日立評論

日立のモノづくり強化活動

ページの本文へ

Hitachi

日立評論

ハイライト

近年,製造業,とりわけ社会インフラ事業の分野では,新興国における膨大なインフラ需要をターゲットとした成長戦略に基づいたグローバル化を進め,政府もそれを後押ししてきた1)。一方でモノづくりの側面を見ると,新興国における品質管理の問題や賃金高騰などにより,従来,日本企業で主流であった,中国・東南アジアを中心とした低コスト生産という海外進出の図式を見直す動きも出てきている2)

目次

執筆者紹介

菊池 淳Kikuchi Jun

  • 日立製作所 モノづくり戦略本部 企画部 所属
  • 現在,日立グループのモノづくり戦略立案に従事

深川 正一Fukagawa Masakazu

  • 日立製作所 モノづくり戦略本部 設計改革推進部 所属
  • 現在,日立グループ全社の設計改革支援に従事

坪井 竜之介Tsuboi Ryunosuke

  • 日立製作所 モノづくり戦略本部 SCM改革推進部 所属
  • 現在,日立グループ全社のSCM支援に従事

1. はじめに

近年,製造業,とりわけ社会インフラ事業の分野では,新興国における膨大なインフラ需要をターゲットとした成長戦略に基づいたグローバル化を進め,政府もそれを後押ししてきた1)。一方でモノづくりの側面を見ると,新興国における品質管理の問題や賃金高騰などにより,従来,日本企業で主流であった,中国・東南アジアを中心とした低コスト生産という海外進出の図式を見直す動きも出てきている2)

他方,昨今のデジタル技術の進展は目覚ましいものがあり,Industrie 4.03)やConnected Industries4)がめざす,CPS(Cyber Physical System)によるモノづくりの実現に向けた動きが加速している。センシング技術をはじめとする,IoT(Internet of Things)技術により,製造装置のみならず,部品の流れや作業員の挙動など,これまで数値化することが難しかった現象までもがデジタル化されるようになってきており,これらのデジタル情報をインプットに,これまで熟練技術者の経験や勘で培われてきた暗黙知を形式知化できるような人工知能の研究・開発も進められている5)

日立では,2018中期経営計画6)に示すように,欧州・北米を含めたワールドワイドな事業展開と,事業を支えるデジタル基盤の強化を成長の柱として,社会イノベーション事業のより一層の拡大に取り組んでいる。モノづくりにおいても,このような事業の成長戦略に対応した変革が求められている。

2. 日立における次世代モノづくりの姿と実現課題

図1の左に示すように,従来の日立におけるモノづくりのグローバル拠点の主な役割は輸出モデル,地産地消,低コスト生産であり,製品や設計図面のやり取りは日本国内のマザー拠点から各地域へ展開する形が主流であった。しかし現在では,グローバル事業の飛躍的な成長に向け,海外企業のM&A(Merger and Acquisition)や海外パートナーとの連携も視野に入れたグローバル拡大戦略を推進している。このようなM&Aを行う際に課題となるのがPMI(Post Merger Integration)であり,モノづくりにおいてもPMIを見据えた将来像を描く必要がある。

日立においては,グローバル全体での高効率なモノづくりオペレーションをめざし,同図の右に示すように,M&A先や既設の自社工場との間で,製造・設計拠点をフレキシブルに割り当てることができる次世代モノづくり体制(以下,「フレキシブルモノづくり体制」と記す。)の構築を進めている。一方で,高品質・高信頼な製品を短期間・低コストで生産するモノづくり力は,日立の競争力の源泉である。従来から重視してきた「品質・コスト・納期」に,「安全」を加えた,S・Q・C・D※)(Safety, Quality, Cost, Delivery)のすべてにおいてグローバルトップをめざすモノづくり基盤強化は,もう一つの重要テーマである。

※)
日立製作所 モノづくり戦略本部が重視するモノづくりにおける4つの要素を示す。

図1|グローバルモノづくり体制日立では,日本国内のマザー拠点から各地域への一方向の展開から,M&A先や既設の自社工場との間で,製造・設計拠点をフレキシブルに割り当てることができるフレキシブルモノづくり体制への移行に取り組んでいる。

