日立評論

Society 5.0を支えるエネルギーシステム

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日立評論

グローバル×デジタルを加速する技術革新

Society 5.0を支えるエネルギーシステム

ハイライト

大規模電源を核とした従来の電力システムから,再生可能エネルギーの導入拡大,分散化,デジタル化,電化・電動化などを取り込んだ新しいシステムへの移行が急速に進んでいる。

日立は,国内外の情勢を踏まえつつ,Society 5.0を支えるエネルギーシステム,特に電力システムの将来に関する技術的課題に対する取り組みおよび政策・制度的課題への提言を進めている。

本稿では,エネルギーシステムのあるべき姿を共有して社会的合意を形成していくために,オープンで,定量的・客観的な情報発信・共有を行う評価プラットフォームに必要となる解析技術と枠組みを紹介する。

目次

執筆者紹介

佐藤 康生Sato Yasuo

  • 日立製作所 研究開発グループ エネルギーイノベーションセンタ エネルギーマネジメント研究部 所属
  • 現在,エネルギーソリューションの研究開発に従事
  • 電気学会会員

渡辺 雅浩Watanabe Masahiro

  • 日立製作所 研究開発グループ エネルギーイノベーションセンタ エネルギーマネジメント研究部 所属
  • 現在,エネルギーソリューションの研究開発に従事
  • 博士(工学)
  • 電気学会会員
  • IEEE会員

中沢 健二Nakazawa Kenji

  • 日立製作所 エネルギー業務統括本部 次世代エネルギー協創事業統括本部 戦略企画本部 所属
  • 現在,エネルギー部門の事業企画に従事

吉本 尚起Yoshimoto Naoki

  • 日立製作所 研究開発グループ システムイノベーションセンタ 社会システム研究部 所属
  • 現在,需要家視点の都市ソリューションの研究に従事
  • 博士(工学),技術士(化学部門,総合技術監理部門)
  • 日本建築学会会員
  • 高分子学会会員
  • 応用物理学会会員
  • 日本化学会会員

山田 竜也Yamada Tatsuya

  • 日立製作所 エネルギー業務統括本部 次世代エネルギー協創事業統括本部 戦略企画本部 所属
  • 現在,エネルギー分野での協創事業の推進に従事

1. はじめに

近年,再生可能エネルギー(以下,「再エネ」と記す。)電源の大量導入,ICT(Information and Communication Technology)の発展,グローバル化の進展,人々の価値観の変化などにより,経済や社会の在り方,産業の構造が急速に変化している。日本政府は現在,そのような経済や社会の変革に対応した新たな価値を創出し,豊かな暮らしがもたらされる「超スマート社会」を未来の姿として共有し,世界に先駆け社会課題の解決を実現していくSociety 5.0という方針を掲げている。日立は,このSociety 5.0を支える将来のエネルギーシステムについて提言を進めている。

2016年6月には,産学協創の新たなスキームとして東京大学と「日立東大ラボ」を設置した。このラボを通じて,再エネの導入拡大,分散化,デジタル化,電化・電動化などを取り込んだ新しいシステムへの移行が急速に進んでいく状況において,技術的課題や政策・制度的課題を抽出し,関係者と問題意識の共有を図りながら,提言として公開している1)

2. 将来のエネルギーシステムのあるべき姿

図1|Society 5.0を支えるエネルギーシステム全体像地域社会ごとに特色のあるエネルギーシステムと,それをつなぐ基幹システムが共存する。

Society 5.0では個人の生活が主役となって,地域社会ごとに特色のあるエネルギーシステムが構築される。これまでの規模拡大を前提とした均一性をもった集中型の概念から,それぞれの地域で人々の想像力を活用してエネルギーのさまざまな課題を解決し,価値を創造していく世界をめざす。

経済・社会・産業の構造が急速に変化する中で,さまざまなインフラと互いに連携・協調し,かつ,地域社会に適したエネルギーシステムの構築が求められている。一方,再エネ導入による地域的偏在や時間的変動のため,一つの地域社会でエネルギー需給や価値のやり取りを閉じることは難しい。基幹システムが複数の地域社会をつなぎ,システム全体を調整する役割を果たす。地域社会のエネルギーシステムと基幹システムとの役割は画一的でなくなり,共存を前提として再構築していく(図1参照)。

