日立評論

持続可能な未来に向けた水環境・資源循環システムの構築

戦略的思考とパートナーシップにより,日本の強みを生かす

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COVER STORY:TRENDS

持続可能な未来に向けた水環境・資源循環システムの構築

戦略的思考とパートナーシップにより,日本の強みを生かす

ハイライト

SDGsやCOP21などを契機に,将来世代にわたって持続可能な社会を実現しようとする動きが世界的に加速している。そうした中で,国や企業に求められるものは何か。

地球環境問題の中でも,特に深刻さを増す水問題をはじめ,有限な資源をいかにして最大限に有効活用していくかは経済価値と環境価値を両立させるために喫緊の共通テーマと言える。

環境経済学の第一人者であり,資源循環に関する多くの要職を歴任してきた細田衛士教授に,日本の水環境・資源循環経済システムを推し進めるために有用な戦略とパートナーシップのあり方について聞いた。

目次

SDGs達成に不可欠な「パートナーシップ」

細田 衛士
中部大学 経営情報学部 教授
1977年慶應義塾大学経済学部卒業,同大学経済学部助手,助教授を経て,1994年より教授。2001年から2005年まで同大学経済学部長を務めた。中央環境審議会委員や環境省政策評価委員会委員なども兼任する。2019年4月より現職。
博士(経済学)。
主な著書は,『環境経済学』(有斐閣アルマ),『グッズとバッズの経済学-循環型社会の基本原理』(東洋経済新聞社),『資源循環型社会のリスクとプレミアム』(慶應義塾大学出版会)など。

今日,国連のSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)やCOP21(気候変動枠組条約第21回締約国会議)をはじめとして,地球環境問題への対応が世界標準や市場ルールの中心に据えられ,企業活動の成否を左右する重要な要素となっています。しかしながら,SDGsの17の目標を一つひとつ眺めてみると,一見,当たり前のようでいて,実際には「地球上の誰一人として取り残すことなく」2030年までにこれらの目標を達成することは非常に困難だと言わざるを得ません。

そこで重要になるのが,17番目の目標に掲げられた,「パートナーシップ」による目標の達成です。「つくる責任つかう責任」(目標12)に代表されるように,社会課題はそれぞれつながっていて,単独で解決することは困難です。生きていくために欠かせない「安全な水とトイレをみんなに」(目標6)も,他のさまざまな目標と連動しています。特に今回のテーマである水環境・資源循環の問題を,一企業,一自治体,あるいは一国だけで解決することは到底不可能でしょう。つまり,パートナーシップを組み,さまざまなステークホルダーが束になって複数の問題解決に当たる必要があるのです。

社会課題解決に向けてパートナーシップを組むためには,これまで資本主義経済下で競争原理に従って動いてきた組織や個人をつなぎ合わせるための,何らかの仕掛けが必要になります。かつてのメセナやフィランソロピー,また近年,注目を集めている「ESG(Environment,Social,Governance)投資」などもその仕掛けと言えますが,SDGsは,まさにそれらすべてを包括する,一般の人にも極めて分かりやすい仕掛けと言えるのではないでしょうか。

資源循環を通じて経済成長をめざす,EUの巧みな戦略

社会課題の解決には,戦略と原動力となる思想・哲学が不可欠です。例えば,EU(欧州連合)は2015年12月にリサイクルやリユースなどによる資源の循環を促すための行動指針「循環型経済パッケージ(Circular Economy Package)」を採択しました。これにより,2030年までに「一般廃棄物のリサイクル率65%を達成」,「容器包装ごみのリサイクル率75%を達成」,「廃棄物の埋立処分率を最大10%にまで削減」という目標を設定しました。さらには,シェアリングやリース,レンタル,プロダクトサービスなど,「モノ」ではなく「サービス」に重点を置いた目標を掲げています。活動に付随する付加価値をつくり出し,それを資源循環へつなげていく「見せ方」を提示したという意味で,これは非常にうまいやり方だと思います。

実はこの政策の裏側にはEUの世界標準化戦略があります。つまり,標準化や規格化を通して資源の高度な循環利用を自分たちに有利になるように導き,これによって経済成長や雇用拡大につなげていこうというねらいが垣間見えるのです。このようにEUが人類のウェルビーイングに資する仕掛けと,経済戦略を一体的に捉え,推進できるのはなぜなのか―。歴史を紐解けば,フランスの市民革命やイギリスの清教徒革命・名誉革命,そしてドイツのカント哲学・ドイツ観念論による精神世界での市民革命などでも明らかなように,欧州諸国の国家づくりの根底には,常に変革の原動力となってきた思想・哲学があります。つまり,EUの政策概念の設定が巧妙なのは,長年,培われてきた思想・哲学の厚みによるものと言えるのではないでしょうか。

