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ハイライト

超スマート社会の実現に向けて,E2E視点のバリューチェーンを革新するグローバルレベルで最適化されたロジスティクスが求められている。これに対し日立は,AIなどのサイバー空間とロボティクスなどのフィジカル空間を活用したグローバルロジスティクスサービスの提供を始めている。

目次

執筆者紹介

権守 直彦Gommori Naohiko

  • 日立製作所 社会イノベーション事業推進本部 事業創生推進本部 事業開発本部 所属
  • 現在,SCM・ロジスティクス分野における新規事業の開発に従事
  • 物流技術管理士

齊藤 達也Saito Tatsuya

  • 日立製作所 社会イノベーション事業推進本部 事業創生推進本部 事業開発本部 所属
  • 現在,ビッグデータを活用した新規事業の開発に従事
  • IEEE会員

興津 弘道Kyozu Hiromichi

  • 日立製作所 社会イノベーション事業推進本部 事業創生推進本部 事業開発本部 バリューチェーンロジスティクス開発部 所属
  • 現在,SCM・ロジスティクス分野における新規事業の開発に従事

1. 超スマート社会におけるロジスティクス

スマートフォンやソーシャルネットワークの普及,AI(Artificial Intelligence)やブロックチェーンなどデジタル技術の進展により,近年驚異的なスピードでスマート社会へ突入し,従来フィジカル空間(リアル世界)で行っていた音楽,書籍,通貨などの商取引に関わる活動が次々とサイバー空間(ネット世界)へ置き換わりつつある。

そのような時代になっても,物質の移動を伴うロジスティクスは決してなくなることがないばかりか,フィジカル空間の時間や場所の制約を越えたさらなる利便性向上が,生産から消費のバリューチェーン全体にわたって求められている。さらに,近年のロジスティクスは国境を越えてグローバルにつながり,より複雑化しつつある。

一方,あらゆる市場において,ロジスティクスに対して品質と利便性を追求するあまり,それを支える現場は繁雑さが増し悲鳴を上げ始めており,「働き方改革」が大きな社会問題になりつつある。

この利便性向上と複雑かつ繁雑化への対応を両立させるとともに,日本政府がSociety 5.0として提唱する「超スマート社会」において,「必要なモノを,必要な人に,必要な時に,必要なだけ提供する」ことを実現するために,E2E(End to End)視点の全体最適をめざすのが,日立の提唱するバリューチェーンを革新するグローバルロジスティクスである。

日立は,顧客との協創による物流改革や,自社改革プロジェクト「Hitachi Smart Transformation Project」での取り組みを通じて,このバリューチェーンを革新するグローバルロジスティクスの具現化を進めてきた。「Racrew※)」などのロボティクスやBPO(Business Process Outsourcing)などのリアルな「フィジカル空間」をIoT(Internet of Things)プラットフォームLumadaにより「サイバー空間」に再現し,また,最適化アルゴリズムやAIなどのITによる「サイバー空間」が導き出した最適解を「フィジカル空間」へフィードバックする事で,より最適化を実現する。(図1参照)。

本稿では,現在の日本におけるロジスティクス視点での社会変化や課題を整理するとともに,このバリューチェーンを革新するグローバルロジスティクスサービスが,どのように顧客の経営課題を解決しえたのかを取り組み事例として述べる。さらに,この分野における日立の今後の方向性について述べる。

図1|日立が提供するバリューチェーンを革新するグローバルロジスティクスサービスのコンセプト調達から製造,販売までE2E(End to End)視点でサプライチェーン全体を最適化するのがバリューチェーンを革新するグローバルロジスティクスサービスである。最新のデジタル技術で仮想空間上にサプライチェーンを再現し,最適解をフィジカル空間へフィードバックする。

※)
Racrew:日立が開発した小型・低床式無人搬送車

2. ロジスティクスにおける課題と日立の取り組み

現在の日本において,社会情勢・環境は大きな変革期を迎えている。少子高齢化社会が続き労働人口は慢性的に不足する一方,eコマース(Electronic Commerce)により消費者はさらなる利便性を追求している。またネット社会の普及に伴い,売れ筋商品は爆発的に普及するものの,時間を待たずに急速に終息するなど製品ライフサイクルが短期化している。