3. デジタルによるモノづくり強化活動

本章では,フレキシブルモノづくり体制の構築,モノづくり基盤のグローバルトップ化に向けて推進中のモノづくり強化活動の取り組みを紹介する。

3.1 活動概要

図2に本活動の推進スキームを示す。本活動では,コーポレート部門が中心となり,モノづくりの強化戦略および重点施策を立案し,各BU(Business Unit)およびグループ会社に対する展開を行っている。コーポレート部門では,活動を取りまとめるモノづくり戦略部門,先進技術開発を担う研究開発部門,人財育成を担う教育部門,社内のIT環境の高度化を担う情報システム部門,デジタルソリューションの展開を担うデジタルエンジニアリング部門が一体となり,さまざまな見地から日立グループの重点課題に対し,広く展開可能な施策を立案・展開している。各BUおよびグループ会社への施策展開においては,個別の課題に応じてコンサルティング,実務支援,情報共有などの手段を使い分けることで,効果的な展開を行っている。

表1に,本活動における3つのモノづくり強化テーマのねらいと取り組みを,図3にモノづくりのE2E(End to End)バリューチェーンにおける各テーマの位置付けを示す。各テーマの取り組みの内容については,次節以降で述べる。

図2|モノづくり強化活動の推進スキームモノづくり戦略部門,研究開発部門,教育部門,情報システム部門,デジタルエンジニアリング部門が一体となり,さまざまな見地から日立グループに広く展開可能なモノづくり強化施策を立案,展開している。

図3|バリューチェーンにおけるモノづくり強化テーマの位置付けモノづくり強化に向けた「ECMシステムの高度化」,「SCMシステムの高度化」,「モノづくり基盤技術・人財育成の強化」の3つのテーマは,それぞれ「開発設計」,「サプライチェーン」,「製造」を対象にした取り組みである。

表1|モノづくり強化テーマのねらいと取り組み「ECMシステムの高度化」,「SCMシステムの高度化」,「モノづくり基盤技術・人財育成の強化」をテーマに,モノづくり強化に取り組んでいる。

3.2 ECMシステムの高度化

「ECM(Engineering Chain Management)システムの高度化」では,グローバル拠点間での円滑かつ効率的な開発設計業務の遂行をめざし,開発設計プロセスの標準化と開発設計情報の共通化に取り組んでいる。

モジュラーデザイン(MD:Modular Design)は,事前に部品の標準化レベルを設定することで,製品間での部品の共通化比率を上げ,顧客ごとの要求の差分のみ個別に設計する手法である7)。日立では2012年よりMDの全社展開に注力しているが,対象をグローバル拠点に拡大し,さらに取り組みを加速している。

一方,3Dモデルは,3D-CAD(Computer-aided Design)の形状情報に製造情報や検査情報などの製品情報を定義・集約したものであり,日立ではグローバル拠点との円滑な情報共有に向けて,3Dモデルを「正」とする開発設計プロセス改革を推進中である。これにより,従来2D/3D混在プロセスで行われていた変換作業の削減だけでなく,3Dモデル/アセンブル機能によるE-BOM(Engineering Bills of Materials)生成,そこからのM-BOM(Manufacturing BOM)展開といった,効率的設計および設計以外の高度利活用が可能になる。3Dモデルの活用に積極的に取り組んでいるBUやグループ会社では,生産設計,製造,検査,調達,保守の各プロセスで3Dモデルを共有することでコンカレント設計を実現することで,トータルリードタイムを大幅に短縮した事例もある。

このような3Dモデルによるグローバル拠点間での円滑な設計情報の共有と,次に述べるSCMシステムの高度化の連携は,現在社内で並行して進めているクラウドマニュファクチャリング(Crowd Manufacturing)8)の実現においても重要な要素となるものである。

3.3 SCMシステムの高度化

一方,「SCM(Supply Chain Management)システムの高度化」では,サプライチェーン全体での生産リードタイムや在庫量などの最適化に向けて,図4のロードマップを用いて,E2EにわたるSCM業務の標準化・デジタル化および情報連携強化に取り組んでいる。ここでのE2Eは,(1)地域,(2)製品ライフサイクル,(3)バリューチェーンの全ての広がりを対象としている。

例えば地域を対象とした取り組みとしては,グローバル拠点間でのPSI(Production, Sales, Inventory)情報のリアルタイム連携がある。各拠点における生産,販売,在庫の情報を同期化することにより,生産リードタイムの短縮や在庫調整の高度化を図るものである。これは,基幹系システムが異なる拠点間の製販連携をクラウドにより実現する「グローバルPSI見える化サービス」として,日立の企業間取引サービス「TWX-21」を通じて社外にも提供している9)

また製品ライフサイクルの取り組みとして,長期間にわたる保守サービスコストの適正化に向けて,保守部品の需要予測手法の開発を行うとともに,在庫投資収益性を表す交叉比率や在庫管理期間全体のNPV(Net Present Value)などを体系化した「在庫コスト評価」の展開を進めている。

