日立評論

IoT時代の維持管理を支える上下水道の監視制御・設備管理システム

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日立評論

安定的な水資源活用に貢献する水環境ソリューション

IoT時代の維持管理を支える上下水道の監視制御・設備管理システム

ハイライト

監視制御システムは,上下水道の運営における日々の維持管理業務に欠かせないシステムである。近年では,監視制御機能に加え,得られたデータを活用して継続的な業務改善を進める基盤としての機能も求められるようになりつつある。そこで日立は,監視制御システムとデータ解析基盤を組み合わせたシステムを構成し,さらに,監視制御システムにリアルタイムデータを長期保存して利活用する仕組みを整備した。また,上下水道分野では監視制御機能を稼働させたままシステムを更新することが求められるため,PI/O回線切替器を開発し,新旧システムのシームレスな移行を実現した。監視制御システムと設備管理システムを有機的に連携させることで,監視制御のデータだけでなく,設備台帳および保全業務から得られる情報を活用し,保全業務を含めたPDCAサイクルの支援を可能にしている。

目次

執筆者紹介

山口 浩介Yamaguchi Kosuke

  • 日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット 制御プラットフォーム統括本部 社会・インダストリ制御システム本部 社会制御システム設計部 所属
  • 現在,上下水道向け監視制御システムの開発設計に従事

黒沢 賢一郎Kurosawa Kenichiro

  • 日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット 制御プラットフォーム統括本部 社会・インダストリ制御システム本部 社会制御システム設計部 所属
  • 現在,上下水道向け監視制御システムの開発設計に従事

中村 信幸Nakamura Nobuyuki

  • 日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット 制御プラットフォーム統括本部 社会・インダストリ制御システム本部 社会制御システム設計部 所属
  • 現在,上下水道向け監視制御システムの開発設計に従事

田所 秀之Tadokoro Hideyuki

  • 日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット 制御プラットフォーム統括本部 社会・インダストリ制御システム本部 社会制御システム設計部 所属
  • 現在,上下水道向け監視制御システムの開発設計に従事
  • 技術士(情報工学,上下水道,総合技術監理)
  • 電気学会会員
  • 環境システム計測制御学会会員
  • 計測自動制御学会会員

1. はじめに

2018年12月に成立した改正水道法では,第一条に定める法律の目的が,「水道を計画的に整備し,及び水道事業を保護育成することによって」から,「水道の基盤を強化することによって」清浄にして豊富低廉な水の供給を図ると変更されており,維持管理面が重点施策となっている1)。また,下水道分野では2017年に策定された「新下水道ビジョン加速戦略」の中で,重点項目V「汚水処理システムの最適化」において,維持管理の観点から広域化・共同化が推進されている2)

以上の背景から,監視制御システムは,日常的な設備運転・維持管理業務を担うシステムとして重要であるだけでなく,PDCA(Plan,Do,Check,Act)サイクルを回す改善活動に日々の運用を通じて収集されるデータを活用することも期待されている。

これらの期待に応えるべく,日立は,監視制御システムを維持管理業務,およびデータ利活用のためのエッジコンピューティングシステムとする技術を開発した。本稿ではまず,その機能を紹介する。次に,維持管理業務支援のため,監視制御システムAQUAMAX-AZ/SP(以下,「AQUAMAX」と記す。)に整備した機能を紹介する。

また,監視制御システム更新の機会が増える中,上下水道分野においては監視制御機能を停止させることなくシステム更新を行いたいというニーズが高まっている。このようなニーズに応えるべく開発したPI/O(Process Input/Output)回線切替器を紹介する。

PDCAサイクルを通じた維持管理業務の改善活動では,監視制御システムから得られる運転データに加えて,設備台帳や保全業務を通じて得られるデータの活用が重要と考えている。これらのデータを活用するための設備管理システムについても紹介する。

2. エッジとしての監視制御システム

監視制御システムは,エッジとして日々の運転・維持管理業務にデータを活用するとともに,IoT(Internet of Things)プラットフォームと接続することで,蓄積したデータを利活用できる環境を提供する。

2.1 全点収集型リアルタイムデータベース基盤

図1|全点収集型リアルタイムデータベース基盤長期保存,全点収集,品質情報格納によって,各種画面でさまざまなデータ利用が可能になる。

IoT時代を迎え,監視制御システムが日々蓄積しているリアルタイムデータの利活用による,新たな知見の発掘が期待されている。

AQUAMAXにおけるリアルタイムデータは,従来,直近の設備の運転状況を把握することを目的に,1秒周期のデータをトレンドグラフで表示しており,そのリアルタイムデータベースの保存期間は1日程度であった。また,監視制御システムのハードディスク容量の制限から保存できる信号点数に制約があり,すべての設備データを保存することはできず,登録した信号のみを保存していた。そのため,後で解析のためデータが必要となった場合に,登録していない過去データを参照することができなかった。

