日立評論

ダイナミックヘッドウェイが実現する鉄道の未来像

「定刻どおりの運行」から「需要に応じた運行」へ

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日立評論

デジタル活用による鉄道サービスのスマート化

ダイナミックヘッドウェイが実現する鉄道の未来像

「定刻どおりの運行」から「需要に応じた運行」へ

ハイライト

ダイナミックヘッドウェイは,乗客の需要に応じた柔軟な運行という新たな鉄道の価値を提案する世界初のソリューションである。本ソリューションは,駅や列車内に設置されたセンサーから取得したデータから需要状況を分析し,その結果に基づいて需要の増減に応じた列車の運行本数の最適化を自動で行う。これにより,乗客に対しては混雑緩和と快適な移動という価値を,鉄道事業者に対しては運行効率の向上という価値を提供する。

日立は現在,アンサルドSTS株式会社と共にデンマークのコペンハーゲンメトロにおいて本ソリューションの実証実験を推進中である。その活動の中で,ダイナミックヘッドウェイがもたらす顧客価値を検証するため,ソリューションによる定量的・定性的効果をシミュレーションで評価した。

今後も日立は鉄道を軸とした住みよい社会の実現をめざし,デジタル技術を活用したソリューションの開発・展開を加速していく。

目次

執筆者紹介

山口 恵Yamaguchi Megumi

  • 日立製作所 鉄道ビジネスユニット プロジェクトエンジニアリング本部 デジタルレールソリューション部 所属
  • 現在,鉄道分野におけるデジタルソリューションの事業推進に従事

柳生 大輔Yagyu Daisuke

  • 日立製作所 鉄道ビジネスユニット プロジェクトエンジニアリング本部 信号システム部 所属
  • 現在,鉄道分野における運行管理システムおよびデジタルソリューションの受注促進に従事

狩集 美智Kariatsumari Michi

  • 日立製作所 社会ビジネスユニット 社会システム事業部 交通情報システム本部 交通システムエンジニアリングセンタ 所属
  • 現在,海外向け鉄道情報システムの提案,事業推進に従事

國母 政仁Kokubo Masahito

  • 日立製作所 社会ビジネスユニット 社会システム事業部 交通情報システム本部 交通システムエンジニアリングセンタ 所属
  • 現在,海外向け鉄道情報システムの提案,開発に従事

大塚 理恵子Otsuka Rieko

  • 日立製作所 研究開発グループ デジタルテクノロジーイノベーションセンタ 知能情報研究部 所属
  • 現在,鉄道分野における乗客混雑分析の研究に従事
  • 日本交通学会会員

木村 恵二Kimura Keiji

  • 日立製作所 研究開発グループ システムイノベーションセンタ システムアーキテクチャ研究部 所属
  • 現在,数理最適化技術を活用し運行管理システムを高度化する研究開発に従事
  • 博士(理学)

1. はじめに

近年,デジタル技術の発展は著しく,私たちの生活を取り巻く環境は大きな変化を迎えている。IoT(Internet of Things)の進展により,社会の中で生み出され,活用されるデータの量は飛躍的に増加しており,さまざまな産業分野でデータを源泉とした新たな価値が創出されている。

鉄道においてもIoT活用が急速に進んでいる。日立では,データを基に鉄道を取り巻くすべての人々により高い価値を提供するための取り組みを加速している。データを有効に活用することにより,乗客に対してはより便利かつ快適な移動を,鉄道事業者に対しては単位時間当たりの輸送効率の向上を提供することができる。こうした新たな価値の実現は鉄道を囲む地域全体の活性化やスマートシティ実現の第一歩ともなる。

日立は,鉄道を起点としてすべての人に優しく使いやすい移動手段と住みよい社会の実現をめざし,デジタルソリューションの開発と展開を進めている。

2. ダイナミックヘッドウェイ

ダイナミックヘッドウェイは需要の増減にリアルタイムで輸送能力を追従させるドライバーレス信号運行管理システムである。

従来,鉄道の価値は定められた時刻どおり正確に運行することであった。しかし,本ソリューションは乗客の需要に応じた,より柔軟な運行という新しい価値を提案する。これは,他に類を見ない世界初のソリューションである。

