日立評論

産業分野へのIoT対応機器とビジネス展開

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低炭素社会をめざす産業分野の環境適合技術

産業分野へのIoT対応機器とビジネス展開

ハイライト

世界中の製造業において,膨大なデータを活用したスマートファクトリーの実現に向けて,産業機器のIoT化が進んでいる。

株式会社日立産機システムは長年,産業分野へ製品を提供してきた実績を踏まえ,データを収集および活用する2つの「産業IoTソリューション」を提供している。1つは,設備・装置の運用・保守を最適化するLCMサービスで,クラウド経由で機器の状態を監視できるサービス「FitLive」を開始した。もう1つは,生産システムの運用・制御を最適化するPACシステムで,その中核となるIoT対応産業用コントローラ「HXシリーズ」の提供を開始した。HXシリーズは日立産機システムのインバータ生産ラインに適用し,生産性向上活動のノウハウを蓄積している。

今後は,これら2つの産業IoTソリューションを相互に情報連携させ,さらなる最適化に貢献していく。

目次

執筆者紹介

伊東 厚Ito Atsushi

  • 株式会社日立産機システム 事業統括本部 IoT・LCM推進室 所属
  • 現在,産業IoTソリューションの推進に従事

苗村 万紀子Naemura Makiko

  • 株式会社日立産機システム 事業統括本部 IoT・LCM推進室 所属
  • 現在,産業IoTソリューションの推進に従事

鳥取 伸宏Tottori Nobuhiro

  • 株式会社日立産機システム ソリューション・サービス統括本部 サービス事業部 LCMセンタ 所属
  • 現在,LCMサービスの推進に従事

佐藤 和雄Sato Kazuo

  • 株式会社日立産機システム 事業統括本部 ドライブシステム事業部 企画部 所属
  • 現在,ドライブシステム製品の事業企画に従事

田村 史之Tamura Fumiyuki

  • 株式会社日立産機システム 事業統括本部 ドライブシステム事業部 制御システム設計部 所属
  • 現在,IoT対応産業用コントローラの開発に従事

望月 義則Mochizuki Yoshinori

  • 日立製作所 研究開発グループ システムイノベーションセンタ インフラシステム研究部 所属
  • 現在,情報制御プラットフォームの研究開発に従事
  • 計測自動制御学会会員

今井 光洋Imai Mitsuhiro

  • 日立製作所 研究開発グループ システムイノベーションセンタ インフラシステム研究部 所属
  • 現在,情報制御プラットフォームの研究開発に従事

白根 一登Shirane Kazuto

  • 株式会社日立産機システム 研究開発センタ 情報制御プロジェクト 所属
  • 現在,産業用機器の情報化に関する研究開発に従事
  • 工学博士
  • 計測自動制御学会
  • 日本ロボット学会会員

山崎 正裕Yamazaki Masahiro

  • 株式会社日立産機システム 研究開発センタ 情報制御プロジェクト 所属
  • 現在,産業用機器の情報化に関する研究開発に従事

1. はじめに

近年,製造業では,膨大なデータを活用し,スマートファクトリーを実現しようという潮流がある。米国ではIndustrial Internet,ドイツではIndustrie 4.0と言われている。どちらも現場や外部環境データを収集し,集めたデータを活用し,運用経験や知恵を生かし,最適化を行いスマートファクトリーを実現しようとしている。

製造業における生産システムや設備機器は,これまで長い年月をかけて技術革新により高度化されてきた。生産システムや設備機器は,多くの情報やデータおよびさまざまな制御ネットワークにより,高度にコントロールされている。最近では,サプライチェーン,デリバリチェーンと工場の間での情報交換も始まっており,そのデータや情報処理技術の重要性が増している。

スマートファクトリーの一つの形は,多数の事業所や企業が相互に関係しながら最適に製品やサービスを提供する,というものである。これらの事業所や企業は,ネットワークで相互につながる。さらに,このネットワークにサプライヤー,工場,物流そして消費者がつながることで,リアルタイムでの情報共有や,人の作業やノウハウのデータ化,そのノウハウや知見の蓄積,活用ができるようになる。その結果,モノづくりのプロセスにおいて,幅広い判断がリアルタイムにスピーディにでき,個別の工程から生産全体までの見える化が可能となる。こうしたことから,品質や不具合対応力が向上し,さらに,ICT(Information and Communication Technology)の革新技術を活用することで,これまで人に依存していたノウハウをデータとして蓄積できるようになるというメリットが期待されている(図1参照)。