このようなビジョンを実現するためには,技術的にも多様な選択肢の準備が必要である。特に,太陽光発電や風力発電などの出力変動は電力系統に及ぼす影響が大きい。IEA(International Energy Agency)では,導入率で4つのフェーズに分けて(〜5%/〜10%/〜30%/30%以上),それぞれの段階でハード・ソフト両面の対策を積み上げていくことを提唱している2)。例えば,アイルランドでは,2020年に電力量の再エネ比率が40%に達する見込みであり,瞬間的には電力需要の4分の3を再エネでまかなうことも想定されている。これに対し,例えば再エネ出力・蓄電・需要のきめ細やかな調整技術が開発されている。

2.1 地域社会で挑戦すべき新しい方向性

個人の生活が主役となって,地域社会ごとに特色のあるエネルギーシステムに向けては,電力・ガス・水道に加えてICT・自動車・物流などが連携・協調して生活を支えるため,地域社会に適したシステムを再構築する必要がある。個人が利用するエネルギーの価値は,CO2削減や地域資源保護などの環境性,さらには生活の利便性や快適性に関わる価値などに多様化していく。このようにエネルギー消費からサービス利用に変化する流れの中で,それぞれの地域が求める異なるサービス品質に合わせたエネルギー流通を実現していく。

また,VRE(Variable Renewable Energy)などの分散型電源の比率が高まるにつれて,電力システムにおける電力の価値は,いわゆるkWh価値というエネルギーの「量」の価値に加えて,電力システム全体で必要とする容量(供給力)への貢献を意味するkW価値や,短期変動への需給調整能力を表すΔkW価値などの電力システム全体で見たエネルギーの「質」を支える調整力の価値も必要となる。エネルギー利用がサービス利用に変容していく地域社会では,これらの新しい価値についても,流通および取り引きのためのインフラや制度を組み入れなくてはならない。

2.2 基幹システムの変革を支える枠組み

エネルギーシステムが変革する中,基幹システムは社会全体の「3E+S(Energy Security, Economic Efficiency, Environment, Safety)」を向上する重要な役割を担う。複数の地域社会でエネルギーの需給や価値の授受が行われ,基幹システムがこれらをつなぐ役割を果たす。また,現在,各地域の垂直統合型の電力会社で担保しているkWh以外の価値,例えば,安定供給や環境性などの価値について,発送電分離の後は定量化および指標化してエネルギーシステム全体として担保していく必要がある。

地域社会のエネルギーシステムと基幹システムとの役割は画一的でなくなり,共存を前提として再構築する必要がある。現在,基幹システムが電力系統全体を制御する役割を担っているものの,将来は再エネや分散型電源によって地産地消やレジリエンシーの向上をめざす電力システムを持つ地域社会が増加し,基幹システムも地域社会からの調整力の供給を利用することで,「3E+S」が成立した世界が実現する。

地域社会ごとに特色のあるエネルギーシステム群を構築していく中で,基幹システムとの役割分担については,それらを実現する手段としての制度・政策(社会システム)も含めて再定義することが重要である。

3. 評価プラットフォームの在り方

3.1 解析技術

地域社会と基幹システムの役割を具現化するため,電力を中心に社会全体のエネルギーシステムを分析・評価できるプラットフォームの整備を進めている。

これまでに,基幹システムにおける再エネ導入拡大に向けた各種施策を技術・便益の観点で評価することを目的とし,広域安定度シミュレータを開発した。再エネの大量導入時に,需給バランス確保に加え,系統各地の故障を想定した過渡安定性を考慮して,再エネ導入限界や出力抑制必要量の検討を可能とした。想定する電力需要,VREの発電量,電力設備機器特性,想定事故ケースを入力し,ステップ1の需給運用計画,ステップ2の系統安定化対策のシナリオ策定を行い,系統安定化対策の効果の評価としてステップ3で過渡安定性評価,ステップ4で経済・環境性評価を行う(図2参照)。

評価指標としては,例えば年間の発電コストやCO2排出量の増減量を算出している。事例として,東日本系統を対象とした安定性評価モデルを用いた検討などを始めている(図3参照)。なお,解析に必要となる電力系統や発電設備の情報は公開されていないため,地図情報などから推定した近似データや電気学会標準モデルなどで代用している。

また,将来のエネルギーシステムでは,基幹システムと地域社会をデジタルでつなぐ新しい制御技術を組み込み,実践して,さらに市場取引システムや制度設計などもあわせて整備していく必要がある。

