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バリューチェーンを革新するグローバルロジスティクスサービス

End to Endかつグローバルでの在庫・サプライチェーンの最適化

Hitachi Smart Transformation Projectにおける取り組み

ハイライト

日立は,サプライチェーン全体を俯瞰して物流ネットワークを最適化し高度化することで,物流コスト削減やリードタイム短縮による在庫削減に取り組んでいる。今後はこれらの取り組みを活用してサービス展開を図ることで,ロジスティクス事業の拡大に貢献していく考えである。

目次

執筆者紹介

河村 健児Kawamura Kenji

  • 日立製作所 社会イノベーション事業推進本部 事業創生推進本部 事業開発本部 バリューチェーンロジスティクス開発部 所属
  • 現在,SCM・ロジスティクス分野における新規事業の開発に従事

松井 邦彦Matsui Kunihiko

  • 日立(中国)有限公司 智能物流推進部 所属
  • 現在,ロジスティクス分野のコンサルティングおよびソリューション取りまとめ,スマートロジスティクスにおけるソリューション事業立ち上げに従事
  • 物流技術管理士

三井津 健Miitsu Takeshi

  • 日立製作所 システム&サービスビジネス統括本部 E2E改革本部 モノづくり強化推進部 所属
  • 現在,日立グループ内のスマートトランスフォーメーションプロジェクト推進に従事

山本 和志Yamamoto Kazushi

  • 日立オムロンターミナルソリューションズ株式会社 モノづくり戦略センタ グローバルSCM改革本部 SCM改革部 所属
  • 現在,国内外のATM事業のロジスティクスやサプライチェーン改善計画と実行に従事

藤井 宏一Fujii Koichi

  • 日立オムロンターミナルソリューションズ株式会社 海外オペレーションサービス本部 戦略部 所属
  • 現在,海外ATM保守/修理事業の教育,修理業務に従事

1. はじめに

日立は,コスト削減や資金効率向上をねらった構造改革であるHitachi Smart Transformation Projectを継続して推進している。特に日立グループ内で生産拠点の多い中国では,近年の中国国内での人件費の上昇や,ASEAN(Association of Southeast Asian Nations:東南アジア諸国連合)・インドなどの台頭により競争が激しくなっており,ロジスティクス分野でもさらなる改革・強化が必要な状況である。

本稿では,調達から製造,販売までのサプライチェーン全体における物流コスト削減や在庫削減・適正化など,主に中国における日立グループの場を活用したロジスティクスの改善や業務標準化の取り組みと,サービス事業創生の試みについて述べる。

2. 日立におけるグローバルロジスティクス改革のねらい

図1|日立におけるグローバルロジスティクス改革日立グループでは,共同輸送による物流コスト削減を行うとともに,多頻度輸送による物流リードタイムの短縮や棚卸し資産の圧縮により資金効率を向上するグローバルロジスティクススキームの構築を進めている。ミルクランとは,複数拠点を巡回して集配する物流手法のことである。

日立は,グループのスケールメリットを生かし,グループで保管・集配拠点を共同活用するGWPF(Gateway Platform)や共同輸送による物流コスト削減を行うとともに,多頻度出荷・集配による物流リードタイムの短縮や,棚卸し資産の圧縮による資金効率の向上など,グローバルなロジスティクススキームの構築をめざしてきた(図1参照)。

また,それらをさらに高度化する取り組みとして,需給変動に即応できるバリューチェーンを構築することをめざし, E2E(End to End)視点でのリードタイム短縮に寄与する施策に取り組んでいる。具体的には,次のとおりである。

  1. グローバルに複雑化した物流ネットワークの見直し・再構築による物流コスト削減とリードタイム短縮
  2. 製販連携での製品納入作業や修理・保守業務の一部現地化による供給リードタイムの短縮
  3. 市場の需要変動や製造拠点の日々の生産状況に追随して,輸送物量や集配ルートを動的に最適化することによる物流コスト削減とリードタイムのさらなる短縮
  4. ロジスティクス改善を持続的に維持する運用プラットフォームの構築

以下,これらの観点での最新の取り組みを紹介する。

3. グローバル拠点間連携によるロジスティクス改革の展開と高度化

日立オムロンターミナルソリューションズ株式会社では,現金自動取引装置(ATM:Automated Teller Machine)の主力市場であるアジアでの事業拡大と収益向上に向けて,グローバルに生産拠点の強化を推進している。

