日立評論

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基礎探索

研究開発

1.ナノ複合熱電変換材料

エネルギー消費量の増加に伴う化石燃料の枯渇やCO2排出による地球温暖化などの将来の社会問題に対応すべく,未利用であった200℃未満の低温から500℃までの工場廃熱や自動車廃熱を回生可能な熱電変換モジュールを開発している。

日立は,MnSi1.7(マンガンシリサイド)とSi(シリコン)で構成されるナノ複合構造を有する薄膜において,500℃の中高温廃熱から5%以上の電力変換効率を可能とする材料性能に必要な低い熱伝導率(1 W/km以下)を達成した。さらに,熱電変換モジュールへの搭載形態となるナノ複合構造のバルク材料の合成に成功した※)

今後,材料の性能向上と高耐熱性・高信頼性な熱電変換モジュールを開発し,自動車廃熱やエンジン廃熱の電力活用をめざす。

※)
今回の開発成果の一部は,NEDO(New Energy and Industrial Technology Development Organization:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託業務の結果として得られたものである。

1.MnSi1.7/Siナノ複合熱電変換材料MnSi1.7/Siナノ複合熱電変換材料

2.低消費電力・高速スイッチング反強磁性スピントロニクス

低消費電力性を備えた革新的次世代デバイス技術としてスピントロニクスが注目される中,日立ケンブリッジ研究所では,反強磁性スピントロニクスの研究を推進している。

反強磁性体は強磁性体のギガヘルツ帯よりも高いテラヘルツ帯に原理限界の周波数を持つため,超高速に動作する素子を実現できる可能性がある。チェコ科学アカデミー(Czech Academy of Science),ノッティンガム大学(University of Nottingham)などとの共同研究により,電気信号でマルチレベルスイッチングを確認した。具体的には,CuMnAsデバイス内の2方向に3つの連続した50 msの電気パルスを交互に印加し,電気抵抗がマルチレベルで再現可能な状態で反転することを確認した。

今後は,人工ニューラルネットワークの不揮発性プログラマブルシナプス応用に向けた高速マルチレベルスイッチングをめざす。さらに反強磁性体の高速性能を用いた新センシングデバイスなどの研究開発を進めていく。

2.CuMnAsデバイス構造(左),電気抵抗のマルチレベル反転(右)CuMnAsデバイス構造(左),電気抵抗のマルチレベル反転(右)

3.線虫がん検査自動化技術

がん検査受診率向上によるがんの早期発見の実現をめざし,誰もが簡便に受診できる次世代のがん検査方法の基盤技術開発に取り組んでいる。

今回,がん患者の尿の匂いに誘引され,また健常者の尿からは忌避するという線虫の特性(化学走性)を利用した線虫がん検査において,検査の各工程を自動で行う自動分注および自動撮像・画像解析システムを開発した。開発したシステムでは,線虫の数を光の明るさの度合い(輝度)を基に検出しデータ化することで,従来の目視での線虫の計数を不要とした。さらに,自動連続撮像・画像解析により得られる線虫の移動度を指標とすることで,がん検査の全数検査を可能とする品質管理方法を確立している。

今後,オープンイノベーションを活用して株式会社HIROTSUバイオサイエンスとの共同研究開発を進め,線虫がん検査の実用化により,がんの早期発見の実現に貢献していく。

3.線虫がん検査自動化システム線虫がん検査自動化システム

4.細胞自動培養装置

4.大量自動培養装置iACE1大量自動培養装置iACE1

再生医療はヒトの細胞や組織を利用した治療法で,これまで治療が困難であった疾患に対しても根治治療を可能とする新しい医療として期待されている。この再生医療に向けた細胞を安全・高品質かつ大量に製造できる閉鎖系自動培養装置を開発した。

