日立評論

防災・セキュリティソリューションを支える映像解析技術

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暮らしの安全・安心を支える防災・セキュリティソリューション

防災・セキュリティソリューションを支える映像解析技術

ハイライト

国内外での安全・安心に対するニーズが高まる中,監視カメラを用いた映像解析技術による防災・セキュリティソリューションの高度化が求められている。

これに対し,日立は煙などの不定形物の識別による火災検知技術,人物行動検知技術や人物発見・追跡技術などを開発している。本稿では,これらの技術の概要と実証事例,および今後の展望について説明する。

目次

執筆者紹介

村上 智一Murakami Tomokazu

  • 日立製作所 研究開発グループ システムイノベーションセンタ メディア研究部 所属
  • 現在,画像認識・処理技術の研究開発に従事
  • 博士(情報理工学)
  • 電子情報通信学会会員
  • 映像情報メディア学会会員
  • 日本バーチャルリアリティ学会会員

段 清柱Duan Qingzhu

  • 日立製作所 研究開発グループ システムイノベーションセンタ メディア研究部 所属
  • 現在,画像認識・処理技術の研究開発に従事

渡邉 裕樹Watanabe Yuki

  • 日立製作所 研究開発グループ システムイノベーションセンタ メディア研究部 所属
  • 現在,画像検索,機械学習技術の研究開発に従事
  • 博士(情報科学)

廣池 敦Hiroike Atsushi

  • 日立製作所 研究開発グループ システムイノベーションセンタ メディア研究部 所属
  • 現在,画像検索技術の研究開発に従事
  • 博士(工学)
  • 日本心理学会会員

1. はじめに

人々の生活や社会インフラを脅かす災害や事故,犯罪などを未然に防ぎ,発生した場合にはそれを検知して迅速に対処するため,さまざまな防災・セキュリティ技術が求められている。防災の観点では,大規模な地震災害のみならず,豪雨による河川の氾濫,森林火災,火山活動など,さまざまな脅威への対応が求められており,防犯,セキュリティの観点では,海外におけるテロ活動の増加,グローバル化に伴う世界的な移動の活発化や,日本でのインバウンド旅客の増加に伴って,より確実な安全・安心への対応を求める声が高まってきている。

こうした中,例えば河川や森林,火山の状況監視,駅や空港,商業施設などの公共空間の防犯に向け,多数の監視カメラシステムが稼働している。夜間や暗所への対応のために赤外線などの特殊カメラが用いられる場合もあるが,その多くは可視光カメラである。こうしたカメラは,広範囲の状況を詳細かつ連続的に確認・記録できるため,さまざまな場所・用途に大量のカメラが設置されているが,これらの確認はほとんど人手に頼っているのが現状である。今後さらに防災・セキュリティの向上のためにカメラの設置台数が増えれば,確認のための人的負荷がよりいっそう増えることから,映像解析技術による自動化が求められている。

これに対して日立は,これらのネットワーク化された映像監視システムを提供するとともに,映像解析技術の適用による事象検知,状況把握の機能を開発してきた。検知する事象には,河川の場合には水位や流れの状況,森林や火山の場合には,火災や火山活動に伴う炎や煙の検知などが挙げられる。セキュリティ分野では,人物や車両の動き,放置された物体などの状況把握に加え,特に人の行動把握に対するニーズが高まっている。

本稿では,日立が開発する映像解析技術として,煙などの不定形物の状態識別による火災検知技術と,人物の行動検知技術,および,機械学習を用いた人物の発見・追跡技術について紹介し,今後の活用の方向性と技術の展望について述べる。

2. 煙などの不定形物識別による火災検知技術

近年の気候変動や温暖化により,森林火災の増加,大規模化が懸念されている。火災を大規模化させないためには早期の発見と通報,消火活動開始が重要であるが,特に発展途上国では通信インフラが未成熟であることにより,住民などによる通報が期待できないケースも多い。このため,森林火災の発生頻度が高い国々では,広範囲を確認可能な監視カメラを設置し,消防関係者が目視で監視を行っている。しかし,こうした目視による確認は負担が大きく,見逃しが発生する場合もある。本技術は,主に森林を遠望で撮影した監視映像を対象として,映像解析により自動的に火災の煙を検知し,監視員の負荷低減に向けた支援を行うものである(図1参照)。