図1|日立産機システムが取り組む産業IoTソリューション日立産機システムでは,設備・装置の運用・保守の最適化と,生産システムの運用・制御の最適化という2つのアプローチからスマートファクトリーの実現に取り組んでいく。

2. 日立産機システムの産業IoTソリューション

株式会社日立産機システムは長年,産業分野へ製品を提供してきた。この実績を踏まえ,データ収集と活用およびその結果をフィードバックする産業IoT(Internet of Things)ソリューションへの取り組みを開始し,スマートファクトリー化に寄せられている期待へ対応する。

日立産機システムのプロダクツは「つながります」,「つなぎます」をコンセプトに,スマートファクトリーの実現に向けて製品・サービスで貢献する。

図2|LCMサービスでのIoTクラウド監視サービスFitLiveのシステム構成の概略を示す。設備の情報をクラウド上に集約し,Webを利用して閲覧できるようにする。顧客と保守サービス網の連携を強化し,付加価値の提供につなげる。

具体的な内容として,日立産機システムが取り組む2つの産業IoTソリューションとして「LCM(LifeCycle Management)サービス」,「PAC(Programmable Automation Controller)システム」を以下に紹介する。

LCMサービスは,設備・装置の運用・保守の最適化を目的に,長年の実績(ノウハウ)をコアに運用・保守サービスを強化する(図2参照)。これに監視を加えた「FitLive」(フィットライブ)を適用し,LCMサービスを強化する。LCMサービスでは,産業用設備の導入からアフターサービスまで,顧客のニーズに沿った高付加価値なサービスを提供することをコンセプトとしている。

PACシステムは生産システムの運用・制御の最適化を目的に,制御と情報を融合しオートメーション・ドライブ機器を強化する。ここに長年培ってきた各種ソリューションを適用していく。PACシステムは,生産システムの制御の高度化はもとより,運用の最適化にICTを適用したシステムを提供することをコンセプトとしている。

そして,この2つのIoTソリューションを相互に連携させ,さらなる最適化に貢献していく。

2.1 LCMサービス

産業用設備機器LCMサービスとIoTクラウド監視サービスについて述べる。

日立産機グループは充実したサービスネットワークを有している。これを用いて,LCMサービスでは設備の導入からアフターサービスまで,顧客のニーズに沿った「安心・安全・安定稼働」をサポートするとともに「省力化・簡素化・効率化・最適化」といった高い付加価値を提供する。

図3|FitLive画面,レポート例稼動データや点検履歴などを確認できるほか,稼動レポートを出力することもできる。

日立産機システムでは,このLCMサービスを実現するために,「FitLive」というIoTクラウド監視サービスを開始した。「FitLive」とは,「Factory」設備に「IT」機能を加えて,さまざまなニーズに対応する「Fit(フィット)」と,リアルタイムに監視を続ける「Live(ライブ)」を意味している。

日立産機システムの主力製品の一つに空気圧縮機がある。例えば,この空気圧縮機のLCMサービスにFitLiveを適用することで,特約店・販売店の保守サービスとの連携を強化したワンストップ保守の実現に貢献する。空気圧縮機から吐き出し温度・電流値・消費電力などのデータを携帯網を使ってクラウドへ集め,そのデータを目的別の画面で監視できるようにしている(図1参照)。

空気圧縮機の監視画面を図3に示す。空気圧縮機の稼働状態が一目で分かるように,稼働データとそのグラフ表示,点検履歴や故障履歴,トラブルシュートのガイドなどを準備している。監視画面の他に,稼働レポートの提出などを行う。

2.2 PACシステム

次に生産システムの運用・制御の最適化を行うPACシステムについて紹介する。

モノづくりやサービスの革新をIoT化によって実現する,PACシステムの概念を図4に示す。

図4|PACシステム概念図PACシステムは,生産システムとより上位のシステムの間に位置づけられ,システム間のシームレスな接続を可能とする。これにより,データ収集,分析,判断などを行う環境を迅速に構築できる。

生産現場ではオートメーション・ドライブ機器が生産システムを構成する装置や機械を制御している。PACシステムは,オートメーション・ドライブ機器が扱うデータや制御内容に着目し,生産システムを工場内の上位システムあるいはクラウドシステムにシームレスに接続する。

PACシステムの特長は,生産システムの制御とICTを共存させることを可能とし,従来システムでは手間のかかっていた上位システムとの接続を情報系視点で容易にすることにある。

