日立評論

日立の事業が創出する社会価値・環境価値

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日立評論

執筆者紹介

岡田 直子

  • 日立製作所 グローバル渉外統括本部
  • サステナビリティ推進本部 企画部 所属
  • 現在,サステナビリティに関する企画,事業戦略に従事

目次

メガトレンドと「社会価値・環境価値・経済価値を重視した経営」

現在,世界では都市への過度な人口集中,日本などで懸念される少子高齢化による労働人口の減少,地球温暖化による気候変動,資源不足など,人々の社会,生活を取り巻く地球規模での深刻な問題が進行しつつある。このため,Society 5.0やSDGs(持続可能な開発目標)などで掲げられている未来社会の実現に向け,企業にはさまざまな社会課題解決へ積極的に役割を果たすことが期待されている。

日立は1910年の創業以来,創業者・小平浪平の「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」という企業理念に基づいて,社会課題の解決に貢献する社会イノベーション事業に注力することで,事業を通じて持続可能な社会の実現をめざしている。

2019年5月,日立は「2021中期経営計画」を発表した。社会イノベーション事業でグローバルリーダーをめざすことを表明し,社会価値・環境価値・経済価値の三つの価値を重視した経営をしていくことをコミットした。さらに社会イノベーション事業を強力に推進し,顧客の三つの価値の視点を重視し,これら三つの価値の最終提供先である社会への価値創出と人々のQuality of Life(生活の質)の向上につながる経営をしていくことを打ち出している。

経営へのサステナビリティ視点の取り込み

図1|「2021中期経営計画」で示した三つの価値と五つの事業分野

日立は2017年度から,社長を議長とするサステナビリティ戦略会議において,経営へのサステナビリティ視点の取り込みを議論してきた。その中で,日立の推進する社会イノベーション事業とSDGsとの関係も踏まえて,事業が創出する社会価値,環境価値についても検討している。

日立の事業分野は多岐にわたり,顧客との協創を通じてSDGsの達成にも幅広く貢献できる。社会イノベーション事業に求められるデジタルとリアルを連携させたソリューションをCPS(Cyber-Physical System)としてLumada※)が提供できると考えており,「2021中期経営計画」ではモビリティ,ライフ,インダストリー,エネルギー,ITの五つのセクター(事業分野)のソリューション提供を通じ,持続可能な社会の実現をめざしていく決意を示した(図1参照)。

※)
顧客のデータから価値を創出し,デジタルイノベーションを加速するための,日立の先進的なデジタル技術を活用したソリューション/サービス/テクノロジーの総称。

社会価値の向上への取り組み事例

「2021中期経営計画」や五つの事業分野ごとに経営方針と事業説明を行う「Hitachi IR Day 2019」(2019年6月実施)などでも示しているが,ビジネスユニット,グループ会社において,それぞれの主要事業がどのような社会価値を創出していくのか,以下にいくつかの事例を挙げる。

モビリティソリューションでは,現在,世界中で年間のべ185億人の人々に安全・安心・快適で環境に配慮した鉄道サービスを提供している。ライフソリューションでは,粒子線がん治療システムの提供を通じて世界中で2021年までに累計8万人のがん治療に貢献していく。また,自律運転技術により,国内では日本政府の2020年12月末までの目標である「国内交通事故死者数を年間2,500人以下(人口あたり世界最小)」へ貢献していくのをはじめ,グローバルにも交通死亡事故の撲滅へ貢献していく。インダストリーソリューションでは,水環境ソリューション事業において上下水道,海水淡水化技術により,現在,世界中でのべ7,000万人/日に安全・安心な水環境を提供している。エネルギーソリューションでは,世界の25%の変電所をマネジメントし,約18億人に安定したエネルギーを提供していく。ITソリューションでは,インドにおいて,日立ペイメントサービス社が,2019年2月現在ATM(Automated Teller Machine)約6万台,POS(Point of Sale)システム約100万台を運用し,現地パートナーとの協力により,現金と非現金決済の両面で次世代電子決済サービス基盤の構築・運用を通じて,インド政府が主導する「Digital India」(国家ICT政策)に貢献している。

また,個別の顧客事例としては,インダストリーソリューションにおいて,デジタル化による熟練技能伝承の取り組みとして,製造現場における高いスキルが求められる次世代グローバル人財不足への対策事例がある。ダイキン工業株式会社の空調機製造現場では,高度なろう付け技能が求められる工程において,熟練技術者の技能やノウハウをカメラなどのセンシング機器を用いてデジタル化する訓練システムを開発した。訓練者は自分の動作と熟練技術者のデータから構築された動作モデルを比較することで,理想的な動作との乖離を理解し,訓練に生かす。このシステムの導入により,ダイキン工業株式会社では技能の習得期間の半減をめざしている(図2参照)。

