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Activities for Future Earth:日立のサステナビリティ戦略「日立環境イノベーション2050」の達成をめざす日立グループの気候変動への取り組み

2019年6月

執筆者紹介

長岡康範

  • 日立製作所 グローバル渉外統括本部 サステナビリティ推進本部 ディスクロージャー推進部 所属
  • 現在,サステナビリティに関する情報開示に従事

辻裕一郎

  • 日立製作所 グローバル渉外統括本部 サステナビリティ推進本部 企画部 所属
  • 現在,サステナビリティに関する企画,環境戦略に従事

目次

気候変動における最近の動向

日本の豪雨災害,米カリフォルニア州の山火事,欧州での干ばつなど,気候変動が影響したとされる大きな自然災害が,2018年に世界各地で相次いだ。気候変動は予想よりもはるかに早い速度で人々の生活に影響を及ぼしつつある。

こうした気候変動をめぐり,世界ではさまざまな動きがあった。2018年に発表された「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)1.5℃特別報告書」は,気温上昇を1.5℃に抑えることによって,多くの気候変動の影響が回避できることを強調している。同年12月に行われた国連気候変動枠組条約第24回締約国会議(COP24)では,2016年に発効したパリ協定の実施に向けたガイドラインが採択されている。欧州連合の欧州委員会は,域内で排出する温暖化ガスを2050年までに実質ゼロにすることをめざす新たな削減目標案を2018年11月に示した。日本政府でも,2019年4月に,できるだけ早期に温室効果ガスの排出を実質ゼロとする方針を強調した長期戦略を示している。

ESG投資※)が急速に拡大し,年金基金や保険会社などの長期的な投資を行う機関投資家も,ファイナンスの立場から企業の気候変動対策を進めていく動きを見せている。2017年6月には,G20財務大臣・中央銀行総裁会議の要請を受けて金融安定理事会が設置した「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」が,投資家の立場から企業に対して,その企業における気候関連のリスクと機会の開示やガバナンスの明確化などの情報開示を求める提言を発表した。日本政府ではこれを踏まえ,2018年に経済産業省が「グリーンファイナンスと企業の情報開示の在り方に関する『TCFD研究会』」を開催し,TCFDガイドラインを策定した。2019年5月からは,TCFD賛同企業や,経済産業省,金融庁,環境省が参加する「TCFDコンソーシアム」がスタートしている。

こうした背景を受け,企業には社会が脱炭素に向かうための担い手としての役割が期待されている。

※)
ESG投資:従来の財務情報だけでなく,環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の要素も考慮した投資のこと。

日立の環境ビジョンと環境長期目標

日立は,「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」という企業理念のもと,長期的視点に立った環境経営を推進してきた。

日立の「環境ビジョン」は,環境において日立がめざすべき将来の方向性を定めるもので,社会イノベーション事業を通じて社会課題を解決し,生活の質(QoL:Quality of Life)の向上と持続可能な社会の両立を長期的に実現していくことを宣言している。

この「環境ビジョン」で示した持続可能な社会を構成する「低炭素社会」,「高度循環社会」,「自然共生社会」の実現に向け,日立は2030年・2050年を見据えた環境長期目標「日立環境イノベーション2050」を策定している(図1参照)。

この中の低炭素社会を実現する取り組みとして,IPCCの気温上昇が2℃未満となるシナリオを踏まえ,バリューチェーンでのCO2排出量を2050年度に2010年度比で80%削減する目標を定めている。

さらに,この環境長期目標の達成に向け,環境行動計画を3年ごとに定め,環境活動を推進している。環境行動計画は,日立製作所のビジネスユニットや主要グループ会社の環境戦略責任者を通じて日立グループ全体で推進されている。

図1|日立の環境ビジョンと環境長期目標

低炭素社会の実現に向けた取り組み

低炭素社会の実現に向け,日立の企業活動に関わる温室効果ガス,特にエネルギー消費に起因するCO2の排出量を削減することが重要である。

日立のバリューチェーン全体におけるCO2排出量を算定すると,販売した製品・サービスの「使用」に伴うCO2排出量が9割を占める(図2参照)。バリューチェーンとは,提供する製品・サービス・ソリューションに関わる,原材料・部品の調達,生産,輸送,使用,廃棄・リサイクルまでの一連の活動を指す。日立の事業には,使用時にエネルギー消費が大きい製品・サービスが多いため,この使用時のCO2排出量の削減,つまり製品の省エネルギー化が目標達成へのカギとなる。

図2|日立のバリューチェーン各ステージでのCO2排出量の割合

「低炭素ビジネス」の拡大を通じた使用時のCO2削減

図3|SuperアモルファスZero Sシリーズ(油入り500 kVA)

図4|アモルファスモータ一体型オイルフリースクロール圧縮機

バリューチェーンの「使用」段階のCO2排出量を削減するためには,製品・サービスのさらなる低炭素化を実現する低炭素ビジネスを,日立が注力する「エネルギー」,「モビリティ」,「ライフ」,「インダストリー」,「IT」などの各分野で拡大していく必要がある。

「エネルギー」分野では,再生可能エネルギーなどの非化石エネルギーをメインとしたエネルギーシステムの提供や,送配電の効率化・安定化などに貢献するスマートグリッドを実現している。「モビリティ」分野では,鉄道車両の軽量化や,運行システムによる効率化を進めている。自動車では,EV(Electric Vehicle)などに使用される電動パワートレインをさらに普及させることにより,移動における省エネルギー化をめざしている。「ライフ」分野では,都市の効率化のために,ビルトータルソリューションによる建物全体の高効率化を進めている。「IT」分野では,革新的なデジタルソリューションを提供し,社会のさまざまなシステムの効率を高めることによって,エネルギーの使用量低減に貢献している。

