日立評論

社会課題の解決に貢献する計測デジタルソリューション

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日立評論

ハイライト

2015年9月に国際連合で採択されたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)や1),日本政府が提唱するコンセプトSociety 5.0など2),世界的に社会課題解決への取り組みが活発化している。このような動きの中で,企業が自社の活動をSDGsなどで示された社会課題の解決に関連付ける動きが進んでいる。日立も,日立SDGsレポートにおいてSDGs達成への貢献を示している3)。その具体的な取り組みの一つが,Lumadaをコアとしたデジタルソリューションの提供である。日立はLumadaの中にIoT(Internet of Things)プラットフォームを構築し,デジタル技術を活用して新たな価値を生み出すデジタルトランスフォーメーションを推進している。

目次

執筆者紹介

竹村 理一郎Takemura Riichiro

  • 日立製作所 研究開発グループ エレクトロニクスイノベーションセンタ 情報エレクトロニクス研究部 所属
  • 現在,IoTエッジをコアとする情報エレクトロニクスの研究開発に従事
  • 博士(工学)
  • 電子情報通信学会会員

1. はじめに

2015年9月に国際連合で採択されたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)や1),日本政府が提唱するコンセプトSociety 5.0など2),世界的に社会課題解決への取り組みが活発化している。このような動きの中で,企業が自社の活動をSDGsなどで示された社会課題の解決に関連付ける動きが進んでいる。日立も,日立SDGsレポートにおいてSDGs達成への貢献を示している3)。その具体的な取り組みの一つが,Lumadaをコアとしたデジタルソリューションの提供である。日立はLumadaの中にIoT(Internet of Things)プラットフォームを構築し,デジタル技術を活用して新たな価値を生み出すデジタルトランスフォーメーションを推進している。

図1に示すように,Society 5.0では現実社会とサイバー空間を高度に融合したCPS(Cyber-physical System)により,社会課題の解決と経済成長の両立をめざしている。ここでデジタルデータを基に構築したソリューションを実現するためには,センシング・計測技術を駆使して人やモノ,環境など現実世界の構成要素や課題となっている対象の物理状態をデジタルデータとして収集すること(Sense),その収集データをAI(Artificial Intelligence)などで解析することにより状態の理解とソリューションを導き出すこと(Think),そしてそのソリューションにより実世界にフィードバックすること(Act)と事例(ユースケース)の蓄積・再活用が重要となる。

本稿では,「電力・エネルギー」,「産業・流通・水」,「アーバン」,「金融・社会・ヘルスケア」の日立の注力4事業分野を中心に,ユースケースを支えるモノ・人・環境の計測技術について述べる。

図1|社会課題解決と経済成長の両立に向けたCPSSociety 5.0では,現実社会とサイバー空間を高度に融合したCPS(Cyber-physical System)により,社会課題の解決と経済成長の両立をめざしている。

2. デジタルソリューションを支える計測技術

デジタルソリューションによる社会課題の解決に向けて,装置などのモノを対象とした計測技術,人に対する計測技術,環境に対する計測技術と,それらを用いるデジタルソリューションについて説明する。

2.1 モノの計測技術とデジタルソリューション

インフラや工場の施設・装置の保守作業は,社会システムの安全の担保や,故障などによる装置非稼働期間を短縮するために必要である。特にインフラの高度化や老朽化が進むにつれて,その重要性は増しつつある。一方,社会課題の点では,日本など労働人口の減少する国では効率的な保守作業の実現が求められる。ここでは,インフラや工場の施設・装置の保守作業の効率化を実現する事例と,材料開発の効率を革新する事例を紹介する。

鉄道の分野では,軌道,架線などの鉄道施設の定期的な検査が安全で快適な鉄道輸送を支えるために必要である。そのため従来は,専用車両による定期的な検測により,軌道のゆがみなどを測っていた。この場合,検測車の運行のために検測作業労働者と検測車が必要となる。それに対して,営業車に搭載可能な軌道検測装置による検査が鉄道事業者の営業線において始まっている。これにより,より効率的な保守作業が実現でき,将来的には,日々蓄積される計測データを基に,最適な保守計画策定支援サービスの提供をめざしている4)

次にエネルギーの分野の例を示す。再生可能エネルギーの一つである太陽光発電では,構成する数万枚の太陽光発電パネルを最適な状態で運用することが求められる。従来,太陽光発電パネルは日照条件により出力が変化するため,異常の検出が困難であった。これに対して,半導体デバイス物理に基づいた故障診断モデルと太陽光発電パネルの出力電流,電圧,日射,気温などの情報を基に,クラウド環境で劣化や故障を診断する技術を開発している。これにより,太陽光パネルの劣化や故障をオンラインで監視する遠隔故障診断が可能となり,発電所のパフォーマンスの維持や保守作業の効率化が実現できる5)

