日立評論

変化する中東市場における家電事業

サウジアラビアの事例

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日立評論

GLOBAL INNOVATION REPORT

変化する中東市場における家電事業

サウジアラビアの事例

ハイライト

サウジアラビアでは,多くの革新的な政策によりさまざまな分野で近代化が急速に進んでいる。本稿では,時々刻々と変化するサウジアラビア市場を中心に,日立グローバルライフソリューションズ株式会社の中東地域での営業・マーケティング活動を担うHSME社の活動を紹介する。

目次

執筆者紹介

山中 敦志

  • Hitachi Sales Middle East FZE
  • マネージングディレクター
  • 現在,MEAおよびCIS地域において収益拡大と業務戦略を統括。新規事業の開発や事業チャネルの拡大に従事

柏木 明人

  • Hitachi Sales Middle East FZE
  • ゼネラルマネージャー
  • 現在,MEAおよびCIS地域において事業開発と事業チャネルの拡大を担当。日立の冷蔵庫全体の売上,収益,市場シェアの拡大,チャネル全体の消費者ニーズを満たすためのソリューション提供に従事

Catherine Datugan Oracion

  • Hitachi Sales Middle East FZE
  • プロダクトマネージャー
  • 現在,MEAおよびCIS地域において,すべての製品ラインに対して,グローバルブランド指針に従ったブランドマーケティング戦略の開発,計画,説明,実施に従事

1. はじめに

サウジアラビアの首都リヤド

HSME社(Hitachi Sales Middle East FZE)は2013年にアラブ首長国連邦のドバイに設立され,日立グローバルライフソリューションズ株式会社の営業・マーケティング部門の前身として1988年から活動している。HSME社は,中東,北アフリカ,東アフリカ,CIS(Commonwealth of Independent States:独立国家共同体)地域において,白物とAV(Audio Visual)家電の販売およびマーケティング活動を広範に展開している。HSME社は,地域のサービス行政の管轄機能,サービスパーツの販売機能も有しており,これらの地域の37か国をカバーしている(図1参照)。

図1|HSME社がカバーする地域と人口

2. MENA地域の概要

2.1 市場概要

MENA(Middle East and North Africa:中東および北アフリカ)地域は,中東と北アフリカの19か国で構成されている。MENAの人口は3億8,100万人1)を超え,これは世界の総人口の6%に相当する。その40%以上が25歳未満であり,若年層の失業率は平均28%と世界最高である。

世界原油量の60%がMENA地域に埋蔵されており,天然ガスは45%に達する。2019年のブレント価格は1バレル当たり55〜62ドルと予想されており,2017年の平均値である1バレル当たり71ドルを大幅に下回っている。

2.2 都市化とスマートシティ

地域全体で成長が加速しているが,ほぼすべてのMENA諸国でエネルギー助成金を削減または廃止しており,原油以外の新たな収益源を模索している。また,社会のセーフティーネットを拡大し,社会変化による悪影響から貧困層を保護する取り組みも行われている。

過去50年の中東における都市部の人口は,世界で最も急速に増加している。結果として,中東では人口の70%以上が都市部に居住している。GCC(Gulf Cooperation Council:湾岸協力会議)諸国は世界で最も都市化が進んだ地域の一つであり,現在は人口の85%が都市に居住し,この数値は2050年までに90%まで上昇すると見込まれている。それに伴い,GCC諸国では,水不足と都市インフラに対する巨額の投資が課題となっている。

都市化への流れの一環で,ここ数年はスマートシティの構築が注目を集めており,サウジアラビアはスマートシティ構築に取り組む国の一つとして挙げられる。「ネオム(新たな未来)」と呼ばれる新たなスマートシティは好事例で,世界で最も意欲的なスマートシティプロジェクトの一つであり,同国は原油輸出依存の解消と,原油以外での経済拡大をめざしている。

3. サウジアラビア王国

3.1 原油依存経済からの脱却

1930年代のサウジアラビアは,世界で最も貧しい国の一つであった。しかし現在は,原油の採掘と輸出により地域で最も裕福な国の一つとなっている。

文化的側面を見ると,サウジアラビアには独特な特徴がある。例えば,アルコールは禁止されており,女性は公共の場でベールを被る必要がある。また,男女の分離が厳格であり,レストランでは独身男性用,家族用,女性用で席が分けられている。

サウジアラビア政府は,解決すべき問題がいくつかあることを認識している。中でも,経済を過度に天然資源へ依存している構造を課題と捉えている。図2のグラフでは,各国の燃料輸出に対する依存度が示されており,対象となる燃料には天然ガス,石炭,そして原油と原油関連商品が含まれる。この中でサウジアラビアは11位である。