アンサルドSTS社と日立の技術の融合が,このソリューションを実現している(図1参照)。ソリューションを支える一連の技術は独自のものであり,特許出願済である(国際公開番号:WO18/087811)。

初めに,駅や列車内に設置された各種センサーからリアルタイムで取得したデータを基に,日立の技術を用いて混雑率,すなわち需要の状況を把握する。ここで,センサーの一つとして既存の監視カメラを活用することができる。これにより,ダイナミックヘッドウェイを導入する鉄道事業者は設備への初期投資を抑制することが可能である。

次に,リアルタイムの需要状況を活用して今後需要がどのように変化するかを予測し,予測結果に基づいて最適なタイムテーブルを生成する。ここでは運行列車本数の増減や間隔調整といった最適解を状況に応じて即座に判断する日立の技術が使われている。

生成したタイムテーブルはアンサルドSTS社によるドライバーレス信号運行管理システムに連携し,人の手を介さずに最適な運行を実現する。

ダイナミックヘッドウェイの適用により,乗客は混雑が緩和された鉄道でより快適に移動できる。一方,鉄道事業者は,混雑緩和による顧客満足度の向上からの売り上げ増が期待できることに加え,列車運行をリアルタイムな需要に追従させることで,運行効率の向上による省エネルギー化やコスト削減を実現できる。また,列車運行の最適化による効率的なエネルギー利用は環境負荷の低減にも寄与するものであり,鉄道を取り巻く地域コミュニティにとっても意義がある。

図1|アンサルドSTS社と日立の技術の融合両社の持つ独自技術がダイナミックヘッドウェイのコア技術である。

3. コペンハーゲンメトロにおける実証実験

3.1 コペンハーゲンメトロの概要

表1|コペンハーゲンメトロの概要コペンハーゲンメトロはM1,M2の2路線を有し,24時間運行されている。

コペンハーゲンメトロは,デンマークのコペンハーゲン市中心部とコペンハーゲン空港をつないで無人運転で24時間運行されている地下鉄である(表1参照)。

コペンハーゲンメトロの無人運転システムは2002年10月より運用を開始し,それ以来アンサルドSTS社によって管理されている。また,運行と保守に関してはアンサルドSTS社(49%)とATM社※1)(51%)のジョイントベンチャーであるメトロサービス社が担っている。

※1)
Azienda Trasporti Milanesiの略称。イタリアのミラノ市内および周辺の地方自治体の公共交通機関を担当する企業。

3.2 実証実験の背景

コペンハーゲンメトロは朝夕のピーク時に加え,路線周辺にある空港やイベントアリーナの影響で需要変動が大きく,車内の混雑解消を課題として抱えている。加えて,2019年には新路線の開業を予定しており,それに伴って既存路線の乗客数の大幅な増加が予測されている。そのため,乗客による混雑が将来的に大きな課題として表面化することが見込まれており,乗客の満足度の向上のために混雑解消の施策が求められていた。

この課題に対して,ダイナミックヘッドウェイは最適な施策である。顧客の課題解決を支援するとともに,顧客との協創によってソリューションを完成させるために,アンサルドSTS社は2017年6月にコペンハーゲンメトロのインフラを保有しているメトロセルスカベット社と実証実験の覚書を締結した。

3.3 実証実験の実施内容と結果

今回の実証実験では,第一ステップとしてデータ収集から人流解析までを対象範囲とした(図2参照)。

このステップでは,コペンハーゲンメトロの駅構内に既設されていた赤外線センサーとCCTV(Closed-circuit Television)カメラを用いてデータを取得して混雑率を把握し,現在の混雑率を基にした将来の需要予測を行った。

結果として,高い精度での混雑率把握と需要予測を実現できることを確認した。特に需要の多い朝夕のピーク時間帯や,ピークの開始に伴って需要が大きく変動するタイミングにおいても,高い予測精度を維持することが可能であった。

