員の来場者を迎え,日立製作所執行役社長兼CEO東原敏昭をはじめとする日立の代表者から,日立のめざす姿や「協創の森」を中核としたイノベーション創出への期待が示された。まず東原社長から,「経済価値」に加え,「社会価値」,「環境価値」の向上には,多様なステークホルダーとの協創がカギとなることを伝えるとともに,「世界に先駆けてSociety 5.0がめざす人間中心社会を実現していくためには,データとデータをつなぐ技術,データに光を当てて価値を見いだしていく力が最も重要。ここ『協創の森』ではデータとデータ,人と人とをつなぐ環境を整えた。ぜひここから一緒に世界の未来を変える新しいイノベーションを創っていきたい」と呼びかけ,その価値創出の基盤として,LumadaやNEXPERIENCEを活用していくことを紹介した。

鈴木教洋(執行役常務CTO 兼 研究開発グループ長 兼 コーポレートベンチャリング室長)からは,「『協創の森』では多様なパートナーとともに社会課題解決をめざした取り組みを進化させ,次の100年に向けてグローバルイノベーションリーダーとなるべく挑戦していく」と宣言があり,矢川雄一(研究開発グループ テクノロジーイノベーション統括本部 副統括本部長 兼 中央研究所所長)より「協創の森」でめざすビジョンを映像により紹介し,デジタル技術を含む先端テクノロジーで実現していく決意が述べられた。

記念式典の締めくくりの基調講演では,中村道治氏(日立の研究開発本部長,副社長を歴任し,現在は国連10人委員会メンバー)が「協創の森を核とする日立の研究開発への期待」と題し,「近年,科学技術のマイナス面が顕在化してくる中で,持続可能で一人も取り残さない社会の実現が希求されており,その願いが国連のSDGs採択につながっている。SDGsがめざす社会の実現には,強い危機意識を持って取り組むことが必要であり,企業の貢献が不可欠」であることを述べ,「自然を大切に育み,多様な人財を擁する『協創の森』を中核として,お客様や社会の発展に貢献してほしい」と期待の言葉を伝えた。

シンポジウム
価値・技術・協創の論点からスマートシティをめぐる議論を展開

中西 宏明

バンサーン・ブンナーク閣下

リチャード・コート閣下

「人間中心でQoLの高い豊かな持続可能社会の実現」のテーマのもと,デジタル化の進展とともに活性化するアジア太平洋地域のスマートシティを取り上げたパネルディスカッションが行われ,活発な議論が繰り広げられた。

まず日立の中西宏明(取締役会長)が,デジタル化の波を真正面からとらえたSociety 5.0の推進と,価値創造により世界へ貢献していくことの意義を示し,その潮流の中心にあるスマートシティについては「政府や一企業の問題ではなく,産官学の力を合わせた活発な議論の場が大事」と,続くディスカッションが有意義なものとなることに期待を込めた。

続いて来賓を代表してバンサーン・ブンナーク閣下(駐日タイ王国特命全権大使)が登壇し,「Thailand's Sustainable Growth Strategy」と題する講演を行った。

2018年にタイ政府が打ち出したタイ国家戦略(2018-2037)における6項目のキーアクションを紹介するとともに,それを実現すべく前年からスタートしたタイランド4.0と,日本のSociety 5.0の共通点を指摘し,「デジタル化の推進にあたっては,日本とタイのパートナーシップが最も重要であり,イノベーションのサポート役として日立が果たす役割が大きい」ことを強調した。

同じく来賓を代表して,リチャード・コート閣下(駐日オーストラリア特命全権大使)から「Future Cities - Future Infrastructure - Australia-Japan collaboration」と題した講演が続いた。

予想を上回る人口の増加など,現在のオーストラリアの課題を俯瞰しながら,未来の都市,未来の産業の在り方について語った後,「日本企業との協創が同国民のQoL向上につながる」と指摘し,日立とのオープンイノベーションへの期待を述べた。

両閣下からの講演に続く形で,パネルディスカッションが始まり,「価値」,「技術」,「協創」の三つの論点により,スマートシティの現状や今後の展開に資する議論が行われた。

「価値」については,出口敦氏(東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授)が「次世代スマートシティは,データ駆動型社会,知識集約型社会,非貨幣価値社会の考え方を取り込んだものになる」とし,この実践に向けた日立東大ラボ「ハビタットイノベーション」の取り組みを紹介した。また,バンサーン・ブンナーク閣下とリチャード・コート閣下からは,それぞれ自国の事例を挙げながら,サステイナブル,リバブル,環境など,スマートシティにおける価値の範囲が拡大しつつある状況について示された。

「技術」については,日立の鮫嶋茂稔(研究開発グループ テクノロジーイノベーション総括本部 統括本部長)が「価値向上や非常時への対応の点からもデジタル変革のポテンシャルは大きい」と述べ,取り組み実例の紹介を通じてデジタル化と価値創出の関係性を示した。

これらの議論を受け,「協創」については,須賀千鶴氏(世界経済フォーラム 第四次産業革命日本センター センター長)が,「センサーの獲得する街の空間情報は公共財である。同時に,社会的な公益のためにオープンイノベーションで誰もが利用できる環境の整備が重要であり,そのためにグローバルなルールづくりが最大のカギ」と訴えた。さらに「スマートシティの社会実装の前に,自治体や住民などマルチステークホルダーとの協創が肝要」と強調し,「この『協創の森』のようなオープンな拠点で試行錯誤したい」と今後への期待を語った。

2時間近くに及んだパネルディスカッションは,モデレーターを務めた中北浩仁(執行役常務/地域戦略担当[APAC] 兼 日立アジア社・日立インド社 取締役会長)が「本日の議論で,明確に見えてきた方向性に沿って,デジタル化によるスマートシティの実現を共にめざしていきましょう」と結び,新たなオープンイノベーションの場となる「協創の森」のスタートに相応しい足跡を刻んだ。

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