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グローバルなオープン協創で加速する社会イノベーション

デジタル革新を実現するユニバーサルモバイルプラットフォーム

ハイライト

多くの産業のさまざまな企業がデジタル革新の重要性を認識するようになり,現在,企業はデジタルソリューションを会社全体に実装することに一層意欲的になっている。しかし,その変革を実現できるほどの準備が整っている企業や必要な手段を持っている企業は限られている。

日立ヨーロッパ社は,協創の方法論および高度な解析を用いて,さまざまな産業に携わる企業を支援し,デジタル変革およびソリューションの実装をサポートしている。具体的には,固定型および移動型資産の管理用に先進的なアルゴリズムを開発し,独自のデジタルプラットフォームであるUATSPによってそれを実現している。本稿では,日立ヨーロッパ社が顧客に提供し,実際に繰り返し利用可能なデジタルソリューションとしてUATSP上で展開されている高度なデジタルソリューションの一部を紹介する。

目次

執筆者紹介

Anthony Ohazulike

  • Hitachi Europe Ltd. European R&D Centre, Automotive and Industry Laboratory 所属
  • 現在,オートモティブチームを統率し,ビジネスユースケース向けの高度なテレマティクスソリューションの開発に従事
  • 応用数学博士

大石 裕司Oishi Yuji

  • Hitachi Europe Ltd. European R&D Centre, Automotive and Industry Laboratory 所属
  • 現在,自律運転およびテレマティクスプラットフォームの研究開発に従事
  • 電子情報通信学会会員

Massimiliano Lenardi

  • Hitachi Europe Ltd. European R&D Centre, Automotive and Industry Laboratory 所属
  • 現在,ヨーロッパにおいてA&ILおよび日立R&Dの統括業務に従事
  • 通信工学博士
  • IEEE主席研究員

Peter Hohmann

  • Hitachi Europe Ltd. European R&D Centre, Experience Design Laboratory 所属
  • 現在,サービスデザイン,デザイン思考および顧客エンゲージメントの観点から新しい方法の開発・利用に従事

1. はじめに

現在,世界中の企業がデジタル革新をめざしており,89%の企業がデジタルファーストのビジネス戦略を採用済み,あるいは採用を計画している。その内訳の上位は,サービス(95%),金融サービス(93%),ヘルスケア(92%)となっている1)。ソフトウェアエンジニアのOleksandr Tedikov氏の言葉を引き合いに出すと,デジタル変革は,より持続可能な関係を構築して顧客ニーズに対する理解を深めることを目的として,事業のあらゆる領域にデジタル技術を実装するものだと見なされることが多いという1)。それには,企業を後押しするための新たな領域の発見とイノベーションおよび技術の活用が必要となる。これは,既存のサービスに新しい可能性を見いだし,優れたエクスペリエンスを設計して顧客に提供することを意味するが,デジタル面で成熟した企業になるうえで,最大の障害の一つに挙げられるのがデジタル革新戦略の欠如である。そしてもう一つ,人工知能(AI:Artificial Intelligence)や機械学習(ML:Machine Learning)能力といったデジタル革新の推進を実現するツールの保有がネックとなる。

日立ヨーロッパ社は,このような障害を取り払うべく,明確に定義化した方法論を用いて,顧客に対しさまざまなデジタルソリューションを提供し,顧客と協働でデジタル変革に向けた道筋を定義し,形成している。この方法論を「協創」と呼ぶ。これは顧客に広範なデジタルソリューションとプラットフォームを提供し,顧客と協働でソリューションを創出・刷新して,迅速なデジタル変革を支援するというものである。顧客が具体的なビジネスケースを特定することを支援し,必要な場合はハード面やソフト面も支援する。そして,そのビジネスケースを実現できるよう支援する。

例えば日立ヨーロッパ社では,鉄道メンテナンスや産業ソリューション向けの調査や高度な解析から,デジタルプラットフォームやサポートなどの,コスト削減を目的とした固定型および移動型資産用の高度なアルゴリズムの開発まで,先進的なデジタルソリューションを広範に提供している。

