日立評論

モバイル分析による金属製造工程の効率・収益性・安全性の改善

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ハイライト

航空機や自動車など,さまざまな産業の根底を成す金属材料の分析は,今日の産業界になくてはならないものである。オンサイトで正確な材料分析を行うことは,製品の品質確保,生産プロセスの効率向上に加え,ひいてはそれらの製品を使用する人々の安全を確保することにもつながる。

こうした材料分析のニーズに対し,日立ハイテクアナリティカルサイエンス社はさまざまな種類の合金に対応した分析装置・ソリューションを提供している。

目次

執筆者紹介

Mikko Järvikivi

  • 日立ハイテクアナリティカルサイエンス フィンランド Espoo Office 所属
  • 現在,ハンドヘルド型XRF,LIBSおよび携帯OESの事業企画に従事

1. はじめに

材料分析用のハンドヘルド型分析装置の導入は,21世紀の金属分析に一大革命をもたらした。今日では,サンプルをラボに持ち込まなくてもその場で分析を行うことができ,意思決定を即座に行うことが可能になった。オンサイトで正確な材料分析を行うことは,効率向上の面のみならず,各種機器の安全性を確保する面でも重要であり,人命を守ることにもつながる。

ハンドヘルド型の分析装置は,使いやすさと正確な分析能力,携帯性を併せ持つことによって,鉱業や金属加工などに関わる技術者にとって不可欠のツールとなっている。ハンドヘルド型の合金分析装置を利用することで,製品が寿命を終えるとき,その製品に使用されている材料の価値を調べることができるのである。

日立ハイテクアナリティカルサイエンス社(Hitachi High-Tech Analytical Science Ltd.)は,こうした工程のすべての段階に対してソリューションを提供しており,さまざまな分析ニーズに応じて全種類の合金分析装置を提供している(図1参照)。

図1|日立ハイテクアナリティカルサイエンス社の提供する分析装置およびクラウドサービスハンドヘルド型分析装置は共通のユーザーインタフェースを持ち,シームレスな分析を可能にしている。OESは分析室での分析から現場および工場配管施設など,幅広い用途に利用されている。またExTOPE Connectを利用することで,分析結果をクラウドで共有管理化できるほか,測定現場ではオペレータが分析に集中できると同時に,離れた場所にいる専門家によって分析結果の判定や解析を行うことが可能となる。

2. 表面分析の原理

表面分析にはいくつかの手法がありそれぞれ原理が異なる。以下にその分析原理と特徴を示す。

XRF(X-ray Fluorescence:X線蛍光)では,試料中の原子を励起するためにX線が使用される。X線の照射により内殻電子が励起され空孔が生じる。この空孔に外殻の原子が遷移するときに特性X線を放出する。このように電子軌道が正常な状態に戻ることにより,試料中に存在する各元素に対する放射特性が放出される。この放射線は,検出器によって捕捉される。XRFの特徴は非破壊的であり,分析対象の表面に痕跡を残さないことである(図2参照)。

XRFはエネルギー分散型蛍光X線分析装置と波長分散型蛍光X線分析装置に大別される。日立アナリティカルサイエンス社のハンドヘルドXRFはエネルギー分散型である。エネルギー分散型は検出器自体がエネルギー分解能を持ち,装置の小型化に適している。X-MET8000シリーズにはSDD(Silicon Drift Detector)と呼ばれる小型で高分解能な検出器が搭載されている。

一方,LIBS(Laser-induced Breakdown Spectroscopy:レーザー誘起ブレークダウン分光分析)およびOES(Optical Emission Spectrometry:発光分光分析)はいずれも光放出技術であるが,異なる励起源を使用する。LIBSが励起源としてレーザーを使用しているのに対し,OESはアークまたはスパークのいずれかでサンプルを励起する。励起によって発生したプラズマからは各元素に対応した特徴的な光の波長が放出される。放出された光は分光器によって特徴的な光の波長として分解され,検出器に入る。

LIBS・OESは試料表面をレーザーやアーク放電によってスパッタリングし,表面の原子を放出・プラズマ化させて分光分析することから,XRFに比べて軽元素の検出感度が高いのが特長である。これらの手法はいずれも破壊検査であるが,LIBSにおいて試料に照射するレーザーは非常に小さく絞られているため,試料のダメージは微小である(図3参照)。

