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GLOBAL INNOVATION REPORT

進化し続ける「世界の工場」

「中国製造2025」に見る製造強国戦略

ハイライト

世界の産業競争は現在,重大な局面を迎えている。次世代情報技術と製造業のより一層の融合は,大きな影響力のある産業変革を引き起こし,新たな生産方式や産業形態,ビジネスモデル,経済成長分野を次々と形成している。こうした動きの中,「中国製造2025」を掲げ,次世代産業革新の歴史的なチャンスに対峙する中国製造業の最前線の取り組みを追った。

目次

執筆者紹介

頼 寧

  • 日立(中国)研究開発有限公司上海分公司 経営企画室 所属
  • 現在,中国における市場・技術の動向調査と社内経営管理に従事

はじめに

世界の産業競争は現在,重大な局面を迎えている。次世代情報技術と製造業のより一層の融合は,大きな影響力のある産業変革を引き起こし,新たな生産方式や産業形態,ビジネスモデル,経済成長分野を次々と形成している。その中で,欧米が先導するIndustrie4.0や,Industrial Internetの新しい技術変革が注目されている。

こうした動きの中,中国製造業も次世代産業革新の歴史的なチャンスに対し,2013年から中国政府は製造業の大量生産から品質・効率の高度化への転換を果たすため,製造強国戦略研究を実施し始め,2015年5月に「中国製造2025」戦略計画を公表した。本稿では,その概略について述べる。

中国製造業のトランスフォーメーション

1980年の改革開放以来,中国の製造業の持続的な成長によって,あらゆる分野にわたる独自の産業体系が形成され,工業化・現代化が大いに進展した。ワールドバンクのデータによると,中国製造業の付加価値額は,数十年の急発展を経て2012年に2.62兆米ドルに達し,米国を超えて世界トップの製造大国になった(図1参照)。だが先進国と比べると,中国は量的拡大を遂げた「製造大国」であるが,「製造強国」とは言えず,自主的イノベーション能力や資源利用効率,産業構造,情報化レベル,品質や生産効率などで大きく後れを取っており,生産方式の転換を迫られている。

図1│主要国の製造業付加価値額の対比THE WORLD BANK 2017年Manufacturing, value addedデータより作成した。2014年,2015年の中国の数字は,中国国家統計局の公開データより筆者が計算・作成した。

さらに中国の製造業は,先進国の再工業化・先進製造化と途上国のキャッチアップという二重の課題に直面している。これらの状況に対応するため,2013年1月,中国の国務院や工業情報化部は,中国工程院に委任して重大諮問プロジェクトである「製造強国戦略研究」を開始した。これにより,約2年の歳月をかけて150名の専門家や技術者,研究者によって中国製造業の位置づけ,戦略ビジョンが研究された。同研究では,世界の主要製造国の評価にあたり特別指標体系が設けられた。それによると2012年時点の主要国製造業の総合指数は,トップが米国(160点)で,日本(120点)がこれに続き,ドイツ(115点)が3位,中国(80点)は4位となっている(図2参照)。

中国は国家の工業化が発展途上にあるため,情報化と工業化がほぼ同時に発展している。これは,工業先進国(米国・日本・ドイツなど)が先に工業化され,それから情報化された過程と大きく異なる。工業先進国と比べ,中国製造業はまだ工業化の中後期であり,2025〜2030年の前後に工業化を達成すると見込まれる。

図2│1946〜2012年の主要国の製造業の総合指数の推移総合指数の算出は,中国工程院「製造強国戦略研究」課題グループの独自の製造業評価システムの指標設定(4項目の1級指標と18項目の2級指標)に基づいて算出している。

「中国製造2025」戦略の概要

図3│中国製造2025の「3ステップ」戦略中国工業情報化部WEBサイトに2015年5月19日に掲載された「中国製造2025」解説資料より筆者が作成した。

「製造強国戦略研究」の結果に基づいて,中国工業情報化部は2014年から国家発展改革委員会,科技部,財務部,中国工程院など20の政府機関と連携して,製造業振興の長期戦略プランを策定し,2015年5月19日,国務院より「中国製造2025」が正式に公布された。

