日立評論

人と現場に即した,新しい働き方の実現を

進化を続けるワークスタイル変革ソリューション

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人と現場に即した,新しい働き方の実現を

進化を続けるワークスタイル変革ソリューション

ハイライト

事業のグローバル化を加速する中で,日立グループは人財活用と働き方改革に力を入れてきた。新しい働き方を創造していくためには,どのような姿勢で課題と向き合い,改革に取り組むべきなのか。日本におけるテレワーク推進を牽引してきたテレワークマネジメント社の田澤由利代表取締役を迎え,働き方改革における課題と展望について議論した。

目次

みずからの経験を出発点にテレワークを推進

田澤 由利

田澤 由利
株式会社テレワークマネジメント
代表取締役
1985年上智大学外国語学部イスパニア語学科卒。シャープ株式会社入社後,パソコンの商品企画を担当。出産と夫の転勤に伴い退職し,パソコン関連のフリーライターとして活動を続ける。1998年北海道北見市にて株式会社ワイズスタッフを設立。さまざまな業務を受託し全国各地に在住する120人のスタッフ(業務委託)とチーム体制で業務を行う。2008年,柔軟な働き方を社会に広めるため,株式会社テレワークマネジメントを設立。東京にオフィスを置き,企業などへのテレワーク導入支援や,国や自治体のテレワーク普及事業などを広く実施。株式会社ワイズスタッフ 代表取締役。内閣府政策コメンテーター。総務省地域情報化アドバイザー。

 昨今,企業では働き方改革と,その一環としてのテレワーク導入に対する関心が高まっています。田澤さんは,こうした潮流に先駆けてテレワークの実践と普及に取り組んでこられましたが,それはどのようなきっかけからでしょうか。

田澤 育児や夫の転勤のために退職しなければならなかったという,私自身の経験です。私が就職した頃は結婚や出産を機に退職してしまう女性がまだ多い時代で,私もやりがいを感じていた仕事を続けられなかったことが残念でした。そこで,仕事で培ってきた高いスキルやマインドを持つ人が在宅でも活躍できるようにと,1998年に全国各地の在宅スタッフとチーム体制でIT関連業務を行う株式会社ワイズスタッフを設立しました。会社は順調に成長したのですが,10年続けてみて,やはり社会を変えるにはもっと大きな組織を動かさなければならないと思い,2008年に企業や官公庁のテレワーク導入をお手伝いする株式会社テレワークマネジメントを立ち上げたのです。

 テレワークマネジメント社では何名が働いていらっしゃるのですか。

田澤 従業員は13名ですが,東京のオフィスに毎日出勤しているのは2名程度です。実は,私は北海道北見市在住で,北見のオフィスに事務と技術の担当者がおります。名刺の電話番号は東京だけでなく北見にもつながり,通常は北見の社員が電話を取り,東京にいる在宅勤務や外出中の従業員に内線で転送する仕組みになっています。賃料の高い東京に大きなオフィスを構えなくても,人財を有効に活用して多くの仕事を効率よくこなすことができ,現在までに,小さな案件も含めると約200社のコンサルティング実績があります。

 テレワークのお手本ですね。そうした経営者としての仕事と並行して,内閣府の政策コメンテーターや総務省「地域IoT実装推進タスクフォース」の構成員などをお務めのほか,国や地方自治体と連携してテレワーク普及事業も手掛けておられますが,やはり地方にお住まいだからこそ見えてくることがあるのでしょうか。

田澤 そうですね。私は奈良県生まれですが,転勤族の夫について行った北海道が気に入ってしまい,夫ともども,この大自然の中で3人の娘たちを育てたいと,移住を決断しました。今は地域のすばらしさを実感しています。一方で,地方では都市への人口流出,人口減少が深刻化しています。その問題の解決策の一つがテレワークです。企業を誘致しなくても,人だけUターン・Iターンして,テレワークで仕事をすればよいのですから。そうした私の考えが,国が力を入れている地方創生の政策の中にも取り入れられ,2015年にスタートした総務省の「ふるさとテレワーク推進事業」にもつながりました。