図2|ダイキン工業株式会社 熟練技術者(マイスター)と訓練者

環境価値の向上への取り組み事例

日立は2016年に策定した環境長期目標「日立環境イノベーション2050」で,「低炭素社会」,「高度循環社会」,「自然共生社会」の三つの社会を実現していくことを示し,3年ごとに環境行動計画を策定し,具体的な目標を立てて推進してきている。

「2021中期経営計画」の中でも,2010年比で2021年には,バリューチェーン全体を通してCO2排出量を20%超削減する,日立グループ内の水利用効率を26%超改善する,同じく日立グループ内の資源利用効率を12%超改善するという目標を掲げた(図3参照)。

また, Lumadaを活用した協創を通じて,モビリティ,ライフ,インダストリー,エネルギー,ITの五つの事業領域において,さまざまな製品・サービス,ソリューションの提供によってバリューチェーン全体での「脱炭素ビジネス」を拡大し,気候変動の緩和と適応にグローバルに貢献していく。

製品・サービスにおいては,省エネルギー性能の向上を図ることでCO2排出量の削減に貢献する。ソリューションにおいては,従来と同等の価値を提供する新たなソリューションに代替することでCO2排出量の削減に貢献していく。例えば,「輸送」という価値が等しい異なる移動手段の事例では,米国ハワイ州において,2021年からサービスを開始する鉄道事業(ホノルル・レール・トランジット)により,一日に通勤通学などで利用される化石燃料を使った自動車4万台分の輸送を鉄道輸送に振り替えることで,CO2を年間21万t削減する効果が見込まれる。これはホノルル市の全自動車排出量の12%に相当するCO2削減となる(図4参照)。

自社内のファクトリー・オフィスにおけるCO2削減にも取り組んでいる。

ファクトリーにおいては,高効率機器の導入・更新による設備稼働効率の向上に向けた取り組みや,スマートメーターを導入するなどのIoT(Internet of Things)活用によるエネルギー利用の効率アップを推進している。オフィスにおいては,エネルギー効率の高いビルの新設や既存施設の集約・統合を進めて,CO2排出量の削減に努めている。

加えて,エネルギー効率の改善に資する投資を促す「日立インターナルカーボンプライシング(HICP)」の導入と再生可能エネルギー導入の拡大も推進している。

HICPは2019年度の投資対象案件から適用を開始した制度で,投資判断やリスク管理を行うために,削減炭素量に価格付けを行う仕組みである。投資によって発生するCO2削減効果を,従来算出してきたエネルギーコスト削減効果に追加することで,社内の設備投資判断において,低炭素化を勘案した意思決定を促し,低炭素設備投資にインセンティブを与えて拡大していくものである。日立はHICPにより,将来発生しうる炭素税負担増加や新たなCO2排出権取引といったリスクを設備投資の決定時にあらかじめ低減することができる。

再生可能エネルギーについては,自社のファクトリーやオフィスなどにおける太陽光発電システムの導入や,外部からの購入を推進していく。既にいくつかの事業所では取り組みが始まっており,例えば,株式会社日立ハイテク九州では2019年度中に再生可能エネルギー電力100%化を進めている。

図3|「2021中期経営計画」で示した環境への貢献

図4|新たなソリューションへの代替によるCO2排出量削減貢献

今後の取り組み

「2021中期経営計画」の中で社会価値と環境価値については,いくつかの事例を挙げて価値を示した。今後,さまざまな事業活動を通じて創出されるこのような社会価値と環境価値の見える化を推進していく。

また「2021中期経営計画」では,サステナビリティ視点[SDGs・ESG(Environment, Social, Governance)]を組み込み,社会価値・環境価値・経済価値の三つの価値を重視した経営をしていくことをコミットしている。日立は,創業以来一貫した企業理念の下,今後も社会イノベーション事業を通じて,社会に貢献していくとともに,社会課題の解決を目標とした新たなビジネスの可能性を追求していく。

さらに,2021年度までの3年間で日立が注力することを表した言葉として,「Powering Good 世界を輝かせよう」を掲げた。社会イノベーション事業を通じ,人々のQoL向上や持続可能な社会づくりといった世界中の人々が望む良いこと,すなわち「Good」の実現に全力を注ぐ。日立はこの「Powering Good」を,社会イノベーション事業を通じて推進し,顧客とともに世界を輝かせていきたい。