日立評論

人生100年時代における「日立の新たなスマートライフ事業の創造」

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日立評論

「まち」のQoL向上を実現するスマートライフ・ビジネス

人生100年時代における「日立の新たなスマートライフ事業の創造」

ハイライト

日立が考えるスマートライフ事業とは,IoTやAIなどのデジタル技術を活用し,QoL向上につながるサービスを生活者に提供することである。

家電を中心としたBtoC事業で培った製品技術や生活者との接点を生かし,日立がめざすスマートライフを生活のあらゆるシーンで実現していく。

目次

執筆者紹介

中野 洋樹Nakano Hiroki

  • 日立製作所 生活・エコシステム事業統括本部 スマートライフ事業推進本部 所属
  • 現在,スマートライフ事業の構想・企画および推進に従事

大窪 浩嗣Okubo Hirotsugu

  • 日立製作所 生活・エコシステム事業統括本部 スマートライフ事業推進本部 ビジネスプラットフォーム部 所属
  • 現在,スマートライフ事業の構想・企画およびプラットフォーム構築に従事

星野 剛史Hoshino Takeshi

  • 日立アプライアンス株式会社 家電・環境機器事業部 商品戦略本部 IoT商品企画部 所属
  • 現在,コネクテッド家電の商品計画・開発およびサービス事業推進に従事

岡井 良祐Okai Ryosuke

  • 日立製作所 生活・エコシステム事業統括本部 スマートライフ事業推進本部 ビジネス推進部 所属
  • 現在,スマートライフ事業の構想・企画および推進に従事

林 寛之Hayashi Hiroyuki

  • 日立製作所 生活・エコシステム事業統括本部 スマートライフ事業推進本部 ビジネス推進部 所属
  • 現在,スマートライフ事業の構想・企画および推進に従事

1. はじめに

日本が高度経済成長期を迎えた1960年代,人々は地域社会を通じた相互扶助の関係をさまざまな生活シーンで築いていた。例えば,町内会で祭を催したり,高齢者が子どもの遊び相手になったり,また,住民どうしの密接な関係を生かした助け合いや地域活動につなげていたといえる。

この時代に,日立はさまざまな家電を次々と世に送り出した。当時,日立に限らず日本の家電メーカーは,家事負担を軽減するため,いかに家電を高度化させるかという機能志向でモノづくりに取り組んでいた。今では洗濯機などの生活家電の普及率はおおむね9割を超え※1),家電は多くの家庭で家事負担の軽減に成果を上げ,便利で快適な暮らしづくりに貢献してきた。

しかし,半世紀を経て,日本の家族の姿は,世帯・世代の両面で大きく変化した。まず,日本人の平均寿命が男女ともに80歳を超え,私たちの社会は,100歳まで生きる人も珍しくない「人生100年時代」を迎えている。2025年には人口の3人に1人が65歳以上のシニアになるとの予測がある。その年代になると,体力的に買い物に行くことが難しくなったり,日常生活の中でけがや事故に遭ったりするケースが増えている。

また,共働き世帯が全体の6割に達し※2),多くの家庭では昼の時間帯に家に誰もいないことが珍しくなくなった。私たちの調査によると,共働き世帯の夫婦は,仕事や育児に忙しく,家事にも追われてゆとりがないことが生活の不満になっている。

そこで,さまざまな生活シーンにおいて,各世帯・世代の人々が具体的にどのようなニーズを持っているかを洗い出した(図1参照)。本稿では,これらのニーズに対して現在検討しているサービスを例に,日立が実現をめざすスマートライフを紹介する。

※1)
2人以上の世帯における普及率。(総務省統計局調査による)
※2)
労働力人口のうち,非農林業の雇用者の夫婦が占める比率。(総務省統計局調査による)

