日立評論

業務の「質」を高めるデジタル技術を活用した働き方改革

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日立評論

新たなワークスタイルを実現する日立のソリューション

業務の「質」を高めるデジタル技術を活用した働き方改革

ハイライト

働き方改革を進めるためには,業務の仕方に加え,企業の風土や慣習までも変えていく必要がある。そのためには,現状を見える化して課題を特定することが不可欠となるが,ここで効力を発揮するのがデジタル技術である。代表的なものでは,働き方をデータ化するための眼鏡型や名札型のウェアラブルセンサー,働き方を効率化するためのスマートスピーカーやチャットボットなどの活用が知られつつある。デジタル技術の活用の真価は,働き方に量的な変化はもちろん,質的な変化ももたらすことにある。多くのビジネスパーソンが満足度の高い働き方を実現し,周囲も一緒に幸福になるために重要なことは,質的な変化によるところが大きいと考えられる。本稿では,デジタル技術がいかにして質を高める働き方改革に貢献できるかについて述べる。

目次

執筆者紹介

西岡 千尋Nishioka Chihiro

  • 株式会社日立コンサルティング サービス&デジタルコンサルティング本部 兼 グローバルビジネス推進室 所属
  • 現在,ITテクノロジーとイノベーションによる企業のデジタル・トランスフォーメーションをサポートするデジタルコンサルティングサービスに従事

1. はじめに

デジタル技術を活用すると,これまでは実現できなかった高度な分析や最適化が可能になる。RPA(Robotic Process Automation)などの新たなテクノロジーと組み合わせることで,属人化していた業務の自動化も実現できる。このデジタル化をきっかけに,企業が進めている取り組みが働き方改革である。しかし,単純にITツールを導入しただけでは働き方改革は進まない。企業の風土や慣習,従業員の意識から変えていくことが大前提となる。古い慣習を捨て,ビジネススタイルを変えていけるのかどうか。これが,デジタル技術を活用した働き方改革が成功するか否かの分かれ道となるだろう。

2. 働き方改革とは,仕組みから変えていくこと

働き方改革とは,長時間労働を抑制し,生産性を高める取り組みだと言われているが,では,この生産性とは一体いかなるものなのだろうか。日本の企業にはいまだに夜遅くまで働いている従業員が評価される風土が根強く残っている。そのため,RPAなどのテクノロジーの導入で,当該業務の効率化やスピードアップが図られても,効率化によって生まれた時間で,恐らく別の業務に着手することになるだろう。なぜならば,主な日本企業では時間に対して給与が支払われているからである。働き方を変えるためには,この仕組み自体を変えていく必要がある。労働時間当たりの成果,つまり生産性に評価指標を変更することに加えて,従業員に生産性への意識を高めてもらうことや,評価をする側である管理職の教育も重要である(図1参照)。

一方で仕組みを変えるためには,この仕組みを成り立たせていた前提自体を変えていく必要もある。例えば,生産年齢人口減少への対策やダイバーシティの一環として,女性従業員の比率を高めたいという企業は多い。しかし,例えば顧客のオフィスに常駐し,顧客の予定に合わせて朝から晩まで行動を共にすることが前提となる働き方が当たり前となっていると,子どもの学校行事や保育園の送り迎えなどとの両立は難しい。女性管理職の倍増をKPI(Key Performance Indicator)に掲げても,昼夜を問わず働かないと会社から評価されないような組織の体質では,進んで手を挙げる女性が少ないのが現実である。働き方改革を進める当事者には,単に女性や時短勤務者の割合を増やすという話ではないことを,そしてそもそもこのような働き方が定着している企業風土自体を変えていく必要があることを,念頭に置いてもらいたい。