さらに,バリューチェーン全体最適化に向けたデジタル情報の高度利活用にも取り組んでおり,生産マスタ情報の標準化やIoT技術による生産実績データの取得の自動化を起点として,ECMとSCMの連動によるトータルリードタイム短縮,グローバル拠点の一体運用や予測シミュレーションによる設計・製造資源の活用効率化,製造・品質トレーサビリティ強化による生産性向上などを進めている。

図4|SCMシステムの高度化に向けた,標準化・IT化ロードマップSCM業務に対する自動化・全体最適化ステージを設定し,標準化・IT化を推進している。

3.4 モノづくり基盤技術・人財育成の強化

日立のモノづくり力をグローバル競争力の根幹としていくために,S・Q・C・Dのグローバルトップをめざしたモノづくり基盤の強化に取り組んでいる。本テーマでは,加工,鋳造,溶接,塗装をはじめとするモノづくり基盤技術のデジタル化とモノづくり人財育成の両面で取り組みを進めている。

モノづくり基盤技術のデジタル化では,加工作業において,工具,ワーク,素材などのデータから最適な加工条件を自動生成する技術開発や,画像処理技術を用いて溶接や塗装作業における熟練者の技能をデジタル化するシステムの構築に取り組んでいる。

またモノづくり人財育成の面では,前述したように,デジタル化された熟練者の技能を活用した教育を進める一方で,学校教育やOJT(On-the-Job Training)では難しい,実際にモノに触り,壊すことを体験する実践教育や,製造現場指導者の育成に向けた社内資格制度であるIE(Industrial Engineering)マイスター制度を整備し,展開している。図5に機械加工における実践教育講座の例を,図6にIEマイスター制度の概要を示す。

一方,品質コンプライアンスの違反は,故意・過失のいかんにかかわらず,企業全体の信頼を失いかねない大きな問題となってきている。このような問題を未然に防ぐため,以前より啓発教育などの取り組みを進めてきたが,それに加えて,検査データの自動取得や安全規格との自動照合などのデジタル化・自動化の取り組みを,データの誤記や改竄(ざん)の防止に有効な手段として推進している。

また,WannaCryをはじめとするサイバー攻撃は,近年,その攻撃対象をOA(Office Automation)環境から生産・製造環境に至るまで幅広い範囲に拡大し,深刻な問題となっている。日立では,各拠点独自で取り組んでいた生産・製造環境におけるセキュリティ対策を全社活動の対象とし,日立グループ共通のサイバーセキュリティガイドラインの策定・展開などの活動を推進中である。

図5|機械加工における実践教育学校教育やOJT(On-the-Job Training)では難しい,実際にモノに触り,壊すことを体験する実践教育を整備,展開している。

図6|社内IEマイスター制度製造現場指導者の育成に向けた社内資格制度であるIEマイスター制度を整備し,展開している。

4. Lumadaによるデジタルトランスフォーメーションの展開

日立のLumada10)には,社内外におけるデジタルイノベーションの事例がユースケースとして登録されており,製造業の分野では74件の登録がある(2019年1月時点)。

代表的なユースケースの一つに,オークマ株式会社と日立の協創事例がある。本事例は,日立製作所大みか事業所で代表製品の生産リードタイム50%短縮を実現した,Lumadaの生産計画最適化ソリューションが,オークマ株式会社のマスカスタマイゼーションに対応した次世代ファクトリーの構築に貢献した例である11)

本稿で紹介したデジタルトランスフォーメーションの取り組みも,日立におけるOT(Operational Technology)とITの融合によるベストプラクティスであり,Lumadaユースケースとして登録し,社内外に広く展開していく予定である。

5. おわりに

日立の社会イノベーション事業のより一層の成長に向け,モノづくり強化活動を推進中である。本活動では,フレキシブルモノづくり体制の構築とモノづくり基盤のグローバルトップをめざし,日立グループが一体となって「ECMシステムの高度化」,「SCMシステムの高度化」,「モノづくり基盤技術・人財育成の強化」に取り組んでいる。本稿で紹介したデジタルトランスフォーメーションの取り組みが,Lumadaを通じてさまざまな顧客のモノづくり強化に広く活用されることを期待している。

Adobe Readerのダウンロード
PDF形式のファイルをご覧になるには、Adobe Systems Incorporated (アドビシステムズ社)のAdobe® Reader®が必要です。