日立評論

空気圧縮機の計画的運用を支援する遠隔監視サービス

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日立評論

工場のスマート化を実現するサービス・システム・プロダクト

空気圧縮機の計画的運用を支援する遠隔監視サービス

ハイライト

空気圧縮機は,生産ラインにおけるエアー機器の駆動源などの用途に多く使用されており,一般的な製造工場での電力使用量のうち約30%は空気圧縮機が占めると言われている。空気圧縮機の使用量は工場の生産状況により変化し,効率のよい運転が省エネルギー化につながるため,適切なメンテナンスで効率的な運転をサポートするための遠隔監視のニーズも高まりつつある。一方で,工場内のネットワークに設備機器をつなぐことにはサイバーセキュリティや工事の面で課題があった。

これに対し,日立は設備機器のデータ収集および活用を容易に実現するセキュアなキャリア通信を用いたクラウド監視サービス「FitLive」を提供しているほか,空気圧縮機にキャリア通信端末を標準搭載することで安全なクラウド監視の容易な導入を実現した。

目次

執筆者紹介

鳥取 伸宏Tottori Nobuhiro

  • 株式会社日立産機システム ソリューション・サービス統括本部 サービス事業部 サービス戦略部 所属
  • 現在,サービス事業の推進に従事

小檜山 智久Kohiyama Tomohisa

  • 株式会社日立産機システム 事業統括本部 事業統括本部 IoT統括センタ IoTソリューション部 所属
  • 現在,産業用IoTソリューション開拓に従事
  • 技術士(電気電子部門,情報工学部門,総合技術監理部門)
  • IEEE Wireless Communications Professional
  • 電気学会会員
  • 電子情報通信学会会員
  • 情報処理学会シニア会員
  • 映像情報メディア学会会員
  • 測位航法学会会員

川端 夏樹Kawabata Natsuki

  • 株式会社日立産機システム 空圧グローバル統括本部 グローバル経営戦略本部 製品・生産統括部 所属
  • 現在,空気圧縮機事業のグローバル最適化に従事

中川 雄介Nakagawa Yuusuke

  • 株式会社日立産機システム ソリューション・サービス統括本部 サービス事業部 サービス戦略部 所属
  • 現在,FitLiveに関する企画・開発に従事

1. はじめに

株式会社日立産機システムでは,「つながります」と「つなぎます」の二つのコンセプトで産業IoT(Internet of Things)ソリューションに取り組んでいる。これらのコンセプトの目標は,顧客サイトにおける製品の安定的かつ正常な稼働をサポートする,IoTを適用した遠隔監視が可能な「つながる製品」化の推進と,自社の製造工程におけるデジタル化推進に際しての「つなげる製品」の活用である。前者は,顧客の製造サイトにおける製品品質の維持に寄与するため,後者は,自社の製造工程における品質の作り込み向上のために取り組んでいる。これらは同時に,製品のライフサイクルにわたる信頼性(品質×時間)の向上を図ろうとするものである。

本稿ではこのうち,「つながる製品」としてIoTを適用し,クラウド経由で空気圧縮機の遠隔監視を行う「FitLive」を活用したサービスについて紹介する。FitLiveを活用することで,作業者はわざわざ機器の設置現場に出向くことなく,インターネット経由でいつでも機器の状態を把握できる。また,メーカーのみならず,販売企業・保守企業からエンドユーザーに至るまでのエコシステムを形成し,関係者全員で見守ることができる仕組みを構築した。FitLiveは,初めに顧客の既設機器に通信ボックスを取り付ける方式で約1年半にわたり試験運用を行った後,2017年12月に通信機能標準搭載型製品を発売して現在に至っている。またFitLiveは,「機器の監視による安定稼働と保守コストの最適化」という新たな価値を提供する,最初期に登録されたLumadaユースケースの一つである。

2. システム構成

2.1 空気圧縮機のシリーズ構成

産業界における空気圧縮機は,製造装置やプラントの駆動部への圧縮空気供給源として幅広く使用され,その使用電力は一般的な製造工場で消費電力の約30%を占めると言われており,空気圧縮機のLCC(Life Cycle Cost)はその多くを電力費が占める。