これらの社会環境の変化と生産・ロジスティクス視点の課題を,「グローバル生産・グローバル市場」「eコマース」「物流センター」「輸送・小口配送」「消費者」の軸で整理した(表1参照)。

表1|社会環境の変化と生産・ロジスティクス視点での課題社会環境の変化と課題を,製造・流通業における生産・ロジスティクス視点で整理する。

2.1 グローバルロジスティクスの拡大

本章で述べるグローバルロジスティクスとは「国境を越え,グローバルに取り引きされる原材料・部品調達,生産,流通・小売,消費の各拠点間物流」である。

日本の製造業は,2000年前後に「世界の工場」として中国に進出した時代から,今やインドやアジア全体を「世界の市場」として裾野を広げており,さらにはグローバルレベルで地産地消する体制に変化を遂げつつある。この変化の過程において,物流ネットワークはグローバルレベルで輻輳(ふくそう)かつ複雑化し,これにより物流コストと在庫資産が増大するという経営課題を多くの日系企業が抱え始めている。

日立は,従来の「Hitachi Smart Transformation Project」活動に加え,2016年度からIoTプラットフォームLumadaを活用したデジタルソリューション創出活動を加速しており,ここで得た知見やツールをユースケースとして社外向けの商材化に取り組んでいる。特にE2E視点でグローバルロジスティクスを設計することで,トータル在庫の最適化に取り組み成果を上げている(図2参照)。

特にグローバルロジスティクス分野において,中国を中心とした調達ロジスティクスのサービス化の取り組みを論文「End to Endかつグローバルでの在庫・サプライチェーンの最適化」で紹介する。

図2|グローバルロジスティクス設計によるトータル在庫最適化調達から製造,販売までE2E視点でサプライチェーン全体を俯瞰(ふかん)し,グローバルロジスティクスネットワークを最適化・高度化することで物流コスト削減やリードタイム短縮による在庫削減を図る。

2.2 ネットとリアルの主従逆転

世界の流通市場でネットとリアル(現実)の融合が新たな局面を迎え,企業から消費者まで全体を巻き込んだ変革が進んでいる。とりわけ小売業では,世界中でeコマースが勢いを増し,実店舗とネット売り上げの主従関係が逆転する現象が一部で起きつつある。

eコマースは,店舗を持たない経営により在庫を極限まで圧縮することが可能であり,流通過程のローコスト化,キャッシュフロー向上を実現している。また,「顧客の欲しい時に欲しいモノを届ける」を基本方針に,「即時性の保証」「利便性の向上」を武器に事業規模を大きく伸ばしてきている。このeコマースを支える基盤が,ノード(物流センター)とリンク(輸送ネットワーク)から構成される高度化されたロジスティクスである。

その構成要素である商品保管・ピッキング・出荷を担う「物流センター」では,受注後,短時間で多品種の商品アイテムを大量に出荷するために,圧倒的な出荷スループット(瞬発力)が必要とされる。

もう一つの構成要素である「輸送ネットワーク」では,小口化された商品を届ける「ラストワンマイル」に,20%にも及ぶ再配達率という大きな課題を抱えている。またeコマースの利用拡大に伴い,宅配便の取り扱い個数増加が右肩上がりで続く一方,物流業界では物量増加に対する労働力不足が顕在化している。特にドライバー不足により,運輸会社の労働組合が労働環境の改善を求める中,宅配便の値上げ,荷受け量抑制などが検討され始めている。

eコマースの販売物流は,今後も爆発的な拡大が見込まれ,さらなる物量増大は避けられず,配送業務の一層の効率化が物流業界全体の大きな課題として突きつけられている。本稿ではその課題に対し,顧客と日立が,AIやIoT,ロボティクスといった最新のデジタル技術を適用して最適化・効率化・自動化に取り組んだ「物流センター」での取り組みを,論文「ロボティクス,デジタルソリューション技術を活用した物流センターの高度化」で紹介する(図3参照)。

