日立評論

デジタルソリューション事業の体制強化と社内改革

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日立評論

新たなワークスタイルに向けた日立の取り組み

デジタルソリューション事業の体制強化と社内改革

ハイライト

デロイトコンサルティング社によると,世界中で生成されるデータの量はこの1年半〜2年で2倍となり,企業のビジネスの在り方やデジタル時代の競争の力学をも変えると予想されている。企業はこうした時代に適応するか,取り残されるかという岐路に立っており,日立は,ビジネス環境の変化への顧客の対応を支援するとともに,自らもこうした変化に適応するために新たな挑戦をスタートさせた。

日立ヴァンタラ社は,日立のITとOTの知見を組み合わせ,IoT時代を生きる企業の新たな未来を創造するために設立された新会社であり,顧客企業のデータ活用と価値創出を支援するイノベーションパートナーをめざしている。本稿では,日立ヴァンタラ社の概要を中心に,世界のデジタライゼーションのリーダーをめざす日立の取り組みを紹介する。

目次

執筆者紹介

Daniel Kuenzi

  • Hitachi Vantara Corporation Sales Strategy and Transformation 所属
  • 現在,Miraiプロジェクトメンバーの一員として,営業戦略策定業務に従事

1. はじめに

日立ヴァンタラ社では,世界の企業活動における変化を把握するスキルを経営陣から従業員まで各自が有している。日立は,これまで数十年にわたり,世界各地の企業のデータ管理を支援してきた。特にこの10年間,世界の人々と企業の大半がインターネットを通じてつながり合う中で,データの偏在によってビジネスが形成される傾向が顕著になっている。スマートフォンからインターネットを通じて民間の交通サービスを予約するUber※)のような位置情報ベースのアプリケーションは,多くの国でタクシー業界を震撼させている。Uberのビジネスモデルの例に見られる「仲介排除」の動きは,リアルタイムかつ継続的に情報とデータにアクセスすることがいかに業界全体を再形成するかという,大きな変化の一端を示している。

こうした「デジタル・ディスラプション」がもたらす脅威とチャンスに対し,歴史ある多くの企業が急速に,自社の多様なデータソースから見識と価値を引き出す能力を獲得しつつある。例えば日立は,キャタピラーマリン社が船の推進システムから得たデータを組み合わせて分析し,船体のメンテナンスの要否を予測する取り組みを支援している(図1参照)。それらの企業はまさにデジタルトランスフォーメーションの最前線にあり,デジタル化によって今まで以上の安全性と効率性,価値を提供できるようになりつつある。またそれによって,社会全体が大きく変わろうとしているのである。

※)
Uberは,Uber Technologies Inc.の登録商標である。

図1|キャタピラーマリン社との協創日立ヴァンタラ社は,船の推進システムから収集したデータを組み合わせて分析することで,船体のメンテナンスの要否を予測するキャタピラーマリン社の取り組みを支援している。

2. 顧客企業のケーススタディ

企業情報システムの構築にも大きな変化が見られる。これまで多くの企業はさまざまなIT機器やシステムを個別に購入し,自ら組み合わせて利用していたが,現在は求めるアウトカムに応じてシステムを一括で導入するケースが増えている。この数年間で,オンプレミスのITシステムから,クラウド環境をホストとし,リモートで稼働するより大規模なITシステムへと移行してきた。こうして業界構造が変化する中でも,顧客は常に自社のデータから価値を抽出して管理するよりよい手法を模索している。

データの価値は,以前よりもはるかに高まっている。いかにして自社のデータから価値を引き出し,ビジネスに活用するかということが,企業の収益率,ひいては自社の存亡をも左右するのである。データから価値を得るために世界の企業が必要としているもの,すなわち顧客のニーズは,データセンターや取引所,リモートオフィス,組立ライン,小売店など,多くの時間を顧客に寄り添って過ごすことで知ることができる。

3. グローバルなデジタル戦略の推進体制の確立

図2|日立のデジタルソリューションビジネス推進体制Hitachi Data Systems社,Hitachi Insight Group,Pentaho社の統合によって発足した日立ヴァンタラ社は,日立グローバルデジタルホールディングス社の一翼を担っている。

顧客のニーズを捉え,そのデータ活用と成長を支援するという観点から,日立はグループをまたがるイノベーションや開発の幅広い実績と経験を基に,2017年に大きな変革に乗り出した。日立グループに属するHitachi Data Systems社,Hitachi Insight GroupおよびPentaho社は,従来,商業・工業・公共の分野においてビジネスのアウトカム向上を目的としたデータ活用ソリューションを提供していた。しかし,市場の急速な変化を背景に,各社の能力を統合してビジネスを合理化し,技術を迅速に組み合わせてシステム・サービスを構築する必要があった。

絶えず成長し続ける市場に対して即応可能な組織構造を確立するため,各社が築いてきた顧客企業とのパートナーシップについて確認し,統合に向けて必要な情報を整理した。そして,2017年3月から6か月の間に,Hitachi Data Systems社,Hitachi Insight GroupおよびPentaho社が統合され,日立ヴァンタラ社が発足した。

