日立評論

生産性向上と輝く一人ひとりを両立させるHRテック

データ分析がもたらす人事の新たな価値創造

ページの本文へ

Hitachi

日立評論

COVER STORY:ACTIVITIES1

生産性向上と輝く一人ひとりを両立させるHRテック

データ分析がもたらす人事の新たな価値創造

ハイライト

金融や教育など,さまざまな領域においてデジタルテクノロジーの活用が加速している。日立は人事領域におけるHRテックを推進する体制をいち早く整えるとともに,ピープルアナリティクスを導入した。これまでの人事データ分析の活用実績をはじめ,今後の展開や方向性などについて,日立のHRテックを牽引する2人のキーパーソンに話を聞いた。

目次

データで人事を改革する時代の到来

本 真樹

本 真樹
日立製作所 システム&サービスビジネス統括本部 人事総務本部 担当本部長

ここ数年,「働き方改革」への注目が高まっている。少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少に加え,女性の社会進出や育児・介護問題などを背景に,働き手のニーズが多様化し,働き方をめぐる社会課題が浮き彫りになってきたからだ。他方,日本の労働生産性は先進国の中で最も低いと指摘されており,公益財団法人日本生産性本部の発表によれば日本の時間当たりの労働生産性はOECD(Organisation for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構)加盟35か国中で第20位だという。

こうした状況の中,日本企業の人事部門が積極的に導入しようとしているのがHR(Human Resources)テクノロジー(以下,「HRテック」と記す。)である。HRテックとは,クラウドやビッグデータ,AI(Artificial Intelligence)など,最先端のITを駆使し,採用・育成・評価・配置などの人事関連業務を行う手法である。なぜ,今HRテックが注目されているのか。日立のIT部門の人事を統括する本真樹(日立製作所 システム&サービスビジネス統括本部 人事総務本部 担当本部長)は語る。

「HRテックが注目を浴びる背景には,3つの要因があります。まずテクノロジーの観点では,さまざまな計測技術が進展してきたことです。これによって『最後のブラックボックス』と言われる人間を定量的に見ることができるようになってきました。次に,社会構造の変化によって働き手不足が深刻になり,さらなる生産性の向上がマーケット的に急務となってきたこと。そして最後に,長時間労働の問題,人が担う仕事の変化など,労働の質をめぐる動きが顕著になってきたことが挙げられます。」

さらに,人事が企業の成長を左右する点も見逃せない。この10年来,人財強化は企業の経営課題のトップ3の位置を常に占めており,人財マネジメントは最も重要な経営テーマと言える(図1参照)。このように人事施策が経営に与えるインパクトが年々大きくなる中で,定量的なデータに基づいて人事を改革する時代が訪れているのである。

図1|当面する経営課題の10年間の推移「2017年度(第38回)当面する企業経営課題に関する調査」に基づき,3,460社が「現在の経営課題」として回答した上位10項目について,過去10年間の調査結果の推移を示す。

新卒採用にピープルアナリティクスを導入

大和田 順子

大和田 順子
日立製作所 システム&サービスビジネス統括本部 人事総務本部 ヒューマンキャピタルマネジメント事業推進センタ ピープルアナリティクスラボ エバンジェリスト

社員を「人財」として捉える日立グループは,これまでもさまざまな人事施策を推進してきた。中でも先導的な役割を果たしてきたのが,システム&サービスビジネス統括本部の人事総務本部だ。イベントを通じた職場活性化,社員の健康を支える食堂改革などのワークスタイル革新,復職支援コラボレーションといったメンタルヘルス対策に加え,場所にとらわれない効率的な業務遂行の実現のため,都内20か所にサテライトオフィス「Biz Terrace」を開設するなど,先進的な取り組みを推進している。さらに,同本部はHRテックの第1弾としてピープルアナリティクス(人財データ分析)を取り入れた採用活動をスタートさせた。

「ピープルアナリティクスは,一般的に活用されている人事のオペレーションを下支えするアプリケーションとは異なり,いわば人事の中身を進化させるものです。すでに多くのグローバル企業が導入しており,ビッグデータの収集・分析を通じて優秀な人財の獲得や業績の向上などに役立てています。日立の場合,イノベーション創出のため,事業の中身をモノからコトへと変革させる一方で,採用している人財ポートフォリオについては従来とさほど大きな違いはありませんでした。そこで,より抜本的に人財ポートフォリオを転換するために,ピープルアナリティクスを活用することにしたのです。」

そう語るのは,大和田順子(日立製作所 システム&サービスビジネス統括本部 人事総務本部 ヒューマンキャピタルマネジメント事業推進センタ ピープルアナリティクスラボ エバンジェリスト)である。

従来の採用プロセスでは,内定者の人財比率に偏りがあった。具体的には,人財のタイプを2つの軸でA〜Dの4象限に分類した場合,実際に採用となる人財の65%はDグループに集中していた。そこで,適性検査などから得られた応募者や社員のデータを定量的に分析し,社内のハイパフォーマーへのインタビューなどによる定性的なデータも加味して,あるべき人財ポートフォリオを設計した。さらに,今後の事業戦略の遂行に欠かせない「尖った」人財,優秀な人財を採用するための人財要件を設計した後,面接官へのトレーニングを実施するなど,選考手順も大胆に変更した。その結果,2017年卒採用においては,応募者のタイプがほぼ同じでありながら,内定者の人財タイプの比率は大きく変わった(図2参照)。

