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COVER STORY:ACTIVITIES2

先端テクノロジーとの融合による新たな不動産サービス

JLLと共に実現する「働き方の未来」へ

ハイライト

経済活動の基盤となるオフィス空間は,「まち」のあり方において重要な意味を持つ。日立は先端技術を活用し,JLLとの協創により「働き方改革」に資する不動産サービスを構築している。両社の強みを生かした取り組みや今後の展開について,プロジェクトの中核となる2人が意見を交わす。

目次

テクノロジーが不動産サービスを進化させる時代へ

佐藤 俊朗佐藤 俊朗
ジョーンズ ラング ラサール株式会社
執行役員 コーポレート営業本部長

赤津日立は,不動産分野のノウハウを蓄積されているジョーンズ ラング ラサール株式会社(以下,「JLL」と記す。)との協業で合意し,APAC(アジア太平洋)地域のお客様向け不動産サービスを向上させるためのソリューション開発に取り組んでいます。私たちアーバンソリューションビジネスユニットとしては,これを不動産分野の事業拡大の契機にしたいと考えていますが,御社の立場から今回の協業に至った背景,日立に対する期待についてお聞かせください。

佐藤当社は,グローバルで展開する不動産サービスプロバイダーとして,世界の事業法人や不動産投資家に向けてさまざまな不動産サービスを提供しています。この分野はテクノロジーの活用が十分ではありませんでしたが,ここ数年「プロプテック(Prop Tech:Property Technology)」と呼ばれる不動産テクノロジー(不動産テック)が注目され始めています。

こうしたグローバルな潮流を取り入れ,不動産サービスの質の向上やサービス提供の迅速化,さらには不動産の枠を越えた次世代サービスの提供を実現するべく,最先端のテクノロジーとノウハウを持つ日立との事業提携を進めたわけです。

赤津ソリューション開発では,オフィス利用最適化ソリューションが先行しています。まず2016年12月に,JLLと日立製作所,日立アジア社の3社で実証実験を開始し,シンガポールにある日立アジア本社ビル内のオフィススペースにセンサーを設置して,デスクや会議室,そのほかのスペースの利用状況などのデータ収集や,AIを活用したオフィス利用最適化についての分析を実施しました。

佐藤PoC1と呼んでいる実証実験の第1弾ですね。当社でも,データ分析に基づいたオフィスの有効活用に関するノウハウの蓄積やサービスの提供はしていましたが,データ収集は,定期的に企業のオフィスに調査員を派遣し,会議室やデスクの利用度を調べるといった人手に頼るものでした。実証実験では手動で行っていたことが自動でできることにまず驚き,さらにそれらのデータをまとめたものを見て,いろいろ活用できそうだと期待を持ちました。

赤津実証実験でオフィスの使い方の見える化をし,得られたデータを基にオフィスの効率利用を提案するソリューションを開発しました。2018年度から具体的なサービスの提供をスタートさせる方向で進めています。

ワークプレイスの高度化で真の意味での「働き方改革」を

赤津 昌幸赤津 昌幸
日立製作所
アーバンソリューション
ビジネスユニット
ビル街区ソリューション本部
サービス開発一部 部長

赤津さらに,名札型ウェアラブルセンサーで人のコミュニケーションの状況を計測・分析することによって,生産性が高く,働きやすい職場づくりを提案するソリューションができるのではないかと,次のステップに向けて動き出しています。

佐藤第2弾は,当社のAPAC拠点での実証実験へ移行ということで,社内にも働きかけをしています。「働き方改革」は日本に限った課題ではなく,グローバルなトレンドであり,労働時間の短縮のほか,スタッフが快適に使いやすく,ハッピーに働けるスペースを提供できるかが重要なカギです。

先頃,当社は2018年度におけるAPACの不動産市場動向に関するレポートを発表しましたが,その中で人材獲得をめざしたオフィスづくりが加速すると予測しています。日立との協創で生み出した商品やサービスによって,「優秀な人材が確保できた」,「快適な職場環境になった」とお客様に言われるようにしたいですね。

赤津コミュニケーションの状況とオフィススペースの関係分析もシンガポールの実証実験で取り組んでいることですね。働いている人たちの組織活性度,すなわちハピネス(幸福)度を計測・分析し,コミュニケーションを適正化させることで生産性の向上,優秀な人材の獲得につながるソリューションづくりをめざしています。

佐藤ハピネス度というのは,どういうものなのでしょうか。

赤津加速度センサーで取得した従業員一人ひとりの無意識の身体の動きの情報から組織が生き生きしている度合いを表す「組織活性度」を導き出したもので,ハピネス度(組織の幸福度)と呼んだりもしています。

当社の営業部門を対象にした実証実験で,職場での社員の身体の動きを計測したところ,ハピネス度と業績向上との間に相関があることが分かってきました。

佐藤組織活性度,幸福度というのは,非常に斬新なコンセプトですね。企業経営にとっても,テクノロジーを使ってハピネス度を向上させるというのは,注目に値することだと思います。

