日立評論

カスタマイズ,自動化,使いやすさでQoL向上をめざす家電開発

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日立評論

ひとりひとりに寄り添った生活課題の解決

カスタマイズ,自動化,使いやすさでQoL向上をめざす家電開発

ハイライト

近年,家電には省エネルギー性だけでなく,生活課題を解決しQoL(生活の質)を高める機能も強く求められている。そうした中で日立は,家電製品においてカスタマイズ,自動化,使い勝手向上を実現する技術開発を進めている。冷蔵庫では引き出しの温度帯切り替えによるカスタマイズ機能,掃除機では軽量化と吸い込み力の両立による使い勝手の向上,洗濯機では洗剤・柔軟剤の投入の自動化ならびに使用している洗剤の種類などに合わせた洗濯制御,エアコンでは手入れの難しい内蔵部品の清掃の自動化に対して,解析技術,機械設計技術,センシング技術,制御技術を駆使して新製品を開発した。

目次

執筆者紹介

松井 康博Matsui Yasuhiro

  • 日立製作所 研究開発グループ 機械イノベーションセンタ 熱流体システム研究部 所属
  • 現在,白物家電の研究開発に従事
  • 日本機械学会会員

渡邊 浩俊Watanabe Hirotoshi

  • 日立グローバルライフソリューションズ株式会社 プロダクト統括本部 冷熱家電本部 第一設計部 所属
  • 現在,冷蔵庫の設計開発に従事

岡留 慎一郎Okadome Shinichiro

  • 日立製作所 研究開発グループ 機械イノベーションセンタ 熱流体システム研究部 所属
  • 現在,冷蔵庫の研究開発に従事
  • 日本冷凍空調学会会員

曽我 丈Soga Takeshi

  • 日立グローバルライフソリューションズ株式会社 プロダクト統括本部 生活家電本部 第一設計部 所属
  • 現在,洗濯機の設計開発に従事

山谷 遼Yamaya Ryo

  • 日立グローバルライフソリューションズ株式会社 プロダクト統括本部 生活家電本部 第二設計部 所属
  • 現在,掃除機の設計開発に従事

本多 武史Honda Takeshi

  • 日立製作所 研究開発グループ 機械イノベーションセンタ 高度設計シミュレーション研究部 所属
  • 現在,掃除機のファン開発に従事
  • 博士(工学)
  • 日本機械学会会員
  • ターボ機械協会会員

台坂 恒 Daisaka Hisashi

  • 日立ジョンソンコントロールズ空調株式会社 グローバル製品開発統括本部 家庭用空調設計部 所属
  • 現在,ルームエアコンの設計開発に従事

豊田 浩之Toyoda Hiroyuki

  • 日立製作所 研究開発グループ 機械イノベーションセンタ 熱流体システム研究部 所属
  • 現在,ルームエアコンの研究開発に従事
  • 博士(工学)
  • 日本機械学会会員
  • 日本伝熱学会会員
  • 可視化情報学会会員

1. はじめに

近年,新興国の経済成長とともにエネルギー需要が増大しており,家電に対しても省エネラベリング制度が進んでいる。また,日本をはじめとする先進国では高齢化が進行しており,生産労働力の確保・強化が課題となっている。そのため,日本でも女性の社会進出が進み,共働き世帯数は専業主婦の世帯数を超えている。また,単身世帯も増加しており,生活環境の多様化が見られる。このような状況の中,日立は,家電製品の重要な基本性能の一つである省エネルギー性能の追求だけでなく,実際に使用するお客さまひとりひとりに寄り添い,生活課題を解決し,QoL(Quality of Life)を高めるような機能の開発を進めている。

省エネルギー性能に関しては,冷蔵庫「真空チルド」において,平成30年度省エネ大賞「省エネルギーセンター会長賞」,また主要コンポーネントである圧縮機に対しても,日本冷凍空調学会より2018年度「技術賞」を受賞するなど,社外からも高い評価を受けている。

一方,QoL向上に向けては,(1)多様化した生活環境やニーズに対応できるカスタマイズ,(2)家事の労力低減や時短をめざした自動化や使い勝手の向上といった分野に注力している。また,これらを支える解析技術,機械設計(軽量化)技術,センシング技術,制御技術に研究開発力を注いでいる。

本稿では,QoL向上に向けた技術の具体的な研究開発事例として,4商品を取り上げる。冷蔵庫「ぴったりセレクト」ではカスタマイズのための新規構造に対する解析主導設計について,掃除機「ラクかるスティック」では使い勝手を向上させる軽量化と吸い込み力の強化について,洗濯乾燥機「ビートウォッシュ」では状態に合わせて自動で洗い方を制御する「AIお洗濯」や洗剤・柔軟剤の自動投入機能について,ルームエアコンではファンに蓄積するホコリを自動で洗浄する「凍結洗浄 ファンロボ」について紹介する。