図1|人生100年時代における世帯・世代のニーズ共働き世帯や子育て世代には時間を生かすニーズ,シニアには負担軽減と健康に関わるニーズが存在している。

2. スマートライフの背景

2.1 ライフスタイルの多様化

スマートライフを創造していくには,生活者に寄り添い,さまざまな生活シーンで生じている困りごとを把握することが重要となる。共働き世帯や子育て世代には時間がなく,衣類を干す・畳む・しまうといった一連の手間のかかる洗濯のための時間が,子どもの世話や家族どうしのコミュニケーションの妨げになっている面がある。ここでは,洗濯にまつわるさまざまな困りごとを取り上げ,衣類を「洗う」という生活シーンに対する私たちの着眼点について述べる。

今から半世紀以上前の1952年,日立として初の電気洗濯機を発売した。それまでの洗濯は,冷たい水を我慢しながら衣類を手洗いしていたため,手間と時間がかかるだけでなく,辛い作業でもあった。しかし,洗濯機の登場は,手洗いの手間の省略と時間の短縮を実現し,生活者は育児や家族との団らんに,より多くの時間を使うことができるようになった。そして現在日立が販売しているモデルでは,「風アイロン」機能により乾燥時に衣類のしわを伸ばせるようにまで高度化し,アイロンをかける手間と時間の削減が可能になった。

一方で,私たちの生活環境は変化し,花粉やPM(Particulate Matter)2.5が増える時期には外に衣類を干せないという困りごとが生活者を悩ませている。また,生活者の中には,「仕事や買い物,レジャーでの外出中に,洗浄から畳む作業までしてくれるサービスがあれば時間にゆとりが生まれるので使いたい」という声や,「天気の悪い日や花粉の季節には外に干したくないので乾燥だけしてくれるサービスを使いたい」という声がある。ライフスタイルは多様化し,生活者のニーズは,洗濯をする場所を選ばず,さらには時間的な制約も受けない新たなサービスへと向いていき,「洗濯のボーダレス化」が進行していくと考える。

2.2 デジタル化の進展

これまで多くの家電メーカーはユーザーの幅広いニーズに応えようと,より多くの機能を製品に搭載させる機能志向でモノづくりに取り組んできた。日立の場合,洗濯機に温度センサーや振動センサー,電導度センサーなど,実にさまざまなセンサーを内蔵している。これらの働きによって最適な洗濯時間や洗剤・水量を調整して衣類の汚れを落としやすくしている。

しかし,ライフスタイルの多様化を背景に,世帯によってさまざまな暮らし方が出てきており,高機能化だけでは生活者の困りごとに対応しきれなくなってきている。例えば,IoT(Internet of Things)の活用によって不具合の予兆検知ができれば,洗濯機が故障する前に適切にメンテナンスすることで,修理中に自宅で洗濯ができない不便を防止する新たな価値を提供できる。

また,昼間の時間帯に誰も家にいない共働きや一人暮らし世帯にとっては,仕事中や外出先から洗濯機をコントロールできれば便利である。そのためには,家電をネットワークにつないで携帯端末などから操作できるコネクテッド化が不可欠となる。

さらに,もしネットワークからアプリケーションをダウンロードすることで機能の変更や拡充ができ,スマートフォンなど手元の端末を使って簡単に操作したり,機能をアップデートできたりすれば,生活者のさまざまなライフスタイルに対応した,新しい世代の洗濯機を提供できる。日立の最新のデジタル技術を活用することで,家電としての洗濯機の可能性をもっと広げられる。

3. 日立がめざすスマートライフ事業

本章では,「洗う」,「冷やす」,「料理する」の3つの生活シーンを対象に,日立が実現をめざすスマートライフ事業を紹介する。今後,家電はIoT化によって,単品での機能高度化を追求したあり方から,さまざまな生活シーンの困りごとをサービスによって解決するあり方へと進化していく。

3.1 「洗う」を変える

仕事を終えて帰宅し,夜間に掃除や洗濯をする負担は大きく,騒音が近所迷惑になるなど,家事に悩む共働き世帯は少なくない。また,アレルギーに悩む人にとっては,花粉の季節に衣類を屋外に干すことは避けたいが,室内干しでは臭いが気になるという別の問題が出てくる。

