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日立評論

1.ディペンダブルブロックチェーン

社会課題の複雑化に伴い,単一業種での課題解決が困難になりつつある中,業種をまたいだオープンかつセキュアな取引きを実現するブロックチェーンが注目を集めている。例えば,サプライチェーンにおける受発注情報と銀行サービスをブロックチェーン上でシームレスに連携させることにより,企業の資金繰りを改善する迅速なサプライチェーンファイナンスを実現できると考えられる。

日立は,このようなブロックチェーンの提供価値を11のパターンに整理したブロックチェーンパターンブックを開発し,異業種連携による社会課題解決型のユースケース開発を迅速化した。また,このようなユースケースを実現するブロックチェーン基盤として,PBI(Public Biometrics Infrastructure)を活用して認証を厳正化するなど,社会インフラとしての利用に耐える信頼性を備えたディペンダブルブロックチェーン基盤を開発している。

今後は,ディペンダブルブロックチェーン上での異業種連携ユースケースの社会実装を推進していく。

1.ディペンダブルブロックチェーンによる異業種連携ユースケースディペンダブルブロックチェーンによる異業種連携ユースケース

2.スマートフォンを用いた指静脈認証技術

近年,スマートフォンを用いたオンラインショッピングなどが普及する一方,他人の不正利用による被害も拡大している。そこでスマートフォンの利用者を正確に本人認証することが重要となるが,これまでは指紋認証などを行う専用センサーが必要であったり,複雑なパスワードを入力したりする必要があった。

そこで日立は,専用センサーを用いずにスマートフォンに標準搭載されているカメラだけで高精度な指静脈認証を実現する技術を開発した。この技術では,複数指をカメラにかざして撮影したカラー画像から各指を検出し,安定した静脈パターンの抽出を行うとともに,複数指の静脈パターンを組み合わせることで認証精度を高め,他人受入率0.0001%を達成した。

この技術により,指静脈による高精度な認証が汎用のスマートフォンで簡単に利用できるようになる。また,日立がこれまで培ってきた暗号化技術との連携により,安全で安心なセキュリティ技術として,金融取引における本人認証などへの幅広い応用が期待される。

2.スマートフォンの汎用カメラによる指静脈認証の原理スマートフォンの汎用カメラによる指静脈認証の原理

3.官民データ活用を促進するデータ流通技術

急速な少子高齢化などのさまざまな社会課題を解決するため,国,地方公共団体,民間事業者などが有する多様なデータを流通・活用し,知識や知恵の社会的共有へとつなげることが期待されている。これを受けて,複数の多様なデータを統合し,データ利用者へ提供するための官民データ流通技術を開発している。

2016年12月に施行された官民データ活用推進基本法では,官民が保有するデータの活用推進が基本的施策の一つに位置づけられた。データの活用・流通においては,提供者・利用者ごとに異なったデータの表記や構造が課題となる。そこで,標準的なデータの表記や構造を提供する情報処理推進機構「共通語彙(い)基盤」の構築を支援するとともに,共通語彙基盤の語彙を用いてデータの表記や構造を共通化する技術を開発した。また,共通化されたデータを利用者ごとに適した表記・構造へ変換して提供する技術の研究開発を進めている。この技術により,多様なデータ利用者による分野横断的なデータの活用が促進される。

今後は,交通,エネルギー,防災などの分野へと適用範囲を拡張し,Society 5.0の実現に向けた技術の適用を推進していく。

3.データの表記や構造を共通化する官民データ流通基盤データの表記や構造を共通化する官民データ流通基盤

4.府省庁連携防災情報共有システム

気候変動に伴う風水害の激甚化や南海トラフ地震などの大規模災害の発生が想定される中,災害対応力の向上が喫緊の課題となっている。災害対応には国,地方公共団体などの災害関係機関が被災状況の認識を統一し,個々の現場で迅速かつ的確に対応する必要がある。そのためには,各所の情報の横断的な共有と,現場への迅速かつ有用な情報の提供が求められる。

これに対し,日立は府省庁連携防災情報共有システムの研究開発※)を進めている。このシステムは,さまざまな組織・システムの情報を集約して,災害対応業務に即応可能な形に加工し,災害対応者の求める形式に変換して提供する。従来,特に災害発生初期において,現場には断片的な情報しかなく迅速な判断・対応が困難であった。入手時間や情報源が異なる個々の災害情報を統合して情報の欠損などを補完,または未入手の情報を推測して,対応に資する情報を生成する論理統合化技術により,発災初期から現場対応者への迅速かつ有用な情報提供を可能とする。2017年7月の九州北部豪雨災害では,災害発生初期の2日間で現場への道路被害や避難所情報など20種類以上の情報提供・共有に貢献した。

日立は,今後も防災関連技術を通じて,災害関係機関のほか,民間企業・団体などが有する災害対応に資する情報の活用を推進するともに,官民やインフラ,交通,建設など多業種の連携による災害に強い安全で安心なまちづくりに貢献していく。

※)
内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP:Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program)」の一環として,防災科学技術研究所と共同で研究を推進中である。

4.府省庁連携防災情報共有システムの概要府省庁連携防災情報共有システムの概要

5.救命率向上に向けた消防救急AIソリューション

5.救急AIソリューションのコンセプト救急AIソリューションのコンセプト

近年,日本国内では高齢化の進展に伴い,119番による救急要請の件数が増大している。その結果,現場到着および病院収容に要する時間がこの14年間でいずれも40%近く増加しており,救命率への影響が懸念されている。そこで,AI(Artificial Intelligence:人工知能)技術により消防職員のさまざまな意思決定を支援することで,職員の負担を増やすことなく,より迅速な救急サービスの提供を可能にする救急AIソリューションを開発している。