材料開発の分野では,材料自体の機能の発現メカニズムを解明する計測・分析技術が重要となる。近年,効率的な材料探索を行う取り組みとして,系統的に蓄積された材料パラメータの大規模データとAIなどのデジタル技術を活用するマテリアルズインフォマティクスが注目されている。これに対して,マテリアルズインフォマティクスの進展を支える電子顕微鏡の画像から材料パラメータを抽出する技術を開発している。これにより,低消費電力や省エネルギーを実現する新材料の開発を加速し,エネルギーや環境問題の解決に貢献する。

2.2 人の計測技術とデジタルソリューション

2018年現在,日本は高齢化率(65歳以上の人口比率)が28.1%に達する超高齢社会となっている。また中国においても,1979年から2015年まで導入された一人っ子政策の影響で急速に高齢化が進み社会問題となっている。このような高齢化社会においては,医療費・介護費用などの社会保障費を抑制するために高齢者の心身の健康維持が課題となる。日立はこうしたヘルスケア分野の課題に対し,先端計測技術を活用した高齢者向けソリューションの提供を中国で計画している。これは,日々の健康状態のモニタリングデータや活動データなどを用いて健康状態を推測し,介護サービスに利用することで高齢者の健康寿命を延伸させるものである。日々の健康状態や活動状況を計測・分析する技術や装置としては,光トポグラフィ技術を活用した携帯型脳活動計測装置や,アルツハイマー型認知症の早期発見に向けた簡易的な検査法の確立が期待される磁気センサー型指タッピング装置,歩行能力分析のためのステレオカメラなどが挙げられる。これらの装置で計測したデータを基に,日々の活動に対して適切なフィードバックを行うことにより,高齢者の健康状態の改善を実現する。今後,中国の高齢化問題の解決に向けてソリューションの早期事業化を推進していく。

2.3 環境の計測技術とデジタルソリューション

モノや人の状態のほかに環境の情報を活用するソリューションもある。環境の情報としては,その場の温度や湿度など物理的な状態情報のほか,空間の位置情報がある。

社会システムの安定化のためには,電力,プラント・工場,交通などの社会インフラ設備の長期間の安定動作が必要である。しかしこれらの設備は,低温や高温,多湿,特殊ガスなど過酷な環境下に設置されるケースが多く,腐食などによる動作障害が起こりうる。それに対して,装置の腐食を予測する電気抵抗型腐食センサーを開発している。これにより周辺環境の腐食性ガスによる装置への影響を定量化することができ,遠隔地から腐食リスクのモニタリングが可能となる。今後,新興国や人による巡回の困難な場所にある社会インフラ設備の腐食環境診断ソリューションを実現する。

次に,物流分野の例を挙げる。食品や薬品など温度管理の必要な輸送物のコールドチェーンでは,輸送期間の温度履歴を記録することが安全・安心な輸送を実現するうえで望まれる。これに対して,周辺環境の温度によって色が変化する温度検知インクを開発した。このインクは,周辺温度が管理温度帯から外れると不可逆的に色が変わるため,輸送中の管理温度の逸脱の有無を記録できる。これにより,温度管理が必要な食品や医薬品などの貨物に対して,安全が担保されたコールドチェーンソリューションが実現できる。今後,顧客との実証実験を通じて,生産から消費まで一貫した個別商品単位での温度管理を実現していく。

また,製造業や流通業などの倉庫の搬送作業の効率化に向けて,無人搬送ロボットの導入が進んでいる。この無人搬送車には位置同定の仕組みが必要であるが,従来は,現場に設置された磁気テープやマーカなどのガイドを用いていたため,その設置やメンテナンスのコストが課題となっていた。これに対して,レーザスキャナより計測した空間情報と,環境の地図とのマッチングによる位置同定用コンポーネント製品ICHIDASを開発した。これを無人搬送車に組み込むことにより,ガイドレス化が可能となり倉庫内での搬送作業の省力化・効率化を実現できる。また,屋外での位置情報に関しては,高精度な衛星測位技術の活用が進んでいる。オーストラリアにおいて,農業機械の自動運転のために準天頂衛星とGPS(Global Positioning System)衛星を活用した実証実験が進められている。今後,自動運転などのモビリティ分野をはじめ,建設機械,インフラ点検,防災・減災など,さまざまな分野で,屋外の高精度測位技術を活用したソリューションの創生を進めていく。

3. おわりに

図2|顧客協創を通じたデジタルソリューションによる社会課題解決計測技術を活用したデジタルソリューションをLumada上に構築し,パートナーとの顧客協創を通じて,社会課題・顧客課題の解決をめざす。

本稿では,日立の注力4事業分野に対するセンシング・計測技術とデジタルソリューションの取り組みを紹介した。これらの取り組みの具体的な内容は,本号掲載の各論文にて詳述されているので,参考されたい。図2に示すように,日立は今後も計測技術をコアとしたデジタルソリューションをLumada上に構築し,ユースケースを蓄積して,社会課題の解決に向けて顧客協創による活用を加速していく。

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