日立評論

製造業の底力を,日本から世界へ

協創で生まれるIoTを活用した次世代ファクトリー

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製造業の底力を,日本から世界へ

協創で生まれるIoTを活用した次世代ファクトリー

ハイライト

現在の製造業においては,開発サイクルの短期化や多品種少量生産への対応が急務となっている。日立はIoTプラットフォームLumadaを活用し,生産性向上や技能伝承などの現場力を強化するための協創を積極的に展開している。その具体例と今後のデジタル化戦略について,製造業向けソリューション開発のキーパーソンに聞いた。

目次

「匠の技」が支える日本の製造業

グローバル競争が激化する中,製造業では市場環境の急速な変化に対応するため,ビッグデータ解析や,AI(Artificial Intelligence)などを活用したデジタルイノベーションへの取り組みが加速している。かつて日本の製造業は,高性能・高品質なモノを作り出す技術で世界から賞賛を浴びてきた。それは,標準化された製品でありながらも決して手を抜かず,常に現場の「カイゼン」を積み重ね,精度のばらつきを極限まで抑え,「いつでも顧客に喜んでもらえるものを作りたい」という職人気質やプライドの現れでもあったはずだ。

製造業のグローバル競争が激化する中でも,「匠の技」とも言える日本ならではの技術とノウハウの蓄積は,いまだ衰えてはいない。そうした現場の暗黙知が,さまざまな先進技術でデジタル化,見える化できる時代となったことで,世界市場での競争力をさらに高めようという機運が高まっている。

日立は,こうした製造業におけるニーズを受け,OT(Operational Technology:制御・運用技術)とIT(Information Technology:情報技術)の総合力を駆使しながら,顧客のポテンシャルを顕在化させ,生産性や品質のさらなる向上,技術伝承などを支援する数々の協創に取り組んでいる。今回はその中から,ダイキン工業株式会社,オークマ株式会社との協創事例を紹介していく。

モノづくりへの熱意が協創のきっかけに

森田 和信
日立製作所 産業・流通ビジネスユニット Chief Lumada Officer/産業ソリューション事業部 産業製造ソリューション本部長

日立のIoTプラットフォーム「Lumada」を活用し,数々の協創プロジェクトの陣頭指揮を執ってきた森田和信(日立製作所 産業・流通ビジネスユニット Chief Lumada Officer /産業ソリューション事業部 産業製造ソリューション本部長)は,次のように述懐する。

「ダイキン様との出会いは,一足先に協創を開始していた株式会社ダイセル様からのご紹介でした。モノづくり現場の基盤をIoTで強化したい,日本の優れた技術を世界に広げていきたいという両社の共通の思いが,ダイキン様との協創につながったのです。」

化学製品から自動車エアバッグ用インフレータ(ガス発生装置)まで,幅広い事業領域を誇るダイセルとの協創は2015年2月にスタートし,現場作業員の逸脱動作や設備不具合の予兆を複数のカメラで把握・評価する「画像解析システム」が開発された。既に国内外の複数工場への導入が進んでいる同システムは,グローバルレベルでの製品品質の安定化や生産性の向上に大きく寄与している。その成果を自社だけでなく,モノづくりを大切にする日本の製造業に広めたいと考えたダイセル役員の仲介により,ダイキンと日立との新たな協創が始まったのである。

IoTで熟練技能の伝承を支援

ダイキンは世界150か国以上で事業を展開し,売上の約70%以上を海外で生み出す空調機器のグローバルリーディングカンパニーである。海外拠点は80以上を数えるため,国・地域をまたいだ生産性や品質のさらなる向上,熟練技能の伝承を重要課題と位置づけていた(図1参照)。

「協創プロジェクトでは,次世代ファクトリーの実現という目標に向けた第一歩として,まずは空調機生産の中で最もベーシックな『ろう付け』の技術伝承に日立のIoT技術を使ってトライしようということになりました。」(森田)

空調機の内部には冷媒が通る銅管がびっしりと詰まっている。熱に弱い銅管を接合するには,部材より融点の低い合金(ろう)を溶かして隙間に流し込む「ろう付け」と呼ばれる職人技が必要だ(図2参照)。製品品質を左右する重要ノウハウの一つで,機械化できない領域である。そのため数名しかいないマイスター(卓越技能者)が世界中の拠点を飛び回って技能教育を行っているが,テキストや実技だけでは伝わらない要素も多く,技能伝承がなかなか効率的に進まないのが悩みだったという。