サウジアラビアでは現在,意欲にあふれる若いムハンマド・ビン・サルマン皇太子が改革を指揮している。現在の目標はサウジアラビア経済の多様化であり,非原油セクターのGDP(Gross Domestic Product)寄与度を2016年の58%から,2020年までに地域のベンチマークである69%へと引き上げることをめざしている。ムハンマド皇太子は,イスラム色を弱めることもめざしており,女性の運転禁止と就労制限を緩和・廃止した。

図2|燃料輸出が商品輸出に占める割合

3.2 サウジアラビアの新たなビジョン

皇太子の主要なサウジアラビア改革計画として,ビジョン2030がある(図3参照)。この計画は,減少しつつある原油収益への依存を減らし,経済を多様化することを目的としている。国民の失業率低下も重要施策とされ,一般に「サウダイゼーション」プログラムと呼ばれている。サウダイゼーション(アラビア語:)は,正式にはサウジナショナリゼーションスキームまたはニターカート()として知られており,政府はサウジアラビア国内の民間セクターでの雇用促進を計画している。

また,ビジョン2030には,活気ある社会,経済発展,意欲あふれる国家という三つの主要テーマがある。

活気ある社会を実現するために,サウジアラビアは,国民とイスラム信仰に注目している。このテーマは,ウムラ巡礼者を年間800万人から3,000万人に増やし,世界最大のイスラム教博物館を作り,ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)に登録された世界遺産件数を倍増させ,文化およびエンターテインメントの機会を増やすといった一連のコミットメントで実現される。

経済発展を実現させるためには,経済を多様化し,雇用機会を生み出すことが必要である。この目標は,教育,起業,イノベーションへのコミットメントにより実現される。これには,現在進められている国有資産の民営化を通じた国内経済の多様化,サウジアラムコ社の部分的IPO(Initial Public Offering:新規公開株式)で得た資金によるソブリンウェルスファンドの立ち上げ,製造業,再生可能エネルギー,観光業などの未開発産業の発展,児童教育から高等教育までのサウジアラビアの教育機関におけるカリキュラムの現代化が含まれる。

意欲あふれる国家になるために,サウジアラビアは執行責任,透明性,実効性に注力することになる。持続可能な成功は,強固な基盤がなければ実現できない。この可能性を実現するために,サウジアラビアではオンラインサービスの拡大とガバナンス基準の改善により,透明性を高めてあらゆる職層での汚職を撲滅することをめざしている。また,サルマン国王の人的資源開発プログラムを確立し,政府職員50万人以上に対して効率よく研修を行う事で,非営利セクターの強化促進を企図している。

図3|サウジアラビアのビジョン2030の目標

4. サウジアラビアにおける家電事業

4.1 市場の見通し

サウジアラビアの市場特性は,図4のようにまとめることができる。

現在,サウジアラビア経済は,サウダイゼーションプログラムを急激に進めた副作用によりいくつかの問題に直面している。政府が外国人税を課したことにより,生活が立ち行かなくなった外国人80万人がサウジアラビアを退去したと言われている。また,サウジアラビア人の従業員の給与は外国人よりも高いため,企業の固定費が大幅に増加した。サウジアラビアは,旧式の経済から新たな経済への転換期を迎えていると言える。

こういった経済状況の問題を抱えながらも,高い出生率による人口増加などの多くの要因により,家電の長期的な販売台数・販売額は今後も増加していくと思われる。また,原油による収益と可処分所得の増加,そして女性就労者の増加,中・高所得の消費者が高級かつ高額な家電を購入することが実現した安定的な経済は,家電セクターの売上伸長に寄与するだろう。

図4|サウジアラビア市場の概要

4.2 サウジアラビア市場におけるHSME社の活動

(1)女性販売スタッフ向けの製品研修
サウジアラビアでは女性の就労者が増加しており,HSME社の代理店でも女性販売スタッフが増加している。HSME社は,サウジアラビア市場において女性販売スタッフ向けに製品研修を行った最初の企業である。この研修は,ダンマーム,リヤド,ジェッダにおいて2018年7月に行われた(図5参照)。
(2)市場概要と製品開発
HSME社は,アバヤとトーブの伝統的な服飾店を訪問するライフスタイル調査を行い,使用されている生地について理解を深めた。アバヤではさまざまな生地が使われており(ちりめん,シフォン,サテンなど),用途によって無装飾の場合もあれば,刺繍やラインストーンをあしらったものもあることが確認された。色付きのアバヤを好む若い女性もいるが,大半の伝統的な女性は黒いアバヤを現在でも好んで着用している。トーブのデザインは国によって異なる。
日立は今回の調査により,アバヤの生地を傷めず,縮ませないよう,アバヤ専用のプログラムを備えた洗濯機を開発した。アバヤプログラムでは,他のデリケート衣類用のプログラムと比べて,スピンスピードを低減し,回転羽との摩擦を防ぐために水位を増やし,洗剤が残らないようにすすぎを2回に増やしている。
また,アバヤの洗濯機能を訴求するために,POP(Point of Purchase)も作成した。(図6参照)。
(3)映画広告
サウジアラビアで映画館が営業を開始したのはこの10年のことである。AMC社とVOX社は,2020年までに300軒の開館を計画しており,年平均成長率22%をめざしている。映画館の稼働率は98%にも達するが,映画館数は依然として少なく,全体の収容人数は限られている。現在はスクリーンでのみ宣伝機会があるが,映画館数が増加すれば,宣伝機会も増加していくと思われる。2019年,日立は,サウジアラビアの若い世代(サウジアラビアには25歳未満の成年消費者が3,200万人いる)と家族を対象としたプラットフォームの一環として,映画での広告を利用した(図7参照)。

