日立評論

データ活用で加速する働き方改革

日立グループでの実践と学び

ページの本文へ

Hitachi

日立評論

新たなワークスタイルに向けた日立の取り組み

データ活用で加速する働き方改革

日立グループでの実践と学び

ハイライト

働き方改革の効果を創出するためには,効果指標の目標設定と現状把握を通じたPDCAサイクルを回す活動が不可欠であり,それを支援するためのデータ活用が重要である。日立では,タイム&ロケーションフリーワークを実現するために,シンクライアントとグローバルコラボレーション環境の導入およびクラウドへの移行を進めてきた。現在,IoTプラットフォームLumadaを活用して,働き方改革に関わる社内のさまざまなデータを収集・蓄積し,各部署へ提供できる環境の整備を進めている。具体的な働き方改革に関連した見える化の事例として,働き方改革の効果見える化,環境影響評価,会議効率化支援ツールおよび感情の見える化ツールの概要を紹介する。

目次

執筆者紹介

高浦 孝次Takaura Koji

  • 日立製作所 ITビジネスサービス本部 技術統括部 所属
  • 現在,社内の働き方改革をIT部門として推進・支援する業務に従事

鋤田 昌彦Sukita Masahiko

  • 株式会社日立ソリューションズ西日本 経営サポート統括本部 情報システム部 所属
  • 現在,社内ITの企画・統制,ITを活用した働き方改革を推進する業務に従事

諸星 勝Morohoshi Masaru

  • 日立製作所 システム&サービスビジネス統括本部 環境推進本部 環境戦略センタ 所属
  • 現在,システム・サービス製品の環境評価戦略企画および価値活用推進業務に従事

漣 一平Sazanami Ippei

  • 日立製作所 ITビジネスサービス本部 経営情報システム本部 経営情報システム部 所属
  • 現在,日立グループにおけるSAP CoE(Center of Excellence)活動ならびにアジャイル推進活動に従事

伊藤 淑子Ito Yoshiko

  • 日立製作所 ITビジネスサービス本部 統合ITプラットフォーム本部 戦略企画部 所属
  • 現在,社内ITインフラサービスの企画立案,所属本部内の働き方改革推進に従事
  • 日本テレワーク学会会員

1. はじめに

ワーク・ライフ・イノベーションを実現するためには,IT環境を整備する必要がある。一方で,IT環境の整備はあくまで手段であり,生産性の向上を通じて,目的としての働き方改革の実現に寄与することが求められる。働き方改革の効果を得るためには,目標設定と現状把握が不可欠であり,そのためのデータ活用が重要である。

以上のような考え方に基づき,本稿では,日立が取り組んできたIT環境の整備と,データ提供の取り組みについて説明したうえで,具体的な働き方改革に関連した見える化の事例を紹介する。

2. ワークスタイルを変革するIT

日立では,タイム&ロケーションフリーワークを実現するために,IT機器とコミュニケーション環境の両方の面から,柔軟な働き方を支援する環境を整備してきた。まずIT機器の面でシンクライアント導入を進め,2018年4月時点で約11万人のユーザーが利用している。次いで,コミュニケーション環境の面では,グローバルコラボレーション環境の導入に取り組み,同じく2018年4月時点のユーザー数は約27万人となっている。これは,それまでの日立グループにあった複数のメールシステムから,統一された一つの環境へ移行するものであり,メールやスケジューラといった汎用型のコミュニケーション環境に加えて,蓄積型とリアルタイム型のコミュニケーション環境も提供した(図1参照)。そのうえで,グローバルコラボレーション環境としてグローバルでの標準製品をそれぞれ定め,グループ共通のサービスとして提供している。これによって,チームでのディスカッションや,部門や企業を横断したコラボレーションを促進し,日立のめざす協創を実現する。

さらに,これを発展させて,2016年からはクラウドサービスのMicrosoft※1) Office 365※1)への移行を開始し,現在では約10万人のユーザーがOffice 365を利用している(2018年4月時点)。

ワークスタイル変革のためのツールとしては,シンクライアントにより,場所に依存しない恒常的なデスクトップの作業環境を提供している。さらにリアルタイム型コミュニケーションツールであるSkype※1) for Business(以下,「Skype」と記す。)は,IT部門での活用実績を踏まえて,2017年からは日立製作所全体でリモート会議のために利用している。