この装置は,無菌性に優れた完全閉鎖系の流路と培養容器を用いることで,医療用途に適する細胞培養を実現している。培養面積500 cm2の培養容器最大10個を用いて並列培養でき,109個以上の細胞が培養可能である。接着培養可能な細胞に広く適用が可能な汎用装置として開発しており,iPS(Induced Pluripotent Stem)細胞の大量培養が可能であることを実証済みである。また,iPS細胞から神経前駆細胞への初期分化工程にもこの装置の適用が可能であり,再生医療向け細胞の大量製造の道をひらいた。同装置は2017年に製薬会社へ納入されている。

※)
今回の研究の一部は,AMED(Japan Agency for Medical Research and Development:国立研究開発法人日本医療研究開発機)の「再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業」の支援により行われたものである。

5.SiベースQubitを用いた量子コンピュータ

超高速を実現する次世代コンピューティングとして量子コンピュータが注目されている。日立ケンブリッジ研究所では,既に実用化されている量産プロセスを適用可能なSiを用いたIDQD(Isolated Double Quantum Dot)構造とCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)構造の量子デバイスを用いた新しい量子コンピューティングの基礎研究を行っている。

今回,シミュレーションで素子サイズや素子間容量などを最適設計し,東京工業大学などの協力によりIDQD構造の2量子ビット回路を試作した。その結果,安定性ダイアグラム中でSET(Single Electron Transistor)センサーの電流変化による量子相互作用が4.2 Kで観察された。

今後はさらに素子構造の最適化を行い,量子デバイス制御技術や多量子ビットの試作へと展開していく。

5.量子ビット回路構造と電子遷移(左),外部電圧による安定性ダイアグラム(右)量子ビット回路構造と電子遷移(左),外部電圧による安定性ダイアグラム(右)

6.CMOSイジングコンピュータの実用化に向けた技術開発

今後の社会イノベーション事業では,社会システムの最適化が必要となり,そのためには組合せ最適化問題を解決する技術がキーとなる。

日立は,組合せ最適化問題を効率よく処理するために,新しい原理で動作するCMOSイジングコンピュータを提案した。このコンピュータはイジングモデルと呼ばれる磁性体の振る舞いを表すモデルの挙動を擬似的に再現し,組合せ最適化問題を効率よく処理する。2万ビットを搭載した第1世代のプロトタイプを65 nmプロセスで試作し,正常に動作することを確認した。さらに書き換え可能なFPGA(Field-programmable Gate Array)素子を用いた第2世代プロトタイプを構築し,CMOSイジングコンピュータの実用化に向けて,ハードウェアのみではなくソフトウェア技術の開発も推進している。複雑な社会問題を単純で規則的なハードウェア構成に埋め込むためのグラフ埋め込み技術を開発し,従来技術よりも高速に最適化問題をイジングコンピュータで実行できることを確認した。

6.第2世代FPGAプロトタイプ(左),CMOSイジングコンピュータ実用化に向けた必要技術(右)第2世代FPGAプロトタイプ(左),CMOSイジングコンピュータ実用化に向けた必要技術(右)

7.戦略ディベートAI

企業や公的機関のとるべき戦略に関して,人と議論ができる人工知能(AI:Artificial Intelligence)の実現をめざし,新聞や白書などのテキストデータを基に戦略とその戦略の根拠を提示する技術に取り組んでいる。戦略を提示できるようにするためには,コンピュータがさまざまなテキストデータの意味を解釈したうえで,個別の解決策に関する根拠や反例などの証拠情報を自動で整理して洗い出す必要がある。そこで,以下の技術を開発し,その有用性を実証した。

  1. テキストの構文構造に基づいて意味を付与する技術
  2. 局所的な構文特徴を階層的に組み合わせて根拠と反例を分類する技術
  3. 注目箇所推定層付のディープラーニングによる証拠性判定技術

これらの技術を組み合わせて試作したシステムは,複雑な観点での判断を要する議題に対して,さまざまな価値観で賛否両面から判断の根拠を提示することができる。

今後は,文書に書かれた内容を理解する言語理解技術を深めることに加え,文書に書かれた知識を組み合わせて新しい戦略を創生する技術,またメリット・デメリットやコスト対効果を総合して戦略の妥当性を評価する技術の開発を推進する。