働き方改革の第一歩は,従来は紙で行っていた社内業務をデジタル化することである。紙に縛られていては,時間や場所が制約されてしまい,新しい働き方は実現できない。ただし,デジタル化の効果を最大化するためには,単に紙をデジタルに置き換えるだけでは意味がなく,従来の慣習を捨て去り,デジタル化を前提とした業務の見直しが必要である。例えば,テレビや映画などの動画コンテンツは長らく横長が主流であったが,Snapchat※)などを好んで利用するミレニアル世代は,携帯電話での動画の撮影や視聴を縦長のままで利用する割合が増えている。また,最近では携帯電話で読める漫画のコマ割りも変化しており,単に紙媒体を電子化したものではなく,縦スクロールでカラー化され,文字数が少なめであるなど,使う端末に応じたフォーマットになっている。同様にA3で印刷することを前提としていた帳票なども,単にPDFにしてタブレットに表示するのではなく,使用するデバイスを考慮して適切に帳票を設計し直さないと,使い勝手の悪さからやがて形骸化してしまうおそれがある。

※)
Snapchatは,Snap, Inc.の商標または登録商標である。

図1|働き方改革で改革するべきこと長時間働くことが評価される風潮を変えるには,生産性を意識させる評価指標の導入および評価者の教育も重要となる。

2.1 働き方改革に必要な見える化

デジタル技術で働き方を変えるためには「見える化」と「測定」が必要となる。何をどう変えていくのかを定義するために現状を見える化し,施策を実行し,前後の状況を測定しなければ効果を測ることはできない。そのための代表的なツールにウェアラブルデバイスがある。株式会社日立コンサルティングでは,リストバンド型や名札型,眼鏡型など複数のウェアラブルデバイスを導入することで,各従業員がどの程度集中して作業をしているのかを測定している。データが蓄積されていくと,なぜ集中力が上がったのか,もしくは下がったのか,その要因を分析できるようになる。日立グループで開発したものにも,声のトーンや心電波から健康度を測るツール,活動量を測るものなどがある。数年前までは難しかった個人の生体データ取得が,技術の進歩により比較的簡単にできるようになってきているのである。この生体データに,一日どのような作業をしていたのかといった行動データを掛け合わせれば,働き方が見えてくるであろう。

また,人によって働きやすい時間帯があり,独りで集中して作業をしたい人がいる一方,人とコミュニケーションを図りながらモノづくりをしたい人がいるなど,働き方にはさまざまなパターンがあると言われている。これを見える化し,分析できれば,一人ひとりに合わせて生産性を上げる施策を打ち出し,その効果を把握することも可能となる。例えばオフィス内の植物が多いカフェ風の共用エリアは疲労度を軽減するのか,また,オフィス内のデスクを碁盤の目状に整然と並べるのではなく,あえて互い違いに配置することで会話が生まれ,職場活性につながるのかなどさまざまなオフィス環境での施策が考えられ,おのおのの効果も検証できる。このように見える化と測定を繰り返していくことで,働き方改革が一歩も二歩も進むことになるだろう。

見える化が困難なモチベーションの維持は非常に難しい課題である。モチベーションを大きく左右するものの一つに評価がある。日立コンサルティングの場合,年2回,上期と下期の人事評価と,プロジェクトの終了時にプロジェクトレビューがある。しかしSNS(Social Networking Service)に慣れたミレニアル世代が「いいね!」をもらうことをモチベーションに行動しているとすれば,年数回の評価では,フィードバックの回数やタイミングが適切でないのではないか。「この間の提案,よかったよ」,「最近疲れているみたいだけど,大丈夫かな?」など,日頃の振り返りや健康状態をヒアリングして適宜評価することで,モチベーションの維持につながる可能性がある。

