日立評論

水をめぐるグローバルな社会課題の解決へ

インド・カルナータカ州の漏水管理ソリューションにおける顧客協創

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水をめぐるグローバルな社会課題の解決へ

インド・カルナータカ州の漏水管理ソリューションにおける顧客協創

ハイライト

2024年には中国を抜いて世界一の人口になると予想されるインドは,水資源そのものが不足していることに加え,老朽化した水道管からの漏水などのため,生活で使用する水が十分に人々のもとに届かないという社会課題を抱えている。これに対し,日立は,独自の漏水管理ソリューションを用いた取り組みを進めており,2016年にスタートしたカルナータカ州の水道事業体との協創による実証実験では,漏水を大幅に削減できる見通しを得た。この取り組みを推進している日立インド社R&Dセンタの研究者に,実証実験のねらいや開発技術,今後の展開などについて聞いた。

目次

深刻な水問題に直面するインド

図1|インドにおける水道事業上の課題

水問題は,世界の多くの国・地域にみられる重要な社会課題である。世界経済フォーラム(ダボス会議)が発行する『グローバルリスク報告書2019』では,世界的に影響の大きいリスクの4番目に「水危機」が挙げられている。また,現在,世界で約9億人もの人々が水不足に苦しんでいると言われ,2015年の国際連合サミットで採択されたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)においても,17の目標の一つとして,「6.安全な水とトイレをみんなに」が盛り込まれている。

水不足が顕著な地域というと,中東やアフリカ諸国を連想しがちだが,アジアにもそういった地域が存在する。とりわけ13億人超の人口を抱えるインドは,慢性的に水が不足しているため,一日の中で決められた時間にだけ給水を受けられる間欠給水が一般的となっている。2018年には,政府系シンクタンクが「史上最悪の水危機に直面している」との報告書を出した。

加えて,浄水場から供給される水道水のうち,料金収入に結びつかない「無収水」の割合が40%を超えていることも大きな課題である。無収水率が高く,水道水の損失が大きくなるほど水道事業者の経営は厳しくなるため,結果として水を使う側にも悪影響を及ぼしかねないからだ。

無収水の原因はさまざまだが,主には水道管からの漏水と非合法な取水によるものである。水道インフラが導入され始めてから約40年が経過した現在,漏水問題の解決や水資源の確保,24時間給水の確立,水道メーターの設置などが喫緊の社会課題となっている(図1参照)。

社会課題の解決をめざす日立インド社R&Dセンタ

池田 尚司
日立インド社
CTO 兼 R&Dセンタ長

こうした中,グローバルに社会イノベーション事業を展開してきた日立は,インドの水の課題を顧客との協創によって解決することをめざしている。

日立とインドの関わりは古く,1930年代にまでさかのぼる。1935年,ムンバイ市に事務所を開設して以来,建設機械や情報通信システムといった事業を展開してきた。1997年には日立インド社(Hitachi India Pvt. Ltd.)を設立し,現在はインド政府が主導する施策すなわち“Digital India”, “Make in India”などに応えるソリューション事業に注力している。

日立インド社R&Dセンタは,2011年にバンガロールに開設され,情報通信システムや社会インフラ事業の拡大と新事業開拓への貢献をめざしている(図2参照)。日立インド社CTO 兼 R&Dセンタ長の池田尚司は,現在の活動状況についてこう話す。

「現在,R&Dセンタには40名ほどの研究員が所属し,ITプラットフォーム,ITソリューション,エネルギー,産業の四つのグループに分かれ,インド市場での顧客協創を進めるとともに,世界各極の研究開発チームと協力して技術開発を進めています。このうちインドで進めている顧客協創では,人々の生活水準の向上,社会インフラ基盤の充実,公共交通の効率化など,社会課題の解決につながる活動を中心に取り組んでいるところです。」

そんな中,水をターゲットにした取り組みがスタートしたのは2016年のことである。日立のITとOTを活用すれば,この課題に対して何か貢献できるのではないかとの思いからであった。

「インドの水問題としては,無収水の原因となっている漏水のほか,水質汚染の問題も見過ごすわけにはいきません。私たち日立は,それらを解決するテクノロジーやソリューションを持っていますが,インドでの事業拡大や深刻な水問題への貢献を見据え,まずは漏水の問題に取り組むことにしたのです。」(池田)

顧客協創に際しては,これまでに築き上げてきた産学連携のネットワークを活用した。2016年にはカルナータカ州の水供給を担っているKUWS&DB(Karnataka Urban Water Supply and Drainage Board:カルナータカ都市上下水道局)との協創によって漏水管理ソリューションの実証実験をすることになった。

図2|日立インド社R&Dセンタが執務するWorld Trade Centerの外観

三つのステップで解析ベースの実証を実施

アビ・アソニー
日立インド社
R&Dセンタ
主管研究員

まず日立とKUWS&DBは,実証実験を進めるに当たって,どの地域を対象とするかを議論した。判断の基準となったのは,日立の解析技術に適したデータが得られやすいかどうかであった。2016年に始まった検討の結果,カルナータカ州Kodagu地区Kushalnagarのおよそ23町村のうち,KariappaとBaichanahalliで実証を行うことになった。

日立の配水ネットワーク管理システム(PNMS:Pipe Network Management System)を活用する解析ベースの実証は三つのステップから成る。

最初のステップは,漏水量の推定である。漏水量を推定するには給水量と使用量のデータの対比が欠かせないが,供給側に流量計が付いていないため,給水量が分からなかった。そこで,このプロジェクトを担当した日立インド社R&Dセンタ主管研究員のアビ・アンソニーは,次のような方法を考えた。