7.戦略型ディベートAIのコンセプト戦略型ディベートAIのコンセプト

8.生物の群れの相互作用を応用した環境変化へ即応する分散協調システム

近年,電力や交通,物流などの社会インフラシステムは,IoT(Internet of Things)の進展に伴い,大規模化,複雑化が進んでいる。現状,例えば多数の発電所や変電所からなる大規模な電力インフラでは,発電量などのデータを中央制御センターに集約して計算を行い,各所に送電や配電指示を戻す,中央制御型システムで運用されている。しかし,今後スマートグリッド(次世代電力送電網)の普及や電力自由化の施行に伴い運用が複雑化すると,中央制御型システムによる全体最適化には非常に大きな計算負荷がかかり,リアルタイムな対応が困難になる可能性がある。

この課題を解決するために,生物の群れの振る舞いに着目した。魚,鳥などの生物の群れの中の各個体は,互いに隣り合う個体との相互作用(衝突回避,整列,凝集)によって,自身の進む方向や速度を決めている。この行動を繰り返すことによって,整然と隊列を組んだり,一斉に方向を転換したり,統率の取れた集団行動を生み出している。つまり,生物の群れには,社会インフラシステムでの中央制御センターに相当する群れの全体状況を把握するリーダーが存在せずとも,隣り合う個体間の相互作用によって,この群れが,あたかも1つの生物として振る舞っているかのように見えるのである。

そこで,このようなリーダーを必要としない生物の群れの相互作用を応用し,多数のサブシステムにて構成される分散協調システムを開発した。この分散協調システム全体が生物の群れに相当し,個々のサブシステムは,1羽の鳥や1匹の魚としての個体に対応する。この分散協調システムは,データを1か所に集約してシステム全体の最適化のための計算を行う中央制御方式とは異なり,最適化に必要なデータの交換をサブシステム同士で局所的に行って最適化の処理を個々のサブシステムに分散させ,これらのデータ交換と最適化処理を繰り返し実行することによって全体最適を実現する(図8-1参照)。このため,データ収集での通信負荷と最適化計算の負荷を大幅に軽減でき,制御対象の増加や,想定外の環境変動にもリアルタイムに対応することが可能となる。

このシステムでは,以下の行動を繰り返し行うアルゴリズムを個々のサブシステムへ導入している。

  1. 連携する他のサブシステムとデータを交換する。
  2. データに基づき,各サブシステムに対し相互に行動を要求する。
  3. 各サブシステムからの要求のうち,最も要求の多い行動を行う。

今回,このシステムの効果を検証するため,生産管理システムを導入した多数の工場からなる工場群を模擬したシミュレータを構築した。この生産管理システムでは,連携する工場同士が生産効率についてのデータを交換したうえで,生産性の高い工場に対し増産,低い工場に対し減産を行うように要求し合い,生産計画を決定する。シミュレータ上の工場数を16〜1,024個まで変化させ,工場群全体の利益を評価したところ,中央制御方式による利益と同等の利益を達成できることを確認した。さらに,16個の工場を模擬したプロトタイプ環境を構築し,工場群への供給電力量を変化させ,工場群全体の利益の変化を測定したところ,中央制御方式の場合と同等の利益を50倍速く達成できることを確認した(図8-2参照)。このように,分散協調システムは,サブシステムの追加や削除への対応が柔軟で,環境変動に対して短時間で適用できるため,生産管理システムのみならずサプライチェーンや物流システムなどへの活用も期待できる。

今後,AIの活用やオープンイノベーションなどを通じてこの技術をさらに発展させ,人や環境に合わせて自律的に動作する社会システムを構築することで,超スマート社会(Society 5.0)の実現に貢献していく。

8-1.分散協調システムによる生産量の最適化のフロー分散協調システムによる生産量の最適化のフロー

8-2.分散協調システムのプロトタイプ分散協調システムのプロトタイプ

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