中国製造2025では,国の現状に立脚し,「3ステップ」で製造強国になるという戦略目標の実現を図る(図3参照)。ステップ1では,2025年までに製造強国の仲間入りを果たし,ステップ2では,2035年までに製造強国の中位レベルに到達する。ステップ3では,建国100周年の2049年までに製造強国の先頭グループに入るとの目標を掲げている。

戦略目標を達成するために,中国製造2025では図4に示す9大戦略目標を展開するとともに,5つの大きなプロジェクトや重点を置く10の分野について明確にした。9大戦略目標の中では,目標2の「情報化・工業化融合の深化」を主軸に置くことを明確にして,スマート製造を核心として推進すると述べられている。10大重点産業分野については,次世代情報技術(1分野),ハイエンド設備(7分野),新材料(1分野),バイオ・医療(1分野)の4つに分けられ,ハイエンド設備は国民経済や国防安全の核心として進めるものである。

製造強国建設を統一的に協調して推進するため,2015年6月,国務院は国家製造強国建設の指導グループを設立した。国務院の指導者が代表を務め,国務院に直属する23部門・委員会の責任者がメンバーとなり,製造強国建設の全局に関わる事業を総合管理した。指導グループの事務局は工業情報化部に置かれ,指導グループの日常業務を担当する。同年8月,シンクタンクとして国家製造強国建設戦略諮問委員会も設立され,製造業発展の展望や戦略に関わる重大問題・政策の調査研究や意見・建議を提出している。その他,民間シンクタンクや企業シンクタンクを含む多層なシンクタンクの設置を支援し,製造強国の建設を知識面から強力に支援している。

図4│中国製造2025の戦略目標と重点プロジェクト中国工業情報化部WEBサイトに2015年5月19日に掲載された「中国製造2025」解説資料より筆者が作成した。

中国製造2025実施から2年間の動向

2015年からの2年間,「中国製造2025」プランに基づいてトップデザイン,重大プロジェクト,地域・企業モデル,インターネット+が開始され,多くの成果が現れつつある。

「1+X」のトップデザインの基本完成

「1+X」計画とは,「中国製造2025」+分野別・産業別のサブ計画を指す。中国製造2025が公布されて以降,中国の工業情報化部を中心に11個のサブ計画が制定された。それには,5大プロジェクトに関する実施ガイドライン,サービス型製造,装備製造業の品質・ブランド向上,医療産業発展,IT産業,新材料,製造業人材開発の6分野に関する行動計画あるいはガイドラインが定められた。また,10大重点産業分野における技術ロードマップが公表された。10分野は23の代表的な製品・技術にまで細分化され,市場予測,目標,育成重点,モデル応用,サポート政策の5つの視点から2025年までの状況を分析し,2030年を展望している。その他,中国製造2025に関する29省・市・地方レベルの実施ガイドライン・実施計画も認可された。

2016年に国務院より公布された「製造業とインターネットの融合的発展の深化に関する指導意見」が製造業とインターネットの融合的発展の深化について策定し,「中国製造2025」と「インターネット+」を共に推し進めることで,製造強国建設を加速させる運びとなった。

5大プロジェクトを中心に推進

「中国製造2025」では,5大プロジェクトを強力に推進し,全国に企業モデルケースから都市モデルテストまでを展開している。

2016年6月30日に,国家初の製造業イノベーションセンター「国家動力電池イノベーションセンター」が北京で設立され,2017年,国家付加製造・新材料イノベーションセンターが西安に開設された。現在はロボット,電子情報イノベーションセンターなどの設立も計画されている。この計画により,2020年までに15か所の国家イノベーションセンターを設立する予定である。また,省レベルのイノベーションセンター19か所の設立も認可された。基礎技術強化に関わる47方向の61プロジェクトを実施し,投資総額は108億元に達した。

5大プロジェクトのコアになるスマート製造については,まず,サイロ型情報システムの問題をクリアするため,中央政府は343億元を投資し,スマート製造の標準化実証実験やモデル応用に関わる226のプロジェクトを実施し,「国家スマート製造標準システム建設指南」を制定した。さらに,図5に示すように,2015年〜2016年にモデルケースとなる企業109社が選定され,2017年には新たに98社が選定された。109社の企業モデルケースの結果より,生産効率は32.9%,エネルギー効率は11.3%上がり,運営コストは19.3%削減,製品R&D(Research and development)周期は30.8%短縮,製品不良率は26.3%削減を達成した。

