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歴史を彩る日立の革新的なものづくり

佐々木 直哉
研究開発グループ 技師長

[1] 昭和肥料(当時)納め水電解槽

日立のものづくりの原点は,創業精神である「和」「誠」「開拓者精神」であり,いいかえれば,「総力結集」「信頼性」「新製品創出」である。研究部門の組織は,1918年,日立工場の研究係として始まり,1934年には,研究所に昇格した。当初は物理現象解明,信頼性,材料開発を主体とする研究であり,製品改良や故障原因の解明に力を尽くし,その改善まで踏みこんだ研究開発を行った。特に水電解槽の開発では,研究係の半数以上が動員され,腐食対策を中心とした研究開発の末,1931年に開発を完了した([1])。この時期は主に実験による研究開発が進められ,遮断器の大容量短絡実験や水車の模型実験が行われ,材料では,他社製品を凌駕するワニスや絶縁油等の材料開発が進められた。次に,これまでのいくつかの代表的な時代のものづくりについて俯瞰する。

1955年からの高度経済成長期では,国を支える電力や産業分野の製品,家庭を豊かにする家電製品や自動車部品の開発が行われた。1956年に始まった原子力の研究では,沸騰水型原子炉の開発に注力し,国産1号機の完成に貢献した。白物家電では,アジテータ方式の洗濯機の研究に始まり,1965年には世界最初の渦巻式全自動洗濯機を製品化した。

1973年のオイルショックを契機に,新たな成長分野として,重厚長大から軽薄短小,ハイテク製品に研究開発がシフトし,全社の研究所が総力を結集したプロジェクト体制の研究開発を行った。解析,計測技術を駆使して,半導体,大形計算機,磁気ディスク,ビデオテープレコーダ等の研究開発が行われた。

2000年以降は,世の中のグローバル化に対応して,海外企業との合弁事業が展開された。研究所も海外に設置され,多様なものづくりが行われ,海外向けの鉄道や建設機械,エレベーター等のシステム視点の研究開発がグローバルに行われ,現在の社会イノベーション事業を支えるものづくりを牽引する研究開発につながっている。

ものづくりを支える基盤技術の源流

研究開発においては,多様な製品分野でのノウハウ蓄積と,高度な解析や先端計測による複雑現象の解明と予測という伝統的に培ってきた基盤技術に基づくものづくり土壌により,これまで数々の新しい製品やシステム開発をリードしてきた。その中で,予測技術としての解析技術は1964年頃から盛んになり,有限要素法による応力解析プログラムをはじめとして,電磁場,回路,燃焼,熱流体解析等のマクロな解析,分子動力学技術等のミクロな解析が開発,活用されて,1990年代からはス−パーコンピュータによる大規模な解析による複雑現象解明,製品開発を行ってきた。

解析主導設計から新しいものづくりへ

英国IEP向け高速車両の先頭形状(左上)と解析モデル(右上)衝撃吸収ブロックを備えた車両先頭の衝突実験(左下)と解析(右下)比較例

さらにIT,数理技術の進化にも支えられ,1990年代後半からは,機械研究所を中心に解析技術を設計上流で有効活用することでものづくりプロセスを高度化する研究開発に力を入れてきた。解析データをもとに製品の最適形状を探索する最適化技術,不具合を繰り返さないための知識を活用したナレッジベースドエンジニアリング等の知的設計技術が開発され,個々の先端的な解析手法と連携することにより,2000年代初頭からは新たに解析主導設計というコンセプトでさまざまな製品適用や事業部への普及を推進してきた。代表的成果として欧州高速鉄道車両の構造解析例を [2]に示す。

これからは,課題解決に加え,新しい価値や文化を提案していくことが大切である。解析技術のさらなる進化と高度ITやサービス技術等との連携により,IoTやディジタル技術を核として,実製品使用現場データや製造,材料等のものづくりデータのアナリティクスをうまく製品やシステム開発に取り入れることが重要である。そして,創業精神を新たに具現化する,サイバーとフィジカルが融合したイノベーションを創出する新しいものづくりに結集する。