また,日立の「輸送ネットワーク」に対する取り組みとして,日立製作所がクラリオン株式会社と共同開発したOTA(Over The Air)がある。トラックなどの車両へ搭載した車載端末において,ソフトウェアの更新が発生した場合,従来はディーラーや整備工場に車両を持ち込む必要があったが,車両が走行中であってもモバイルネットワークを用いてプログラムを更新するOTA技術を活用することで,自由にソフトウェアの追加・更新が可能になる。さらに,クラリオンが開発した車載端末と組み合わせることで,車載端末が収集した運行データをリアルタイムで送信・活用し,輸送現場の効率化,安全運転支援に役立てることができる。これら輸送(ラストワンマイル)に対する日立の取り組みを論文「小口宅配物流を支える安全な輸配送技術の開発」で紹介する。

図3|最先端テクノロジーによる物流センター高度化顧客・販売データによる需要情報,工場における生産情報を活用し,AIやIoTを用いた最適化やロボティクスなどの最先端テクノロジーにより物流センター業務を高度化する。

2.3 製・配・販の融合と情報連携

超スマート社会での「必要なモノを,必要な人に,必要な時に,必要なだけ提供する」を効率的に実現するためには,その「必要」を事前に知り,適所に在庫を配置することが有効な解決策の一つである。そのためには,モノの生産を担う「製」,消費者との接点である「販」に加え,需要と供給間を調整し,つなぐ「配(中間流通)」が融合し,互いに情報を共有することが重要である。小売業での販売実績・顧客情報が,より上流である卸・製造へ事前に開示され,それに予測情報を加味した形で自動的に受発注量が決められるような仕組みがデジタル技術の進展により実現しつつある。

また,小売りでの販促活動のような「需要を喚起する情報」や,製造能力のような「供給を制約する情報」など,E2E間で需給に影響を与える重要情報を捉えることで,サプライチェーン全体の棚卸し在庫を削減し,作り過ぎによる廃棄ロスや鮮度低下といった損失と無駄な処理を省くことが可能となる。

これを実現する手段として従来は,マーケティングプロモーションによる需要のコントロールや商品売り上げ実績,各種コーザルデータ(販売影響要因)を基にした需要の予測が行われてきたが,商品売り上げの背後にある顧客インサイトまで捉えた分析は,従来のルールベースロジックでは限界があった。

AIを適用したデジタルマーケティング技術,需要予測技術に対する日立の取り組み,またそれらのデータを活用したサプライチェーン最適化計画への適用構想について,論文「AI技術による物流効率化・サプライチェーン最適化」で紹介する。

また,日立が推進するバリューチェーンを革新するグローバルロジスティクスサービスを支える研究開発内容について,論文「次世代ロジスティクスサービスを支える先進技術開発」で紹介する。

3. 今後の展望

グローバル市場に活路を求める日本の製造業は,中国・東南アジアを中心に既に海外進出しているが,特に多くの国と島で構成される東南アジアは,陸海空の輸送インフラが不十分な状況にある。さらには,法務・税務などの貿易条件が国ごとに異なるだけでなく複雑化しており,その対応に各企業が苦労している。

日立は,社内活動として海外現地法人を含むグローバルロジスティクス改革に取り組んでいる。今後,この製造業として培ったノウハウを活用し,バリューチェーンを革新するグローバルロジスティクスサービスをアジア地区を中心に展開していく所存である。

4. おわりに

本稿では,eコマースの普及など超スマート社会に変貌を遂げる現代社会において,モノの流通を支える物流現場が多くの課題を抱えていることを述べてきた。これに対し,日立グループはAIやIoT,ロボティクスといった最新のデジタル技術を活用したバリューチェーンを革新するグローバルロジスティクスサービスの開発に取り組んでいる。

日立グループは,ロジスティクス分野での長年にわたる製品・システム・サービスなどの取り組み実績を踏まえ,超スマート社会に向けたロジスティクスの高度化に引き続き貢献していく考えである。

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