したがって,それを思想的背景の異なる日本で政府や企業が単に真似ることは難しいでしょう。21世紀初頭から続く米国のコーポレートガバナンスなども同様ですが,思想や社会構造が大きく異なる社会の枠組みをそのまま持ってきてただ当てはめても,なかなかうまく機能するものではありません。

自然観の違いを認識し,経験と実績を生かすべき

こうしたものの考え方の違いは自然の見方,接し方,問題解決の仕方にも現れます。例えば,日本の場合,政府や企業とNGO(Non Governmental Organization)やNPO(Nonprofit Organization)などとの対話において,欧米とは大きく異なる自然観がネックとなってきたように思います。概して日本人は,般若心経の「色即是空 空即是色」が表すように,自らの存在を移ろいゆく自然の一部であると捉えます。そこでは,自然環境と向かい合って問題点を洗い出し,対立しながらも対話によって連携協力して問題を解決するという道筋ができにくい。他方,西洋では自然は人間と向かい合って存在するものであり,制御可能なものであると見なします。ですので,問題を設定し,共有し,対立を乗り越えて解決するという道筋が成り立ちやすいのです。

欧米企業は,容器のリサイクルや廃プラスチック問題などを例にとっても,自社だけでできないことはNGOやNPOなどと柔軟にパートナーシップを組んで実施し,目標設定を明確に掲げて行動します。その機動力は見習うべきでしょう。そうした文化の違いを踏まえたうえで,日本ならではの新たなパートナーシップの形を模索していく必要があるのではないでしょうか。

もっとも日本において1960年代に大きな社会問題となった水俣病や四日市ぜんそくなどの公害問題に関しては,市民が起点となり,行政や企業を動かして問題解決へ導いてきた歴史があり,市民の力で社会を変えたという意味で非常に評価すべきだと思っています。

また,これまでの日本の3R(Reduce, Reuse, Recycle)政策は,廃棄物・ごみ問題にどう対処するかという点でかなりうまく機能してきました。日本では,ごみの不法投棄や最終処分場の確保難を背景に,1970年代から「分ければ資源,混ぜればごみ」をスローガンに,ごみの資源化,資源ごみという概念を生み出し,法制化へとつなげて,リサイクルを加速しました。ごみの最終処分量は,2000年から2014年度までに約74%削減され,すでに目標を達成しています。こうした成果により,現在では一般廃棄物,産業廃棄物ともに十数年分の残余容量があります。さらに日本がヨーロッパより10年も先んじて,2000年に「循環型社会形成推進基本法」を制定したことは特筆すべきでしょう。

しかしながら,その後は社会全体の危機感がやや薄れたこともあり,また,個別の問題の対応にとどまり,これらの政策をEUのように全体感を持って進めることができなかった面があります。もちろんEUにしても,実際に資源循環を通じて経済成長や雇用拡大を生み出せるのかどうか,根拠や具体性が不足している部分もありますが,新しい経済社会をつくり上げていくために概念設定は非常に重要です。環境問題と経済問題のWin-Winソリューションを描きつつ,日本のこれまでの経験と実績を生かして,多様なステークホルダーとパートナーシップを組むことにより,グローバルに活動を展開できるかどうかが,今後の資源循環のカギを握っていると言えるでしょう。

最近,若い世代のNGOを中心に企業などとパートナーシップを組んで環境・社会問題に取り組む動きが日本にも出てきました。これはとても明るい兆しだと思います。

要素技術をつなぐことで,強みに変える

資源循環に関して,日本企業の最大の強みは優れた要素技術を持っていることです。最近も,一般廃棄物からエタノールを抽出する世界初と言える実用的な技術が開発されたことが話題になりました。資源ごとに最適な選別を実現する選別技術などに加えて,使用済みペットボトルを新しいペットボトルにリサイクルする技術,再生プラスチックをコンパウンドする技術など,これらは日本が誇る資源循環に資する技術の例です。また水環境においては,水の再利用や節水などの資源循環に貢献する技術があります。

しかし,こうした要素技術を有効に活用するためには,それらを共通のプラットフォームやIoT(Internet of Things)により一つのシステムとしてつないでいく必要があります。すでに日本にも鉄道システムに代表される成功例があります。鉄道に関して日本は,車体やレールだけでなく,車両の協調制御やATC(Automatic Train Control:自動列車制御装置),CTC(Centralized Traffic Control:列車集中制御装置)などを一つのシステムとして組み上げ,パッケージにしてグローバルに展開してきました。このように,個別の要素技術をつないでシステム化していく発想が,これからのビジネスには不可欠だと思います。

そうした中で,一つのドライビングフォースになり得るのが,廃プラスチックの問題です。先日も,マレーシア政府が違法に持ち込まれた廃プラスチックごみを日本などに送り返すと発表して話題になりました。この問題には,バーゼル条約関連の国際法の改正(有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制)に加え,中国が2013年頃から通関検査を厳格化するグリーンフェンス政策を実施して,廃プラスチックを含めた廃棄物の輸入禁止を決定したことが大きく影響しています。