2. 日立のデジタルプラットフォーム UATSP

デジタル変革は待っているだけで実現するものではなく,実現させるにはハードウェア,ソフトウェア,および人財など,必要となるすべてのデジタルインフラとツールを適切に配置する必要がある。ビジネスケースを達成するには,デジタル化を支援するAIやMLといったデジタルイネーブラーによる高度な解析が不可欠である。デジタル革新には,データの抽出,保管,転送,および洞察に富む解析が必要であるが,日立ヨーロッパ社は,これらすべてを一つの企業内に集約することがいかに難しいかを身をもって経験している。デジタル化の恩恵を受け始めるまでにはしばらく時間がかかるのである。

日立ヨーロッパ社は,この課題に対応するため,マルチインタフェースモバイルデバイスを設計・開発した。このデバイスは,あらゆる資産に容易に接続して,データを収集,保管,転送し,エッジならびにクラウドまたはセンターの両方で高度なデジタル解析を実行し,最終的にはエッジとセンター両方のインタラクティブなインタフェース上に結果とKPI(Key Performance Indicator)を提示する。これをデジタルエッジテレマティクスユニット(ETU:Edge Telematics Unit)と名付け,システム全体を総称してUATSP(Universal Advanced Telematics Solutions Platform)としている(図1,図2,図3参照)。

UATSPには,組み込み型の高度なアルゴリズムが搭載されており,例えばブレーキパッドの残存有効期間(RUL:Remaining Useful Life)予測,タイヤのRUL予測のほか,粉砕機のRUL予測,バッテリー寿命のRUL予測,船舶の燃費最適化,エネルギー生産最適化モジュール,運転行動およびリスク予測などが可能である。

また,独自設計のPCB(Printed Circuit Board)が搭載され,これには振動や加速度を計測する追加のセンサーが含まれている(図4参照)。UATSPは,短期間でデジタル化のメリットを享受することを目的として設計されており,日立の社会イノベーション事業に寄与するものである。

図1|UATSPシステムの概要ハードウェア,ソフトウェアアーキテクチャ全体を含むUATSP(Universal Advanced Telematics Solutions Platform)の全体像を示す。

図2|UATSPのソフトウェアコンポーネントETU内のソフトウェアアーキテクチャの全体像を示す。上側はクラウドおよびローカルネットワーク,下側はセンサーとの界面を示す。

図3|デジタルエッジテレマティクスユニットETUのベースとなる市販のゲートウェイを示す。

図4|UATSPの独自設計PCB要求仕様に適合するように設計された独自回路基板を示す。ビジネスユースケースに適合しており,高度なデジタルソリューションに迅速に適用できる。

3. 高度なデジタルソリューション - UATSPのユースケース

3.1 燃費の高効率化と環境への影響削減をもたらすAIアシストによる航路計画技術

本節では,現在UATSP上で展開され,高度なエッジソリューションの一部として実行されている日立ヨーロッパ社のデジタルソリューションについて紹介する。また次節では,センター側のUATSP上に展開されている実用的なデジタルソリューションの事例を述べる。

WSC(World Shipping Council)の2008年の報告書によると,燃料費は船舶運航費用全体のおよそ50〜60%に相当するという。海運業者は,サービス水準を維持するためにこの支出を回収する必要があり,今後,燃料の高騰に伴い船荷価格を上げ続けなければならない状況に直面するとみられる。WSCによれば,海運業者はこれまでに多方面の営業努力により燃料の高騰に対応してきた。しかし,こうした営業努力がすでに全般的に実施されていることを考慮すると,船舶の燃料消費量をこれ以上削減できるような運航上の新たな対応策は限られている。

日立ヨーロッパ社は,この課題に取り組むべくAIやMLなどの高度な解析を使用して,欧州の顧客とともに協創プロジェクトを進めている。その結果,顧客と協働で,燃費の効率化と環境負荷の削減をもたらすAIアシストによる航路計画技術を設計・開発した(図5,図6,図7参照)。

本技術ではまず,顧客の蓄積したデータを用いてAIによる学習を行い,燃費に関連する特徴量を抽出した。続いて,これらの特徴量を用いてAIによる燃費および船舶の運航パラメータ(速度,トリム,航路候補など)の学習を行い,モデル化した。実運用時には現時点でのデータをモデルに入力し,航路候補上の各地点における燃費および運航パラメータを推論する。これらの推論結果より,燃費を最小化する航路を算出する。

