日立評論

地球環境との共生をめざす次世代エネルギーソリューション

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日立評論

ハイライト

低炭素社会の実現に向けた世界的な環境規制の動きの中,国内では電力システム改革が同時進行し,電力・エネルギー分野が大きく変わろうとしている。
一方で,地域ごとの課題は多様化しており,きめ細かいソリューションが求められている。

日立グループは,これまでに電力・エネルギー分野へ提供してきたさまざまなプロダクト・システム技術に,OT(制御技術など)とITを融合させた,トータルなソリューションで課題解決に貢献している。顧客との協創により,地球環境と共生した次世代エネルギーソリューションを提供し,電力・エネルギー分野のイノベーションをグローバルにリードしていく。

目次

執筆者紹介

菅野 周一Kanno Shuichi

  • 日立製作所 電力ビジネスユニット 研究開発企画部 所属
  • 現在,原子力・電力・エネルギーソリューションの研究開発企画に従事
  • 博士(環境科学)
  • 日本化学会会員
  • 触媒学会会員

池田 啓Ikeda Hiraku

  • 日立製作所 電力・エネルギー業務統括本部 所属
  • 現在,電力・エネルギー分野の戦略立案・実行,アライアンス,広報,渉外活動の取りまとめに従事
  • 日本機械学会会員

1. はじめに

電力・エネルギーインフラ市場が大きく変化しようとしている。世界規模での温暖化ガスの排出量削減,原油や天然ガスなどの資源市場変化,再生可能エネルギーの導入量拡大,さらに国内での電力システム改革などの社会的変化に伴い,世界規模で電源構成の見直しが進められている。

一方,電力・エネルギーインフラへの要求は,地域・国によって多様化している。米国では,電力流通インフラの老朽化や天災などによる大規模停電の防止,再生可能エネルギー導入量増加時の系統安定化が喫緊の課題である。新興国では,無電力地域に向けた分散電源システムなどエネルギーインフラの整備が必要である。日本においては,2016年4月の電力小売全面自由化により,多くの事業者が新電力として小売事業へ参入している。また,2020年の発送電分離に向け,計画同時同量を成立させる需給管理が大きな課題の一つとなる。このように,国・地域に応じたきめ細かな対応,さらには未来にわたる持続可能性を意識した取り組みが必要である。

日立は,電力・エネルギーインフラ市場に多くのプロダクト・コンポーネント,システムを提供してきた。これらの強みを生かしつつ,顧客の問題解決につながるソリューションの提供に取り組んでいる。今回は,エネルギー業界の社会的変化から導き出される課題と求められる対応策,そして日立の取り組む次世代エネルギーソリューションについて述べる。

2. エネルギー業界の動向と課題

2.1 電力・エネルギー業界の動向

2015年12月にパリで開催された第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)でパリ協定が採択され,2016年11月に発効した。これにより,各国が今世紀後半に温暖化ガスの排出量をゼロにすることをめざす。

一方,世界の発電電力量は増加しつつあり,2030年の再生可能エネルギー発電量は2014年比で2倍に達する見通しである(図1参照)1)

図1|世界の発電電力量再生可能エネルギーの割合が増大し,電力システムの高い需給調整力が要求される。

電力自由化で先行している米国では,再生可能エネルギーの導入量増大に伴う系統不安定化や送電混雑が多発しており,混雑解消を目的としたNon-wire-solution(送電線建設以外のソリューション)という動きも見られる2)。再生可能エネルギーの発電コストは,この6年間で風力は60%,太陽光は80%低減しており,マイクログリッド市場は2022年には3兆6,000億円規模(年間成長率10.9%)になる見通しである3)

国内の動きとしては,東日本大震災により,大規模集中電源の停止に伴う供給力不足,計画停電などの画一的な需要抑制といった電力システムの課題が顕在化した。そのため,2013年4月の「電力システムに関する改革方針」では,(1)広域系統運用の拡大,(2)小売及び発電の全面自由化,(3)法的分離の方式による送配電部門の中立性の一層の確保,という3段階から成る改革の全体像が示されている。また,エネルギー起源のCO2が急増したことから,2015年7月に長期エネルギー需給見通し(エネルギーミックス)が策定された。2030年までに発電電力量に占める再生可能エネルギーの割合を22〜24%まで引き上げる目標である※1)

効率的に需給バランスを最適化する技術としては,点在する小規模な再エネ発電や蓄電池,燃料電池などの設備と,電力の需要を管理するネットワーク・システムをまとめて制御するVPP(Virtual Power Plant)がある。そのほか,エネルギー利用効率を高めながら安定した電力を供給するためにITを活用したデジタル変電所システム,現実空間の物理データをサイバー空間に持ち込み,種々のシミュレーションを行い,現実空間にフィードバックして制御するCPS(Cyber Physical System)などが注目されている。