そこで日立は,ダイセルとの協創で磨き上げたLumadaのソリューションコア「画像解析システム」をベースに,熟練者と訓練者の技能をMan(人),Machine(設備),Material(材料)という3Mの観点から定量的に評価できる「ろう付け技能訓練支援システム」を開発した。具体的には,ろう付けマイスターの手の動きやトーチ(ガスによる加熱器具)の角度,ろう材と部材の供給角度や温度変化などを,各種カメラとセンサーで時系列に収集・デジタル化し,訓練者の作業との違いをバーチャルに比較表示できるシステムである。

「ダイキン様が,作業評価に必要な18項目の評価基準を抽出し,日立がそのセンシングやデータ解析の仕組みを開発する流れで一緒に技術を組み上げていきました。トーチ角度による温度分布の変化などを評価できる仕組みを新たに開発し,今まで難しかった熟練技能の見える化や,それと比較した訓練者の改善点の把握が可能となりました。数値的根拠を持って相手に説明できるため,それまで苦労していた技能伝承が迅速かつ効率的に行えるようになると,マイスターの方にも喜んでいただいています。」(森田)

ダイキンの滋賀製作所で既に運用を開始した同システムは今後,他の国内拠点や海外拠点でも順次展開され,マイスターが日本にいながら海外拠点の訓練をサポートするなど,効率的な技能の底上げとグローバル人材の育成,世界同一品質の実現につなげていく予定だ。

図1│ダイキンの生産拠点

ダイキンは世界150か国以上で事業を展開する空調機器のグローバルリーディングカンパニーであり,80以上の海外拠点を有している(写真は滋賀製作所)。

図2│「ろう付け」作業の様子融点の低い合金(ろう)を溶かして隙間に流し込み,熱に弱い銅管を接合する。空調機の製造においては極めて重要なプロセスであり,高い技能が求められる。

マスカスタマイゼーションの先進モデルを確立

日本を代表する工作機械メーカーのオークマは,主要な基幹技術を自社開発する徹底した技術志向で知られている。工作機械製造は多種多様な顧客要求にきめ細かく対応するため,数千点から数万点に及ぶ部品を加工・組み立て製造する「超多品種少量生産」の典型と言える。同社は2013年,高効率でスマートな次世代ファクトリーの実現に向け,複合加工機,中・大型旋盤の生産工場として「Dream Site1」(DS1)を稼働させている。そして2017年,生産設備の自動化・無人化とIoT活用の領域をさらに高度化した小・中型旋盤の部品工場「Dream Site2」(DS2)を新設した。このDS2の計画段階でオークマから日立へ,既存工場比で生産性2倍・生産リードタイム半減をめざすIoT活用によるマスカスタマイゼーション(個別大量生産)を共同実証したいという提案があり,これが今回の協創プロジェクトへとつながった(図3参照)。

「日本の製造業で今後も基盤技術として生き残っていくもののひとつが,さまざまな部品を生み出す工作機械です。オークマ様が掲げた超多品種少量生産におけるマスカスタマイゼーションの確立というテーマは,これからの製造業が直面する重要課題の一つであり,非常にチャレンジングな取り組みになると考えました。日立の研究成果やLumadaソリューションの有効性を実証しながら,その過程で多くの先進的成果が得られるという期待もあり,協創プロジェクトがスタートしました。」と森田は振り返る。

DS1の4倍となる約4,000品目の部品加工を行うDS2では,短納期品の割り込み受注や,納期・仕様変更による生産計画の変更にも柔軟に対応できる究極の高効率生産モデルが求められていた。その実現に向けて両社で新たに開発したのが,RFID(Radio-frequency Identification)を利用してワーク(加工部品)の所在を正確に把握し,リアルタイムで部品搬送の作業指示を行う「工程管理システム」と,生産の進捗状況や設備の稼働状況を一元的に分析・可視化して全体最適を図る「進捗・稼働状況監視システム」である(図4参照)。

図3│オークマの新工場「Dream Site2」

新工場DS2の建設にあたり,IoT活用によるマスカスタマイゼーションの実現に向けたオークマと日立の協創が始まった。

図4│進捗・稼働状況監視システム写真は設備稼働状況監視マップの様子を示す。マシンの稼働状況をモニタし,生産に影響しているマシンの詳細な稼働履歴を確認することができる。