このように,同じ表面分析装置でも原理が異なるため,測定対象や必要とする情報によって最適な装置を使用し,分析を行うことが重要である。

図2|蛍光X線分析法の原理X線を用いて試料中の原子を励起するXRFの原理を示す。

図3|LIBSおよびOESの原理LIBSおよびOESの原理を示す。LIBSはレーザーを,OESはアークまたはスパークのいずれかを励起源とし,試料を励起する。

3. 希少な資源を賢く使用するための効率的な採掘作業

図4|土壌測定に使用されるX-MET8000シリーズのハンドヘルド型XRF分析装置ハンドヘルド型分析装置は,サンプル採取をすることなく土壌や鉱脈の分析をその場で迅速に実施する。GPS(Global Positioning System)情報と分析情報から,地理的な分析結果のマッピングも可能である。

原材料は有限であり,近年,新たな鉱床を見つけることはますます困難になっている。同時に,さまざまな原材料に対するニーズはかつてないほどに高く,一貫して上昇を続けている。例えば,最新の電子産業およびバッテリー技術は,リチウムやコバルトなどのさまざまなレアメタルに依存している。

採掘作業には資源をマッピングするための効率的な方法が不可欠であり,ハンドヘルド型のXRF装置は探査地質学者にとって最も重要なツールの一つになっている。

日立ハイテクアナリティカルサイエンス社のX-MET8000シリーズのハンドヘルド型XRF分析装置では,測定ポイントを定めて分析することにより,ごく少量のサンプルから最大40種類の元素をわずか数秒で同時に分析チャート上に示す自動分析が可能である。これにより,地質学者は分析データから地球化学的プロファイルを評価し,鉱床を示すデータを特定することができる。さらにこれらのデータを同装置によって収集可能なGPS(Global Positioning System)座標と組み合わせることで,資源マップの作成が可能である(図4参照)。

実際の掘削作業では,工程を最適化し,掘削される廃棄岩や自然環境への負荷を最低限に抑えるため,ハンドヘルド型分析装置が用いられる。また鉱山を閉鎖するとき,ハンドヘルド型XRF分析装置は土壌および選鉱くず中に含まれている可能性がある汚染物質を特定するためのツールともなる。したがって,ハンドヘルド型XRF分析装置は採掘期間全体にわたって採鉱作業の効率を向上させるための多目的ツールであると言える。

4. 金属の再利用

図5|くず鉄置き場で使用されるハンドヘルド型LIBS分析装置VULCAN多様で大量の鉄くずの分析や材料識別には短時間で正確な分析が求められる。LIBS分析装置は,アルミニウム合金のグレード識別なども数秒で分析することが可能である。測定データはExTOPE Connectによりクラウドで管理されるため,現場では測定作業に専念できる。

金属は何度も溶解させて原材料として使用できることから,理想的な再利用資源である。また,金属の再利用は環境負荷が少なくエネルギー効率がよい。例えば,金属くずからアルミニウムを製造した場合,ボーキサイト鉱石を原材料として使用するのに比べて最大95%のエネルギーを節約できる。

また金属の再利用は,非常に有益なビジネスにもなる。このビジネスモデルでは,通常,保証された最小限の組成に基づいて評価されるスクラップ合金の塊を購入し,ハンドヘルド型の分析装置を使用して金属を仕分けした後,価値の高い部分を販売することで純利益が得られる。装置に対する投資は非常に短期間で回収することが可能である。

一方,金属の再利用における課題の1つは,再利用を繰り返すために汚染が蓄積されることである。汚染された材料は金属生産において重大な問題を引き起こす可能性があるため,低レベルの汚染を調査・特定することがますます重要になりつつある。金属くずを炉に入れる前に,そうした金属に含まれる銅,スズ,硫黄,リンなどの元素を特定しなければならない。

ハンドヘルド型XRFは,くず鉄置き場では一般的に使用されている装置である。金属の再利用における最新の分析装置は,レーザー技術に基づいて開発されている。日立ハイテクアナリティカルサイエンス社のハンドヘルドLIBS分析装置VULCANシリーズは,金属の等級をわずか1秒で特定でき,大量の金属くずであっても素早く効率的に仕分けすることが可能である(図5参照)。

5. 金属生産における精度の重要性

金属生産においては,メーカーの仕様を満たす高品質な製品を提供するため,最高水準の精度が必要になる。したがって,納入した材料の検査から製品の品質管理に至るまでの全工程にわたって分析が行われる。