また,電力システム見直しの中で,IoT(Internet of Things)の導入が全世界的に加速している。インターネットやスマート機器の普及に伴い,高精度での電力需要制御が可能となり,電力系統の信頼性向上に向けたビッグデータや人工知能の活用が進められている4)。一方で,重要インフラ設備へのサイバーアタック対策として,米国ではサイバーセキュリティの情報共有や産学官連携が強化されている5)

※1)
2014年の再生可能エネルギーの割合は12.2%(水力を除くと3.2%)。

2.2 課題と対応策

図2|温暖化ガス排出量の内訳(2014年度)CO2排出量削減の目標達成にはエネルギーミックスの実現が必要となる。

前述のように,地球温暖化対策は国際的な枠組みとなる。2014年の日本の温暖化ガス排出量に占めるエネルギー起源のCO2は,87.2%の11億8,900万トンCO2であった6)図2参照)。すなわち,日本の削減目標達成には,風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーの導入量増大が重要な対応策の一つとなる。変動幅の大きい再生可能エネルギーを増やす一方で,安定的なベースロード電源を確保するという取り組みも合わせて考える必要がある。

また,再生可能エネルギー導入量の増大に対応する系統安定化,計画同時同量の成立には,高精度な需給管理,分散電源システムと集中電源システムの融合といった技術が対応策となる。これは先進国の老朽化インフラのリプレイス,新興国のエネルギーインフラ整備向けなど海外に向けても適用できる。

3. 日立のエネルギーソリューションへの取り組み

日立はこれまで,電力システムを構成する機器の省エネルギー化や発電プラントの高効率化などプロダクト・システム(ハードウェアインフラ)を中心に取り組んできた。これからはさらにサービスやソリューション(ソフトウェアインフラ)への取り組みを強化する。顧客や日立が持つOT(Operational Technology)に,ITおよび強みのプロダクト・システムを融合し,顧客との協創で,デジタル技術を活用したトータルソリューションを創生していく(図3参照)。

図3|デジタル技術を活用した協創型エネルギーソリューションの提供これまで培ってきた電力・エネルギーに関するノウハウやデジタル化技術を活用し,顧客との協創により最適なソリューションを提供していく。

本章では,次世代エネルギーイノベーションをリードする,風力・太陽光発電システム,安定した大規模電源としての原子力発電システム,および系統安定化を実現するエネルギーソリューション,さらにはサービス高度化の一例を紹介する。

3.1 低炭素社会を実現する再生可能エネルギー

3.1.1 風力発電システム

図4|アップウィンド型とダウンウィンド型ダウンウィンド型はブレードをタワーの風下側に設置する方式であり,山岳地や丘陵地においても高効率・安定な発電出力を実現する。

大型風車は,ロータをタワーの風上側に配置するアップウィンド型が一般的であるが,日立の風車は風下側に配置するダウンウィンド型である(図4参照)。ダウンウィンド型の主な特長として,次の2点が挙げられる。

(1) ナセルの風向きを制御するための風向計をロータの風上側に設置でき,ブレードが発生させる風向の乱れの影響を受けにくく,発電ロスを低減できる。

(2) 強風時にはブレードとタワーのクリアランスが拡大し,高い安全性を有する。

日立は,5 MWダウンウィンド洋上風力発電システムにおいて,ロータの受風面積を15%拡大することで,年平均風速7.5 m/sの低風速地域でも発電量の増加が可能となる「HTW5.2-136」を開発した。

本号では,洋上向け5 MW風車の開発・実証状況,浮体式の開発状況を,最新の制御技術にフォーカスして報告する。

3.1.2 太陽光発電システム

図5|大分ソーラーパワーの全景中央部が発電所であり,周りは海や河に囲まれている。敷地は約1 km四方に及び,ほぼ敷地全面にPV(Photovoltaic)モジュールを敷設している。

日立は,メガソーラー発電システム全体の取りまとめ供給をEPC(Engineering, Procurement and Construction)で実施している。また,このシステムを構成するPCS(Power Conditioning System),変圧器などの機器から,発電設備の運転監視・発電量計測システム,O&M(Operation and Maintenance)サービスまで幅広く手掛けている。最新技術としては,半導体デバイス理論に基づいて算出する故障診断モデルの理論出力と,実際のストリング※2)出力を比較することで高精度化した故障診断システムも提供している。

2012年に丸紅株式会社の子会社である大分ソーラーパワー株式会社より一括受注した日本最大規模の82 MWメガソーラーは,2014年3月に運転を開始し,安定稼働中である(図5参照)。