さらに,日立ヨーロッパ社はこのデジタル革新プロジェクトである協創プロジェクトにおいて,リアルタイムに燃料や環境面で効率的な速度と必要な推進力を推奨し,船舶を出港地から目的地まで誘導するAIベースのアルゴリズムを開発した。

このアルゴリズムは,刻々と変化する風向き,海流,波,潮流,水深などの複雑で動的な環境的要因を考慮する。また,このモデルでは到着時刻を制約条件として入力するため,船舶が予定時刻に到着することを確実にすることができる。

2018年8月に顧客の船舶で実際に運用が開始され,船長らはモデルのパフォーマンスに満足を示した。この技術は2〜4%の燃料消費量削減を可能にし,現在は新しい船舶や新規顧客など,新たな環境への導入負担を軽減することを目的に,UATSP上で実行できるよう展開されている。

図5|AIおよび機械学習のパイプラインとアプローチAIおよび機械学習のパイプラインとアプローチを示す。

図6|AIレコメンデーションエンジンのパイプライン燃料最適化ユースケースで最適な航行パラメータを割り出すレコメンデーションエンジン構築用モジュールのデータフローパイプラインを示す。

図7|推奨推進力を表示する実際のETAPILOTダッシュボード燃料効率を上げる推奨推進力を表示した実際のダッシュボードを示す。図中の枠で囲まれた「11.5」が推奨推進力である。

3.2 AI/MLに基づく1時間ごと地域ごとの熱予測と熱プラント生産計画の最適化

上述のとおり,UATSPはエッジとセンターの両方において,新たなデジタルソリューションを付加し,リアルタイム解析を支援できるという長所を持つ。このデジタルソリューションは,センター側でも実行できるようにUATSP上で展開されている。

熱生産はそれ自体にかかる費用が非常に高額であることと,地域の熱需要および電気料金が毎日,毎時間変動するという現実を考慮すると,熱の生産および流通を行う企業が熱需要を予測して,生産を最適化する適切なモデルの構築が重要となる。

ここで問題を複雑にしているのは,常に変化する気象条件が,特定の世帯やビルの熱消費量の決定に重要な役割を果たしているという事実である。日立ヨーロッパ社はこの課題に対応するべく,著名なエネルギー供給会社との提携を取り決め,企業において最適化が可能な領域の特定に取り組んだ。

この協創プロジェクトにおいて,高度な解析を使用して,地域における翌日の1時間ごとの熱需要予測と,最適なプラントの生産計画を予測するためのAI・MLベースの技術を設計・開発した。また,これまでにない斬新なAIベースの熱損失予測モデルを発表した(図8参照)。

本モデルは大きく三つのコストの合計を計算し,これを最小化する熱生産計画を算出する。第一のコストは熱生産コストで,各熱生産プラントの燃料費,環境コスト,熱生産時の損失の合計である。第二のコストはプラント起動コストで,各プラントの起動にかかるコストを数値化したものである。第三のコストは熱伝送コストで,プラントから伝送先地域までの伝送距離に応じた熱損失を表す。

2018年12月には実用化試験を実施し,日立ヨーロッパ社のモデルと顧客の現行モデルを比較した。その結果,顧客の現行モデルに日立ヨーロッパ社の開発モデルを統合することで性能の向上が可能であることが示された。

現在,このモデルをセンターやクラウドで実行するようにUATSP上に展開済みで,新規顧客がこのようなデジタルソリューションを迅速に手にすることができるようになっている。

図8|熱損失モデルを構築するAIのパイプラインプラントから地域に熱が移動する間の熱損失を予測するニューラルネットワークを示す。

4. おわりに

本稿では,欧州における日立ヨーロッパ社の顧客との協創プロジェクトの成功事例を2件示した。これらの事例は現在,デジタルプラットフォームであるUATSP上で展開され,顧客のデジタル化の過程における迅速なROI(Return On Investment)の獲得に寄与している。

日立ヨーロッパ社は,今後も顧客協創を通じて社会イノベーション事業の推進に尽力していく。

謝辞

本稿に記載のビジネスユースケースの結果を得る際に使用したデータならびに時間を提供し,協創に協力いただいた顧客各位に心より感謝する。

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