監視映像から火災を検知する方法としては,背景差分を用いて動き領域の色,面積の変化などを特徴量として検知する手法などがこれまでにも提案されていた。しかしこうした手法では,雲と煙の区別や日照の変化への対応が難しく,誤検知が多く発生するという問題点があった。

そこで本技術で開発した手法では,識別の精度を上げるため,まず画像の中から煙や雲といった不定形物を含むブロックを抽出し,その中に対して詳細な分析を行うことにより精度よく火災による煙を検知する。不定形物を含むか否かの判定は,動き領域の面積の変化,動きの方向のばらつき,動きの直線性,空間周波数を特徴量として評価した。また,不定形物を含むと判定されたブロックに対しては,Dense Trajectory(高密度軌跡特徴)を特徴量として抽出し,事前に収集した映像によって学習を行うことにより,火災による煙が発生しているか否かを判別するモデルを作成した。これにより,実際の火災を撮影した映像を用いた50本程度の評価映像に対して,誤検知を0に抑えたうえで8割以上の正検知率を実現できることを示した。検知結果の例を図2に示す。画面を分割した各ブロックに対して不定形物の領域判定を行い,さらに内部の特徴量判別処理により煙の検知を行っている。

本技術を森林などの監視向けシステムに適用することにより,火災の大規模化防止のための監視業務の効率化に貢献できると考えている。

図1|映像解析を用いた火災検知システムの概要監視カメラの映像をリアルタイムに解析し,不定形物の領域抽出と煙判別を行うことによって火災を検知する。監視員を支援することにより,火災の早期発見,消火活動に貢献する。

図2|不定形物の領域判定を用いた煙検知の例画面全体をブロックに分割し,内部の特徴量から不定形物を含むか否かを判定する。不定形物を含むブロックに対して詳細な判別処理を行うことにより,火災による煙の発生を検知する。

3. セキュリティ用途向け人物行動検知技術および人物発見・追跡技術

セキュリティの分野では,すでに多くの防犯カメラが活用され,映像解析技術による検知の自動化も進められつつある。日立は,駅構内の混雑状況の検知,配信技術など,さまざまな技術を実用化しているが,以下では主に防犯に向けた映像解析技術として,人物行動検知技術と人物発見・追跡技術を紹介する。

3.1 人物行動検知技術

図3|映像解析によるふらつき,灯油缶検知の例映像から人物領域の検知を行った後,ふらつきについては空間内の移動軌跡の解析,灯油缶については色と形状による判別を行うことによって検知する。

鉄道の駅などでは,乗客の安全確保や運行の安全のため,不審物を持ち込もうとする人物や,ホームの際をふらつきながら歩いている人物を検出し,事件や事故が起こる前に対応したいというニーズがある。このような,特定の行動を検知するためには,まずカメラ映像から人物領域を検出し,さらに複数フレームにわたって人物の軌跡を追跡するとともに,人物領域に対する処理により人物の持ち物や外見特徴の判別を行う必要がある。

人物行動の検知技術に関しては,現場で利用可能なシステム上の制約や必要とされる精度の条件に合わせて複数の方式を開発しているが,ここでは軽量に動作し,システムリソースの制約が少ない高速検知方式について紹介する。本方式では,カメラの連続するフレームからTracklet(局所軌跡)特徴量を抽出し,これに対して,人物の重なりなどのオクルージョンを考慮したカーネルを適用してクラスタリングを行うことにより,低演算量ながらも精度よく人物領域を検出する。これによってカメラで撮影された範囲内の各人物の移動軌跡を得ることができるため,軌跡の幾何変換を用いて進行方向に対する横方向のぶれ(ふらつき度合い)を計算することにより,ふらついた歩き方の人物を検知することができる。また,灯油缶などの危険物の有無については,色情報と形状を手がかりとしてルールベースの画像処理判定により検知することができる(図3参照)。

本方式はリアルタイムにカメラ映像を処理可能で,混雑した状況でも比較的ロバストに検知できることを特徴としている。

3.2 人物発見・追跡技術

図4|人物発見・追跡技術の概要事件発生時,これまでは目撃情報を手がかりに大量の映像を目視で確認する必要があった。本技術では,多数の属性による候補の絞り込みと全身像によるカメラ間追跡により,特定人物の足取りを迅速に把握することができる。