※1)
Microsoft, Office 365およびSkypeは,米国Microsoft Corporationの米国およびその他の国における商標または登録商標である。

図1|「人のつながり」を促進するグローバルコラボレーション環境へ蓄積型とは,いわゆる企業内ソーシャルネットワークシステムであり,文書ファイルなどを単に保管するだけでなく,それに対するレビューコメントや,「いいね!」といった評価も行うことができる。リアルタイム型とは,今,何をしているかというプレゼンスの共有や,インスタント・メッセージ,リモート会議などが行えるものである。

3. 効果創出へのアプローチ

どのような改革活動でも同様だが,働き方改革においても,実際に効果を出すには,まず現状を把握して目標を設定し,それが達成できているかを確認しながら,いわゆるPDCA(Plan,Do,Check,Action)のサイクルを回すという取り組みが不可欠となる(図2参照)。

また,活動を進めていく中で,取り組みには段階があることも分かってきた。

ステップ1:ツールの利用状況の把握
Skypeなどのツールを導入する場合,最初は,そのツールが使われているかどうかを把握して,利用頻度を上げるべくフォローする。
ステップ2:コスト削減・残業低減の効果把握
導入したツールを活用した結果,コストが削減できたか,残業が減ったかという観点で効果を確認する。
ステップ3:働き方改革の目的達成度の把握
残業時間の削減によって生まれた時間で,従業員の行動が変化するという成果までを見届ける。

以上のステップ1〜3の段階を経て,働き方改革の取り組みが業績に寄与することになる。

働き方改革で効果を得るためには,このような因果関係と取り組みの段階を,明確に理解しておく必要がある。

図2|働き方改革の効果創出に向けた活動プロセス施策と効果の仮説に基づき,モニタリングすべき指標を設定して目標を定め,運用フェーズで実績をモニタリングしながら,仮説を検証する。施策によって効果を得るためには,このような活動プロセスが必要となる。

4. 効果見える化の仕組み

日立のIT部門では,前章のアプローチを実現するため,働き方改革に関わる社内のさまざまなデータを収集・蓄積して,各部署へ提供できる環境の整備を進めている(図3参照)。

対象となるデータは,当初,Skypeの利用促進のため,部署別の利用状況を可視化して提供を始めた。これは前章のステップ1に相当する。次いで,Skypeの利用状況とともに勤怠,旅費,印刷費のデータを提供し,前章のステップ2に相当する残業の低減,出張旅費や印刷費の削減状況などを把握できるようにした。現在は,メールの発信状況や,会議開催状況などのデータも準備している。ステップ3に当たる分析については,次章で紹介する。

なお,データを統合して分析するための基盤には,日立が提供するIoT(Internet of Things)プラットフォームLumadaを活用し,BI(Business Intelligence)とデータ統合のツールとしてデータ統合・分析基盤Pentahoを利用している。

図3|働き方改革に関わるデータ提供Skype,Exchangeなどのシステムや勤怠管理システムから,働き方に関連したデータを収集して,一元的に管理する環境を整備する。それによって,部署別・時系列などの分析が容易となり,さらにはデータ相互の関連性の分析も可能となる。

5. 見える化の事例

3章で述べたアプローチに基づき,日立グループで実践した働き方改革に関わる4つの見える化事例を紹介する。

5.1 働き方改革の効果見える化

広島・福岡を主要拠点として,情報システムソリューション事業を西日本で幅広く展開している株式会社日立ソリューションズ西日本では,数年前から働き方改革のために全社横断的な組織を作り,業務の効率化を中心に取り組んできた。働き方改革においては,単に総労働時間を削減することだけではなく,働き方改革がいかに会社の業績に貢献するかが重要であり,会社業績貢献のKPI(Key Performance Indicator)を設定したうえで,PDCAサイクルを回す活動を行いながら,現在は次の4つの施策を推進している。