2.2 業務の「質」を上げるテクノロジー

もう一つ効果的なテクノロジーに,RPAなどの自動化ツールがある。現在,自動化が可能な範囲は図2で示す「定型作業の自動化」だが,もう少しツールが賢くなると,「一部非定型作業の自動化」も可能になる。さらにAI(Artificial Intelligence)を活用したツールとなると,人間が判断しているような業務も自動化できる「高度な自律化」のステージとなる。例えば,採用という業務の中の,競合他社の求人情報を収集する,面接の進捗を管理する,報告資料を作成するといった業務などは自動化が可能だ。その他に,人財データベースの中から自社に合った人財を探し出す業務があるが,過去の合格者と不合格者をデータ分析すれば,どのような特性を持つ人が応募してくれていて,結果的にどのような人財を採用しているのかといった,自社で活躍できる人財について知ることができるようになる。こうして自動化できる業務の範囲が広がっていくと議論になるのが,自動化された業務をしていた従業員は何をするのか,どこにいくのか,である。人手不足を解消できる反面,AIやロボットがどんどん賢くなっていけば,人間の業務が淘(とう)汰されて,なくなってしまうのではないか。これが社会でまことしやかにささやかれている構図で,コールセンターのチャットボット化がまさにこれである。近い将来,人間がチャットボットに代替されていき,営業時間も24時間に延長されるだろう。

その一方でテクノロジーが人間をアシストしていく構図,つまり人間の業務の付加価値をテクノロジーで高めていく形もあるのではないだろうか(図3参照)。例えば,現場作業員に着用させた眼鏡型ウェアラブルセンサーに作業指示を表示したり,修理が必要な箇所をAR(Augmented Reality)技術で浮かび上がらせたりと,大量の情報を処理してその場でインプットしてくれるような活用方法がある。さらに,商品を紹介する窓口にスマートスピーカーを置いておくことで,顧客とのコミュニケーション中に顧客のプロフィールや現状を瞬時に分析し,待機時間なしでおすすめの商品を表示することができ,顧客満足度を上げることも可能となる。テクノロジーによって人間の業務量を減らすのではなく業務の質を上げることができるようになると,働く人も,その周囲の人も,皆が幸福になるだろう。

図2|自動化ツールを用いたテクノロジーサイドからの働き方改革業務の自動化には「定型作業の自動化」,「一部非定型作業の自動化」,「高度な自律化」の3段階が存在する。

図3|テクノロジーを活用した生産性向上人間の作業をAIやロボットに置き換えるのではなく,テクノロジーが人間をアシストすることで人間の業務の質が高まっていく。

2.3 入り口のデジタル化が変える世界

従来のデジタルの入り口(入力ツール)だったキーボードやマウスから,ユーザーインタフェースが大きく変わりつつある。前述のスマートスピーカーや,その次に登場すると言われているスマートスピーカーに画面がついたスマートディスプレイがこれに相当する。従来のキーボード入力は,脳で考えたものを手で打ち込むというデジタル化のためのアナログな作業である。これが,入り口からデジタルになると,音声で情報をやりとりする仕組みができたり,チャットボットとRPAを組み合わせて,なんらかの登録作業をキーボードなしで実行したりすることが可能になる。

日立コンサルティング社内での最近の取り組みでは,「勤休チャットボット」の実証実験がある。これまでの勤休入力登録はパソコンを開いて打刻しなければならなかったが,コンサルタントは日中外出していることが多いので,この打刻のために新幹線の中でパソコンを開く,中には会社に戻るといった行動が発生していた。それが,勤休チャットボットを使うと,スマートフォンを使い会話形式で手軽に勤休が入力できるようになったのである。「おはよう」と話しかけると,「出勤時刻を8:30と記録しました」とチャットボットが会話した時間を認識して,本人に代わって勤休入力システムに打刻してくれる。「お疲れさま」と言うと,「退勤時刻を18:30にしました」とメッセージが返ってくる。「間違えた」と言って訂正することもでき,外出の多いコンサルタントからは非常に好評である。このようなツールは近いうちに急速に当たり前の存在になってくるのであろう。

3. おわりに

働き方改革に取り組む際に重要なことは,漠然と働き方を変えたいと考えるのではなく,現状を見える化して課題を整理し,施策を検討・実行し,その効果を測定することである。効率化や自動化は,人間の業務を奪うのではなく,業務の質を高めることにつながる。今後も企業の風土や働き方の見直しを支援するコンサルティングサービスを通じて,業務の質を高める働き方改革に貢献していく。

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