駅や空港,スタジアムなど,大規模な公共空間に多数の防犯カメラが設置された環境では,個々のカメラでの事象の把握とともに,広い範囲内のどこに不審な人物や迷子がいるかなど,特定の人物を発見して足取りを把握することが必要となる。これまでは事件が発生したときに,多くの人員をかけて目撃情報に基づいて映像を目視で確認し,人物を発見・追跡していたが,日立はこれを容易に行うための支援技術として,機械学習技術による人物発見・追跡技術を開発した。

本技術では,2つのステップにより特定の人物の足取りを迅速に把握することを可能としている(図4参照)。1つ目のステップでは,大量の映像の中から目撃情報に該当する特徴を持つ人物の映像を即時に絞り込むことを可能とする。本技術では,事前に学習した属性を識別するディープニューラルネットワークにより,監視映像に映る人物に対し,外見の情報から性別,年齢層,髪型,服装の種類,色,所持品など,12種類100項目以上の特徴をリアルタイムに識別してデータベース化することができる。これにより,例えば「緑色の上着,青いジーンズを履いた30〜45歳程度の男性」というような手がかりから,該当する人物の映像のみを抽出することができる。

図5|人物発見・追跡技術の実証実験例駅構内に複数の防犯カメラを設置し,エキストラの利用客を配置して特定人物の追跡実験を行った。人物の属性判別と,全身像からの特徴量抽出をリアルタイムに行うことにより,防犯カメラシステムに人物追跡機能が実装可能であることを示した。

続いて2つ目のステップでは,絞り込まれた候補映像の中から追跡したい人物を選択することにより,この人物が複数のカメラで撮影された範囲内でどのように行動したかを追跡することができる。これは,検知された人物の全身像を基にその人特有の特徴量をディープニューラルネットワークの中間層出力から抽出し,これを高速ベクトル検索データベースに記録された映像のデータと照合することによって実現している。従来の顔画像を用いて人物を追跡する技術では,顔がはっきりと映っていないカメラの映像は利用できないため検知漏れが多く発生していたが,本技術では全身像を利用するため網羅的な追跡が可能となる。われわれが保有するデータで検証した結果では,顔画像のみを使った場合に比べて発見率が3倍になり,10時間以上の映像の中から1秒以内に検索できることを確認している。

本技術を用いたシステムの実現例として,ある駅を借り,エキストラを雇って駅構内の状況を再現し,不審人物役の男性を追跡した実証実験の例を図5に示す。本技術は監視カメラと接続したサーバによってリアルタイムに動作させることが可能であるため,大規模な公共空間における不審人物の追跡,迷子の捜索などの支援に大きく貢献できると考えている。

4. おわりに

本稿では,防災・セキュリティソリューションを支える映像解析技術として,煙などの不定形物識別による火災検知技術,セキュリティ用途向け人物行動検知技術および人物発見・追跡技術について紹介した。

近年の国際的なコンペティションを中心としたCNN(Convolutional Neural Network:畳み込みニューラルネットワーク)などの機械学習技術の進展により,物体認識や動作識別の認識精度は飛躍的な向上を見せており,今後これらの技術が早期に実用化されていくことが考えられる。本稿では機械学習技術については人物に関する識別技術を紹介したが,適用対象も車両や一般物体を含めさまざまに広がっていくと予想される。今後はこうした映像解析技術の計算機リソース面での制約や適用環境に対するロバスト性の向上などの課題を解決しつつ,防犯カメラのネットワークを結合して,少ない人員でも高いセキュリティを実現できるソリューションの提供に向け,技術開発を行っていく予定である。これらの技術を広域での防災や,公共空間での警備や防犯などに活用していくことで,社会の安全・安心に貢献していきたいと考えている。

参考文献など

1)
段清柱,外:非定形領域抽出手法による広域監視向け煙検知方式,電子情報通信学会ソサイエティ大会(2016.9)
2)
仲田智,外:監視映像を解析・認識するビジョンセンシング技術,日立評論,98,3,189〜192(2016.3)
3)
佐川達人,外:多様化する顧客ニーズに応えるフィジカルセキュリティ統合プラットフォームの構想,日立評論,98,6,432〜436(2016.6)
4)
日立ニュースリリース,AIを活用した映像解析による,リアルタイムな人物発見・追跡技術を開発(2017.3)
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