図2|人財ポートフォリオの分析と活用ピープルアナリティクスを活用し,人財をタイプ分類(ポートフォリオ)することで,人財の見える化を図る。

個人の「気づき」を促し,生産性を向上させる

採用分野におけるデータ分析の効果を確認したことで,2017年4月,人事総務本部のヒューマンキャピタルマネジメント事業推進センタ内にピープルアナリティクスラボが設けられた。

そのピープルアナリティクスラボの「伝道者」として大和田が現在取り組んでいるのが,採用から配置・配属,育成,生産性という一連の「人財バリューチェーン」の各ポイントを可視化するツールである。まず,ピープルアナリティクスラボは,ホワイトカラー生産性サーベイ,配置・配属フィット感サーベイの開発に着手した。HRテックの第2弾として,「生産性」のサーベイ開発に取り組んだ理由を,大和田はこう説明する。

「日本の国際競争力は近年,相対的に低下していると言われています。こうした現状を脱却するには,ホワイトカラーの生産性がカギとなってきます。しかし,一人当たり売上高などでは生産性を正しく把握するのは難しい。特にチームで仕事をするホワイトカラーは,実際に企業の現場においてどうすれば生産性が上がるのか見えにくいのが実情です。そこで私たちは,一人ひとりがどのような仕事の仕方をすれば生産性が上がるのかを測り,それを企業価値につなげていくことを考えました。」

まず,人事に関して高い知見を有する群に生産性の高いハイパフォーマーの特徴を抽出してもらい,それを解析したところ6つの因子が生産性を高めることが分かった。創造性に関わる挑戦意欲度と多様性関心度,効率性に関わる役割理解度,成果意識度,計画段取度,そして心身調整度である。分析の過程では,一人ひとりの生産性向上には,心身の調整をベースに,効率性,創造性の順で働きかけていくのが有効なことも明らかとなった。

このように,高い生産性で働けているかどうかを可視化する「生産性」サーベイに対し,もう一方の「配置・配属」サーベイは,一人ひとりの社員が配置・配属に納得できているかを明らかにするものである。このマッチングがよくないと,人や組織は活性化しない。

2017年9月に社外2,063名の回答データを収集し,11月には日立グループの2,335名を対象にした社内実証を実施した。また翌年2月には,人事総務本部の社員252名を対象にサーベイを行った。こうした社内外での数千人規模の調査および検証の実績などを基に「人と組織の見える化」サーベイの開発に至ったのである。このサーベイの画期的な点は,個人にフォーカスする一方で,組織的には単に労働時間の短縮につなげるだけでなく,社員の価値向上を通じて生産性のアップをめざしていることにある。

「言い換えれば,個人を仕事で輝かせようという点,すなわち一人ひとりの『イキイキ』を重視しているということです。例えば,サーベイの対象となる個人に対し,挑戦意欲などの点数とともに,気づきを促すコメントを出すようにしました。それがひいては会社の得点や評価になるわけですから組織診断の要素もあります。もちろんマネジメントの報告も出すようにしていますが,基本は一人ひとりを変えていくことに重点を置いています。」(大和田)

ピープルアナリティクスラボでは,行動ログや人事データなどのビッグデータを日立独自のAI技術によってさらに深く分析することにより,具体的な人事施策を支援するサービスも同時開発中だ(図3参照)。しかし,日立の強みはこうした最先端の技術を持っていることだけではない。サーベイ開発に手ごたえを感じている本は,次のように指摘する。

「日立グループは膨大な数の従業員を抱えているため,さまざまな傾向が読み取れます。また,多彩な事業を手がけているため,職種も多種多様です。データドリブン型のHRテックの開発を進めるうえでは,収集するデータの量や質が重要ですが,その点では大きなアドバンテージがあるものと考えています。」

図3|配置・配属/生産性領域のソリューション開発「生産性」サーベイは,高い生産性で働けているどうかを可視化する。

働き方の未来に貢献する価値をつくるために

開発したソリューションは,業種業態を問わず,顧客からの関心が高く,既に40社を超える企業から問い合わせを受けている。現在までに,社外の企業ともパートナーシップを結び,PoC(Proof of Concept)を4件実施した。このように大きな反響を呼んでいるのは,データのもたらす価値に経営者層が気づき始めたからだろう。例えば,サーベイの結果と社内のさまざまなデータを掛け合わせてAIで分析すると,ある組織では週の後半(金曜日)に残業が多い人は生産性が低い傾向にあることが分かった。こうした具体的なデータからであれば,「定時に帰るようにしよう」といった曖昧な指示ではなく,マネジメントの仕方を変えるなど,リアルな施策に生かすことができる。

2018年度には第2フェーズとして,「生産性」,「配置・配属」以外のラインアップ拡充をめざすなど,将来の事業化を見据えた取り組みを推進していく予定だという。

「私たちは人財コンサルティング事業を立ち上げようと考えているわけではありません。オール日立としてお客様に提供できる価値の要素の一つと位置づけ,個人に寄り添い,一人ひとりが生き生きと活躍できる社会の実現に向けて貢献していくことをめざしています。」(本)

社員の人事データは,宝の山とも言える。多種多様なデータを掛け合わせ,人を可視化するHRテックは,新しい発見をもたらし,それによって,社員が生き生きと働ける環境づくりに貢献できるはずだ。ピープルアナリティクスラボは,日本の人事のリーディングプレーヤーとして,現在進行中の「働き方改革」の動きを加速させるとともに,日立を含めた日本企業の価値向上のため,今後も道なき道を切り拓いていく。

Adobe Readerのダウンロード
PDF形式のファイルをご覧になるには、Adobe Systems Incorporated (アドビシステムズ社)のAdobe® Reader®が必要です。