例えば,VPP(Virtual Power Plant:仮想発電所)やデマンドレスポンス,再エネのスマートインバータなどの新しい制御技術を開発していく。現在,火力発電や揚水発電が担当している需給調整機能を地域社会の電力制御で分担することによって,既設システムのポテンシャルを有効に利用して社会システムの費用対効果を最大化する。そのためには,地域社会の膨大な設備を連携するITインフラの整備や,効果を最大化する制御スキーム,もしくはインセンティブなどのルール構築が重要である。

また,評価解析や分析に用いるデータの公開・開示の仕組みについても整備が必要である。評価プラットフォームを用いて,新しい制御体系のデジタル連携技術を開発していく。

図2|広域安定度シミュレータの概要再エネ導入拡大に向けた各種施策に関し,技術の実現性および便益を評価する。需給バランスに加え,系統各地の故障を想定した過渡安定性を考慮し,再エネ導入限界や出力抑制必要量を算出する。評価指標は年間の発電コストやCO2排出量である。

図3|広域安定度シミュレータの画面例再エネ導入拡大に向けた各種施策を技術・便益の観点で評価することを目的とした解析ツールである。再エネの大量導入時に,需給バランス確保に加え,系統各地の故障を想定した過渡安定性を考慮して,再エネ導入限界や出力抑制必要量の検討を可能とする。

3.2 評価プラットフォームの進化

これまで基幹システムは,広域運用によって隣接する基幹システムと連携することで全体最適化が進み社会にもたらす価値を向上させてきた。

今後,配電や需要家に加え,モビリティシステムとの連携など,エネルギー産業以外とのクロスインダストリーへと進化させ,CPS(Cyber-physical System)として評価環境を構築・共有していく。さらに,Society 5.0の世界を支えるエネルギーシステムを評価できる環境として進化させて,多くのステークホルダーと新たな世界を議論してソリューションを作り出していくプラットフォームとして活用していく(図4参照)。

図4|エネルギーシステム評価プラットフォームの進化横軸はシステムの複雑化を表し,エリアごとのシステムから,広域系統,地域系統との連携,他産業との共生へと進む。縦軸は価値の進化で,個別最適から始まり,全体最適・産業創出による経済性向上へ進む。莫(ばく)大な分散リソースとの協調について効果評価・運用できる環境の構築を進めていく必要がある。

4. 挑戦と変革に向けた制度・政策

エネルギー資源を巡る世界情勢の変化や,グローバルレベルでの市場参加者の多様化,EV(Electric Vehicle)・蓄電池や水素をはじめとするさまざまな技術革新の可能性などによって,政治・経済・技術のあらゆる面でエネルギー分野の不確実性が高まっている。このような不確実な時代において,柔軟な意思決定を可能とするため,シナリオ分析の枠組みを,EBPM(Evidence Based Policy Making)を踏まえて導入していく必要がある。

シナリオ分析とは,単一の未来予測ではなく,複数の未来の可能性を探り,おのおののシナリオでのエネルギーシステムの在り方とそこへ向かう方策をデザインするための手法である。不確実性の高い経済環境や地政学的リスクなどの変化要因を評価軸とし,それらがエネルギー分野に与える影響を複数のシナリオで分析し,それらに対する対策を準備するものである。近年,さまざまな国や企業で不確実性への対応策として導入が拡大している。

日本においても上述の評価プラットフォームを活用しながら,2030年さらには2050年へと続く移行過程の道筋を複数シナリオでさまざまなステークホルダーと議論していく。

5. おわりに

Society 5.0では,個人の生活が主役となって,地域社会ごとに特色のあるエネルギーシステムが構築される。そこではデータが重要な役割を果たし,電力だけでなく新たな価値やサービスが供給される。基幹システムは社会全体の「3E+S」を向上する重要な役割を担う。地域社会と基幹システムの役割は画一的ではなくなり,共存を前提として再構築する。電源の分散化,基幹システムと多数の地域社会との連携,さらには人の行動など協調・調整すべき要素が指数関数的に増加して,これらの分散リソースを統合する新しい協調メカニズム技術を確立していく。

参考文献など

1)
日立東大ラボ,Society5.0を支える電力システムの実現に向けて(2018.4)
2)
IEA, Integrating variable renewables: Implications for energy resilience, Asia Clean Energy Forum 2017(2017.6)
3)
木下喜仁,外:再生可能エネルギーの大量連系時を想定した系統運用を評価するシミュレータの開発,平成30年 電気学会 電力・エネルギー部門大会,No.202(2018.9)
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