2. 「ぴったりセレクト」搭載冷蔵庫

図1|切り替えシステムの概略図ファンとフラップを制御することで切替室の温度帯を調整する。

図2|切替室に対する熱の流れ(A)の冷凍/冷凍設定の場合は外気から侵入する熱量が多く,(B)の冷蔵/冷凍設定の上段切替室は3面から冷却される。

冷蔵庫下部の二つの引き出し(以下,「切替室」と記す。)を,お客さまのライフスタイルに応じて,それぞれ冷凍・冷蔵・野菜の収納に選べる「ぴったりセレクト」を開発した。本機能を実装するに当たり,切替室をそれぞれ冷凍温度帯と冷蔵温度帯に切り替え可能とするための冷気風路ならびに断熱/伝熱構造が必要となる。図1に示す切り替えシステムの概略図のように,冷蔵庫の背面側に設けたファンと二つのフラップを制御することで切替室への冷気風路を切り替え,温度帯を調整している。冷凍時にはフラップを開き,冷却器からの冷気を切替室内に直接入れて冷却させ,冷蔵時には主にフラップを閉じて,冷気を直接送り込まずに切替室後方の断熱壁からの伝熱を活用して冷却させるシステムとした。このシステムを実現するにあたり,代表的な二つの温度帯設定に対する熱の流れと,課題を説明する(図2参照)。

図2(A)は両方の切替室を冷凍温度帯に設定した場合である。冷凍温度帯は外気との温度差が大きく,外気から侵入する熱量が多いため,高い冷却性能が求められる。また,下段切替室に関しては,底面からの熱と圧縮機からの熱が侵入するため,上段よりもさらに冷気を多く送り込み冷却させる必要がある。したがって,冷却器から二つの切替室に大量の冷気を適切に送風できる風路構造が必要となる。

図2(B)は上段切替室を冷蔵温度帯,下段切替室を冷凍温度帯に設定した場合である。上段の冷蔵温度帯の切替室は,上方に冷凍室・製氷室,下方に冷凍温度帯の切替室,背面に冷却器があり,3面が冷凍温度帯に囲まれている。このため冷蔵温度を維持するために,適切な断熱/伝熱構造が必要となる。

また,コンパクトな外観で大容量な冷蔵庫へのニーズから,上述の送風と断熱の課題に加えて,狭いスペースの中に部品を配置させることも求められ,開発初期段階において三次元の熱流体解析技術を用いた分析,検討を進めた。

まず,送風に関しては,風路損失を低減させるために,開口面積が広い大開口フラップを上下段に採用した。また,ファンから送り出される冷気の流れについて,図3に示すような三次元流体解析を基に上段・下段への流量を分析しながら,風路構造を検討した。その結果,冷却器への戻り風路が重要であることが分かり,上段と下段で戻り風路の配置を変え,下段の戻り風路を冷却器の正面に構成することで風路抵抗を低減して,下段に多くの冷気を送るとともに,容器の隅々まで冷気が届く送風システムを構築した。なお,従来プロペラファン(軸流ファン)だったものを,新たにターボファン(遠心ファン)に変更し,吐出方向を変えることで,ファン前方の空間をなくし,ファンを狭いスペースの中に配置させることができた(図4参照)。

次に,断熱に関しては,上段切替室の上面,下面の仕切りは面積も広く,冷蔵室の冷やし過ぎを抑制するためにも断熱性能が高い真空断熱材で断熱させた。一方,背面の断熱壁は,冷蔵温度を維持するためにも,冷却器からの冷熱を適切に伝熱させる断熱性能をめざした。また,背面の断熱壁は上述の風路の一部を兼ねるため複雑形状となる。そこで,伝熱性と成形性からポリスチレンフォームとし,三次元の熱解析を基に断熱壁形状を検討した。その結果,微小な流入熱量のバランスで切替室温度が決まることが分かり,図5に示すように,上段を冷蔵温度帯,下段を冷凍温度帯に設定した場合の上段の切替室の温度を適切な冷蔵温度とすることができた。なお,切替室上面,下面の仕切りへの真空断熱材の採用は,断熱性能の確保とともに,仕切りを薄くすることができ,冷蔵庫の大容量化にも寄与している。