今後,第二ステップとしてタイムテーブル最適化や無人運転システムとの連携についても同様に検証を進める予定である。

図2|ダイナミックヘッドウェイ実証実験の第一ステップの範囲センサーより取得したデータから将来の混雑度を予測し,その精度を検証した。

3.4 実現される効果のシミュレーション

分析精度を検証する実証実験と併せ,ダイナミックヘッドウェイがもたらす効果を定量的に検証するためのシミュレーションを実施した。この試算においては,2019年の新路線の開業に伴って混雑の問題が大きくなることを踏まえ,2025年の需要状況を日立で予測したデータをインプットとして用いた。

予測によると,2025年には2つの路線が交差するエリアにおいて特に混雑が激化し,ピーク時には乗車しきれない乗客がプラットフォーム上で次の列車を待たなければならない事態も発生する(図3参照)。

しかしダイナミックヘッドウェイを適用することで,このエリアで乗車しきれずにプラットフォーム上で待つ乗客の数を8割程度低減できることが試算された。

図3|2025年の混雑エリア予測2つの路線(M1,M2)が交わるエリアで特に混雑率が高まることが予測される。

3.5 ソリューションに対する現場からの評価

実証実験とシミュレーションの結果を受け,メトロサービス社は現場の観点から本ソリューションが運行・保守の両面にもたらす定性的な価値を評価し,以下のようなフィードバックをメトロセルスカベット社と日立に寄せた。

「運行の観点からは,ダイナミックヘッドウェイの活用により乗客数の多いエリアに車両を追加配備し輸送効率を最大化することは,乗客とオペレータ双方にとって価値がある。また,混雑時にオペレータが手動でタイムテーブルを変更すると個人のスキルや経験に依存してその精度にばらつきが生じるが,本ソリューションを活用することで属人的なスキルに依存せずに最適な対応による最適な運行が実現できる。また,タイムテーブルの作成・変更時にはダイナミックヘッドウェイの活用によって蓄積される正確な需要データを参考にできるので,より需要に即したタイムテーブルの作成が可能となる。さらにソリューションの活用を継続することで蓄積されるデータ量が増加し,需要予測とタイムテーブル最適化の精度は継続的に高まっていく。

一方,保守の観点からは,今後,車両保守計画と本ソリューションを連携すれば,保守計画を最適化し,既存車両を最大限に活用することができる。」

4. さらなる価値の実現に向けて

ダイナミックヘッドウェイで用いられる人流解析データは,需要に応じた運行の最適化以外にもさまざまな新たな価値を生む源泉となる。このデータをより高度に活用していくことは,鉄道のデジタライゼーションの入り口になりうると考えられる。

例えば,取得した人流解析データを生かし,駅のディスプレイやモバイルアプリを通じて乗客にリアルタイムの混雑状況を提供すれば,乗客は自らの判断で混雑を回避することができ,利便性の向上と混雑の抑制を同時に期待できる。情報配信を通じて乗客の行動を促すことで鉄道事業者は自ら混雑状況をコントロールし,積極的に問題解決を図ることができる。

また,鉄道における人流解析データを蓄積し,他の交通機関や駅周辺の商業施設,自治体などにデータ提供・連携すれば,さらに高い利便性を個人に提供することも可能になる。

今後,本ソリューションを起点としてさらに広い範囲でのデジタライゼーションによる価値提供を実現できるよう,人流解析データを活用したソリューションを展開する取り組みを加速していく。

5. おわりに

ダイナミックヘッドウェイは鉄道の価値を一新するソリューションである。本ソリューションは需要に応じた運行という鉄道の新しい価値を提案する。それは乗客には快適で便利な移動を,鉄道事業者には運行効率の向上や省エネルギー化をもたらすとともに,デジタル技術の活用による鉄道の未来像を実現する入り口ともなりうる。街の利便性や快適性を高め,環境に配慮した鉄道の未来像は,国連の「持続可能な開発目標(SDGs※2))」の中で掲げられているゴールの一つ「住み続けられるまちづくりを」の実現にも貢献する。

日立は鉄道を軸とした住みよい社会の実現をめざし,今後も顧客との協創を通じてダイナミックヘッドウェイをはじめとするデジタルソリューションの開発と展開を進めていく。

※2)
Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略称。2015年9月の国連サミットで採択された2016年から2030年までの国際目標。
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