日立評論

京都大学との多彩な知のコラボレーションを通して飛躍的な進化をめざす日立AIの未来

生物の進化にならう,次世代のAIへ

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Hitachi

日立評論

日立は現在,大量のデータを活用してさまざまな最適化・判断を自動化し,企業のアウトカムの向上に貢献する「Hitachi AI Technology/H」の事業化を進めている。一方で,急激に変化する時代を見据え,次々に現れる課題に応じて進化する,次世代AI「生物に学ぶAI」の研究開発にも着手。京都大学との新たな協創の場である「日立京大ラボ」を中心に,“生物の進化にならう”ことで自ら学習し,進化し続ける新しいAIの実現をめざしている。

日立京大ラボのメンバー

効率化や生産性向上に資する日立のAI

研究開発におけるAI(Artificial Intelligence:人工知能)の位置付けと目的を教えてください。

谷崎今後,社会課題を解決するうえでは,IoT(Internet of Things)でモノやヒトのデータをつなげ,集めたビッグデータを解析して効率化につなげていくことが不可欠になります。顧客協創を通じてこれを実現するために,2016年5月,日立はIoTプラットフォーム「Lumada」を立ち上げました。この中のデータ解析において,AIは重要な役割を担います。

その一つが,日立独自の「Hitachi AI Technology/H」(以下,Hと記す。)です。Hは,分野や目的に応じてプログラムを変えることなく,日々の業務や設備,システムなどさまざまな用途において,アウトカム(上位目的)の達成を実現します。Hは,さまざまな分野に活用できることが特長であり,すでに14分野において,生産性の向上や運転コストの削減,電力消費削減などに貢献しています。

森脇Hの研究を進めてきた背景には,世の中の経営を取り巻く環境が大きく変化し,不確実性が高まる中で,企業にはさらなる事業の効率化やスピードアップ,更には破壊的なビジネスモデルが求められるようになったことがあります。これを実現するには,収集したデータを分析して見える化するだけでは不十分であり,アウトカムに対してより直接的に貢献する施策が求められます。つまり,膨大な情報の中から,アウトカムに貢献する最適解を発見する必要があります。そこで,従来の認識型のAIではなく,データ間の膨大な組み合わせに着目した発見型のAIが必要になると考えました。Hは人の代替ではなく,社会の基盤として人を支援するAIをめざしています。

昨今,AIの世界では深層学習(Deep Learning)が脚光を浴びていますが,深層学習が得意とするのは主に画像などのパターン認識です。日立は社会インフラのOT(Operational Technology)の中で,画像に限らず多種多様なデータを扱ってきた実績があり,専門的な知見やノウハウがHの応用に生かされています。

谷崎それこそが日立の強みであり,実業において実証を重ね,新たな課題を見つけて解決するというループによって研究開発を加速させています。

生物から学ぶ,新たなAIの可能性

一方で,次世代のAI研究も始まっていますね。「日立京大ラボ」の取り組みを教えてください。

谷崎一昨年,日立の研究開発グループは,顧客協創を推進する3つのセンタを立ち上げ,その中の基礎探索を担う基礎研究センタにおいて,大学とのオープンイノベーションを進めてきました。基礎研究センタから約30名が京都大学,東京大学,北海道大学にそれぞれ常駐し,日立京大ラボでは,「ヒトと文化の理解に基づく基礎と学理の探究」をテーマに,未来の社会課題を洞察し,その課題解決と経済発展の両立に向けた新たなイノベーションの創出に取り組んでいます。

具体的なテーマの一つが,次世代のAIの探索です。ITの普及やグローバル化の進展に伴い,価値観や行動様式が大きく変化する中,われわれには次々に立ち現れる課題に対し,迅速に対応していくことが求められます。そのために資するAIとして日立が着目したのが「生物の進化」であり,生物のように自己変革しながら,臨機応変に問題を解く次世代AI「生物に学ぶAI」です。日立から8名の研究員が京大に在籍し,生物系の先生方と議論を開始しました。

谷崎ここでは,生物にならいAIの技術を高めていくことに加え,これまで京大で取り組まれてきた先進的な霊長類研究などの知見を踏まえて,人間の社会活動の根源的な問題を掘り下げながら,AI活用のあり方を考えるという,二つの側面があります。

森脇従来のAI研究は人間の高等生物としての特徴である言葉を扱う能力,つまり「形式知」の共有に主眼が置かれていましたが,今後必要となるのは,人間の認識を超えた言葉にならない暗黙的な知識です。生物にならうAIは,まさにこの「暗黙知」の活用に迫る挑戦であり,新たなAIの方向性として多いに期待できます。

生物にならうAI

生命の創造性を産み出す仕組みを,人工知能の言葉に翻訳する

生物にならうAI研究のアプローチについて教えてください。

着目しているのは,生物の脳ではなくDNA(デオキシリボ核酸)です。生物は,環境変化を生き抜き,40億年にもわたる歴史の中で進化を遂げてきましたが,その知恵はすべてDNAに書き込まれています。DNAは,アデニン(A)とグアニン(G),シトシン(C),チミン(T)というわずか四種類の核酸で構成されており,いわば生物の体を形作るタンパク質の設計図です。そして,この設計図に書かれたタンパク質を,細胞の中で実際に合成するかしないかをON/OFFするDNAの外の機構と組み合わせることで,生物は単純な細胞がおのおのの機能を持つ細胞に分化していったり,多種多様な種に進化してきました。

これは,生物の成長や進化の仕組みを化学の世界,つまり生物を構成する分子構造と化学反応から成るハードウェアとみなしてとらえたものです。一方で,これを情報処理の世界,言い換えれば,ソフトウェアとみなして考えることもできます。すなわち,DNAはAGCTの4進法の数値で書かれたプログラムであり,それらのプログラムの機能をON/OFFするスイッチと組み合わせることで,絶え間なく変化し続ける外界の環境へ適応する生体システムとみなすことができるわけです。このように,生物自身が持つ多様性,創造性を産み出す仕組みを,情報処理の言葉で再解釈し直し,新しいAIの実現をめざしていきたいと思います。

これまでも大学との共同研究はありましたが,従来とは何が違うのでしょうか。

これまでは,製品やサービスをいつまでにつくるといった明確な目標を定め,そのために必要な技術を持つ外部の研究者と組むことが多かったのに対し,「未来を思考する」という大きな社会課題に取り組む点です。日立の研究者が実際に京大に常駐することで,より密に,真剣な議論ができるようになった点も,従来の共同研究と大きく異なります。生物学だけでなく,工学,社会学,倫理学など,多様な学問分野の研究者と議論を深める中で,今後の人間とAIの関わりを含め,未来社会の課題をより広く,深く探索していきたいと考えています。

谷崎東大ラボでは,第5期科学技術基本計画で提唱された超スマート社会「Society5.0」をテーマに国家的ビジョン創生をめざし,日立北大ラボでは北海道の地域特性を活用して社会課題の先行探索と実証に取り組んでいます。日立はビジョン創生,研究開発における社会価値の実証,さらには事業化を見据えたエコシステムの形成まで,大学をはじめ各パートナーと連携して日本発の社会イノベーションの実現をめざしていきます。

研究開発グループ システムイノベーションセンタ 知能情報研究部 部長

森脇 紀彦

研究開発グループ 技術戦略室 戦略統括センタ ストラテジースタッフ

谷崎 正明

日立京大ラボ ラボ長代行 兼 京都大学 産官学連携本部 日立未来課題探索共同研究部門 特定准教授

嶺 竜治

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