日立ヴァンタラ社は,日立のグローバルなデジタル戦略を推進するために形成された日立グローバルデジタルホールディングス社の一員でもある。そして新たなIoT(Internet of Things)ソリューションの提案力をフロントのビジネスユニットが有するOT(Operational Technology)のノウハウと組み合わせ,日立グループの豊富な経験を活用している(図2参照)。新しい社名と3事業体の統合は数年単位のプログラムの初期段階であり,ほんの始まりにすぎない。日立が次世代のIoT市場のリーダーとして世界から認められるために,日立ヴァンタラ社はさまざまな取り組みを積極的に進めていく。

4. 改革を主導するチーム・プロジェクト

日立ヴァンタラ社が推進する改革に際して極めて重要な要素が,組織構造と将来戦略に関わる広範な変革を担うトランスフォーメーション・オフィスの立ち上げであった。この総合的な改革プロジェクトを「Mirai(未来)」と命名し,今後,新旧の製品とサービスをいかに進化させていくのか,自社の事業・戦略・運営について評価した。Miraiは,日立ヴァンタラ社のベースとなった3事業体の異なるビジネスモデルを1つの戦略と運営モデルにまとめることで,3事業体の価値を組み合わせ,掛けあわせる意欲的な取り組みである(図3参照)。

日立ヴァンタラ社はこの取り組みを通じて,IoTソリューションのリーダーとして世界の働き方を変えるため,社会イノベーション事業のビジョン実現に向け,製品戦略とポートフォリオ,サービスと市場投入戦略を一本化した。

図3|マーケットイン・アプローチビジネスラインをまたいでサービス,エンジニアリング,運用を統合する,日立ヴァンタラ社が推奨するマーケットイン・アプローチの概要を示す。

5. 組織戦略の実行基盤としての明瞭な運営モデル

日立ヴァンタラ社はアナリティクスとIoTソリューションのラインアップを進化・拡張させているが,一方で,コアビジネスであるITインフラ,コンテンツおよびデータストレージの重要性は変わらず,今後も顧客のデータセンター業務に関する事業領域への投資を継続する。デジタル技術による業務改革に際して,データ管理は極めて重要な問題であり,従来のビジネスプロセスの一部がクラウドに移行し,IoTが進展する中でのエッジコンピューティングのユースケースは,日立ヴァンタラ社に大きな収益拡大のチャンスがあることを示している。

産業IoTの設置環境において生成されるデータは,高いネットワーク帯域コストとレイテンシの問題から,その大半をエッジで処理し,格納することを要求される。3事業体を統合し,即応性を高めることによって,日立ヴァンタラ社は市場がもたらすさまざまなビジネスチャンスに対応していく。

こうした統一戦略を早期に実現するため,Miraiプロジェクトは以下の3つの戦略的な取り組みに注力している。

  1. 製品・サービス・ソリューションを1つにまとめて進化させ,市場に投入することを目標と定め,実行する。
  2. 新しい組織に必要な能力を明確にし,タレントプログラムによって求められる能力・人財を育成する。
  3. 迅速かつ的確な改革のために必要な業務プロセス,技術システム,マネジメントシステムを把握し,実装する。

また日立ヴァンタラ社は,市場に新たな製品とソリューションをもたらす,拡張性の高いグローバルなデジタルビジネスの仕組みづくりに取り組んでいる。これによって,XaaS(Everything-as-a-Service)/IoT企業としての戦略を前進させることができる。

6. ワークストリームが加速する未来

図4|10のワークストリーム日立ヴァンタラ社では,Transformation Nerve Centerを通じてMiraiプロジェクトのすべてのワークストリームを緊密に連携させ,継続的かつスピーディで一致団結した変革を進めている。

数十億規模の企業における改革は非常に大がかりで複雑な作業であり,これを実現するには,組織幹部がみずからビジネスの戦略と運用モデルを総合的に見直す必要がある。製品とソリューションのラインアップを拡張し,世界中に散らばる数千人の従業員の舵を取り,数十億ドルの収益を確保しながら変革を成し遂げるには,膨大な準備と取り組みが求められる。日立ヴァンタラ社では,一連の取り組みを10グループ約50のワークストリームに分類している(図4参照)。その例を以下に示す。

(1)製品とエンジニアリング
日立グループのOTノウハウを今まで以上に活用するべく,インフラからIoT関連製品に至るまで,自社製品のロードマップを作成する。
(2)運営
自社のビジネス全般にわたって業務を統合し,新規ソリューションの開発を加速する。効率的な業務遂行と顧客需要に合わせた短期間での市場投入を実現するための計画を立て,実行する。
(3)サービス
市場競争を勝ち抜くために求められる新たな技術とソリューション提供を実現する。自社の製品と付加価値の高いサービスを組み合わせ,顧客のデータ活用を支援する新たなソリューションを開発する。
(4)販売と市場投入
複数の営業部門を統合し,顧客のニーズに応えるべくより多くのリソースを投入する。また,パートナー企業の収益構造を改善し,業務を顧客の視点で「見える化」することで,顧客と日立ヴァンタラ社との協業をスムーズに進められるようにした。