このようなデータ利活用面からの制約を解消するため,近年向上した監視制御システムの記憶装置容量を有効活用し,データ圧縮技術を適用することで,すべての入力信号を1秒周期で保存する全点収集型リアルタイムデータベース基盤を開発した。本データベース基盤では,システム規模や設備の運用に応じて,収集周期と保存期間を柔軟に変更できるようにした。1秒周期で1か月間,10秒周期で6か月間の保存を標準としているが,データによっては1秒周期で10年間保存するといった運用も可能である。

本データベース基盤では計測値だけでなく,上下限や変化率異常などの品質情報を併せて保存しており,過去の運転状況の再現や,データ解析時のデータクレンジングに活用できる。日常の運転業務への適用例としては,(1)過去の類似した運転データを現在のデータと並列表示する,長期リアルタイムトレンド機能を活用した参考情報の提示,(2)プレイバック機能(後述)を用いた非定常時・異常時の状況の再現とそれに基づく業務改善やノウハウ抽出,(3)データのオンライン解析による制御モデルの定数・パラメータの調整などが挙げられる(図1参照)。

2.2 データ解析基盤

広域化や共同化が推進されている上下水道分野においては,長期間のリアルタイムデータを,異なる機場のデータや保全業務で得たデータと組み合わせた,高度なデータ活用が期待されている。監視制御システムは,設備の監視操作から帳票作成まで日常の運転業務に必要な機能を具備する自己完結したシステムである。このため,収集・蓄積したデータの利活用もシステム内にとどまっていた。このデータを監視制御システム外で活用する場合,CSV(Comma-separated Values)などの形式で取り出すことは可能であるが,データが名称と数値の羅列でしかないため,担当外の職員には探しづらく,活用しづらいものになっていた。上下水道事業体のさまざまな部署で設備系の運転データの利活用を可能にするためには,容易にデータを探して取得できる仕組みが望ましい。また,さまざまなシステムのデータを扱う場合は,システムごとにデータ形式が異なるため,データ形式をそろえる作業が必要になる。

以上の課題を解決すべく,日立はデータ解析基盤IoTプラットフォーム3)を開発した(図2参照)。本プラットフォームでは,監視制御システムのデータ収集をNX IoT Gatewayで,データ管理をNX CDMS(Context-based Data Management System)で行う。主な機能を以下に示す。

(1)NX IoT Gateway
監視制御システムの多種多様な現場データを収集し,機器名称や単位などを説明するコンテキスト(説明情報)をひも付けて蓄積する。
(2)NX CDMS
データの体系化・形式の統一のため,プラントデータモデルをあらかじめ定義する。本モデルは階層化モデルであり,現場データがどの場所のどの設備・機器に属するものなのかを,階層で整理したものである。ここに(1)で蓄積した現場データとコンテキストを登録する。

IoTプラットフォームは監視制御システムの持つ現場データに意味や関係性を付与するものであり,データ利用者はプラントデータモデルの設備や機器をたどっていくことで必要なデータを統一された形式で取り出すことができる。

なお,定義したプラントデータモデルは同様の設備を有する異なるサイトにも適用可能である。したがって,プラントデータモデルを標準化することで事業体内,あるいは広域化した異事業体間でも,データへのアクセスおよびデータ利活用の手段を統一することができる。

水道分野でのデータ活用の例としては,(1)エネルギー消費分析を用いた浄水・送水原単位の把握とそれに基づく効率的な運用の立案,(2)複数の施設にまたがる広範囲な需要予測や水運用計画の立案,(3)監視制御システムのリアルタイムデータと巡回点検で得られるデータを組み合わせた故障予兆診断などが考えられる。

IoTプラットフォームは事業体内に設置するオンプレミスのシステムだけでなく,クラウド環境下に配置することも可能であり,クラウド上のオープンデータやさまざまな解析アプリケーションと連携させたデータ利活用も可能となる。

図2|データ解析基盤IoTプラットフォーム監視制御システムから得られる多様かつ複雑な現場データに意味や関係性を付与することでデータ分析を容易にし,設備運用保守の高度化を支援する。