どこにいても仕事とコミュニケーションができる企業へ

郷 博

郷 博
日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット
IoT・クラウドサービス事業部 事業主管

桃木 どのような目的でテレワークを推進している企業が多いのでしょうか。

田澤 働きやすい環境を用意することで,よりよい人財を確保したいという目的が主流です。現在,テレワークへの注目度が高まっているのは,2013年に発足した第2次安倍政権でテレワーク推進が政策の一つに掲げられ,2016年に働き方改革が政権の最重要課題と位置づけられたためですが,その背景には少子高齢化に伴う労働人口の不足という大きな社会の変化があります。今後,加速していく人財獲得競争への危機感が,企業の背中を押していると感じます。

桃木 日立グループでも働き方改革とテレワーク拡大への取り組みを推進してきていますが,テレワーク導入がうまくいくポイントはどこにあるのでしょうか。

田澤 多くの人は,テレワークを行うには,離れた場所でもできる仕事を用意しなければならないと考えがちです。でも,そのためには仕事を切り分ける作業に手間と人手が掛かるうえ,無理に仕事を切り分ければ生産性も低下してしまいます。まずはその概念を取り払い,今やっている仕事をどこにいてもできるように,プロセスや手法,道具,意識を見直すことが大切です。仕事の中身が整理されると効率アップの効果も期待できます。今ある仕事にテレワークを合わせるのか,テレワークに仕事を合わせるのか,その視点の違いが大きなポイントです。

 仕事そのものを見直すには,企業経営における意識から変える必要がありそうですね。

田澤 育児中の女性が大変だから仕事を切り分けてシェアするというのは一時的な対策にすぎません。これからの時代は,働き盛りの男性の介護離職といった問題も増えてくると考えられます。それを防ぐには,経営トップがまず意識を変え,従業員がどこにいても仕事とコミュニケーションができる企業へと生まれ変わることが必要です。

今まで会社内でやってきた仕事をそのまま外でやるのは難しいと思われるかもしれませんが,そのためのソリューションを御社はたくさんお持ちです。テレワークの課題を解決するのは,ICT(Information and Communication Technology)という道具と,それを適切に生かすコンサルティングの力です。御社のICTソリューションと,私たちが積み上げてきた知見によって,より多くの企業でテレワークのメリットを享受できるようになることを願っています。

一体感を大切にする日本型のテレワークを

桃木 典子

桃木 典子
日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット
IoT・クラウドサービス事業部 働き方改革ソリューション推進本部 本部長

 米国企業では,ボイスフォンでのコミュニケーションが当たり前で,実際に顔を合わせたことがない仲間とも円滑に仕事を進めています。でも日本では,そうしたスタイルは心理的なハードルが高そうです。

田澤 そうですね。日本では,実際に顔を合わせることが重視されますから。でも,米国の個人主義に対して,日本の大部屋主義,チームで力を発揮できることは,強みであるとも言えます。それを否定するのではなく,離れていてもチームでの働き方をできるようにする日本型のテレワークを確立していくべきではないでしょうか。

桃木 田澤さんのご著書に「一緒に机を並べている感覚」とありましたが,ITを活用すれば,リアルの世界で朝礼や夕礼を行っているようにサイバー空間でも複数人が一緒に顔を合わせて会話し,情報を共有する場をつくることは可能ですものね。

田澤 当社の従業員も皆それぞれ違う場所におりますが,毎朝クラウド上のオフィスで挨拶し,朝礼や情報共有を行っています。同じオフィスにいるようなコミュニケーションができれば孤独にもならず,離れているから声をかけにくい,仕事が滞るということはありません。移動の必要がないため,時間を有効活用できるのもメリットです。