7. 改革の実現に向けたスケジュール

日立ヴァンタラ社の始動にあたり,将来に向けた方針や進路を定めるための2か年の計画を立てた。経営陣はこの計画を遂行し,自社の業績や市場に変化があった際には方向性を修正する。2か年の移行計画は,以下に示す4つのフェーズに分けられている。

(1)フェーズ1
2017年4月から同年10月にかけて,新体制移行に向けた計画を立案し,改革に際して必要な事項をまとめた。
(2)フェーズ2
計画が実現可能性を確認するため,パイロットプログラムを施行した。収益と資金を確保しながら,稼働中のワークストリーム全体の運用モデルをファイナライズすることが焦点であった。日立ヴァンタラ社はフェーズ1で定めた変革の目標を達成し,2018年4月,フェーズ2は成功裏に終了した。
(3)フェーズ3,フェーズ4
現在,企業運営の改革と横串組織の実現,新たなソリューションの迅速な市場投入,日立グループ内の他のデジタル関連部門との協力関係強化を目的として,フェーズ3およびフェーズ4が進行中である。これらのフェーズは,2019年5月に完了する予定である。
(4)今後の展望
製品ラインアップを強化・拡張して市場投入のルートを確保し,ビジネスのデジタル化を完遂するという長期的なビジョンを通じて,日立ヴァンタラ社は常に市場の一歩先を行くことをめざす(図5参照)。

図5|顧客中心でマーケットインの運営モデル日立ヴァンタラ社の新たな運営モデルは顧客中心に設計されており,市場の動向を捉えて迅速かつ的確に応えるものである。

8. プロジェクトを通じて戦略を定める日立ヴァンタラ社の働き方改革

理論は重要であるが,それは実際の行動が伴う場合に限ってのことである。Miraiプロジェクト遂行の過程で,多くのことを改善することができた。以下にその例を示す。

(1)デジタルツールによる新しい働き方
IT部門の主導によって新しいデジタルコラボレーションツールを導入し,時差や距離を超えたコラボレーションを促進する「デジタルファースト」な文化の醸成を支援した。
(2)外部有識者との提携
新たな施策の実行にあたっては,経験者の協力を得ることが重要である。日立ヴァンタラ社は初期の段階でデロイトコンサルティング社に協力を仰ぎ,同社が数々のグローバル企業にアドバイスをしてきた経験に基づき,新体制への移行と戦略に関する助言を得た。
(3)大規模なコラボレーション
日立ヴァンタラ社のワークストリームでは,1,000人以上の従業員が新体制への移行計画に積極的に参画している。
(4)スクラム/アジャイル手法の導入
少人数のチームで特定の課題について迅速に調査・解決するソフトウェア開発手法(スクラム/アジャイル手法)を成功裏に導入した。課題に対して、迅速に調査・解決する新たな手法は,ヴァンタラ社の経営会議でも用いられている。
(5)チェンジ・アンバサダー・ネットワークの導入
世界中の従業員がチェンジ・アンバサダー・ネットワークに参加し,新体制への移行に関する情報を各拠点の他の従業員に伝えると,本社地区に勤務するMiraiプロジェクトのワークストリーム責任者にも情報がフィードバックされる。
(6)顧客の成功を支援する仕組みの構築
日立ヴァンタラ社とパートナーシップを組むことで顧客が得られるメリットを明確にする。
(7)収益確保システムの再設計
製品・営業・サービスの機能を合理化し,顧客が直面している課題を理解し解決する能力を向上する。
(8)リーダーシップ・フレームワークの適用
日立ヴァンタラ社のリーダーたちは,市場での成功に不可欠な新たなナレッジと,絶えず変化し続ける環境を勝ち抜くためのマインドセットを有する。
(9)重点地域の策定
顧客に寄り添うべく,営業部門のリソースを世界中の主要なハブに再配置し,機敏で効果的,かつ即応的な対応を実現している。
(10)本社オフィスの新設
2019年に本社を移転し,カリフォルニア州シリコンバレーにモダンで新しい本社オフィスを開設する予定である。新たなオフィスの作業スペースは完全にデジタル化されたコラボレーティブな空間となり,世界中の従業員やパートナー企業,顧客とよりよい関係を築くことができる。

9. おわりに

日立ヴァンタラ社設立への歩みを振り返ってみると,組織とビジネスが急速に再形成されてきたことが分かる。これらの取り組みによって,日立ヴァンタラ社はデジタルとIoTを取り巻く市場の新たな商機を捉えることができるようになった。

目まぐるしく移り変わるデジタル時代にあって,変革はしばしば,飛行中の飛行機の翼を取り替えるようなものとたとえられる。市場が今後も成長を続けると予想される中,われわれは自社を変革し,市場の動きに追随するための非常に重要な能力を獲得した。適切なマインドセットとアプローチ,見識と人財をもってすれば,デジタル新時代が日立と日立の顧客にもたらすチャンスは無限大である。

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