日立評論

官民連携による上下水道事業のサービスソリューション

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先進技術と総合力による水環境ソリューション

官民連携による上下水道事業のサービスソリューション

ハイライト

給水人口や料金収入の減少,施設の更新需要の増大など,日本の上下水道事業は今後,非常に厳しい事業環境に直面することになる。この状況を打開するための施策の一つが,民間企業の技術力やノウハウを自治体の事業運営に取り入れる官民連携である。

日立は長年培った実績を基に,PFI事業,包括維持管理などの官民連携ソリューションを提供している。

目次

執筆者紹介

黒津 健之Kurotsu Takeshi

  • 日立製作所 水ビジネスユニット 水事業部 サービス事業推進部 所属
  • 現在,水環境分野における国内官民連携事業の推進に従事
  • 技術士(上下水道部門)

大塚 真之Otsuka Masayuki

  • 日立製作所 水ビジネスユニット 水事業部 社会システム本部 エンジニアリング部 所属
  • 現在,国内上下水道処理システムの開発に従事
  • 技術士(上下水道部門)

渡邉 英幸Watanabe Hideyuki

  • 日立製作所 水ビジネスユニット 水事業部 社会システム本部 エンジニアリング部 所属
  • 現在,国内上下水道機械設備のシステム設計に従事

和田 昌一Wada Shoichi

  • 株式会社日立プラントサービス 水処理事業本部 企画統括部 運転・維持管理部 所属
  • 現在,水環境分野における国内官民連携事業の推進に従事

1. はじめに

日本の総人口は,2010年にピーク(1億2,806万人)を迎えた後減少に転じている1)。これは,上下水道事業においては給水人口や料金収入の減少,さらには職員の高齢化や人員不足に伴う技術継承の問題にもつながる大きな課題であり,すでに直面している事業体も少なくない。

また,上下水道施設においては老朽化に伴う更新需要が課題で,各事業体においては,上水道,下水道ともにほぼ同時期に施設の更新需要がピークを迎えるとされており,さらなる予算の確保と計画的な施設更新が求められる。加えて,東日本大震災を契機とした施設の耐震化や危機管理の抜本的な見直しも迫られているなど,上下水道事業を取り巻く環境は厳しさを増している2)

一方,2013年に厚生労働省より新水道ビジョンが公表され,2014年には国土交通省より新下水道ビジョンが公表された。そこでは,上下水道の理想像とその実現に向けた方策が提示された。厳しい事業環境下においても,健全かつ安定的な上下水道事業運営を実現していく手段の一つに,官民連携すなわちPPP(Public Private Partnership)があり,民間企業の技術力やノウハウを生かす手法を取り入れることで,より質の高いサービスやコストの削減を実現し,上下水道事業の運営基盤強化に貢献することが期待されている。

ここでは,日立グループの「水環境ソリューション」提案活動の一環として,官民連携による事業運営の実施事例を紹介し,今後の展開について述べる。

2. 日立グループの取り組み

図1|日立グループが提供する官民連携事業モデル部分委託から包括委託,PFI(Private Finance Initiative),DBO(Design Build Operate),コンセッションなど,さまざまな形態で水道事業者のベストパートナーとしてソリューションを提供する。

官民連携の事業モデルには,運転管理業務など限定された範囲を民間などに委託する部分委託,運転管理業務のみならず広い範囲で維持管理業務を行う包括委託,施設の設計・建設および資金調達から建設後の長期的な施設維持管理を民間などに委ねるPFI(Private Finance Initiative),コンセッションなどのさまざまな形態がある(図1参照)。

現在日立グループでは,水環境分野における製品やシステムの提供,アフターサービス,技術開発で長年培った実績を基に,持続可能な水道の実現をめざして,部分委託からPFIまで幅広い事業を手がけている3)

3. 上下水道サービスソリューションの事例

3.1 夕張市PFI事業

3.1.1 夕張市水道事業の概要

夕張市の水道施設は,旭町第1,第2ダムを水源として旭町浄水場で浄水処理した水を供給する旭町水系と,清水の沢ダムを水源に清水沢浄水場で処理した水を供給する清水沢水系の2系統で運用されている。2014年度末時点での給水人口は9,314人,普及率は99.49%,一日平均給水量は3,343 m3/日,一日最大給水量は6,766 m3/日となっている。

