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先進技術と総合力による水環境ソリューション

海外向け水処理・造水技術の実績と展望

ハイライト

地球上に存在する水のうち,人が利用可能な水は全体のわずか0.01%にすぎないとされる。一方で水の需要は,人口増加,生活水準の向上,都市化,産業の発展などにより,年々増加する傾向にある。

これに対し,日立グループは排水再生システム,海水淡水化システムを提案・納入してきた。本稿ではそれらの実績と,次世代型の淡水化システムを紹介する。

目次

執筆者紹介

奥野 裕Okuno Yutaka

  • 日立製作所 水ビジネスユニット 水事業部 国際システム本部 所属
  • 現在,上水・海水淡水化分野のプロジェクトに従事
  • 技術士(上下水道部門)

國嶋 秀郎Kunishima Hideta

  • 日立製作所 水ビジネスユニット 水事業部 国際システム本部 エンジニアリング部 所属
  • 現在,上水・海水淡水化分野のプロジェクトに従事

松浦 雅幸Matsuura Masayuki

  • 日立製作所 水ビジネスユニット 水事業部 国際システム本部 エンジニアリング部 所属
  • 現在,上水・海水淡水化分野のプロジェクトに従事
  • 技術士(上下水道部門)

壬生 勝泰Mibu Katsuhiro

  • 日立製作所 水ビジネスユニット 水事業部 国際システム本部 ビジネス開発部 所属
  • 現在,上水・海水淡水化分野のプロジェクトに従事
  • 技術士(上下水道部門)

武村 清和Takemura Kiyokazu

  • 日立製作所 水ビジネスユニット 水事業部 国際システム本部 エンジニアリング部 所属
  • 現在,上水・海水淡水化分野のプレエンジニアリングに従事

1. はじめに

地球上の水資源量は限られたものであるが,地球規模での水大循環によって海水,淡水のバランスがとられている。13.86億km3と試算される水資源量のうち,97.5%が海であり,淡水量は全体の2.5%である。さらにその大半は氷河であり,われわれが容易に使用できる環境の水源は全体の0.01%とわずかな量となっている。

賦活量は気候,地形などの状態に大きく影響を受けるうえ,その年の自然環境に依存しており,人的な対応には限界がある。そのため,賦活量の大きな変動,慢性的な水不足が社会的問題となっている。

一方,水の用途は飲料水,工業用水,農業用水など多岐にわたり,その必要量は人口の増加,生活水準の向上,都市化,産業の発展で年々増加の傾向を示している。2025年には,1950年と比べて75年間で約3.6倍に達すると予想されている(表1図1参照)。

これらを背景として,日立グループは限られた淡水資源の有効利用を可能とした排水再生利用システム,さらには水資源量の大半を占める海水を利用した淡水化システムなどを多くの分野,用途に提案・納入してきた。

本稿では,その実施例とこれらの水問題を解決するための次世代技術について報告する。

表1|水の使用量の経年変化水の使用量は年々増加しており,2025年には1950年と比較して約3.6倍に達すると想定されている。

図1|利用可能な水資源量[1人当たり年間(m3),2011年]2011年現在の人口1人当たりの利用可能水資源量から水需給に関する逼(ひっ)迫の程度(水ストレス)を表している。

2. 海外における実績

ここでは,近年納入した産業分野における排水再生利用システムと,飲料水製造を目的とした海水淡水化システムの例を紹介する。

2.1 産業用水処理システム

近年,日立グループは,日系企業の多様なニーズに応える水処理ソリューション事業をアジア地域で展開している。インドでは,日立現地法人を通じ,日系電気企業,自動車関連企業などへ10件以上の納入実績がある。ここでは,インド北部の日系自動車工場に飲料用水設備,排水処理設備および再利用設備を2017年に納入し,水処理トータルソリューションシステムを提供した実績を紹介する。

本案件は,車両生産台数増加に伴う給水能力の増強計画に対して,行政から地下水源の揚水制限など厳しい指導が行われている中,ゼロディスチャージに対応するトータルソリューションシステムを納入したものである。排水の特徴に合わせた有効な処理システムを構築し,排水再利用を実現することで地下水使用量の低減を図り,工場への給排水の最適化を実現した。この水処理ソリューションの概要を図2に示す。