3. 維持管理業務を支援する監視制御システム

3.1 AQUAMAXの維持管理支援機能

監視制御システムAQUAMAXでは,上下水道の維持管理業務を支援する機能拡充を継続している。ここでは,広域化や技術継承を支援するための機能を紹介する。

(1)EEMUA 1914)への対応
システム統合や広域化による監視規模の拡大に伴い,運転員が対処すべきアラームが増大している。アラームの見落としや対処遅れは重大事故につながるおそれがあるため,運転員の負荷も大きくなる。これに対応するため,AQUAMAXではEEMUA 191に準拠したアラーム管理機能を提供している。EEMUA 191とは,EEMUA(Engineering Equipment and Materials Users Association)によりまとめられたプロセス産業向けのアラームシステムガイドラインである。具体的には,不要アラームの抑止(ファーストアラーム)や処理すべきアラームの優先順位付け(アラーム集約),発生頻度の高いアラームを集計し一覧表示するアラーム発生頻度解析の機能を備えている(図3参照)。これらの機能は運転員のアラーム対処の負荷を軽減するとともに,アラームの要因解析・保全計画立案にも活用可能である。
(2)付箋紙機能
運転員どうしの情報共有を円滑にするため,付箋紙機能が有効活用されている。本機能は,運転監視画面に付箋紙のようなメモをソフト的に貼り付けるものであるが,この付箋紙を指定時刻に自動で表示・消去することで,タイムリーな情報表示と期限切れ情報の消去を可能とした。また,画面に貼り付けた付箋紙を検索して一覧表示する機能を有しており,誰がいつ,どのグラフィック画面に付箋紙を貼り付けたかを管理できる(図4参照)。
(3)プレイバック機能
プラントに障害が発生した際は,プラント監視画面を参照して故障部位の確認と周辺設備への影響を確認しながら対処している。プレイバック機能は,プラント監視画面に前述のリアルタイムデータベースの履歴データを取り込み,時系列に沿って再現するものであり,障害発生時のプラントの運転状況を画面上に再現することで障害解析を支援する。
(4)統合B&M
運用形態の変更に伴う監視制御システムのメッセージや信号名称の変更を,運転管理を担当する職員が自ら行うことがある。この際,職員が容易かつ安全に変更を行えるよう,統合B&M(Bilder & Maintenance)を開発した。統合B&Mはシステム内のメッセージや信号名称,機器操作などの定義内容を表形式で可視化し,重軽故障レベルや操作インターロックなどの動作仕様をリストから選択するガイダンス方式で定義情報の編集を可能とする。
また,データを変更した際,データの世代管理を自動的に実施しており,万が一,誤った修正を行った場合でも,修正前の状態に戻すことで安全性を高めている。

図3|EEMUA 191に対応した主なアラーム管理機能運転員のためのアラーム対処支援機能として,ファーストアラーム機能,アラーム集約機能,アラーム活性およびアラーム発生頻度解析機能を有する。

図4|付箋紙機能時刻管理機能付き付箋紙は,付箋紙貼り付け時に表示開始日時と表示終了日時を指定でき,指定時刻になると自動で付箋紙を表示・消去する。付箋紙検索機能は,どのグラフィック画面に何の付箋紙が貼り付けられているかを検索し,表示する。

3.2 監視制御システムの更新を円滑にするPI/O回線切替器

上下水道施設は24時間365日稼働している。それゆえ,監視制御システムの更新時にも,監視制御機能を停止することのないシステム切り替えが求められる。また,機械設備と電気設備の更新周期が異なるため,電気設備のみを更新するケースが多い。この場合,機械設備と直接インタフェースするPI/Oユニットは既設の機器を流用し,残りの監視制御システムを更新することがしばしば求められる。既設のPI/Oユニットを流用した場合,更新後の入出力信号の並びは既設と同じになる。この条件下で監視制御機能を維持するため,従来は,(1)昼間に設備養生および新システムの試験を行い,夜間は旧システムに戻すことを日々繰り返しながら切り替える方法や,(2)既設のハード回路やソフトロジックに一時的な仮設処置を施し,新旧システムを同時に監視する方法などにより,シームレスな移行作業を実施していた。しかしこれらの方法は,いずれも事前検討や作業に手間が掛かっていた。そこでこの課題を解決すべく,PI/O回線切替器を開発し,監視制御システム更新時の煩雑な検討と作業を削減した。

図5に示すのは,機械設備(ポンプ,弁,流量計など)からPI/Oユニットまではそのまま既設のものを流用し,監視制御システムのみを更新する例であり,今回開発したPI/O回線切替器をコントローラとPI/Oユニットの間に接続している。この構成により,新旧の監視制御システム双方へ上りデータ(状態信号)を送信することで,仮設処置を行うことなく新旧システムによる同時監視が可能となる。またPI/O回線切替器に設けられた切替スイッチにより,新旧いずれか一方の監視制御システムからの操作指令(下りデータ)を受け付ける。選択されていない側の監視制御システムからの下りデータを無効とすることで,誤操作を防止している。これにより運転員は,昼間の新システム試運転中は旧システムでの監視業務を継続でき,試運転を行わない夜間には,切替スイッチを選択することで旧システムによる操作が可能となる。

