日立評論

デジタル・デザイン・テクノロジーが牽引する日立のライフソリューション

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ハイライト

ライフスタイルや価値観の変化・多様化により,家電製品や生活サービスに求められるニーズも変化している。デジタル技術の進歩によって,これまで実現できなかった新たな生活サービスも登場している。一方で,高齢化や食品ロスなど,われわれの生活に関わる社会課題が世界的に顕在化してきた。

こうした変化や課題へ対応するため,日立グループはさまざまな生活シーンで生じる問題を解決するライフソリューションの創生に取り組んでいる。IoTやAI(人工知能),データ分析といった新たなデジタル技術の活用や,デザインの手法を用いたニーズ探索・価値創造により,世界中の人々の生活課題を解決し,QoLを向上するソリューションを提供していく。

目次

執筆者紹介

笹尾 桂史Sasao Keiji

  • 日立グローバルライフソリューションズ株式会社 ライフソリューション統括本部 デジタルイノベーション推進本部 所属
  • 現在,デジタルサービス創生に従事
  • 日本機械学会会員
  • 日本冷凍空調学会会員

鹿志村 香Kashimura Kaori

  • 日立グローバルライフソリューションズ株式会社 ライフソリューション統括本部 所属
  • 現在,生活者のQoL向上をめざした新事業創生に従事
  • 日本認知心理学会会員
  • 日本認知科学会会員
  • 日本心理学会会員

1. はじめに

高度経済成長期の日本では,家電メーカーは家事の効率化という生活者のニーズに応えてきた。家事を機械化・電化した家電製品は自動化・省力化・高機能化が進み,家事に費やす時間を少なくすることで生活者の可処分時間,すなわち,家事以外の時間を増やすことに貢献してきた。また,環境意識の高まりを背景に,家電製品の省エネルギー化や節水化といった環境性能の向上が進み,資源消費の削減や経済的負担も軽減してきた。

このように,家電製品の自動化,省エネルギー化,高機能化が進む一方,IoT(Internet of Things)やAI(Artificial Intelligence),ビッグデータ解析といったデジタル技術の進歩を背景に,新たな生活サービスが登場してきた。例えば,個人が所有する自動車を活用した配車サービス,部屋をシェアリングするサービスや,欲しいものが欲しいときに届くデリバリーサービスなどである。こうしたサービスは,スマートフォンを使って簡単に利用できることから,先進国のみならず,新興国でも急成長している。

こうした家電製品や生活サービスは,当然のことながら生活者のニーズから生まれたものであるが,ライフスタイルや価値観が変化・多様化しているこれからの時代においては,ひとりひとりのニーズをきめ細かく把握する必要がある。本稿では,多様化するニーズを捉え,そのニーズに応える製品・サービスを提供することで,世界中の人々のQoL(Quality of Life)を向上するライフソリューションについて紹介する。

2. 多様化する生活者のニーズ

図1に日本におけるBtoC(Business to Consumer)のEC(Electronic Commerce:電子商取引)市場の推移を示す1)。2018年の市場規模は約18兆円で,物品を購入する物販系が約半数を占めるものの,旅行サービスや飲食サービスといったサービス系,電子出版や有料音楽配信といったデジタル系の市場も拡大しており,モノからコト,所有から利用への変化が見て取れる。特にデジタル系は,欲しいものが欲しいときに手に入るオンデマンドの特徴が需要拡大の要因であると考えられる。他の例として,やや古いデータではあるが,コインランドリー店舗数の推移を図2に示す2)。内閣府の消費動向調査では,日本の電気洗濯機の普及率は1979年に99%に達しているが3),それ以降に店舗数が増加していることから,洗濯をサービスとして利用するニーズが増えているという変化がうかがえる。

このように,さまざまな生活サービスの登場もあいまって,生活者のニーズ,ライフスタイル,価値観は「モノからコト」,「所有から利用」,「シェアリング」,「オンデマンド」に変わってきており,従来のようなプロダクトの提供にとどまらず,さまざまな生活接点においてニーズや困りごとを収集・分析し,複数のプロダクト・サービスを組み合わせて解決するソリューションとして提供することが必要であると考える(図3参照)。

図1|BtoCのEC市場規模およびEC化率2018年度のBtoC(Business to Consumer)のEC市場規模は17兆9,845億円(伸び率8.12%)で,物販系ではスマートフォン経由の利用率が約40%(過去3年で12%増加)である。

図2|コインランドリー店舗数の推移洗濯をサービスとして提供するコインランドリーの店舗数は年々増加している。

図3|人々の生活とビジネスの変化個人のニーズやライフスタイルの多様化により,顧客が求めるニーズを把握し,複数のプロダクト・サービスを組み合わせてソリューションを提供する時代へと変化している。