以下は,日立が展開する低炭素ビジネスの事例である。プロダクツの高効率化を実現し,より少ないエネルギー消費で,同等またはそれ以上の機能を発揮できれば,使用段階のCO2削減に貢献することができる。

株式会社日立産機システムのアモルファス合金を使用した変圧器「SuperアモルファスZero Sシリーズ」では,従来比で省エネルギー性能を最大13%改善し,トップランナー基準に対して最高で166%と,業界最高レベルのエネルギー性能を実現している(図3参照)。また,設計の最適化によりモデルチェンジ前とほぼ同一の外形および据付寸法を実現しており,設置場所の制約がある場合やリニューアル時の省エネルギー対応を容易にしている。

空気圧縮機は,圧縮空気を作り出す機器で,生産工場などの動力源として多く活用されている。日立のオイルフリースクロール圧縮機は,無給油,低騒音,低振動が特徴で,主に食品業界や医療,研究分野など幅広い用途で使用されている。アモルファスモータ一体型オイルフリースクロール圧縮機は,本体に国際高効率規格の最高レベル(IE5相当)を達成したアモルファスモータを採用することで省エネルギー性能をより高めている(図4参照)。

ファクトリー&オフィスにおける生産時のCO2削減

バリューチェーンの「生産」に伴うCO2排出量の削減は,ファクトリーやオフィスにおける生産の高効率化や,省エネルギー化の推進,再生可能エネルギーの導入拡大により実現していく。

日立は自社のファクトリーやオフィスにおいて,徹底した効率化・省エネルギー化を進めている。特にファクトリーにおいては,IoT(Internet of Things)を活用した生産効率の向上施策として,スマートメーター導入による生産エネルギーの低減や,再生可能エネルギーの活用を推進している。

スマートマニュファクチャリングによる工場での省エネルギー化などを推進している大みか事業所では,940 kWの太陽光パネルと4.2 MWhの蓄電池設備を設置し,再生可能エネルギーの利用を進めるとともに,約900か所にスマートメーターを設置し,IoTの活用による省エネルギーなどで生産性の向上と環境負荷低減に取り組んでいる(図5参照)。

さらに大みか事業所で確立した高効率生産モデルを基に,日立のお客さまに対して,多岐にわたるソリューションを提供している。これは製造現場をデジタル技術で変革するとともに,省エネルギーによりお客さまのCO2排出量の削減に貢献するものである。

図5|スマートマニュファクチャリングによる生産現場のCO2削減

気候変動に関する情報開示

IPCCの報告書では,気温上昇を2℃以内に抑える脱炭素社会のシナリオや,対策が十分に機能せずに気温上昇が4℃以上に及ぶシナリオなど,気候変動の将来シナリオが複数想定されている。TCFDの提言では,こうした気候変動に関する将来シナリオを想定し,その企業が事業を継続できるか,気候変動に関するリスクと機会を認識しているかについて,情報を開示するよう求めている。

日立は2018年6月にTCFD提言へ賛同を表明し,TCFDの要請に合わせた情報開示を進めている。日立はこれまでも気候変動および水のリスクと機会の認識について「日立サステナビリティレポート」にて開示してきたが,2018年版では,TCFD提言の分類に準じて,低炭素経済への移行リスク,気候変動の物理的影響に関連したリスクなどに整理して開示を行った。

日立にとって想定される低炭素経済への移行リスクの一つとして,炭素税や燃料・エネルギー消費への課税,排出権取引など,政策および法規制の強化があり,これらが生産時のコスト上昇につながる可能性がある。こうしたリスクに対し,日立は2017年度に約54億円の省エネルギー投資を実施し,生産の効率化や製品の省エネルギー化を進めている。

また,日立の低炭素技術が市場の中で競争力を失うリスクもある。日立は2050年度に80%CO2排出量削減という高い目標を掲げ,低炭素社会の構築に貢献する製品・サービスを生み出す技術の向上に努めている。このリスクへの対応は,一方で革新的な省エネルギーを実現できる製品・サービスの提供による市場価値や収益増大の機会になり得る。そのために,高効率プロダクツや低炭素エネルギーの開発・普及,環境負荷の削減に寄与する革新的なデバイス・材料の開発などを推進している。

さらに,自然災害の頻発により工場の操業が停止するような気候変動の物理的影響に関するリスクも考えられる。日立は,ファクトリーなどの新設時は,洪水被害なども念頭に立地を選ぶほか,災害発生時の対策を取りまとめたBCP(事業継続計画)を策定し,各工場の立地・特性に応じてリスクの軽減に努めている。

今後の取り組み

日立は,これからも社会イノベーション事業としての低炭素ビジネスの推進により,温室効果ガスの排出の中で大きな比率を占める使用時のCO2排出量の削減を進めていく。また,生産時に当たるファクトリー&オフィスにおいても,効率化・省エネルギー化を進めるための新たな施策を導入していく。

2019年度は3年ごとの環境行動計画の改訂年度にあたり,2021年度に向けた計画を新たに策定し全社での推進を始めている。この環境行動計画で定めた目標を着実に積み重ね達成していくことが,最終的に環境長期目標の達成につながり,低炭素社会の実現に貢献していくことになると考えている。

日立は,環境ビジョンがめざす持続可能な社会,低炭素社会の実現にこれからも貢献していく。