以上のように,新しい機能となる温度帯切り替えシステムに関して,開発初期の段階から三次元の熱流体解析を活用することで,効率的な開発を実現した。

図3|三次元流体解析検討した風路構造により,冷凍/冷凍設定でも冷気が容器の隅々まで届いている。

図4|省スペース実装(風路)ターボファンの採用により,ファン前方の空間をなくし,内容積の拡大を図る。

図5|三次元熱解析背面の断熱壁形状を検討し,適切な冷蔵温度を実現している。

3. 使い勝手を追求した「ラクかるスティック」の開発

「日々の掃除をよりラクにする。」をコンセプトとした「ラクかるスティック」に関して,本体および吸口の軽量化と,その本体内に収まる小型でかつ軽量・高性能なファンモーター「小型・軽量ハイパワーファンモーターTR」の開発について述べる。

3.1 軽量化

従来2.1 kgであったコードレススティック掃除機の重量を1.4 kgにまで低減することをめざし,本体および吸口にさまざまな軽量化を図った。

本体側では部品構成から見直し,部品の統合などにより部品点数の削減を図った。図6に従来機と本開発機の部品構成を示す。本開発機では,従来の約3分の1の部品点数まで削減した。具体的な例として,従来,ファンモーターの外周は難燃性のインナーケースで覆った後,本体外郭をなす本体ケースに内蔵する構成としていたが,本開発品では本体ケース自体を難燃性の材質とすることで,インナーケースの役割を本体ケースに統合させた。これによりファンモーターをインナーケースで覆わずに内蔵させ,インナーケースの重量を削減することができた。

また,ハンドル部については部品の薄肉化を図った。図7に従来機と本開発機のハンドル断面を示す。ハンドルは上面の部品と下面の部品を組み合わせて構成されている。従来は2.0 mmと1.6 mmの組み合わせであったが,本開発機では上面の形状をより円弧状に近づけたり,下面の部品には必要最低限のリブを追加したりすることで,強度を維持しながら,上面・下面ともに肉厚を1.5 mmに薄肉化することができた。

続いて,吸口の軽量化について説明する。吸口は使用者の手元から遠い掃除機の先端に位置しており,持ち上げる際にその重量の影響が使用感に大きく現れる部分であるため,使い勝手の面からも重要である。図8に吸口構造の断面図を示す。

吸口の外郭は主に上ケースと下ケースとバンパーで構成されている。従来機の上ケースは下ケース全体を覆うように設けられ,バンパーは上ケースと下ケースで挟み込むように前方に取り付けられている。この構造の場合,吸口前方部において下ケースと上ケースが近接しており,二重の外郭構造となっている。本開発機ではこの外郭構造を見直し,上ケースの前方部分を短縮させ,下ケースの上面が外郭表面を兼ねる構造とし,軽量化を図った。また,バンパーは下ケースと一体成形させることでシンプルな構造となり,さらなる軽量化が図れた。

図6|従来機と開発機の本体構成開発機では,従来の約3分の1の部品点数まで削減している。

図7|従来機と開発機のハンドル断面強度を維持しながら,薄肉化を実現している。

図8|従来機と開発機の吸口構造従来の二重の外郭構造部分を一重にし,軽量化している。

3.2 「小型・軽量ハイパワーファンモーターTR」の開発

掃除機における吸引力の源であるファンモーターは,空気の流れを起こすファンとそのファンを回転させるモーターで構成される。それぞれの開発技術を以下に示す。

まず,ファンであるが,図9に示すように回転翼と固定翼で構成されており,本開発機では固定翼に対して,日立独自の3連の固定翼「トリプレットディフューザー」を開発した。回転翼出口から送り出される高速の風を,回転翼の外周に設置した2連の固定翼と,軸方向に翼形状を持つ固定翼を通過させることで,回転方向の速度成分を低減させ,損失低減を図った(図10参照)。各固定翼の開発は,三次元流体解析を用い,翼による流れの転向で発生する剥(はく)離の抑制に着目した。特に,最終段の固定翼の形状は,ケーシングを支持する支柱を兼ねるとともに,二つ目の固定翼から出る三次元流れを考慮し,三次元翼形状を採用した。これにより,回転翼からの高速な風を効率よく制御し,強力パワーを実現した。

また,モーターに関しては,「極異方4極マグネット」や「6スロットステーター」を採用し,磁気回路を最適化することで,小型軽量とスムーズな高速回転を実現した(図11参照)。