本号では,2016年2月の改正FIT(Feed-in Tariff)法に対応した新しい太陽光発電出力制御システム,および2015年度に九州電力株式会社が実施した実証事業の内容を報告する。

※2)
出力電圧を高めるため,太陽電池モジュールを15枚程度直列に接続したもの。

3.2 安定した大規模電源−原子力発電システム−

変動の大きい再生可能エネルギーの導入量が増大する中で,安定して大量の電力を供給できる原子力発電は,ベースロード電源として重要である。

日立は,2012年11月に英国の原子力発電事業開発会社であるホライズン社の株式を取得し,英国内2か所のサイトに原子力発電所を建設する方針を策定した。ホライズン社初のプロジェクトとなるウィルヴァ・ニューウィッドの原子力発電所は,2020年代前半の運転開始をめざしている。英国初となるABWR(Advanced Boiling Water Reactor)の技術認可は,英国原子力規制庁(ONR:Office for Nuclear Regulation)による包括的設計審査(GDA:Generic Design Assessment)の手続きが最終のステップ4に進んでおり,2017年末に取得予定である。

本号では,エコ・サステナビリティに優れた原子力発電システムの優位性を述べるとともに,再稼働に向け,世界最高水準の安全性・信頼性を実現する技術の開発状況を報告する。

3.3 電力系統安定化を実現するエネルギーソリューション

日立は,送変電・受変電・系統システムや,需要家のマネジメントサービス,最近では,小売全面自由化に対応したシステム構築・運用など,これまでに培った技術と知見をベースにエネルギーソリューションを提供してきている。

例えば,国内では2014年に運開した柏の葉スマートシティは産官学連携のプロジェクトで推進し,環境共生のコア技術として柏の葉AEMS(Area Energy Management System)を開発することで,創エネ・省エネ・蓄エネ設備の地域エネルギー利用の最適化に貢献した。海外では,ハワイ電力スマートグリッド実証事業に参画し,大型蓄電池や,電気自動車の蓄電池を活用した余剰エネルギーの貯蔵や安定化技術の開発を進めてきた。

本号では,省エネルギー・系統安定化のためのエネルギーマネジメント技術,蓄電池活用技術について実証事例を用いて報告する。また,デマンドレスポンス,VPP技術のソリューションへの展開,および北米でのマイクログリッドに関する新しい取り組みについて報告する。

3.4 保守デジタライゼーション

最後に,保守サービス高度化の取り組みを紹介する。多くのプロダクト・システムのビッグデータから有意な情報を取り出すデータマイニング技術と,高度解析技術を連動させ,平常状態からの変化の兆しを把握する予兆診断システムHiPAMPS(Hitachi Power Anomaly Measure Pick-up System)を開発した。さらには,顧客の機械設備側で情報処理を可能とし,情報を外部へ転送することなく一定範囲の情報処理を行い,結果を顧客にフィードバックするエッジコンピューティング環境であるHiPAMPS-EdgeをEurotech S.p.A. と共同で開発することに合意した。

本号では,HiPAMPS,HiPAMPS-Edge を活用したデジタルソリューションの適用例と,予兆診断サービスの将来構想を報告する。

4. おわりに

日立グループは,多くの事業分野において,OT,IT,プロダクト・システムのノウハウを蓄積してきた。これらのノウハウに,市場に導入した電力機器・システムから得られるビッグデータと,オペレーションの蓄積から得られるDeep Dataとを組み合わせ,IoTプラットフォーム「Lumada」を基盤として新しい価値を顧客とともに協創していく。そして,さまざまな課題を,顧客とともに解決するエネルギーソリューション事業を推進していく。

参考文献など

1)
IEA: World Energy Outlook 2016 (2016.11)
2)
The Bonneville Power Administration, https://www.bpa.gov/Projects/Initiatives/Pages/Non-Wires.aspx
3)
Microgrid Market worth 34.94 Billion USD by 2022, MARKETSANDMARKETS, http://www.marketsandmarkets.com/PressReleases/micro-grid-electronics.asp
4)
IBM Watson Internet of Things Technology Helps Fingrid Keep Power On, IBM, http://www-03.ibm.com/press/us/en/pressrelease/49144.wss
5)
経済産業省資源エネルギー庁:電力分野における サイバーセキュリティ対策について(2016.7),http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/denryoku_gas/kihonseisaku/pdf/007_06_00.pdf
6)
環境省:2014 年度(平成26年度)の温室効果ガス排出量(確報値)について,http://www.env.go.jp/press/files/jp/102572.pdf
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