 携帯情報端末などのツールも進化している中で,大部屋の一体感を持てるような日本型のテレワークソリューションを追求したいですね。

田澤 テレワークでもう1つ重要な要素が時間管理です。2018年2月に厚生労働省が「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」を策定しました。その中では,テレワークでの長時間労働をもたらさないための労働時間管理の仕方などが明記されています。こうしたことも日本ならではと思いますが,今後,企業が柔軟な働き方を広げるにあたって,マネジメントの重要性は高まるはずです。

桃木 日立グループでは,2016年12月より東原社長をリーダーとした働き方改革の全社運動「日立ワーク・ライフ・イノベーション」を始め,意識改革と時間や場所にとらわれない柔軟な働き方の推進,業務改革などに取り組んでいます。その一環として,これまで国内外の事業所や部署ごとにバラバラだったITツールのグローバル共通化を進め,コミュニケーションの円滑化やスピードアップが実現されつつあります。それによって,業務に関わる多種多様なデータの収集も容易になり,労働時間の見える化,分析もしやすくなりました。おっしゃるようにマネジメント側が労働時間を把握するだけでなく,自分自身のデータを基に仕事の進め方や時間配分を見直すことも可能になり,知的生産性も向上すると考えています。

One Hitachiでワークスタイル変革ソリューションを提供

田澤 知的生産性の向上は,テレワークや働き方改革で期待される効果の一つですね。その実現に向け,今おっしゃったことのほかにどのような取り組みをされていますか。

桃木 必要性の低い移動を減らし,その時間を活用することも挙げられます。また,業務の中身や時間を可視化すると,自身でやるべき仕事とそうでないものが見えてきます。事務処理や定型業務などはRPA(Robotic Process Automation)で置き換えることや,高度な業務でも,AI(Artificial Intelligence)によるサポートを活用することで,本来その人がやるべき仕事に集中できる環境を整え,生産性の向上をめざしています。

 仕事における満足度を高めることも生産性向上につながると思います。日立には従業員満足度を調査するソリューションもあり,社内に適用したところ,少しずつですが満足度が高まっていることが分かりました。私どもの考えるゴールは,単に残業時間を減らすことではなく,空いた時間で新しいことに挑戦する,学習する,あるいはリフレッシュすることで個人が成長することです。個人の成長は企業の成長に,働く人の幸せは企業の元気につながると思いますので,そのためのモニタリングとマネジメントを重視していく考えです。

田澤 満足度のような精神面での変化を可視化することは,適切な施策を考えるうえでも,とても重要ですね。御社では,今年の4月に働き方改革ソリューション推進本部という組織も立ち上げたそうですが,そのねらいを教えていただけますか。

 日立グループ内にはさまざまな会社があり,IoT(Internet of Things)による人の動きや設備の稼働状況の可視化,AIアシスタント,健康経営支援,音声分析,オフィス環境づくり,ペーパーレス化支援など,働き方改革に関する多様なシステムやソリューションを提供しています。反面,お客様が働き方改革に取り組もうとしたとき,日立グループのどこに相談すればよいかわからないというケースもあります。そのため,ワンストップでご相談に対応し,お客様のニーズに合わせて必要な技術を組み合わせ,導入の優先順位なども考えながらご提供する,One Hitachiでのワークスタイル変革ソリューションの提供を可能にする組織をつくることがねらいの一つでした。また,日立グループ全体で約30万人の従業員に対して行っている働き方改革のノウハウを蓄積し,ユースケースとして整備してお客様へのソリューション提供に役立てることもめざしています。

田澤 御社のように,グローバルにさまざまな事業を展開され,経済を牽引している大企業が,このような部署をつくって働き方改革に真剣に取り組んでおられることは,20年前の自分を振り返ると,とても嬉しく思います。みずからの改革とソリューション提供によって,日本の働き方を革新してくださることを期待しています

 本日はたくさんのご教示をいただきました。田澤さんをお手本に,私たち自身も積極的に改革に取り組んでまいります。

桃木 日本の強さを発揮できるような,新しい柔軟な働き方の実現をお手伝いができれば幸いです。どうもありがとうございました。

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