世界的な水需要の高まりに合わせて,日立は今後も,豊富な経験と実績を基に水不足改善や環境保全を考慮した社会インフラを整備し,水処理のトータルソリューションを提供することで,水不足改善に貢献していく。

図2|水処理ソリューション飲料用水設備,排水処理設備および再利用設備を含む水処理トータルソリューションシステムをインドの日系自動車工場に納入した。排水の再利用を行うことで揚水制限の厳しい地下水の使用量を削減でき,車両生産台数の増加に貢献した。

2.2 淡水化システム

世界では中東を代表とする降水量が少ない地域や,島嶼(しょ)国のように水源となる河川などがない国が深刻な水不足に直面している。これらの国々においては,生活用水を確保する水源として古くから海水などが利用されてきた。従来は蒸留によって真水を得る方式が採用されていたが,蒸留のための燃料などの費用,装置の設置スペースなどに大きな課題を抱えていた。近年は膜技術の発展とともに,これらの課題を軽減できる逆浸透(Reverse Osmosis:RO)膜方式の採用が増加しており,日立グループも多くの国々にこれを納入してきた。

本方式は,海水を代表とする塩分を含んだ原水を取水し,ゴミ,濁質を除去した後に水中の塩分をRO膜で除去するものである(図3図4参照)。日立は,すでに100か所以上の国や地域で種々の用途に淡水化システムを納入しており,現在はイラク共和国に淡水製造量約20万m3/日の設備を建設中である。

図3|淡水化システムフローRO膜を用いた淡水化システムの一般的なフローを示す。

図4|RO膜方式淡水化システム逆浸透膜設備(淡水量:3,000m3/日)

3. 次世代型淡水化技術の開発

現在,主流になりつつあるRO膜方式の淡水化システムでは,塩分を含む原水の浸透圧に対応したろ過圧が必要なため,高圧ポンプの使用が必須となっている。そのため,淡水の水源から造水するシステムに比べて電力量が大きく,造水コストが高いという課題の解決が強く望まれている。

本章では,こうした顧客のニーズに合わせて開発した複数の淡水化システムについて述べる。

3.1 高回収率海水淡水化ROシステム(E-Rex Water)

図5|従来法とE-Rex Waterの設備比較E-Rex Waterは,省エネルギーだけでなく,海水取水量の低減や前処理薬品の使用量低減で環境負荷低減に寄与する。

水需要の増加に伴い,海水淡水化の分野においては設備の大型化,エネルギー削減,環境負荷低減などを目的に,蒸発法とRO膜法を組み合せたハイブリッド方式や,省エネルギー型RO膜,高効率エネルギー回収装置など,さまざまな技術開発が進められている。日立は,高回収率海水淡水化ROシステム(以下,「E-Rex Water」と記す。)を開発した。すでに試作装置(処理水量:約500 m3/日規模)でのシステム性能評価は実施済みであり,中東地域で長期運転信頼性を確認している。さらに,商用プラントの営業展開も進めており,中東および北アフリカ地域など大規模プラントへの技術展開を視野に開発を継続している。

従来海水淡水化ROシステム(以下,「従来法」と記す。)の回収率は40%程度であった。回収率を上げようとしても,上流側のRO膜のフラックスが著しく上がることによる膜汚染リスクの懸念および消費電力の増加が課題となり,これまで実現できなかった。E-Rex Waterでは,RO膜の仕様に応じてベッセル配列を任意の本数に分割することで,それぞれのRO膜のフラックスを制御・平準化し,回収率を60%まで向上した。また,高収率化により原海水量を低減できることから,前処理・後処理設備の容量比約30%の縮小が実現した。さらに独自のエネルギー回収システムを適用することで,ROシステムの高圧ポンプ負荷を低減している。これらの施策により,海水淡水化設備のエネルギー削減(約15%)に加え,水資源である海水の保全および前処理薬品の使用量低減による環境負荷低減を実現したシステムである。