3.1.2 PFI事業の導入背景

夕張市の主な水道施設である旭町浄水場[1967年竣(しゅん)工],清水沢浄水場(1969年竣工)は建設から40年以上が経過しており,設備の老朽化が顕著であった。また,人口減少に伴う施設のダウンサイジングの必要性や水道料金収入の減少も見込まれている中,市役所水道職員数の減少による業務量の過多など,水道サービスの「持続」は市の大きな課題であった。

このため夕張市は将来にわたる水道水の安全・安定した給水維持をめざし,2010年7月に第8期拡張事業計画を策定し,PFI方式による水道施設の更新,再構築を行うことを決定した。

3.1.3 PFI事業の概要

図2|PFI事業スキーム事業スキームはゆうばり麗水株式会社が各構成企業に業務を発注するもので,事前調査・設計および工事監理は株式会社ドーコン,建設は岩倉建設株式会社と日立製作所のJV(Joint Venture),維持管理は株式会社日立プラントサービスが担当する。

本事業は,北海道で初となる水道のPFI事業で,上水道の浄水場の建設と運転管理がパッケージになったPFI事業としては,国内で2件目であった。

この事業は,事業者が老朽化した旭町浄水場および清水沢浄水場の運転管理を行いながら,同敷地内に新たな浄水場を建設するとともに,場外系施設の機械・電気計装設備の更新を行う施設整備業務と,市内水道施設の運転維持管理,水質管理業務,給水装置管理業務,水道メーター検針・集金・窓口業務などを行う維持管理業務を包括した一体の事業として実施するものである。

本事業は,施設の設計,建設を行った後,市に施設の所有権を移転し,施設の運営および維持管理を行うBTO(Build Transfer Operate)方式となっている。

事業者は日立グループほか2社が出資して設立した特別目的会社「ゆうばり麗水株式会社」であり,2012年3月に夕張市と事業契約を締結し,同年4月より事業を開始した(図2参照)。

3.1.4 浄水場の概要

本事業によって新たに整備した浄水場はダウンサイジングされ,施設能力は旭町浄水場(図3参照)が3,100 m3/日,清水沢浄水場が4,100 m3/日である。浄水処理方式は,省スペース化や維持管理の省力化が図れること,ユニット運転台数などの調整によって給水量を水需要に合わせて柔軟に対応できること,水質面ではクリプトスポリジウムなどの病原性原虫を確実に除去できることから,いずれの浄水場も膜ろ過方式を採用している。また,高濁度時などに膜にかかる負荷を軽減することを目的に,前処理として凝集沈殿池を設けており,臭気や有機物などの対策として粉末活性炭も注入できる設備としている(図4参照)。

今回整備した2つの浄水場は原水水質や施設能力が類似しているため,フローは同一とし,ほぼ同じ浄水場を2つ建設した。そのため,施設形式,機器仕様および配置の共通化によって維持管理性が向上したことに加え,設計・工事とも共用可能な範囲が多いことから建設コストの縮減を図ることが可能であった。

浄水場と場外系施設の運転管理については,旧施設では現地まで赴いて直接機器を操作するなど現場主体の管理を行っていたのに対し,今回は浄水場とともに場外系施設の機械・電気計装設備を更新し,遠隔監視制御システムを構築したことで,浄水場や市庁舎の事務所にいながら遠隔監視や遠隔操作が可能なものとした。

加えて,蓄積した収集データを活用して漏水箇所を特定するなど,効率化を図りつつ給水区域全体の安定供給につながる効果も表れている。

図3|新浄水場外観(写真は旭町浄水場)地上3階,地下1階の浄水棟に沈殿池や膜ろ過設備などを配置した,コンパクトな施設となっている。

図4|浄水設備概要旭町浄水場,清水沢浄水場とも膜ろ過方式の同一フローとし,共通化による効率化を図っている。

3.1.5 今後の展開

図5|受渡式の様子左側がゆうばり麗水の千葉社長,右側が夕張市の鈴木市長である。

2012年から設計・建設を進めてきた新たな旭町浄水場と清水沢浄水場は2016年6月に完成し,施設の所有権移転が完了した(図5参照)。また,建設・修繕工事での地元企業の積極的活用による経済の活性化,窓口・検針業務へのノウハウを有した専任社員の配置,検針時における高齢者の見守り活動などによる住民サービスの向上に積極的に取り組んでいる。さらに,小学生への環境教室開催といった地域貢献活動や,従事者の地元採用による雇用創出と地域の水道を守る後継者の育成も行っている。今後もPFI事業を通じて地域活性化に貢献していく4)