赤津データで問題を顕在化し,より働きやすくなればと考えています。しかし,テクノロジーだけではお客様が本当に必要としているところに届きません。働きやすいオフィス,生産性の高いオフィスに対するコンサルティングと組み合わせることが重要であり,JLLさんのように業界や業務のノウハウを持つパートナーとの協業により顧客提供価値を高めていきたいと考えています。

「Future of Work」の実現にデジタルテクノロジーを活用して

赤津ところで,「働き方改革」に関して,企業の不動産戦略が重要な役割を担うと以前から指摘されていますね。

佐藤はい。2017年の初めにそれまでの研究結果をまとめ,当社のサービス提供のコンセプト「Future of Work−働き方の未来へ」を発表しました。

このコンセプトでは,未来の働き方の5つの要素として,「デジタル・ドライブ」,「継続的なイノベーション」,「オペレーショナル・エクセレンス」,「財務パフォーマンス」,「ヒューマン・エクスペリエンス」を挙げていますが,ハピネス度はまさに「ヒューマン・エクスペリエンス」にほかなりません。また,ビッグデータやデジタルを活用して課題解決をめざす「デジタル・ドライブ」も,特に日立と協力できる部分ですが,そのほかでもパートナーシップが組めるものと考えています。

例えば,「財務パフォーマンス」の観点から日立と協力してポートフォリオ分析ができればと考えています。不動産には多額のコストがかかるため,「こういうオフィスにすれば働く人が幸せになる」と提案する際,コストを含めた情報は不可欠ですので,PoC1で得られたようなデータがあれば企業の判断も変わってきます。

赤津オフィスの「今」をデジタルに知ることができるのが,IoT(Internet of Things)活用の良いところです。データ分析結果に基づき,執務スペースをコンパクトにして共有スペースを広げることなどで同じコストをかけるにしても働く人にとって魅力的なオフィスにするといった提案ができます。財務パフォーマンスを含めた分析にAI(Artificial Intelligence)を活用することも今後の検討テーマとなりそうです。

佐藤ソリューション開発の核となる日立のIoTプラットフォームLumadaのコンセプトは,あらゆるデータをプラットフォームに集めてシステムをより高度化し,かつ世の中に役立つようにしていくものだと思っています。不動産のビッグデータには,働き方改革につながる人の動きをはじめ,不動産マーケットの動向などさまざまな情報が関わってきます。それらのデータをLumadaで解析し,AIも活用しながら最適解が導き出せれば,不動産ビジネスにとって画期的なことです。さまざまなビッグデータを重ね合わせていくことが,サービス構築のための新たな発見につながることを期待しています。

オフィス利用最適化ソリューションにおける技術適用例

オーナー向けソリューション開発へ協創を拡大

佐藤氏と赤津氏

赤津オーナーの観点に立った不動産サービスのデジタルソリューションとしては,テナントの価値を高めるという方向もありそうですね。テナントの利用状況をモニタリングしデータを集め,例えばスペースの使い方の改善を提案するなど,いわば「成長するオフィス」という付加価値を提供できます。

佐藤同感です。不動産はインフラですが,そのインフラを活用しているテナントの要望や課題を知る必要があります。例えばこれからのオフィスは,現代のアジャイルな働き方に合わせて自由に選択できるワークスペースを必要としており,米国の一般オフィスの3割程度が,コワーキングスペースなどの働き方に合わせて働く場所を柔軟に選ぶことができるフレキシブルスペースになると言われています。

当社のお客様は,そうしたトレンドに合わせ,ファシリティにおけるフレキシブルスペースの割合について真剣な議論をしています。そこで必要なのは,根拠となるオフィスの活用データ,不動産ポートフォリオの活用とビジネスの関係などです。それらを高度に分析することによって,将来的にはビルオーナーや投資家に向けて,テナントニーズを踏まえた投資に関する提案なども実現できるかもしれません。

赤津オフィスの移転,統合など,複数の保有不動産をどう有効活用するかといったCRE(Corpo­rate Real Estate:企業不動産)分野のデータ活用や分析の点でも協力できたらと思っています。

佐藤ぜひご協力をお願いします。これまでは,働き方改革やワークプレイスの高度化をメインにしてきましたが,今後は企業のポートフォリオに関するサービスや,不動産供給者側であるビルオーナー,デベロッパーにとって有用なサービスに拡張していきたいですね。テナントのビジネスが柔軟に変化している中,ビルオーナーには,固定された有限のスペースをどう活用していくか相当な提案力が問われていますから。

不動産供給者側に対するテクノロジーも進化していますが,データで裏づけられた優れた提案ができると,ビルオーナーに喜ばれるでしょう。ただコストを削減して利益を上げるという観点ではなく,テクノロジーを利用して社会をよくするといったところで日立とは協業していきたいと考えています。

赤津御社の提唱する「Future of Work」の実現や,不動産サービスを通じた社会貢献に向けてさまざまな形で協創していければと思います。本日はどうもありがとうございました。

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