3. 日立GLSが考えるライフソリューション

日立グローバルライフソリューションズ株式会社(以下,「日立GLS」と記す。)は,家庭内の生活だけでなく,家や街,生活インフラをつないだすべての生活シーンに向き合い,製品やサービスの利用を通じて蓄積されるライフデータや,デザインの手法を用いたニーズ探索から生活者を理解し4),製品だけでなくサービスやプラットフォームの提供を通じて,さまざまな年代やライフスタイルのひとりひとりに,うれしさや喜び,安心や感動を届け,QoLの向上を実現していくことをめざしている。そして,これらの取り組みを通じて社会課題の解決に貢献したいと考えている。われわれはこれをスマートライフ事業と称して取り組んでいる(図4参照)。

スマートライフの実現の起点は生活者の理解であるが,その手段としてデジタル技術の活用は不可欠と考える。インターネットやスマートフォンとデータ送受信する機能を持つコネクテッド家電は,例えば洗濯物の量が増えたといった,人々があまり意識しない家事に関する変化を捉えることが可能である。また,ソフトウェアで進化する「ソフトウェアデファインド」コンセプトにより,その時々の好みに合わせて運転モードなどをアップデートすることも可能である。将来的には,データの活用によるサービスとの連携も考えられる。データの収集に際しては,セキュリティやプライバシーへの対応は必須である。IT分野で培った日立のセキュリティ技術で,安心・安全な使用環境を今後も提供していく。

一方で,人々を理解するうえで,家電製品の開発で培った,デザインの手法を用いたニーズ探索・価値創造は,ライフソリューションにおいてもその重要性は不変である。観察して,アイデアを出し,確認して,実現するという,デザイン思考のプロセスや,人間中心設計,経験デザイン(Experience Design)といった先駆的な取り組みが,協創手法「Exアプローチ(Experience Oriented Approach)」5)へと昇華し,顧客との対話を通じて新たな価値の創造につながっている。こうした方法で,人の理解をさらに深化させていきたい。

多様なニーズの把握とその解決には,やはりテクノロジーが重要である。生活シーンのさまざまな状態や変化を計測する技術,計測したデータを分析する技術,最適な判断を下すAI技術,判断に基づいて機器を適切にコントロールする制御技術・ロボティクス技術など,IT・OT(Operational Technology)・プロダクトで培った日立グループの広範な技術を活用することで,日立GLSならではのライフソリューションを提供していく。

図4|スマートライフ事業の全体像プロダクトやサービスを通して生活者を理解し,そこから導出される生活課題を解決して人々のQoL(Quality of Life)を高め,さらに社会価値につながるライフソリューションを提供する。

4. ライフソリューションの実例

ライフソリューションの実例として,本稿に続いて4編の論文を掲載した。

一つ目は,スマートライフ事業の第一弾として2019年6月に申し込みを開始した,単身高齢者向け見守りサービス「ドシテル」に関するものである。離れて暮らす家族の様子を見守りたいという子ども世帯のニーズに対し,プライバシーに配慮したセンシングで状況をいつでも確認できるソリューションである。デジタルデータの分析に基づく価値提供の事例である。

二つ目は,食のSNS(Social Networking Service)「ペロリッヂ」に関するものである。「まだ知らない『おいしい』と出会える」をコンセプトに,食にまつわる個人の経験や感動をその人のストーリーとともに共有するスマートフォンアプリである。食の分野は,おいしいもの・健康によいものを食べたいという光の面と,食の安全・フードロスといった影の面があるが,本サービスがこれら両面を解決する一助になればと考える。

三つ目は,将来の社会や暮らしの在り方を描き,次の製品・サービスの仕様や技術の要求を導出する「バックキャスト」の考え方を用いた新しい商品開発プロセスに関するものである。デザインリサーチ手法として開発された日立独自の未来洞察手法「きざし」を用いて導出された新たな価値観の事例を紹介する。

最後は,Society 5.0の実現に向けた,デジタル時代の市民参画についての取り組みに関するものである。市民が技術を活用して主体的に地域へ参画することを促すフューチャー・リビング・ラボという活動を,東京都国分寺市の中央研究所内に設立した「協創の森」を拠点とした取り組みを事例に紹介する。

5. おわりに

本稿では,日立GLSがめざすスマートライフの取り組みについて紹介した。ライフ分野は,解くべき生活課題,社会課題がまだ多く残されている領域であると考える。今後も,デジタル,デザイン,テクノロジーを活用し,社内外のパートナーとの協創により,ライフソリューションによる価値提供に貢献していく。

参考文献など

1)
経済産業省:平成30年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)報告書(2019.5)(PDF形式、6.67Mバイト)
2)
厚生労働省:コインオペレーションクリーニング営業施設に関する調査(施設数)(PDF形式、40.3kバイト)
3)
内閣府:主要耐久消費財等の普及・保有状況,消費動向調査(2018.4)(Excel形式、92.5kバイト)
4)
鹿志村香,外:エクスペリエンスデザインの理論と実践,日立評論,93,11,724〜732(2011.11)
5)
北川央樹,外:システム開発に新たな価値創出をもたらすエクスペリエンス指向アプローチ,日立評論,92,7,502〜505 (2010.07)
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