3.2 戸田市上下水道事業包括委託

3.2.1 戸田市上下水道事業の概要

戸田市の水道事業において,2015年度の給水人口は13万5,776人,水道普及率100%,一日最大給水量は4万7,370 m3となっている5)。水道水源は,地下水(深井戸)と埼玉県企業局の大久保浄水場(利根川・荒川水系)からの県水受水で構成されており,主要施設は,西部浄水場(3万2,800 m3/日),中部浄水場(6,600 m3/日),東部浄水場(2万4,400 m3/日)の3か所と深井戸10か所および配水池7池で構成されている。

一方,2017年4月時点の下水道の普及率は89.4%となっている6)。市内で発生した汚水は荒川左岸南部流域下水道に接続され,市内にある埼玉県管理の「荒川水循環センター」で処理される。主要施設は新曽ポンプ場,下戸田ポンプ場と雨水排水施設11か所である。

戸田市の人口は経年的に増加傾向にあるものの,1人1日当たりの給水量は近年減少傾向にある。この理由としては,近年の節水意識の高揚や節水機器の普及,大口需要者の使用水量の減少などが挙げられる。配水量の減少は給水収益の減少につながることから,今後,厳しい経営環境となることが想定されている。併せて,機械電気設備の多くが更新時期を迎え,土木構造物については配水量が減少する時期に更新時期を迎える想定であり,財源の確保が課題となっていた。

このため,戸田市では,より効率的な事業経営を行う取り組みの一つとして官民連携に着目した。2013年より包括委託の検討を開始し,2015年に上下水道施設管理と窓口業務を一括した複数年の包括委託として公募を行った。本委託の対象業務数は48業務,対象人口は約13万5,000人(2016年1月現在)であり,上下水道の包括委託としては国内で最大規模の事業(当時)である。

3.2.2 上下水道事業包括委託の概要

本包括委託は,戸田市が個別に委託してきた上下水道窓口業務および上下水道施設運転管理業務について,民間事業者の創意工夫により,効率的な手続きや維持管理を実現することで市民サービスの向上や上下水道事業運営の技術を築き上げ,安全で安定した上下水道事業の運営を持続的に行うことを目的に,性能規定・複数年契約で包括的に業務を委託する包括委託業務である(表1参照)。

日立製作所を代表企業とし,第一環境株式会社および株式会社日立プラントサービスによる共同企業体[以下,「当JV(Joint Venture)」と記す。]は,2016年1月に戸田市と事業契約を締結し,同年4月より業務を開始している。

表1|包括委託概要委託業務数は全48業務に及ぶ。

3.2.3 官民連携による効果

図6|災害協定締結の様子左側が戸田市の神保市長,右側が日立製作所関東支社北関東支店の長倉支店長である。

本業務委託の効果として,戸田市職員の事務の合理化,民間事業者の創意工夫による効率的な手続きや維持管理の実現によるコスト低減に加え,特に危機管理面における災害時対応の強化が挙げられる。これまで,浄水場やポンプ場,窓口に関する業務は個別に発注を行っていたが,包括委託としたことで指揮命令系統が一元化され,災害・事故時の緊急対応を迅速化できるようになった。その取り組みの一つとして,2016年10月,戸田市と当JVは災害時協定を締結した(図6参照)。本協定は,緊急時の協力体制を構築して早期復旧につなげることを目的としている。具体的には,地震や風水害などの災害発生時には市の要請により,当JVが給水活動の支援や市民からの電話対応,上下水道施設の復旧または被害防止に関する対応を行う。

事業はスタートしたばかりであるが,今後は,より効率的な維持管理や,施設の改築・更新などの提案を行いながら,戸田市との官民連携により,市民サービスの向上と安全で安定した上下水道事業の持続に貢献していく。

4. おわりに

ここでは,日立グループの上下水道分野における官民連携ソリューションへの取り組みとその事例について述べた。

今後とも日立グループは,水環境ソリューションの提供を通じて,上下水道事業者のベストパートナーとして,強靭で持続可能な上下水道事業の実現に寄与していく考えである。

参考文献など

1)
国立社会保障・人口問題研究所:日本の将来推計人口(平成24年1月推計)(2012.1)
2)
総務省自治財政局:地方公営企業年鑑(2013.3)
3)
蓮香秀典,外:官民連携による水道事業の維持管理・サービスソリューション,日立評論,97,8,454〜457(2015.8)
4)
天野隆明:夕張市における水道PFI事業,水団連,129,16〜19(2016.10)
5)
戸田市上下水道部:平成27年度上下水道事業統計(2016.8)
6)
戸田市,水洗化普及状況
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