以上のように,軽量化と強力な吸引力を両立させ,使い勝手のよい掃除機を実現した。

図9|小型・軽量ハイパワーファンモーターTR日立独自の3連の固定翼「トリプレットディフューザー」を搭載している。

図10|ファン周りの流体解析結果回転翼からの高速の風をスムーズに減速させ,高効率化を図る。

図11|電動機の磁気解析結果磁気解析を用いて,電動機の磁気回路の最適化を図る。

4. タテ型洗濯乾燥機「ビートウォッシュ」の開発

タテ型洗濯乾燥機では業界初※)となる「液体洗剤・柔軟剤自動投入機構」の開発と,洗濯のさまざまな状況をセンシングして洗い方などを自動で制御する「AIお洗濯」について述べる。

※)
BW-DX120C。国内家庭用タテ型洗濯乾燥機において,2018年10月3日現在。

4.1 「液体洗剤・柔軟剤自動投入機構」の開発

自動投入による洗剤・柔軟剤の計量・投入の手間の削減とともに,使い勝手を追求し,自動投入用タンクを製品前方側に搭載した。そのため,従来,製品前方側に搭載していた操作パネルをトップオープンの強化ガラスフタ上に移してタッチパネルとして搭載し,見やすく押しやすくすることで,さらなる使いやすさの向上を図った(図12参照)。

また,液体洗剤タンクの容量は約1,000 mL,柔軟剤タンクの容量は約700 mLと大容量で,詰め替え用容器1本分を入れることが可能なサイズとした。さらにタンクは取り出しても自立する構造とし,取り外した状態でも洗剤・柔軟剤を容易に補充できる設計とした。

自動投入機構は,基本性能となる安定した吐出量制御と,メンテナンス性につながる配管のクリーニングが重要な技術となる。まず,吐出量制御として,定量吐出が可能なピストンポンプ方式を採用した。ポンプの吐出回数を制御することによって,洗剤の種類や環境条件によらず3 mL単位ごとの吐出制御を可能とした。次に,配管のクリーニングに関しては,洗剤や柔軟剤の残りによる詰まりを抑制するために,洗剤・柔軟剤投入後,洗浄水を通水させる構造および制御とした(図13参照)。このとき,洗浄水も無駄なく使用できるように工夫し,配管を洗浄した水を槽内に排出し,洗い,すすぎの水として使用することで,使用水量を従来機種(BW-DV120C)と同一の125 Lに抑えている。

図12|BW-DX120C製品図使い勝手を追求し,操作パネルをフタ上面に設けるとともに,自動投入用タンクを製品前方側に設けた構造としている。

図13|洗剤自動投入ユニット流路図洗剤流路および柔軟剤流路に洗浄水流路を連結し,洗浄水による配管のクリーニング構造を搭載している。

4.2 「AIお洗濯」の開発

「AIお洗濯」とは,水硬度や水温,汚れの量,洗剤の種類など,八つのセンシングを用い,衣類や環境条件に合わせて洗い方や洗い時間などを自動で調整・制御する機能である(図14参照)。

例えば,水硬度,水温により洗剤量を自動で調整することができる。これは,水硬度が低い,または水温が高い場合は,洗剤の力が働きやすいため,洗剤の投入量を減らしつつ,洗浄力を維持する。また,このシステムと前述した「液体洗剤・柔軟剤自動投入機構」を連動させることにより,投入量の調整・計量から投入までもすべて自動で制御させることができた。

また,別の制御として,洗剤の種類を見分けて洗剤に合った洗い方を行う仕組みを説明する(図15参照)。洗剤には大きく分けて液体洗剤と粉末洗剤の2種類がある。従来の標準コースでは,洗剤の種類にかかわらず同じ洗い方を行っていた。本開発機では,電導度の違いで洗剤の種類を自動で判別し,それぞれの特性に合った洗い方を行い,さらなる洗浄の進化を図った。

洗濯をスタートすると洗剤が投入されるが,このとき,槽内に設けた電導度センサーによって粉末洗剤と液体洗剤を見分ける。粉末洗剤では,洗剤を溶かして洗うことが重要であり,時間をかけてしっかり洗剤溶かし動作を行った後,洗浄工程に移行する。一方,液体洗剤では,溶かし時間を短くして攪拌(かくはん)力(回転羽根の回転速度)を上げてしっかり衣類を動かして洗浄する。