さらに2016年後半からスマート製造の推進は,企業モデルケースの段階からモデルシティの段階に入り,12都市,都市群4か所がモデルシティとしてスタートした。モデルシティの選出は,中国の東部,中部,西部と東北地域に分け,旧工業基地型,イノベーション型や資源型という都市の異なる発展タイプがカバーされ,モデル都市の地域リード効果も発揮される。その結果,製造業の地域分布において東部はハイエンド装備製造への転向,中部は産業段階のアップグレード,西部は優位性がある産業の革新という「新三極」局面が加速的に形成されている。

これらのモデルテストをサポートするために中央政府は200億元を支援し,各都市にも年間数十億元の補助金を提供している。例えば,寧波市政府は,3年間に100億元の予算を確保し,企業の工業投資(1億元以上)や技術改造投資(1千万元以上)に対して最大5,000万元,あるいは3,000万元のマッチング補助金を提供する。

また,2017年9月に「2017工業企業技術改造計画」も公表され,スマート製造,グリーン製造,品質向上など8分野13業界において644のプロジェクトが計画されており,投資総額は4,000億元,融資額1,600億元となる見込みである。

図5│「中国製造2025」スマート製造モデルケース推進マップ(2017年9月時点)中国製造2025青書(2017年版),中国工業情報化部国家統計局の公開データより筆者が作成した。各省に付けた数字は,各省・直轄市における工業企業の2015年の売上高総額の全国ランキングの順位である。

他の戦略目標の推進

グリーン製造を強力に推進するため,グリーンデザインモデルテスト99社,低炭素工業団地51か所,グリーン工場モデルケース201社を選定し,品質・ブランド構築の強化によってブランド企業251社の育成を支援した。

中国製造2025の特徴・ビジネスチャンス

図6│中国スマート製造の全体水準中国情報化百人会が2016年11月に公表した「2016年中国製造情報化指数報告」より筆者が作成した。

中国の製造業は30領域にわたり,年間営業収益2,000万元以上である中国製造企業は約30万社となる。各領域や企業の発展レベルは大きく異なり,工業化の進展段階も混在している。全体的にはインダストリ1.0(工業機械化)は完了し,インダストリ2.0(工業自動化)が進行中であり,インダストリ3.0(工業情報化)に向かっている。スマート製造を実現するために,発展方式が多重的システムのプロセスを経ること,インダストリ2.0,3.0,4.0が同時進行することが必要である。

2016年中国製造情報化指数報告(中国両化融合プラットフォームにおける約7万社の製造企業データを基にして29個の指標システムより指数を算出)によると,中国の製造業の情報化指数は平均36.9であり,2015年より3.8%高くなっており,製造業全体はインダストリ2.0からインダストリ3.0に進んでいる(図6参照)。得点が一番高い企業はインダストリ2.7の段階に入り,一番低い企業はまだインダストリ1.0(機械化)の段階であるというように,インダストリ1.0から3.0が混在している状態である。

同調査が示す中国製造業の情報化浸透率によると,生産設備の数値制御率は44.1%であり,コア工業ソフトウェアのうち,MES(Manufacturing Execution System)の普及率は23.3%のレベルである。また,事業ネットワーク協同に関わる企業プラットフォームの運営レベルは11.8%である(図7参照)。

図7│2016年中国製造業情報化の浸透率ERP(Enterprise Resource Planning),PDM(Product Data Management),PLM(Product Life-cycle Management),SCM(Supply Chain Management),CRM(Customer Relationship Management),MES(Manufacturing Execution System)
中国情報化百人会が2016年11月に公表した「2016年中国製造情報化指数報告」より筆者が作成した。

2015年9月〜2016年3月に筆者が中国の製造業企業10社に,自動化や情報化レベルのヒアリングを行った。その内訳は,自動車メーカー2社(年商100億元以上),半導体1社(年商15億元),製薬企業3社(年商10億元),食品企業3社(年商1〜3億元)である。ヒアリングした企業の自動化や情報化レベルは,図6の水準で検証することができる。当時,大手自動車企業ではすでにスマート製造の戦略策定が開始されていたが,中小企業においては,自動化は着手済みであるが,スマート化への投資については大手企業の動きを見ながら慎重に推進しようとしている。