一方で日本の資源生産性(国内総生産などの経済指標を投入資源量で割って求める資源利用効率の指標)の達成率はかなり低い。リサイクル率も一般廃棄物が21%,産業廃棄物が50%で頭打ちの状況です。最終処分場の残余年数も上げ止まりの状況で,消費者をはじめ,関係主体の推進の意識が低下していると言わざるを得ない状況です。つまり日本は,廃棄物問題についてはかなりクリアしたものの,その先の資源循環についてはさまざまな課題を残しているのです。したがって今後は,これまでつくりっぱなしで捨ててきたものの負の価値を見直して,それをいかにプラスの価値に転じていくのかを考える必要があります。そこには必ずや優れた要素技術が必要になってくる。まさに今こそ,日本の技術を生かす好機であると捉えるべきです。

水の需給バランスの変動と水ビジネスの課題

もう一つ,資源循環における非常に重要なテーマが水問題です。日本の年間降水量は1,700 mm以上(1971年から2000年にかけての平均値)と,世界平均の約2倍に上ります。蛇口をひねればおいしい飲み水が出てくることが当たり前なので,国民の水への危機意識は概して低い。しかし今後,気候変動により渇水と洪水が繰り返されるようになると,利用できる水が減り,需給バランスが大きく変わる可能性があります。現にバーチャルウォーターで見れば,日本は他国の水に大きく依存しています。対岸の渇水が,そのままわれわれの問題になり得るのです。

また現在,水道法の改正に伴って国内の水道事業の公民連携が話題となっていますが,その是非を議論するうえでも,世界の水ビジネスの展開については十分に注視しておく必要があるでしょう。いまや,水の需給バランスの不均衡を市場原理によって解決しようとする水ビジネス「ハイドロコマース」や,さらには「水のナスダック」が登場するのではないかとさえ言われています。そうなったときに弱者にしわ寄せがいくようなことがあってはなりません。

水は人類が生きていくために基本的に欠かせない資源かつコモンズ(共有地)であり,歴史が示してきたように水問題は政治問題や国際紛争に発展しかねません。一方,日本でも各地で熾烈な水争いは見られましたが,近世の封建社会において「水組」や「井組」と呼ばれる村落共同体的組織が成立すると,その後はこれを引き継ぐ形で共同利用によって水源を守ってきました。共同体メンバーによって資源利用に関するルールが定められ,それが遵守されれば悲劇は起こらないのです。

しかし,それも管理・監視の費用が大きくなれば,制度維持が難しくなります。また,長く認められてきた慣行水利権が弊害となって,最適な水利用が阻害されることもあります。今後は,センシングデータや解析技術などを活用して,共同体的な水利用の管理と市場原理のバランスをいかに取っていくかが重要になる。すなわち技術,制度をいかに設計していくのかが,これからの日本の水問題の大きな課題と言えるでしょう。

「ソフトロー」,「思想・哲学」,「美意識」がカギを握る

こうしたさまざまな課題を解決するうえでヒントとなるのが,日立製作所創業の母胎となった久原鉱業所日立鉱山を開業した久原房之助の取り組みです。久原は,日立鉱山の煙害対策として日立市の「大煙突」を立てたことで知られていますが,煙突に加えて周囲に観測小屋を配置し,観測気球を飛ばして高層気象の変化をモニタリングしながら,鉱山の操業を制御したとも言われています。さらには日立で働く人々のために病院や学校,劇場なども建設しました。これはまさに企業によるソフトロー,つまり法制度(ハードロー)のような国家による強制力は伴わないけれど,人々の行動をうまく導いていく仕掛けと言えます。こうした企業の自主的な取り組みや規制,業界内のガイドラインなどのソフトローこそが,日本の大きな強みになり得ると思います。

そのためには,やはり経営者が戦略的思考とともに,思想・哲学,そして美意識を養う必要があると考えます。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』の著者である山口周氏が語っているように,今や必要とされているのは,「論理」や「理性」よりも,「直感」や「美意識」,「センス」です。スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツ,マーク・ザッカーバーグなど,世界を変えてきた経営者たちを見れば,それは明らかでしょう。「つなぐ」ためのクリエイティビティには直感やセンスが不可欠です。また,自然との共生においても,特に日本の美の世界はわれわれにさまざまな示唆を与えてくれます。

古典派経済学者のジョン・スチュアート・ミルは,「豊かな社会とはものがたくさんあふれる社会ではない。成長は終わるけれど発展はする社会である(大意)」と語っています。知の水準が高まり,ものは同じであってもつながり合うことで発展していく。それは,現在,日本政府が推し進めるSociety 5.0にも通じる考え方です。団体戦に強い日本ならではのコーポレートガバナンスを築き,より巨視的な視点を携えて,技術や「モノ」を組み合わせて「コト」へと導いていくことができれば,水環境・資源循環ビジネスにおいて日本の政策や技術がより生きるのではないかと思います。

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