こうした生活者の不便の声に応えるように,近年コインランドリーが増えている。時間を気にせず洗濯したい,衣類を乾燥機で乾かしたい人の利用が多いという。ここにもライフスタイルの多様化と「洗濯のボーダレス化」が見られる。そのときの都合に応じて,自宅で洗濯をするときもあれば,コインランドリーを利用するときもある。

さらに,「洗う」ことのスマート化が進むと,例えばあらかじめアプリケーションに登録しておいたお気に入りの衣類の洗濯回数を重ねたときに,デジタル技術を使って洗濯機がその衣類の買い替え時期を判断し,代わりの新品を自宅に届けてもらうといった,今までになかったスマートサービスを提供することができる。実現すれば,扱いに気を遣っていたお気に入りの衣類を,汚れや傷みを気にせず気軽に着ることができるようになる。

3.2 「冷やす」を変える

食事の支度のため,仕事帰りにスーパーマーケットへ立ち寄ることは少なくない。しかし,冷蔵庫に何を買い置きしていたのか思い出せず,同じものを重複して買ってしまったり,必要なものを買い忘れたりしてしまうこともある。そもそも仕事で帰りが遅い日が続くと,買い物に行く時間を作ることができない。

そのような困りごとに対し,冷蔵庫に組み込んだカメラやセンサーを通して食材の買い置き状況を外出先のスマートフォンから確認できるようにする。また,食材の賞味・消費期限を登録でき,期限の到来予定を通知してくれれば,食材を使い切ることにもつなげられる。さらに,日頃必要な食材の在庫が冷蔵庫にない場合には自動発注してくれるサービスができれば,例えばシニア世代の買い物の負担を軽減できると考える。これらを実現できれば,冷蔵庫は単純に食材を冷やすためのものではなく,必要な食材を補充したり,新鮮なうちに食べることを促したりする新たな価値を提供できる。

3.3 「料理する」を変える

最近では,さまざまな料理を電子レンジで簡単に調理する方法があるが,本格的な調理をするには料理本に頼ったり,クッキングスクールに通ったりと手間や時間がかかる。

今,世の中にはいろいろな音声インタフェース機器や音声アシスタントと呼ばれるものが出てきている。それらに向かって作りたい料理を話しかけると,ネットワークを通じてお勧めのレシピ候補が紹介される。さらに,気に入ったレシピを選ぶと,必要な食材がスーパーマーケットから宅配されるといったサービスも増えていき,手間を減らすことにつなげられる。

この第一歩として,2018年2月発売のIHクッキングヒーター「火加減マイスター」では,スマートフォン専用アプリで,300種類のレシピが簡単に検索でき,検索した調理の設定を本体に送信できる。レシピの読み間違いや設定ミスを防ぐことができ,例えば調理機器の使い方や複雑な調理手順に慣れていない人でも,本格的な料理に挑戦できると考える。

3.4 健やかに生活するためのサービス創出

日立は,家電・住宅事業で提携しているサンヨーホームズ株式会社との協創により,サンヨーホームズのリハビリ施設において高齢者の屋内移動を支援するサービスの実証実験に取り組んでいる。

この実証は,サンヨーホームズの屋内移動支援ロボットを装着した高齢者の歩行データを蓄積し,日立のIoT技術と画像解析システムによって歩行パターンを解析する。そこから得られる歩行に関する情報をユーザーにフィードバックすることで,高齢者の健康維持・増進につながるサービス創出をめざしている(図2参照)。

たとえ身体能力に衰えが見えてきても,適切に支援することで健康の維持・増進を図り,家に閉じこもらず,やりたいことにチャレンジするなど,豊かなセカンドライフを送ることができるようになると考える。