納入した金属くずの選別にはハンドヘルドLIBS分析装置VULCANシリーズを使用できるが,さらに高精度の分析を要する場合はOESを用いることが望ましい。

OESは金属生産の工程において,すべての重要元素に対し,最高水準の精度と非常に低い検出限界によって監視を行うことができる。またOESは,鋼材の最も重要な合金元素である炭素を監視することが可能な唯一のテクノロジーである。測定の難しい低レベルのホウ素や窒素でさえも,OESがあれば百万分の一(ppm)のレベルまで正確に測定することができる。

日立ハイテクノロジーズの据え置き型FM(Foundry-Master)シリーズおよび携帯型のPMI(Positive Material Identification)-Master分光分析装置はその高い信頼性から,多くの金属メーカーにおいて日々の業務に活用されている。

6. 金属加工における品質管理の重要性

図6|納入した材料を測定するVULCANと品質管理に使われるOES FMシリーズハンドヘルド分析装置はストックされた材料をその場で迅速に分析することが可能である。鉄鋼所などでの高精度な品質管理には,分析室に設置されたOES FMシリーズが利用されている。

今日の金属加工産業では,「信ぜよ,されど確認せよ(Trust but verify)」という言葉がよく使われている。つまり,納入業者の材料証明書だけを頼りにするのではなく,正しい材料が使用されていることを確認するために,合金分析装置を使用するという考えである。間違った材料を使用することで事故や人命に関わるトラブルが引き起こされる可能性を考慮すれば,当然と言える。

航空宇宙,自動車,石油化学をはじめとする多くの産業において,すべての原材料を分析し,証明書の記載と実際の仕様が合致しているかを検査する100%検査が採用されている。これによって企業にもたらされる経済的負担は小さくないが,安全性と信頼の確保に代えることはできない。

100%検査においては1日当たり数百個あるいは数千個のサンプルを測定するため,素早く正確な分析装置と,生成された大量の測定データを管理するツールが必要である。製造業でのニーズは多様であるが,納入した材料を検査するために倉庫内で分析が行われるということはおおむね共通している。また,材料の受領印や証明書を紛失したような場合には,材料の取り違えを防ぐため工場のフロアでも分析が行われる。

日立ハイテクアナリティカルサイエンス社の合金分析装置のラインアップには,超高速のLIBS,非破壊式のハンドヘルド型XRF,高精度のOESなど,顧客の要件に応じた分析ソリューションがそろっている(図6参照)。ハンドヘルド型XRFは分析対象の表面に跡を残さないため,完成品の検査を行うのに理想的なツールである。

7. オンサイト検査

図7|OESによるオンサイト検査携帯型発光分析装置によって,溶接工事前の配管材の材料検査や,配管済み施設の高精度な検査が可能となる。

BP p.l.c.のテキサスシティ製油所で2005年に発生した爆発事故により,配管などの重要な部品に関わる材料のオンサイト検査の重要性が浮き彫りになった。今日では,石油化学工場および発電所に設置される部品は,使用される合金が目的に適合していること,および高圧や高温,腐食などの概して非常に過酷な稼働条件に耐えられることを確認するために,設置前の検証が行われている。

こうした中,ハンドヘルド型装置によって,オンサイトでのサンプルの測定が可能になった。処理を止めることなく導管やフランジ,継手や溶接部などを測定でき,稼働停止に伴い発生するコストと時間が削減できる。ハンドヘルド型XRFを用いることで,最高400℃の高温表面を直接測定し,精度の高い結果を得ることも可能になった。

オンサイト検査では,分析装置に最高水準の精度が求められる。検査サービスを提供する企業は報告書を提出し,測定データが正確で信頼に足るものであることに責任を持たねばならないためである。データに不備があれば,その企業は不備によってもたらされる損害に対し責任を負わねばならない。

ほとんどの元素はハンドヘルド型XRF分析装置で正確に測定できるが,炭素を測定する場合にはOESを使用する必要がある。今日では,OESさえも携帯型のサイズに縮小されている。日立ハイテクアナリティカルサイエンス社のPMI-Master Smartは,測定が困難な条件の厳しい場所でも高精度の分析を行うことが可能な,世界最小・最軽量クラスのOES装置である(図7参照)。

8. おわりに

現時点では,迅速な仕分けから高精度の元素分析まで,すべての用途に対応した単一の装置は存在しない。日立ハイテクアナリティカルサイエンス社は,金属産業におけるさまざまな元素分析ニーズに応えるべく,今後も製品ポートフォリオを強化していく所存である。

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