図5に従来法とE-Rex Waterの設備比較を示す。

近年,膜メーカー各社は低圧海水淡水化RO膜や,特定のイオンを選択的に排除可能な膜など,特徴のある製品の開発を進めている。日立は,各社が開発する製品とE-Rex Waterを組み合わせることで,さらなる省エネルギー化や造水システムの幅広い提案が可能になると考えており,さまざまな業種や地域による多様なニーズに貢献できるものと期待している。

3.2 南アフリカでのRemixWaterの取り組み

海水淡水化・下水再利用統合システム「RemixWater」は,海水淡水化プロセスと下水再利用プロセスを統合した世界に例のない※)独自のシステムである(図6参照)。

通常の海水淡水化システムでは,海水に圧力をかけ,超微細な孔を持つRO膜に通し,塩分を除去して真水をつくる。従来のRO膜を使った海水淡水化プラントでは,ポンプの動力費が運転コストのほぼ半分を占めていた。これは,塩分濃度が高いほど高圧でRO膜に送水する必要があり,ポンプの動力費が高くなるためである。

一方,RemixWaterは,下水処理水を利用して海水の塩分濃度を薄めたうえで,RO膜を使って海水をろ過する。これによって従来の海水淡水化に比べ,運転コストの大幅な低減が可能である。また,従来の海水淡水化プロセスでは排出される濃塩水による環境負荷が問題視されているが,「RemixWater」は下水処理水で塩分濃度を薄めた海水を原水とするため,下水再利用プロセスから排出される放流水の塩分濃度を海水並みに抑えることができ,海域に対する環境負荷も低減できる。

このシステムは日立と東レ株式会社が中心となり,NEDO(New Energy and Industrial Technology Development Organization:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)に省エネルギーかつ低環境負荷の海水淡水化システムとして提案し,「省水型・環境調和型水循環プロジェクト」の一環として採択されたものである。2010年に日立と東レをコアメンバーとして設立した海外水循環ソリューション技術研究組合(GWSTA:Global Water Recycling and Reuse Solution Technology Research Association)が建設したウォータープラザ北九州にて,北九州市と連携して実証実験が行われた。2013年11月までの3か年の実証により,従来の海水淡水化プラントに比べ,30%以上の省エネルギー効果を確認した。

南アフリカ共和国は,平均降水量が約450 mm/年と世界平均の半分程度であることに加え,国内に大河がなく,国土が固い岩に覆われているために地下水の活用も困難であるなど,難しい水環境に直面している。近年はダーバン市などを主要な都市とするクワズール・ナタール州のほか,複数の州で深刻な水不足が起きている。また,人口増・経済発展に伴う電力需要の増加および電力インフラの老朽化により電力需給が切迫しており,2008年以降,電力料金が毎年20%のペースで上昇している。

このような背景の下,ダーバン市はウォータープラザ北九州の視察をきっかけにRemixWaterに強い関心を示し,市における実現可能性調査の実施を日立に希望した。その後,日立は2014年9月にJICA(Japan International Cooperation Agency:独立行政法人国際協力機構)の「民間技術普及促進事業」を受託し,JICA支援の下,ダーバン市や南アフリカ関係機関に対し,RemixWaterを積極的に紹介する活動を実施した。また,それと並行して,2015年2月にNEDOより「国際エネルギー消費効率化等技術・システム実証事業」を受託し,実証前調査を経て2016年10月より実証事業を開始した。本実証事業は,ウォータープラザ北九州で運転ノウハウを獲得したRemixWaterを海外で実証するものであり,1年間の実証運転を2020年11月に完了する計画である。実証終了後は実証施設を活用した給水事業の展開をめざしており,ダーバン市はその生産水を飲用水として市内に給水することを希望している。このため,NEDOの実証事業と並行して,ダーバン市との給水事業の実現に向けた協議を2017年度より本格的に開始する予定である。