「お客様のお客様」へ広げていく

進捗・稼働状況監視システムには,日立の大みか事業所で培ったノウハウを実装したLumadaの「生産計画最適化ソリューション」が適用されている。工程管理システムによりこれまで「日」単位だった作業指示が「時」単位,「分」単位で行えるようになったほか,進捗・稼働状況監視システムにより生産進捗と設備稼働の一元的な分析と可視化を実現できることから,生産性向上やリードタイムの削減に貢献している。生産進捗の把握精度が向上し,ボトルネックの正確な特定と迅速な対策も可能になったという。

「DS2への導入効果は着実に現れています。今後は進捗・稼働状況監視システムで収集・蓄積した現場のビッグデータとAIによるシミュレーション技術なども活用し,より精度の高い生産スケジュールを自動生成するシステム,工場全体の生産性やボトルネックを予兆診断する技術なども開発していく予定です。そしてそれらのシステムやソリューションをオークマ様が工作機械を納入しているお客様企業に展開するB2B2Bビジネスの構想も両社間で始まっており,両社の協創の成果がサプライチェーン全体に広がっていく確かな手応えを感じています。」と森田は笑顔を見せる。

「製造業のシンクタンク」をめざして

ダイセル,ダイキン,オークマとの協創はこれからもさらに続いていく。顧客の課題やビジョンを共に考え,新たな価値を創造していく協創の過程では,経営層だけでなく,両社の技術者が一緒に知恵を絞り汗をかく現場でも強い信頼関係が育まれ,より大きなテーマへの挑戦に向けたモチベーションが醸成されていくからである。

最後に,森田はLumadaが秘める可能性と日立がめざす姿を次のように語った。

「Lumadaは,日立とお客様が一緒に新たな価値を生み出していく協創のプラットフォームです。そこには日立が自社内で実証した技術やノウハウ,お客様と一緒に積み上げたユースケース,上流コンサルティングや課題解決に向けた各種サービスなど,ハードやソフトだけではない,あらゆる要素がふんだんに組み込まれています。これらのノウハウをモデル化し,日本そして世界レベルで応用できる技術を抽出・汎用化し,すぐに役立つテンプレートとして横展開していくのがLumadaのビジネスモデルです。これからも私たちは,お客様の現場課題だけでなく,経営レベルの課題も解決する『製造業のシンクタンク』をめざして,Lumadaによる協創活動を進めていきます。」

ポジティブな発想と現場での実践の積み重ねこそが,生産のパラダイムを変え,イノベーションを巻き起こしていく。日立はこれからも,日本の製造業が持つ「底力」を新たな世界の潮流へと乗せる挑戦を続けていく。

COLUMN

デジタルファクトリー実現に向けた大きな成果に

稲塚 徹 氏
ダイキン工業株式会社
常務専任役員 テクノロジー・イノベーションセンター副センター長

空調機には図面だけでは表せない複雑な内部構造があり,組立工程の中では技能者が持つ摺り合わせのノウハウに頼る部分がまだまだ残っています。こうした製品をグローバルかつスピーディーに展開していくには,技能伝承と訓練の効率化が非常に重要な要素となります。

今回の協創の成果である「ろう付け技能訓練支援システム」を活用することで,各拠点の訓練者はマイスターの手の動きとトーチやろう材の操作の細かな連動を動画やデータで参照しながら,効率的・客観的に高レベルな技能が習得できるようになりました。これは今後の次世代ファクトリー実現への足がかりになると考えています。今回のシステムを他の製造工程や国内外の工場に適用するとともに,日立さんとより広範なグローバルプラットフォームの協創を推進していく予定です。

幅広い製造現場に生かせるLumadaのノウハウ

家城 淳 氏
オークマ株式会社 専務取締役 FAシステム本部本部長 兼 技術本部管掌

マスカスタマイゼーションを行うDS2の実現には,同じ製造業としてモノづくり現場を熟知し,工場全体の最適化をトータルにカバーできる日立さんが最良のパートナーだと判断しました。

DS2における高効率生産実証モデルの導入効果は,当初目標としていた数値に着実に近づきつつあります。日立さんのシステムで生産設備の稼働率からスループットに必要な部品の流れまで,生産のすべてを見える化できたことが効いています。Lumadaの生産計画最適化ソリューションは,データ分析で問題を迅速に把握し,全体最適の改善を促す用途に合致するものです。モノづくりのノウハウがさまざまな製造現場で共通して生かせることを示してくれました。今後も生産プロセス全体の自動化と最適化を進め,次世代ファクトリーのさらなる進化をめざしていきます。

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