「それぞれの村では高架タンクからの間欠給水で各家庭に給水が行われているため,そのタンクを利用して給水量を推定しました。具体的には,浮きと重りがロープでつながった単純な構造の水位計を用い,単位時間当たりの給水量を計算によって大まかに求め,その値に1日の給水時間を掛け算し,そこから1か月の給水量を推定する方法を採ったのです。」

こうしたデータを基に漏水量を推定したうえで,次のステップでは,流量や水圧などを計算で求められる水理モデルを開発した。日立は,水圧を変えることで漏水を減らそうと考えていたが,その際に重要なポイントとなったのは,水供給の公平性を確保することであった。実際に,巨大なタンクから水道事業体によって配水される水の量は,地勢などの状況によって大きく変わる。例えば,配水ネットワークに対して,高台に建つ家とそうではない家の間で格差が出てしまう。こうした点を踏まえ,日立は,給水元となるタンクからの給水先をエリア1〜3に分け,さらにそれぞれの家庭のタンクに配水するための水理モデル(Base PDD Model)を開発して最適化を図ることとした(図3参照)。

最後のステップは,漏水量低減のシミュレーションである。開発した水理モデルを適用し,配水系統にFCV(Flow Control Valve)を設置した場合の給水状況を解析した。インド政府が定める供給水量の目標値は135 lpcd(1日1人当たりの水使用量)であるが,解析の結果,日立のソリューションを適用することで給水の過不足を平準化し,対策を施さなかった場合に比べて供給水量が目標値に近づくこと,さらに,PRV(Pressure Relief Valve)によって漏水が低減できることが分かった。

図3|KariappaおよびBaichanahalliにおける給水ネットワーク

実データによる実証でも漏水削減効果を確認

2017年までに前述の三つのステップを完了し,シミュレーション上は漏水が削減できる見通しを得た。しかし,最初のステップである漏水量の推定のために収集・使用した人口や水道管口径といった基礎データには仮の数値が含まれていた。そこでより精度の高い実証のため日立とKUWS&DBは2018年より,実データに基づいた実証を進めることにした。しかし,実データの取得には苦労したという。例えば,水圧のデータがない場合には実際の配水管を露出させ,配管内の水圧を測る必要があるが,紙に書かれた配水管ネットワークの資料に基づいて地面を掘ってみても,配水管が出てこなかったケースもあった。そして,顧客の協力の下,時間を掛けて地道に実データを収集し,それに基づいて実際にどの程度の漏水量削減が可能であるかをシミュレーションした。その結果,Kariappaで6%,Baichanahalliで10%の漏水を低減できるということが分かった。

「これらの結果をKUWS&DBに報告したところ,漏水の実態が定量的に把握できたということで,とても感謝されました。その後,KUWS&DBは日立が提出したリサーチの結果を考慮に入れて,漏水箇所の補修に取り組んでいると聞いています。現在,Kushalnagarでの実証地域をさらに拡大することを提案しているところで,同時に漏水管理ソリューションのビジネス展開も図っていきます。」(アビ・アンソニー)

漏水管理ソリューションの実証実験では,不確かなデータやデータの欠損などの問題から,無収水の推定が困難な状況であったが,日立の水理モデルを用いた解析によって,漏水の実態把握につなげることができた。日立は,今後さらなる実証実験を通じて知見やノウハウを積み重ね,よりよいソリューション開発に取り組むとともに,インドの水問題の解決に向けて顧客協創の取り組みを加速させていく。

Kushalnagarの水供給計画に関する日立,IISc,KUWS&DBの共同プロジェクトについて

Prof. M S Mohan Kumarbr
Department of Civil Engineering
Indian Institute of Science
Bangalore

日立インド社バンガロール支社とIISc(Indian Institute of Science:インド理科大学院)は,カルナータカ州Kushalnagarの一部の地域における間欠給水系統のモニタリングとモデリングに協力して取り組んでいます。このプロジェクトを通じて,配水系統内の水力学的挙動を明らかにすることができたほか,圧力制御技術によって無収水量の削減にも成功しました。なおかつこの手法はKushalnagarの全域に適用することができるのです。

稼働中の間欠給水系統に対し,現場でのモニタリングとモデリング双方の観点からこうした精密な分析が行われたのは,この地域では初めてのことでした。今回のプロジェクトは,同様の課題の解決に向けた先駆的な事例となるでしょう。また,本プロジェクトにはKushalnagarの水供給を担うKUWS&DBも全面的に協力しており,プロジェクトの成果を受けて今後も連携を強化していく予定です。

Dr. K P Jayaramu
KUWS & DB
Chief Engineer (Mysore Dvision)

私たちは,日立インド社バンガロール支社とIIScと共同で,カルナータカ州Kushalnagarの一部地域における間欠給水系統のモニタリングとモデリングの実施に取り組んでいます。実証の結果,この地域の給水系統内で何が起こっているのか,水力学的挙動が明らかになりました。また,圧力管理技術による無収水削減にも成功しました。稼働中の間欠給水系統に対して,現場でのモニタリングとモデリングの両方の観点からこの種の分析が行われたのは,この地域ではほぼ初めてのことです。本プロジェクトの成果を生かすことで,今後はKushalnagarの全域,さらには多くの街や都市で高い無収水量が課題となっているカルナータカ州の全域に,同様の取り組みを拡大することが可能になるでしょう。この地域の水供給を担う機関として,当局は本プロジェクトの際立った成果を保証するとともに,今後もさらなる協力と連携を図っていきたいと考えています。

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