本実証事業の固有の課題として,生産水の飲用がある。ウォータープラザ北九州の実証では,生産水は九州電力株式会社新小倉発電所のボイラー用水として活用していた。水質分析結果から水道水質基準をクリアしていることを確認しているものの,RemixWaterの生産水の用途としては初めての試みである。このため,RemixWaterにおける水処理システムの後段に,残留規制有機物のリスク対策としてAOP(Advanced Oxidation Process:促進酸化設備)を設置し,難分解性有機物などを処理することを検討している。

※)
2017年6月現在,日立製作所調べ。

図6|RemixWaterシステムフローポンプの動力低減,濃塩水の環境負荷低減のほか,海水取水量低減による設備規模縮小もライフサイクルコストの低減に寄与する。

3.3 高水温対応システム

図7|開発システムの導入前と導入後耐熱性RO膜を活用することで,高温の排水に対しても,膜を利用した新しい排水再利用システムを提案した。開発システムの導入により,省エネルギーおよび環境負荷低減に寄与する。

近年,省エネルギーや環境への配慮から,民間分野でも膜技術を用いた高度排水再利用技術が導入されるようになった。当初は処理プロセス単位の小さな規模で始まったが,現在では工場単位に拡大され,石油(原油)を採掘する生産井の周辺(Up-Stream)など比較的大容量の排水処理にも適用されつつある。また,排水処理水の再利用に関連して,処理容量の拡大のみならず,溶解しているイオン類(無機塩類)の除去といった高度な処理が徐々に要求されるようになり,RO膜を適用した処理システムが導入されるようになった。

しかし,一般的にRO膜の最高使用温度は45℃であり,被処理水の水温が45℃より高い場合は熱交換技術などで水温を下げる必要があるため,コスト面が大きな課題となっている。特に,Up-Streamから排出される排水の水温は50℃以上と比較的高い傾向があり,さらに,石油やガスの産出が多い地域は比較的外気温も高いことから,熱交換技術を導入しても効率が悪く,コストが合わずに排水再利用普及の妨げとなっていた。

そこで,日立はUp-Streamに設置される脱塩設備に着目し,その排水を循環再利用するシステムを開発した。

脱塩設備は,原油中に微量残留する水分に溶解している無機塩類を除去するために,無機塩類の濃度の低い水を原油に投入し,電場をかけて振動させることで水分子を会合させ,原油から無機塩類を水と一緒に効率よく分離する設備である。したがって,運転時に無機塩類の濃度が低い大量の水を必要とするため,無機塩類の濃度を2万mg/Lから数千mg/Lまで低減した排水処理水の再利用に対しては非常に高いニーズがある。しかし,この排水は,55〜60℃と高温でかつ高濃度硫化水素,油分,濁質,重金属などを含むため,従来技術の組み合わせでは効率よく無機塩類を除去することができなかった。

日立は,高効率油分・濁質除去技術(耐熱性精密ろ過膜など)と脱塩技術(耐熱性RO膜など)を組み合わせ,Up-Streamに適用可能な革新的システムを構築した(図7参照)。本システムで適用した膜の最高使用温度は,精密ろ過膜が70℃,逆浸透膜が65℃であり,熱交換技術を必要としないためコスト的なメリットも大きい。さらに,本システムを導入することで,排水を地下の古井戸に圧入して処理する必要もなくなるため,省エネルギーや環境負荷低減の効果も期待できる。

今回新規に適用した2種類の高温耐性膜は,オイル&ガス分野のみならず,造水の中核技術として,さまざまな分野や用途に適用できる可能性がある。

4. おわりに

生命体,産業に水が必要不可欠であることは,誰もが認識するところである。しかし人口増加,産業発展などによる水需要の増加が引き起こす水不足は,これらを脅かす問題として顕在化しつつある。

日立は,水不足の解消に向けて淡水化システムの普及を推進していくと同時に,さらなる顧客ニーズ,課題をグローバルに捉え,積極的な技術開発に取り組むことで,地球規模での水環境改善に貢献していく考えである。

参考文献など

1)
国際協力事業団国際協力総合研修所:水分野援助研究会報告書 途上国の水問題への対応(2002.11)
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