また,対象企業(特に年商10億元以上の企業)からはさまざまなニーズも聞くことができた。代表的なニーズは,以下の通りである。

  • 生産設備の標準化・サイロ型システム問題解決
  • 生産ライン作業者の状態監視・動作分析
  • 製造プロセスデータ収集
  • 設備の故障予兆診断
  • 設備保守・エネルギー消耗管理
  • センサー故障予兆診断,センサー配置・利用の最適化
  • ロボット移動軌跡の最適化
  • ERP(Enterprise Resource Planning),MESシステムの導入,MESシステム統合
  • 工業団地の企業の間での生産リソース活用
  • 品質検査の精度アップ,製品安全トレース

ドイツのIndustrie4.0は,中国のスマート製造への影響が一番大きいが,日本の産業高度化の経験や伝統の技術・ノウハウも中国製造2025の実施に大いに生かせると考える。

中国製造業の現実から,日立には,中国の現状に合わせて以下のようなチャンスがある。

  • 地域としては,東部のように先端企業が集まった地域だけではなく,「新陳代謝」が加速する中部,西部の製造企業に向けた自動化・情報化改革のビジネスチャンスもある。例えばスマート製造モデルシティを推進する都市の中で,技術改革のビジネスチャンスを探るといったことが考えられる。
  • 顧客としては,大手企業をターゲットにする一方,現在の日立グループの顧客との連携を深化して,中小企業や民間企業に向けた技術改革(工業設備やソフトウェアの導入・更新)などのビジネスチャンスがある。
  • ターゲット分野としては,自動車,新エネルギー自動車,産業機械・自動化,グリーン製造,設備の技術改革などが有望である。またスマート製造に関わるセンサー,産業制御システム,産業インターネットもスマート製造のキーであり,市場参入するチャンスがある。

おわりに

世界の次世代産業変革の中,中国製造2025は製造業における先進国とのギャップを埋め,さらに欧米が標榜(ぼう)する第4次産業革命にキャッチアップすることをめざしている。中国は現在,工業化,情報化,都市化,農業現代化が同時に進行しつつ,13億人口の消費大市場を形成している段階であり,都市化と農業現代化は製造業の発展に巨大なニーズと市場を提供している。本稿では,中国製造業戦略の大きな変化を捉えるため,「中国製造2025」戦略に関わる背景,要点,最新動向,特徴とビジネスチャンスを中心に述べた。

2017年6月,中国の李克強総理は,夏季ダボス会議で次のようなメッセージを発した。

「『中国製造2025』は外国の装備を買わないことが目的だとの誤解があるが,これはあり得ない。グローバル化の中,門を閉ざして自らの装備の質と水準を高めるのは,客観的状況を無視して物事を進めるのに等しい。中国はドイツや米国などの国と協力体制を敷いており,さらに多くの外国の装備製造製品や技術が中国市場に入るだろう。」

日立は,OT(Operational Technology)やIT(Information Technology),モノづくりの強みを生かし,中国製造2025に向けて,中国の企業とウィンウィンで連携することにより,スマート製造分野において相互に発展するチャンスがある。

参考文献など

1)
中国工業情報化部,ウェブサイト:「中国製造2025」原文と解説資料(2015.5)
2)
国家製造強国戦略研究プロジェクトグループ:製造強国 戦略研究・総合篇,電子工業出版社(2015.10)
3)
国家製造強国建設戦略諮問委員会,中国工程院戦略諮問センタ:中国製造2025解読,電子工業出版社(2016.5)
4)
中国情報化百人会,中国両化融合サービス聯盟:「2016年中国製造情報化指数報告」(2016.11)
5)
辛国斌,外:図解中国製造2025,中国電子情報産業発展研究院,人民郵電出版社(2017.6)
6)
国家製造強国建設戦略諮問委員会:中国製造2025青書2017(2017.6)
7)
「中国製造2025」関連ニュース:人民網日本語版新華網日本語版中国網
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