3.1 生産拠点戦略に基づいたロジスティクス改革推進と課題

日立オムロンターミナルソリューションズでは,グローバルでの生産拠点強化に向けて,以下のロジスティクス改革を推進し効果を上げてきた(図2参照)。

(1)アジア地域での輸送一元化
商流変更に伴い,中国生産から販社倉庫までの物流ネットワークを一括運営することにより,コストを削減し品質を向上させた。
(2)各国税制などを考慮した物流の最適化
インド国内の税制などの現地事情も考慮し,生産物流も含めた物流ルートを最適化し,物流コストを極小化した。
(3)モーダルシフト推進と鉄道輸送の先行適用
輸送コストの削減とCO2排出量削減により環境対応を推進した。

一方,ASEAN地区でのATM稼働台数増加に伴い,その修理のための販社から製造拠点までの往復のリードタイムが問題となり,製販連携による修理品ルートのグローバル視点での最適化が必要となってきた。

図2|アジア地域でのロジスティクス改革の推進事例ATM(Automated Teller Machine)海外事業では,現地需要に応じた拠点展開を図るとともに,(1)アジア地域での輸送一元化,(2)各国税制などを考慮した物流の最適化,(3)モーダルシフト推進と鉄道輸送の先行適用などの改革を推進している。

3.2 修理のグローバル最適化推進

図3|修理システム導入による管理業務の標準化と修理情報の一元管理ATM事業の海外展開に伴い,保守事業についても現地修理化と共通の新修理システム導入を推進している。

保守部品の修理に関するリードタイム短縮を図るためには,保守部品の消費地の近くで,修理作業を推進することが不可欠である。このため,グローバルでの修理拠点の戦略の見直し,特にASEAN地域においては複数の現地修理拠点の立ち上げによる修理の現地化を推進してきた。

修理の現地化にあたっては,作業の標準化,品質の確保,作業効率の観点から次の施策を実施した。併せて,日本工場をマザーの修理拠点とする管理体制を実現するため,修理システム(日立ターミナルメカトロニクス株式会社製)を導入し,管理業務の標準化と情報の一元管理体制を構築した(図3参照)。

  1. 修理治工具,故障診断・確認ツール整備
  2. 修理関連ドキュメントの整備(英語化とビジュアル化)
  3. 修理システム導入による業務の標準化と修理情報一元管理
  4. 修理技術者の育成

3.3 施策による効果と今後の取り組み

2016年度よりインドネシア,タイで修理拠点を立ち上げ,それぞれの国内で発生する修理を対象に修理現地化を開始している。これにより,主に輸出入を伴う輸送リードタイムを大幅に短縮できたため,日本での修理と比較して修理リードタイムの半減を実現することができた。

今後は,修理品目の拡大や近隣諸国での修理の海外修理拠点への集約といった改革を推進するとともに,グローバルにおける製販連携による部品調達リードタイムの削減や部品在庫の圧縮,適正化などの検討を進める予定である。

4. グローバル調達ロジスティクスの展開と高度化

調達ロジスティクスについては,Hitachi Smart Transformation Projectのノウハウを事業化する形で,2015年より中国製造業顧客を対象にサービス事業を展開している1)。本章では,このサービスの展開と高度化の事例について述べる。

4.1 これまでの取り組み経緯

東陶(上海)有限公司(以下,「TOTO上海」と記す。)では,人件費高騰の背景から,生産現場の省力化と作業精度向上を目的として継続的に改善に取り組んできた(図4参照)。

2015年に部品搬送自動化システムを構築し,生産ラインの作業進捗と部品ロット,部品消費状況をリアルタイムに把握するとともに,WMS(Warehouse Manage­ment System)と連携した部品倉庫から生産ラインに対する同期配送指示によるJIT(Just in Time)供給を実現した。またWMSでは,入出庫ロット管理および先入先出管理,在庫可視化を行い,部品倉庫に在庫不足があれば,サプライヤに対して自動発注する仕組みを構築した。さらに,発注にはTWX-21※1)によるEDI(Electronic Data Interchange)を活用し,サプライヤがEDI情報を参照してTOTO上海指定のQRコード※2)を付与した納品書を添付する運用とすることで,TOTO上海への入荷時の検品作業の効率化を図った。