洗浄の方法も油汚れ,泥汚れ,どちらもしっかり落とす洗浄制御を組み込んでいる。まず,油汚れを落とすためには,洗剤に含まれる界面活性剤をより多く汚れに吸着させることが必要である。そのためには,高濃度の洗剤液で洗うのが効果的であり,低水位での高濃度洗浄を行う。ただし,高濃度洗浄は長い時間行うと洗いむらにつながる可能性があり,従来では時間が制限されていた。今回,洗濯槽を回転させながら給水するシャワー給水において,シャワー散布範囲を拡大させ,より衣類を素早く湿らせることで,高濃度洗剤液を均等に浸透させることが可能となり,洗いむらを抑えた。これにより高濃度洗浄時間の延長が可能となり,油汚れに強い洗浄を実現した。また,泥汚れに関しては,その後の工程で高水位でたっぷりの水と大流量シャワーによって泥汚れをしっかり水中に引き出す。この一連の工程によって洗浄力が向上し,予洗いや二度洗いの手間を減らし,「新ナイアガラビート洗浄」として確立した。

以上のように,センシングと制御を組み合わせ,洗濯のさらなる自動化を図ることできた。

図14|「AIお洗濯」「洗い」,「すすぎ」,「脱水」それぞれの工程に適した制御で運転する。

図15|「新ナイアガラビート洗浄」工程略図洗剤を見分け,洗剤に合った洗い方で洗浄力を向上する。

5. 「凍結洗浄 ファンロボ」搭載ルームエアコンの開発

生活必需品となっているルームエアコンでは,省エネルギー性だけでなく,エアコン内部の清潔性も求められている。

日立ジョンソンコントロールズ空調株式会社は,2017年に「室内機内部をキレイにし,高い省エネ性をキープするとともにキレイな空気を届ける。」をコンセプトに,一年を通して熱交換器を自動で凍らせた後に一気に溶かし,多量の水で熱交換器を洗浄する「凍結洗浄」を搭載した製品を開発した(図16参照)。

2018年には,「凍結洗浄」に続くさらなる内部クリーン技術として,室内機のファンの汚れに着目し,これを掃除する「凍結洗浄 ファンロボ」を開発した(図17参照)。

長期間使用した汚れたファンを観察すると,特に翼先端にホコリが固着していることが確認できた(図18参照)。日立はこのメカニズムを,流体解析上でホコリに見立てた粒子の動きを解析する,ホコリ流れシミュレーションによって明らかにした。翼先端の風速が遅くなる「よどみ点」では細かい粒子が翼と接触し,この時にホコリが静電気力などで翼先端に堆積・固着していくという現象が発生する(図19参照)。

この翼先端をクリーンにする方法として,回転するファンにブラシを当てることで,ファン先端のホコリをかきとる構造を開発した。しかし,通常の回転では,室内に空気が吹き出されてしまうため,かきとられたホコリが空気の流れに乗って室内に吹き出してしまう恐れがある。そこで,ブラシを当てる際に,ファンを逆回転することを考え出した。

このファンを逆回転した場合の空気の流れと,ホコリが熱交換器に集まることをシミュレーションと流体可視化技術によって明らかにした結果,ファンを逆回転させることで,通常とは逆の流れ,つまり吹き出し口から熱交換器へ風が流れることが分かった(図20参照)。これにより,ブラシによってかきとられたホコリを熱交換器側に集めることができ,この熱交換器を凍結洗浄することで,ホコリをドレン水と共に室外へ放出する画期的な掃除方法を開発した(図21参照)。

また,「凍結洗浄 ファンロボ」によって,ファンを清潔にすることで,ファンの送風性能が維持され,省エネルギー性の悪化を抑えることができる(図22参照)。

以上のように,解析を用いて現象を詳細に分析することで,手入れの難しい内蔵部品の清掃に対する自動制御動作を確立することができた。

図16|「凍結洗浄」熱交換器を自動で凍らせた後に,一気に溶かして洗い流す。

図17|「凍結洗浄 ファンロボ」手入れの難しい室内機の内部にあるファンを自動で掃除する。

図18|ファンに付着した汚れホコリはファンの翼先端に固着しやすい。

図19|ホコリ流れシミュレーション翼先端では風速が遅く,ホコリが堆積・固着していく。

図20|ファン逆回転時の流れとホコリの動きファンを逆回転させることで,通常とは逆の流れとなり,ホコリは熱交換器側に集まる。

図21|「凍結洗浄 ファンロボ」の動作ブラシでかきとったホコリをファン熱交換器側に集め,凍結洗浄で洗い流す。

図22|「凍結洗浄 ファンロボ」搭載有無による消費電力の差(5年使用想定)クリーン機能により,長期間使用時の省エネルギー性の悪化を抑える。

6. おわりに

ここでは,家事の労力低減や生活環境の多様化に対応させる自動化,使い勝手向上,カスタマイズを実現する技術開発について述べた。今後,これらのニーズはさらに高まるものと考える。解析技術,機械設計技術,センシング技術,制御技術を高め,ひとりひとりに寄り添うような新たな価値を提供できるように取り組んでいく。

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