図2|歩行データの活用を通じた高齢者生活支援屋内移動支援ロボットを使い,身体能力の衰えが心配な高齢者の歩行データを蓄積する。日立の画像解析技術によって歩行パターンを解析し,安全な歩行の実現や適切な介助サービスの提供などに役立てる。

4. スマートライフの実現に向けて

4.1 事業スローガン「360°ハピネス」に込めた思い

図3|生活・エコシステム事業統括本部の事業スローガン「360°ハピネス」人生100年時代のあらゆる年齢や,多様な世帯や地域環境も視野に入れ,そのすべての生活シーンにまるごと向き合い,幸せな未来につながる「製品」や「仕組み」,「サービス」を提供していくというメッセージを表現している。

生活・エコシステム事業統括本部は,さまざまな年代やライフスタイルに対するQoL(Quality of Life)向上の実現に向けて,「360°ハピネス」という事業スローガンを掲げた(図3参照)。

家庭内の生活だけでなく,家と街をつないだすべての生活シーンにまるごと向き合い,製品だけでなく,サービスやプラットフォームの提供を通じて,さまざまな年代やライフスタイルのひとりひとりに,うれしさや喜び,安心や感動を届け,QoLの向上を実現していくという私たちの思いを「360°ハピネス」に込めた。

4.2 生活者目線でソリューションを創造

これからは,過去の固定観念にとらわれず,常に生活者目線でソリューションを生み出していくことが重要である。スマートライフの創造に有益であれば,これまでの家電の競合相手が有力なパートナーになるケースも出てくるとみている。また,これまではビジネスでの接点がなかった異業種やベンチャー,海外企業などとも協創し,日立にはない技術やノウハウなどのリソースを活用することでサービスの差別化を図っていくことも検討していく。

これまで日立は,家電(プロダクト)の提供を通じて,家の中での生活を便利で快適にすることに注力してきた。しかし,「洗う」場所や時間を選ばない「洗濯のボーダレス化」に見られるように,ターゲットとする事業領域は家の中にとどまらず,家の外へ,街の中へと広がっていく。また,家の外で「洗う」方法についても,例えばコインランドリーの洗濯機(プロダクト)で洗うときもあれば,衣類をきれいにしてくれるサービス(コト)を利用するときも出てくる(図4参照)。

生活者の声に応えていくには,IoTなどの最新のデジタル技術を用いた製品(プロダクト)の高度化もさることながら,プロダクトでは解決できない困りごとに対してサービス(コト)の創出が重要になってくる。日立は,「家」と「街」,そして「プロダクト(モノ)」と「サービス(コト)」のすべてを事業領域として捉え,生活者を中心にした考え方で,暮らしにイノベーションをもたらすソリューション創造に努めていく。

図4|スマートライフ事業の領域家から街まで,そして製品に加えてサービスまで,スマートライフの事業領域は広く,さまざまな生活シーンのニーズに対応する。

5. おわりに

本稿で紹介した取り組みは,日立が実現をめざすスマートライフの一例であり,一部のソリューションについては事業コンセプトの実証(PoC:Proof of Concept)に取り組んでいる。

家電を中心としたBtoC(Business to Consumer)事業で培った製品技術や生活者との接点は,新事業を生むためのアセットであり,日立のIoTプラットフォームLumadaによってノウハウを活用することで,問題解決のスピードを早め,新たな価値を創造できると考える。

単純にモノを提供するのではなく,生活者目線で「暮らしをデザイン」することによって新たな生活シーンを提示し,すべての人に「ハピネス」をもたらす。これが,人生100年時代において日立が創造するスマートライフ事業のねらいである。

参考文献など

1)
総務省統計局,全国消費実態調査(2014)
2)
総務省統計局,労働力調査(2016)
3)
国立社会保障・人口問題研究所,日本の将来推計人口(2017)
4)
厚生労働省,簡易生命表(2016)
5)
内閣府,高齢社会白書(2017)
6)
NHK放送文化研究所,国民生活時間調査(2015)
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