日立評論

バリューチェーンイノベーション

スマートマニュファクチャリング

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COVER STORY:FOREWORD

バリューチェーンイノベーション

スマートマニュファクチャリング

Thomas Bauernhansl
教授(工学博士)
フラウンホーファ生産技術・オートメーション研究所 所長
シュトゥットガルト大学 工業生産管理研究所 所長2011年からフラウンホーファ生産技術・オートメーション研究所とシュトゥットガルト大学 工業生産管理研究所の所長を務める。専門はパーソナライズドプロダクション,Industrie4.0,サステナブルプロダクション,品質および高度な複雑性の管理,生産最適化。ドイツ政府によるStrategy Committee for Platform Industrie 4.0のメンバーで,Steering Committee Alliance Industrie 4.0 BW(バーデンヴュルテンベルク州)の副委員長である。著書・出版物は数多く,近著は『Industrie4.0 in Produktion, Automatisierung und Logistik』第2版(Springer Verlag刊)。

マスパーソナライゼーションへの移行に代表されるデジタル化は,製造業にスマート化という大きな変化をもたらした。例えばクラウドベースのプラットフォームでは,アプリケーションのクラウド上での利用,クラウドから提供されるサービスの利用,さらにその併用が実現している。一般的な市販のアプリケーションの中には製造業でも利用できるものがあり,すでにプライベートクラウドとして使用可能なものも存在する。しかし,産業向けの本格的なプラットフォーム開発はまだ始まったばかりである。

デジタルトランスフォーメーションは,肉体的作業と知的作業を分けるというフレデリック・テイラーの原則を少しずつ崩しつつある。将来的に知的作業は生産ラインに移されるだろう。あらゆる分野で従業員は,必要に応じて支援システムの力も借りながら,再び判断を下す能力を発揮し,意思決定や設計といった価値の高い仕事に注力するようになる。このような観点から,スマートマニュファクチャリングは,価値創出プロセスに従業員であるエンジニア自身の専門性を再び取り入れ,製造現場の地位向上につなげるものである。しかし,デジタル化による価値創出は,各企業にとって長くこれまでにない道のりとなり,その過程ではさまざまな乗り越えるべき段階を伴うであろう。企業は新しい技術や組織を段階的に統合し,メーカーとサプライヤ,そして顧客との間の既存の関係を見直さなければならない。

AI(Artificial Intelligence)と機械学習が,スマートマニュファクチャリングの中核的な要素であることは明らかである。さらに開発を重ねる必要はあるが,これらは製造業に革命をもたらす可能性がある。今日,企業は大量のデータを所有しながら,多くの場合,そこから知恵を引き出していない。機械学習はこうした状況に変化をもたらす。AIは構造化と非構造化のデータいずれも扱えるため,AIの助けを借りれば,不明瞭なデータセットから結論を導き出すことが可能である。この分析から,優れた決定や自動化サービスにつながる全く新しい気づきが示されることも多い。機械学習なしには市場競争力は瞬く間に失われる。なぜならデジタルトランスフォーメーションは,IoT(Internet of Things)と各種サービスによって取得・処理された大量のデータを,効率良く自動的に使用することに特化しているからである。

フラウンホーファ生産技術・オートメーション研究所では,機械学習がいかに機械の機能を向上させられるかについて,さまざまな実験を展開している。例えば「デュアルアームビンピッキング」というロボットシステムは,部品が無秩序に入った箱から,ロボットが適切な部品を正確に取り出すことができる。このロボットは動作を自律的に最適化する。つまり,取り出す作業を繰り返すうちに正確性を向上させる。「スマートシステムアナリシス」という私たちのプロジェクトでは,AIのアルゴリズムによって自動生産ラインの生産効率を数日で10%以上高めることができた。

IoTを含む産業インターネットは,価値創出がそれに最も相応しい場所で起こるようにするための,多様で柔軟性の高いシステムを提供する。これにより複雑さや取引コストが削減され,生産効率の向上に新たな可能性がもたらされる。時間,コスト,品質,柔軟性,サステナビリティといった価値創出の目的は変わらないが,それぞれの分野で要求レベルは高くなる。Industrie4.0の枠組みの製造プラットフォーム上で実施されるスマートマニュファクチャリングでは,経済面とサステナビリティを目的に,そのソリューションの範囲が,プロセスからビジネスエコシステムまでのあらゆるレベルへ広がっていく。このプラットフォームには,価値創出パートナーとエンドカスタマーのすべてを包含する新しい可能性すらある。それゆえ縦方向にも横方向にも統合できるプラットフォームにおけるネットワークは,このデジタル化されたエコシステム内で,タスクさらには機械の機能を生成し配布することに使用される。

このように複雑性が増すことにより,技術的,社会的,経済的,そして環境的な課題は,もはや一つの企業や組織が単独で取り組めるものではない。求められるコンピテンスとキャパシティに基づいて,タスクごとにダイナミックかつ一時的な提携が生まれる。そうした協力関係を可能にするためには,物理的な実体を実体のない仮想世界に融合する必要がある。膨大な数のデバイスがクラウド上のソフトウェアサービスと通信する。製造業にとってこれは,よりスピーディーに,より効率良く,より少ないリソースで,より大きなアウトプットを生産するためのバリューチェーンの全体像を示す。このバリューチェーンは,市場投入までの時間を短縮し,カスタマイズさらにはパーソナライズされた製品に対する需要に応じるものとなる。

今日,コンピュータとクラウドコンピューティングのためのハードウェアは,いわゆる生データと呼ばれる低レベルで高頻度のデータを処理できる。ビッグデータアナリティクスは技術的に実用可能なものになり,製造業とロジスティクスを管理して継続的に改善するための生産プロセスの可視化とKPI(Key Performance Indicator)をサポートするようになった。

ビッグデータの利用,スマートマニュファクチャリング,プラットフォームを利用したエコシステム内での価値創出は,産業・ロジスティクス分野の全体像を変える。私たちが複雑な(complex=複合的な)世界を扱っているとき,それはかつての複雑な(complicated=ややこしい)ものとは異なっている。因果関係を探す代わりに製造工程を最適化する相関性を見出すことに注力する。また,私たちは「なぜ成功しているのか」と聞く代わりに「成功するために何をすべきか」という問いを立てる。サイバーフィジカルシステムは,IoTと人々(顧客),そして生産システムの新しいツール,リソース,サービスをリアルタイムでつなげる。これは第4次産業革命を推進するスマートマニュファクチャリングの中核をなす。第4次産業革命では,価値創出はプラットフォームを利用してなされ,ビジネスエコシステムに統合されている。今や市場はその出現を待っている。技術はそこにあり,企業はビジネスを革新しようとしている。

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