図5|PI/O回線切替器を用いた新監視制御システムへの更新機械設備(ポンプ,弁,流量計など)からPI/Oユニットまで,既設の機器を流用して監視制御システムを更新する過渡期の例である。PI/O回線切替器をシステム更新の過渡期に用いることで,新旧いずれのシステムでも監視を可能とする。機器操作については,新旧いずれか選択されたシステムの信号を受け付ける仕様とした。

4. 水道における保全業務のPDCAを支援する設備管理システム

4.1 システム概要

高度成長期に整備された水道施設はその更新時期を迎え,老朽化対策が課題となっている。こうした中,水道事業の基盤強化を図るため,改正水道法は,「適切な資産管理の推進」を掲げており,具体的には下記(1)〜(4)の対応を水道事業者に求めている1)

  1. 水道施設の点検を含む維持および修繕
  2. 水道施設台帳の作成と保管
  3. 水道施設の計画的な更新
  4. 水道事業に関わる収支の見通しの作成と公表

日立は持続可能な水道を支援するソリューションとして,設備管理システムを提供している。

設備管理システムは,水道施設の維持および修繕活動に関わる点検,補修,事故・故障対応などの保全業務情報と,水道施設台帳(工事一覧,設備台帳,修繕履歴や,水道施設の各種完成図書類)の情報を管理するシステムである(図6参照)。これらの管理情報は,設備の更新計画策定や,事業収支の作成に必要な基礎情報として利用される。

設備管理システムの特長は以下のとおりである。

  1. 可搬性・耐久性に優れたタブレットPCを活用して,膨大な現場機器の保全情報を一元管理し,点検や故障対応,改造・更新に伴う現地調査などの保全業務全体の効率化を実現する。
  2. 施工業者や補修・保守業者から提出される機器台帳や完成図書,補修・保守報告書などの電子データをシステムに取り込む機能により,事業体職員のデータ入力作業を効率化できる。
  3. 情報セキュリティに配慮したWebシステムを採用することで,水道事業体における事務系LAN(Local Area Network)上のOA(Office Automation)端末でも,専用ソフトウェアをインストールすることなく水道施設台帳の閲覧および編集が可能である。
  4. OCR(Optical Character Recognition)機能により,完成図書のキーワード検索や,設備ごとの保守計画と設備台帳の連携など,水道関連業務をサポートする機能を搭載している。

これらの機能により,水道設備の適切な管理と保全業務の効率化が可能であり,持続可能な水道に貢献できる。

図6|設備管理システムの構成例水道施設の維持および修繕活動に関わる点検,補修,事故・故障対応などの保全業務情報を管理する。また水道施設台帳(工事一覧,設備台帳,修繕履歴や,水道施設の各種完成図書類)を管理する。

4.2 監視制御システムとの連携

設備管理システムは監視制御システムAQUAMAXと連携し機器の動作履歴情報を取り入れることで,さらなる保全業務の効率化を実現できる。

主要機器についての運転時間や故障情報を取り込み,水道施設台帳の情報と掛け合わせることで,運転時間や故障発生状況を基に,整備や更新時期の計画を立案するCBM(Condition Based Maintenance)の支援が可能となる。

5. おわりに

本稿では,維持管理の時代を迎えた上下水道向け監視制御システムのデータ利活用基盤と,新機能,および設備管理システムを紹介した。これらのシステムは,日々の運転管理,維持管理業務を担うだけでなく,日常業務を通じてシステムに収集したデータを,継続的な業務改善に利活用するための基盤となる。安全・安心な水環境への持続的貢献が求められる上下水道事業にとって,ICT(Information and Communication Technology)の活用は不可欠である。こうした中で,監視制御・設備管理システムはOT(Operational Technology)のエッジとなるシステムコンポーネントとして重要な使命を担うものであると考えている。日立はIT,OT,プロダクトを掛けあわせた監視制御・設備管理システムを通じて,引き続きサステイナブルな上下水道に貢献していく所存である。

参考文献など

1)
厚生労働省:水道法改正法の概要
2)
国土交通省水管理・国土保全局下水道部:新下水道ビジョン加速戦略 〜実現加速へのスパイラルアップ〜(2017.8)
3)
田所秀之,外:上下水道分野のIoTを支える監視制御システム,日立評論,99,4,390〜396(2017.7)
4)
Alarm systems - a guide to design, management and procurement, EEMUA Publication 191(2013.9)
5)
津野高志,外:Hitachi Data Science Platform データ分析基盤/Big Data Discovery, NX Context-based Data Management System,日立評論,100,5,561〜566(2018.9)
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