具体的には,メッシュに区切ったエリアごとの救急需要を予測して日々の隊配置計画を支援することで,現場到着時間の短縮に貢献する。また,患者の症状などに基づいて緊急度および原因疾患を予測し,病院選定を支援することで,病院収容時間の短縮に貢献する。そのため,消防局が有するデータや,気象などのオープンデータの活用に加え,将来的には医療機関や個人が有するヘルスケアデータの活用も視野に入れている。

今後は,現場での価値検証を行い,国内外の消防局への導入をめざす。

6.粒子線治療向け装置精度検証技術

6.粒子線治療装置の精度検証用計測器粒子線治療装置の精度検証用計測器

粒子線治療施設では,日々,デイリーQA (Quality Assurance)を通じて装置動作の健全性を確認したうえで治療が実施されている。粒子線照射精度では複数の照射パターンを検証し,患者位置決め精度ではレーザーマーカーを目視確認しているため,従来はデイリーQAに1時間程度を要していた。治療時間の拡大のためにデイリーQA時間の短縮が求められており,高効率化に向けて,以下の特長を持つ計測器を開発した。

  1. 複数の照射パターンを二次元的に配置した粒子線照射精度の同時計測
  2. フォトダイオードによる患者位置決め用レーザーマーカーの自動計測

この計測器の検証試験を北海道大学病院陽子線治療センターで実施し,すべての計測項目を要求精度の範囲で計測できることを確認するとともに,デイリーQAの所要時間を20分以内に短縮した。

今後とも,粒子線治療装置の高精度・小型・低コスト化と並行して,ユーザーの使いやすさや経済性を考慮した製品の開発を進めていく。

7.超音波CTによる乳がんの高精度診断

乳がんが世界的に大きな問題となっている。従来の検診は,痛みを伴う,あるいは検診を行う術者に依存して結果が異なる場合があるなどの問題があった。このため,痛みがなく,誰が計測しても同じ結果で,さらには従来計測できなかったがんに関係する生体指標を複数計測可能な超音波CT(Computed Tomography)の開発を行っている。

超音波CTは,エコー装置で用いるプローブをリング状に配置し,リング内で超音波計測を行う。プローブが生体に接触しないため,術者依存性がない。さらに前方・側方・後方全方向からの信号を取得することができるため,硬さなどのがんに関係する指標が計測可能である。乳がんに罹患したイヌの乳房を計測した結果では,詳細な生体構造および硬さ計測により5 mmの乳がんを明瞭に分別することができた。

今後も研究を進め,がんの早期発見に供する検診技術の確立をめざす。

7.超音波CTの原理と乳がんに罹患したイヌでの超音波CT効果検証超音波CTの原理と乳がんに罹患したイヌでの超音波CT効果検証

8.新世代超音波プローブCMUT

超音波画像検査は,非侵襲でリアルタイムに体内を画像化できることから,疾患の予防,診断などさまざまな医療シーンで活用されている。半導体の微細加工技術を用いて製造されるCMUT(Capacitive Micro­machined Ultrasound Transducer)プローブは,従来の圧電プローブよりも高分解能に撮像できる超音波プローブとして期待されている。

日立は2009年に乳腺検査専用のリニアCMUTプローブ Mappieを世界に先駆けて実用化しているが,今回,この技術をさらに進化させ,乳腺検査以外にも適用できる汎用のリニアCMUTプローブ「CMUTリニア SML44 プローブ」を開発した。超音波の送信パワーや受信感度を大幅に向上することで,人体のより深い部位まで高分解能に撮像できるようになった。これにより,検査部位の深さに応じて複数のプローブを使い分けていた従来の検査を,CMUTプローブでは1本で実施できる。

今後もCMUTプローブのさらなる性能向上に取り組み,医療向け超音波画像検査の精度向上や迅速化に貢献していく。

(発売時期:2017年4月)

8.CMUTプローブの動作原理と特長CMUTプローブの動作原理と特長

9.認知症の早期診断を可能にする迅速MRI検査法

日本では2025年に認知症患者が約700万人に達し,その半数をアルツハイマー型認知症(AD:Alzheimer’s Disease)が占めると予測されている。ADは重度に至ると要介護となり社会的損失が大きいが,早期発見による投薬などで進行が抑えられるため,早期診断手法の確立が期待されている。

ADは症状進行とともに海馬などの脳の萎縮が進み,その前段階である軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)から脳の特定領域に鉄が沈着し脳内磁化率に変化が生じる。このため,脳の萎縮を評価する手法(VBM:Voxel Based Morphometry)と,日立が製品化した,MRI(Magnetic Resonance Imaging)による磁化率計測手法(QSM:Quantitative Susceptibility Mapping)を組み合わせた解析で,MCIの段階での早期診断が可能になると期待されている。しかし,従来は検査時間に合計10分以上必要であり,時間短縮が課題であった。

北海道大学病院と日立は,国立研究開発法人日本医療研究開発機構から「認知症の早期診断・早期治療のための医療機器開発プロジェクト」を受託し,MRIを用いて全脳の形態情報と磁化率算出の基となる位相情報を同時計測するハイブリッド撮像技術を開発した。この技術を用いることで,検査時間を5分まで短縮することに成功した。

現在,臨床評価を開始しており,認知症の早期診断手法の確立に貢献していく。

9.QSMの健常人頭部画像例(左),ハイブリッド解析の予想図(右)QSMの健常人頭部画像例(左),ハイブリッド解析の予想図(右)

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