図5|代理店の販売スタッフに向けて行われたHSME社の製品研修

図6|市場調査の写真,洗濯機のアバヤプログラムのパネルとポップ

図7|冷蔵庫と洗濯機に関する日立の映画広告

5. サウジアラビアの戦略的指針

中東では社会環境が変化しているが,近代化と伝統の板挟み状態になっている状況も見られる。国ごとの程度の差こそあれ,将来的にはMENAはこれまでの原油依存から脱却するだろう。実際に中東の大半の国では,サウジアラビアのような都市化が進んでいる。

現在のサウジアラビアは,20年前と比べて状況が大幅に変わっており,緩やかながら世界に対して門戸を開きつつある。ライフスタイルは現代的になり,エンターテインメントの選択肢が増え,女性のエンパワーメントが進められている。特に,経済における原油依存の解消が注目されている(図8参照)。

日立は,そのようなトレンドの中,顧客の期待以上の機能を備えた製品を提供し,ミレニアル世代の家族が家事を素早く簡単に済ませ,家族が一緒に過ごす時間を増やしていることを誇りに思っている。また,エネルギー効率に優れた製品も幅広く提供している。スマートシティの発展に伴い,日立は,あらゆる家庭,オフィス,レストラン,店舗でスマート家電が導入され,居住者がいつでも自身の環境のあらゆる側面を思いどおりにコントロールできる世界を思い描いている。

自分自身と環境の健康的なライフスタイルに対する消費者の関心が高まっており,主にソーシャルメディアの利用,そしてグローバル化とファッションに対する意識の高まりがこうした変化を後押ししている。

日立は,ビジョン2030が達成されるのに伴い,サウジアラビアが今後数年で大きな変化を遂げると予測している。サウジアラビアのライフスタイルは大きな変化を迎えるだろう。現在の変化に対してサウジアラビアがどの程度迅速に適応できるかは,近代化と伝統で板挟みとなっている状況下で,国民がどのようにバランスを取るかにかかっている。近代化への関心は社会的に高まってはいるが,変化を完全に受け入れることへのためらいも見られる。

図8|過去,現在,将来におけるサウジアラビアの戦略的指針

6. おわりに

HSME社は,サウジアラビアでトップブランドとなることをめざし,今後も常に新しい方法で消費者との交流を続けていく。例えば,戦略製品の最近の広告キャンペーンでは,従来型広告,デジタル広告,店舗内活動を結び付けてターゲット層へのアプローチを改善した。また,サウジアラビアにおける日立の家電代理店は,アル=アラビーヤチャンネルのテレビコマーシャルを3年連続で放映している。日立内部の調査によると,日立ブランドに対する認識スコアは,以前と比べて他の大半のブランドを上回っている。

HSME社の製品戦略においては,消費者に高付加価値製品を提供することで,複数のカテゴリーで売上増と市場シェアの拡大をめざしている。例えば,冷蔵庫にマルチドアカテゴリーを追加することによって,消費者の選択肢が増え,よりお客さまに受け入れられるようになると考えている。

HSME社の事業戦略において,チャネル戦略は重要な要素の一つである。以前はいわゆるパパママショップと言われる独立系の小売店が市場をリードしていたが,現在は中東でも量販店の比率が上がる傾向にある。大きな店舗面積を有している量販店は高度な技術を備えた製品を実展示し,消費者が自分自身で購入体験を楽しめるような仕組みを構築している。HSME社では,コードレス掃除機,空気清浄機などの新製品ラインアップを量販店で販促・展示することで,新たな成長機会を創出・拡大している。

ビジョン2030が掲げている急速な都市化,健康的なライフスタイル,デジタライゼーション,コンバージェンスとモビリティなどのテーマが今後推進されていけば,サウジアラビアの消費者の生活の質は大きく変化していくだろう。サウジアラビアの人々のQoL(Quality of Life)を高め,消費者の要求を満たすために,日立は今後も,消費者の期待を満たすIoT(Internet of Things)製品やスマート家電などの優れた先端技術を備えた製品とソリューションを開発・提供していく。

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