この特長により,生産現場のデータ収集と可視化,上位システムでのデータ蓄積,その分析・解析・判断,および可視化,判断結果を踏まえた制御の実行までを行える環境を迅速に構築でき,その後の変更も柔軟に行うことが可能となる。

上位システムにおいて蓄積したデータは,異種システムとの連携や,各種サービスへと展開できる。

3. IoT対応産業用コントローラ「HXシリーズ」

PACシステムを構成する中核となるコントローラとして開発した,IoT対応産業用コントローラ「HXシリーズ」を紹介する。

3.1 HXシリーズの概要

図5|HXシリーズ特長機能多数の通信方式に対応するとともに,制御と通信機能の一体化により省スペース化も図っている。

IoT対応とうたっている通信に関する最大のポイントは通信機能強化と徹底したオープン化である。そのイメージを図5に示す。

情報系視点で生産システムとの接続の容易性に対応する「OPC UA(OLE for Process Control Unified Architecture)」,「FTP(File Transfer Protocol)サーバ」,「簡易モニタ機能」と,生産システムを構築するために実際の現場で長年使用されている「Modbus対応」,最近話題になっている制御ネットワーク「EtherCAT対応」とその上で動作する「モーション制御」などを備えている。

この他,USB(Universal Serial Bus)メモリ,SDメモリ,Ethernetも3ポートを備え,制御と通信機能を一体化し,省スペース化にも成功した。

3.2 HXシリーズの生産システムへの適用事例

日立の生産ラインへHXシリーズを適用し,情報系機能を使い,生産性向上活動を支援するIoTソリューションの試行を開始している。

日立インバータ生産ラインにHXシリーズを適用し,改善継続プロセスを構築し,継続的な生産性向上活動の支援とノウハウの蓄積を推進する(図6参照)。

図6|生産ラインへの適用事例日立インバータ生産ラインにHXシリーズを適用した。生産設備から取得した情報をサーバ内に蓄積する。このデータを利用して稼動状態を見える化することで,生産現場での改善活動を推進している。

2010年から稼働中のインバータ自動生産ラインにHXシリーズを取り付け,既設PLC(Programmable Logic Controller)より工程情報を取得し,工場所有のサーバ内のPTC社ThingWorxにデータを蓄積する。このデータを利用して,稼働状態をリアルタイムに関係者のパソコンや携帯端末で一目で分かるように見える化を実現している。あわせて,HXシリーズ自体の詳細状態の監視やプログラム・設定の変更も,事務所から遠隔操作できるようにしている。

HXシリーズを追加しての立ち上げ期間は,実際の稼働を止めることなく,約2か月あまりで行うことができ,その後は生産現場の日々継続する改善活動に取り込むことでシステムの活用を継続している。

このシステムの特長は,生産ラインの全体制御を行う既設のPLCが,その制御に使用しているデータを活用して,生産性向上のスモールスタートとしている点にある。今後は継続的な生産活動の改善活動に取り込んで運用していく。

3.3 HXシリーズの特長

図7に示すように,HXシリーズは,産業分野の制御を行いながら,集めたデータを情報管理分野へ蓄え,利活用すること,その解析結果に基づく制御をシームレスに連携して行うことを可能としている。自動機械・生産設備の中核制御と通信を一体化した新しい産業用コントローラとして,通信制御,モーション制御,シーケンス制御を一体化し,オープン化・グローバル化,高性能化,シンプル化を製品コンセプトにしている。

図7|HXシリーズのコンセプトと特長オープン化・グローバル化,高性能化,シンプル化をコンセプトとした。

オープン化・グローバル化については,国際標準プログラミング言語,EtherCATやOPC UA通信への対応を,高性能化についてはモーション制御,通信制御,SDカード対応などができる性能を備えた。シンプル化については,現場制御をソフトPLC化し,情報通信はIP(Internet Protocol)通信ができ,各制御の一体化,独立した3つのEthernetのほか,各種フィールドネットワークにもオプション対応している。

このほか,外部からの不正アクセス防止,アクセスユーザー管理,専用機能ライブラリ非表示機能などによる制御セキュリティ対策も実施している。

情報分野との連携機能として,データの見える化を行うVisualization機能がある。従来はPLCなどのデータを表示するために専用の表示器を必要としていたが,手持ちのパソコンや携帯端末のブラウザで図8に示すグラフやコントロールパネル的な表示を行うことが可能となっている。作画やHXシリーズ内のどの変数を表示するかについてもプログラミングソフトとして提供しており,専用表示器がなくても「見える」化が可能となっている。