図4|TOTO上海での調達ロジスティクスの取り組みEnd to Endの情報をつなぐことで,生産変動へ迅速に対応する高度なオペレーションを実現する。

※1)
日立製作所がグローバルに提供するインターネット上のビジネスアプリケーションサービス。
※2)
QRコードは,株式会社デンソーウェーブの登録商標である。

4.2 課題と取り組み施策

図5|調達ロジスティクスの高度化従来の工場主導の固定ミルクランによる調達集荷を日々の運用レベルにまで短サイクル化することにより,工場内在庫のさらなる適正化を進めている。

TOTO上海では,中国市場での急激な需要拡大から手狭な倉庫スペースが課題となってきた。このため日立では,倉庫面積軽減を目的に現状の物流分析を実施し,滞留在庫の洗い出しと,部品ごとの容積情報から課題となっている在庫品目の洗い出しを行ったのち,調達物流の改善を実施した。

また,部品製造後に中国国内サプライヤから必要数以上の納品がされてしまうことがあり,倉庫スペース圧迫の要因となっていた。そのため,TOTO上海主導による国内調達品の調達物流ミルクラン施策を推進した。

従来の工場主導の調達物流ミルクランでは,いわゆる定期便と呼ばれる定期ルートで定刻にサプライヤを巡回して集荷する形をとる。TOTO上海では部品在庫を削減し適正化するために,入荷のJIT化を日々の運用レベルにまで短サイクル化し,日々の生産に必要な部品を必要な量だけ持ってくるよう,ITによる仕組み作りと運用オペレーションの高度化を推進した(図5参照)。

具体的には,TWX-21に蓄積されるサプライヤへの発注情報,納入指示情報を基に,サプライヤの位置情報,物量情報,集荷時間,納品時間を加味し,どの車格のトラックが何台必要なのかを前日に算出して翌日の最適な配車計画を立案するとともに,調達物流に必要な帳票も併せて出力する仕組みを構築している。また,物流会社が行う物流オペレーションについては,配送トラックにGPS(Global Positioning System)端末を取り付けて運行実績を把握し,配車計画との差分を管理することで物流品質の向上を図っている。さらに今後は,蓄積した実績データを分析することで,混雑度を考慮した適正な配送ルートの設定に活用していく予定である。

このようなITの仕組みを活用することで,TOTO上海は新たな業務を追加することなく,日々の運用レベルにまで短サイクル化した高度な調達物流を,運用コストを最小限に抑えて実現できる。現在はサプライヤ24社を対象にしているが,今後も対象サプライヤを増やして適用拡大を図り,部品在庫の削減と適正化に貢献していく所存である。

4.3 今後の展開

図6|調達ロジスティクスBPOサービスの運用イメージシミュレーションによる運用効果の試算からオペレーション実行まで一貫した対応を行う。高度な日々の調達業務オペレーションをIT×OT(Operational Technology)のプラットフォームにより実現する。

日立は,上述のような取り組みを発展させて,納入指示情報を基に調達物流を効率化する業務のBPO(Business Process Outsourcing)拡大をめざしている(図6参照)。

製造業の調達現場は,日々変動する需要に追従するためのサプライヤとの交渉や納期調整業務などに追われており,本来業務である新規サプライヤ開拓などソーシング業務の阻害となっているケースが見受けられる。

このため,製造業各社が調達する部品の納入指示情報を集約して日々の配車計画を全体で最適化し,運用オペレーションまでをカバーする物流サービスをBPOとして提供することにより,製造業各社は本来の業務に注力できると考えている。また,日々の運用レベルにまで短サイクル化する高度なオペレーションに必要な製造業各社の調達業務を,BPOにより集約して効率よく運用することによって,これまでの製造業各社の個別の取り組みでは得られなかった在庫削減や物流コストの削減,物流品質の向上などの新たな価値を提供できると考えている。

5. おわりに

本稿では,主に中国を中心に,日立グループにおける調達から製造,販売までのサプライチェーン全体の物流コストの削減や在庫の削減・適正化を実現するために,E2E視点でグローバルに物流ネットワーク全体を俯瞰(ふかん)し再構築・最適化する取り組みと,それを高度に短サイクル化して運用するための,IT化による仕組み作りに対する取り組みについて述べた。

今後は,これらの取り組みをさらに深化させて,日立グループ内の共通的なIT/OT(Operational Technology)プラットフォームとして構築し改善を進めていくとともに,同プラットフォームを活用したサービス展開を図ることで,グローバルでのロジスティクス事業の拡大に貢献していく考えである。

参考文献など

1)
寺内邦郎,外:物流のスマート化によるグローバルロジスティクスサービス,日立評論,97,3,199〜202(2015.3)
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