  1. ITを活用した徹底的な業務効率化[営業・SE(System Engineer)・スタッフそれぞれの効率向上]
  2. 社内会議の改革(Skypeを有効活用した会議の効率化・ペーパーレス化)
  3. オフィス(働く場所)改革(オフィスレイアウトの見直し)
  4. 制度改革(タイム&ロケーションフリーワーク,サテライトオフィスの活用)

上記のうち(1)・(2)の施策について,前述のPentahoを使った仕組みを活用して,効果を見える化している。そのうちの2つについて紹介する。

スタッフ部門である業務効率化センタ(バックオフィス)では,Skypeを活用して業務を効率よく処理することによって,残業時間の削減を実現している。残業時間とSkype呼量の関係を図4に示す。

同様に,営業部門では,Skypeを活用して社内業務を効率化するとともに,移動時間などを削減して時間を創出し,顧客訪問数・折衝時間の増加を図っている。社内から顧客へと,行動の変化を起こすことで結果的に案件が増え,受注が増えるとの仮説を基に,データによる検証を実施している(図5参照)。

またSE部門においては,Skypeの活用によって生産性向上・原価低減を実現すべく施策を推進しており,まだ明確な定量的効果は見えてきていないが,効果のきざしは表れつつある。

このように,働き方改革において効果の見える化は必須であり,見える化することで,PDCAサイクルを回す活動が実現できる。

図4|業務効率化センタ(バックオフィス部門)の分析業務効率化センタでは,営業の事務処理を行っており,作業量を伝票の処理件数で把握できる。対象期間において作業量はほぼ一定であるが,Skypeの活用が増加するにつれて,残業時間が前年度比で約30%減少している。

図5|Skypeの活用と顧客訪問回数ドットは各営業部署の月ごとの状況を示す。Skypeを活用している部署・月ほど,顧客訪問数が増加する傾向が見られる。

5.2 働き方改革の環境負荷の見える化

日立では,環境経営を推進するため,SI-LCA(System Integration-Life Cycle Assessment)という手法を開発した。SI-LCAは,システム・サービス製品の設計・開発から使用,廃棄に至るライフサイクルでの環境負荷(CO2排出量)を評価する手法であり,2006年3月に日本環境効率フォーラム(現・LCA日本フォーラム)が発行した「平成17年度 情報通信技術(ICT)の環境効率評価ガイドライン」に準拠している。

働き方改革の効果は,生産性向上や従業員満足度の向上などの観点から考えられることが多いが,環境への影響の観点からも把握する意義があると考え,今回,評価を試みた。

今回の評価は,前述の日立ソリューションズ西日本での取り組みのうち,(1)ITを活用した業務効率化と,(2)社内会議の改革に該当する施策を対象とした。評価に際しては,2つの施策で収集したデータを用い,施策の導入効果を見える化するため,運用ステージを対象範囲とした。

評価項目は,ITソリューションによる効果を構成する(1)作業工数,(2)IT機器,(3)人移動負荷,(4)物移動負荷,(5)通信データ量,(6)倉庫スペース,(7)消耗品の7つである。施策導入前後のCO2排出量を表1に示す。

今回の評価は一つの事例ではあるが,働き方改革は環境面においても効果が期待できると考える。

Skype会議により少数の人の移動がなくなっても公共交通の運行便数は変わらず,CO2排出抑制効果は即座に顕在化しないが,潜在的効果として将来的に非常に大きな貢献が期待されている。

表1|働き方改革の環境影響(CO2排出量)評価株式会社日立ソリューションズ西日本での働き方改革の取り組みの結果を,7つの項目ごとに評価した。その結果,施策の導入後は導入前に比べ,年間のCO2排出量を101 t抑制し,削減率5%を達成したことが分かった。

5.3 会議効率化支援ツール

日立製作所のワーク・ライフ・イノベーションにおいては,会議の改革にも取り組んできた。その中で,会議の目的・アジェンダの明確化や,資料の事前共有が大切であるという観点から,支援ツールを提供することとなった。

2018年5月から導入された,Outlook※2)のアドインとWebページから成る会議効率化支援ツールは,会議前に会議出席依頼を送信する際,参加者・日時・場所に加えて,目的,アジェンダ,参加者の役割,会議資料の所在,さらには会議に要する概算コストを表示する。また会議の後には,開催者は作成した議事録やTo Doリストを送信し,参加者は会議サイトに会議の評価コメントを書き込むことができる。書き込まれた評価コメントは,匿名にて開催者へ送られ,今後のために活用できる。また,蓄積された会議データを集計・分析することにより,職場ごとの会議の傾向を可視化できる。