図8|Webブラウザによるモニタリング機能HXシリーズ内のデータを,専用の表示器を用いずに表示することができる。

上位システムとの接続においては,OPC UAサーバ機能を備えている。

OPC UAとは,センサーおよび現場レベルから,製造レベルおよび生産計画またはERP(Enterprise Resources Planning)システムへ,セキュアで信頼性が高く,ベンダーに依存しない伝送を可能とするプロトコルである。

従来は,SCADA(Supervisory Control And Data Acquisition)やMES(Manufacturing Execution System)を使ったシステムを構築する場合,使用するPLCに合わせた通信ソフトを用意し,パソコンやサーバ内にOPCサーバを構築して,画面表示や操作指示を行うSCADAやMESのソフトを動作させていた。

SCADAやMES,およびコントローラがOPC UAに対応することで各社ばらばらだった通信が不要になり,マルチベンダー対応が可能となる(図9参照)。

図9|OPC UAによるマルチベンダー対応HXシリーズは,上位システムとの接続のためにOPC UAサーバ機能を備えている。SCADAやMES,ERPと接続する際に,ベンダーに依存しないデータの伝送が可能になる。

HXシリーズでは情報系エンジニアにとって扱いやすくなる機能が搭載されており,Visualization機能やOPC UAの他に,SDメモリやFTPサーバを使うことができる。

HXシリーズ内のデータをファイル[例えばCSV(Comma-separated Values)ファイル]にするためのファンクションブロックを使って,ファイルをSDメモリに作成することができる。このファイルを取り出してパソコンで読み出すことができる(図10参照)。また,FTP操作により,遠隔からのファイル取り出しや書き込みができる。

図10|SDメモリによるデータ交換HXシリーズでは,パソコン等で一般的に利用されるSDメモリに対応している。データ交換に利用できるほか,通信不可時に一時的にデータを保存することもできる。

先に紹介した日立産機システムの生産ラインにおいても,HXシリーズが集めたデータをCSVファイルとして作成し,Visualization機能でそのデータを見て詳細な状況を把握しながらシステム構築を実施した。並行して情報システムを得意とするエンジニアがFTP操作により自席パソコンからデータを確認し,見せるための画面を作成した。

次に,HXシリーズの制御プログラミングについて紹介する(図11参照)。

図11|IEC61131-3プログラミングソフトHXシリーズは,国際標準規格に準拠した言語でのプログラミングが可能である。5種類の言語を目的に合わせて使い分けることができる。従来のベンダー固有のプログラミング方式に比べ,ソフトウェア開発効率を高められる。

HXシリーズでは国際標準規格IEC61131-3に準拠したプログラミングソフトCODESYSというソフトウェアを採用している。CODESYSを搭載しているベンダーは400社を超え,世界で数万社に上るユーザーがいる。PACシステムを構成する株式会社日立産業制御ソリューションズのHF-Win IoTにおいても,CODESYSを採用しているモデルではモーション制御を含め,HXシリーズとユーザープログラムは互換性があり,相互利用ができるようになっている。

IEC61131-3では5種類の言語があり目的に応じた使い分けをすることができる。合わせてCODESYSではモーション制御のライブラリが多数提供されている。システム構築においてソフトウェア開発がコストに占める比率は高く,IEC61131-3を採用することにより,ベンダー固有のプログラミング方式に比べ,ユーザーにおけるソフトウェア開発効率が高まる。

3.4 IoTプラットフォームとの連携

図12|各社IoTプラットフォームとの連携HXシリーズは,各社が提供するIoTプラットフォームとの接続が可能である。

各種情報系IoTプラットフォームとの接続について紹介する。

先ほどの日立の生産システムでの試行で紹介したPTC社ThingWorxのほか,同じくPTC社Axeda,OSIsoft社PI System,Eurotech社Everyware Cloudなどとの接続動作を試行し,オープン化により柔軟な対応ができ,各種連携の可能性が広がっている(図12参照)。

Lumadaについても多彩なソリューションへのデータ連携ができるよう,日立グループ内でHXシリーズを活用したOT(Operational Technology)接続の部分について連携を進めている。

4. おわりに

本稿では,産業用設備向けのIoTソリューションと,IoT対応機器について述べた。ソリューションとしては設備に対するクラウド監視を用いたLCMサービスを紹介し,IoT対応機器としてはIoT対応産業用コントローラ「HXシリーズ」について解説した。さらに,HXシリーズを実際の生産ラインに適用し,生産性向上活動の支援をする取り組みについても述べた。

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