※2)
Outlookは,米国Microsoft Corporationの米国およびその他の国における商標または登録商標である。

5.4 感情の見える化ツール「emo」

日立製作所ITビジネスサービス本部では,新入社員によるアジャイル開発の実習の一環として感情の見える化ツール「emo」を開発し,2018年2月から運用している。6名のメンバーで2週間のスプリントを6回(3か月)行い,クラウドを活用してモバイルでも利用できるアプリケーションを開発した。

「感情」は,個人のパフォーマンスにも,職場の業績にも大きな影響を及ぼすことが知られており,感情のマネジメントの重要性が高まっている。「emo」では,自身の感情に向き合い,認識し,表現(emoに入力)することで,感情と適度な距離を取り,マネジメントする。さらに,個人の感情をチームで共有することで,チームメンバー間のフィードバックを促進し,エンゲージメントを向上させる。効果のKPIとしては,年に1回実施している従業員満足度調査の「エンゲージメント」の項目を3ポイントアップすることを掲げている。当然,感情を率直に入力して共有することに対する心理的な抵抗は予想されたため,入力は強制ではなく,メンバーの自主性に委ねられている。

PCまたはモバイル端末で,「emo」を起動すると,そのときの自分の感情を入力する画面が表示され,「よい」,「普通」,「よくない」の3つから選択できる。任意で140字までのテキストも入力できる。結果はチームメンバー間で共有でき,集計して分析することも可能である(図6参照)。アプリケーションのアーキテクチャとしては,データ格納の基盤はSharePoint,入力・共有やチーム作成管理の機能はPowerApps※3)で開発し,分析結果はPower BI※3)で表示している(図7参照)。

※3)
PowerAppsおよびPower BIは,米国Microsoft Corporationの米国およびその他の国における商標または登録商標である。

図6|「emo」の概要「emo」のアプリケーションは,PCでもモバイル端末でも利用でき,感情の入力とチームの入力結果の参照ができる。ポータルサイトでは,運用状況などの情報提供や,要望などの情報収集を行っている。さらに,「emo」のデータを集計・分析したレポート画面も提供している。

図7|「emo」のアーキテクチャ「emo」は,開発から運用まで,すべての機能をクラウドサービスのOffice 365によって実現するアーキテクチャとした。それによって,すばやく,低コストで提供することが可能となった。

6. おわりに

デジタルトランスフォーメーションの時代にあって,企業内外のデータを有効活用することが,事業の成長には不可欠となっている。働き方改革においてもそれは同様であり,関連データの活用は活動の成否を左右する。

見える化の対象は,当面は勤務状況,メールや会議の状況などにとどまっているが,今後は,営業や設計などコアな業務領域に関わるデータも含めて,幅広いデータの活用を進めたいと考えている。すでに,日立の働き方改革を推進するフラグシップのサテライトオフィスである「@Terrace」では,IoTセンサーによるデータ取得を開始している。詳細については本号掲載の論文「IoTセンサーによるオフィス内活動の分析とCRE最適化に向けた活用構想(p.106)」を参照されたい。今後,さまざまな領域の関連データによるデータレイク整備により,さらに利便性を高めることも視野に入れ,データの有効活用を進めていく。

参考文献など

1)
日本環境効率フォーラム:平成17年度 情報通信技術(ICT)の環境効率評価ガイドライン(2006.3)(PDF形式、2.258Mバイト)
2)
濱塚康宏,外:システム・サービス製品の環境影響評価手法SI-LCAの開発と事例検証(2006.7)(PDF形式、1.991Mバイト)
3)
シーガル・バーセイド,外:組織に必要な感情のマネジメント,Harvard Business Review(2016.7)
4)
スーザン・デイビッド:EA ハーバード流こころのマネジメント
Adobe Readerのダウンロード
PDF形式のファイルをご覧になるには、Adobe Systems Incorporated (アドビシステムズ社)のAdobe® Reader®が必要です。