空気圧縮機の用途は多様であり,目的に応じてさまざまなタイプや容量の機器が必要となる。例えば食品や医療関係ではクリーンな圧縮空気が必要なほか,各種装置の近傍に空気圧縮機を設置する分散設置が求められる設備では,装置ごとに必要な圧縮空気の容量が異なる。日立産機システムのIoT対応空気圧縮機NEXT Ⅲ seriesでは,給油式の場合19〜200 kW,クリーンな圧縮空気を供給するオイルフリー式は15〜770 kWと幅広いレンジに対応しており,ユーザーによって多岐にわたる用途に合わせた対応が可能である。

2.2 簡単で安全なネットワーク構築

これまで空気圧縮機の遠隔監視には,専用通信機器の取り付けやネットワーク構築の工事などを行う必要があった。またクラウドへの接続に際してはサイバーセキュリティなどの対策も必要であり,導入の妨げになっていた。IoT対応空気圧縮機NEXT Ⅲ seriesは,通信キャリアによってセキュリティが担保された携帯電話の通信ネットワーク(携帯網)を用いて日立のクラウドに接続することで安全なネットワーク環境を構築しているため,携帯キャリアの通信端末やアンテナを空気圧縮機に標準搭載することで事前準備や工事が不要となり,安全なクラウド監視体制を手軽に構築することができる。「つながる製品」である空気圧縮機のセキュリティを担保するには,インターネットに直接接続しないことがポイントである(図1参照)。

図1|FitLiveによる遠隔監視イメージFitLiveによるクラウド監視システムでは,インターネットの代わりに高セキュリティな携帯電話の通信網を用い,特設の専用線を経由してクラウドにデータを送信する。 データは遠隔監視専用に構築されたクラウド上に保存され,ファイアウォールによってインターネットを経由した不正なアクセスから保護される。

2.3 IoT対応空気圧縮機NEXT Ⅲ seriesの特長

一般的に,空気圧縮機に専用通信機器を取り付ける場合,クラウドシステムの構築や対象機と専用通信機器との接続作業に加え,場合によっては現地での通信工事が発生するなど,複雑な通信環境の設定が必要になる。しかし,IoT対応空気圧縮機NEXT Ⅲ seriesは工場出荷時から通信機能を標準搭載しており(図2参照),現地での追加工事は一切発生しない。現場で電源を投入後,本体のカラータッチパネルから,直感的な操作で容易に通信条件などの各種設定を行うことが可能となっている(図3参照)。また,保守メニューや携帯キャリアとの契約も日立産機システムがワンストップで対応しており,契約も含めて簡単にクラウド監視が実現できる。

図2|IoT対応空気圧縮機NEXT V seriesの外観給油式スクリュー圧縮機(左),オイルフリースクリュー圧縮機(右)の外観を示す。

図3|空気圧縮機のタッチパネル操作画面の例現場でのアンテナの受信状態を自動診断する通信環境確認画面(左),契約の意思をYESまたはNOで選択する契約の意思表示確認画面(右)を示す。この他に,機器所有者の確認画面などがある。

3. FitLiveの特長と活用事例

IoT対応空気圧縮機NEXT Ⅲ seriesのクラウド監視サービス「FitLive」は,2017年12月のサービス開始以来,2019年10月時点で接続台数は5,000台を超え,順調に契約者数を増やしている。FitLiveにはフルプランと簡易プランの二つのプランがあり,フルプランは状態監視,メール通知,トレンドグラフ,レポート出力,トラブルシューティング機能などの利用を有料で提供している。簡易プランは,状態監視とメール通知機能のみを無料で提供している。現在は,契約1年目に限り無料でフルプランのサービスを提供している。

また,接続された空気圧縮機の稼働データはユーザーとメーカーをつなげるだけでなく,日立産機システム指定の販売店,特約店の関係者とも情報を共有することで,顧客に密着したサービスの提供に役立っている。従来,ユーザーの設備を訪問しなければ保守の最適なタイミングやリプレース時期が分からずに故障のリスクを抱えたまま操業していたようなケースでも,FitLiveのデータを活用することで顧客のメンテナンスや機器の更新計画をサポートし,必要なタイミングでの保守・リプレースの提案が可能となった。

3.1 リアルタイムな状態監視とダウンタイムの削減

空気圧縮機の運転時間,圧力,温度といった稼働データは,リアルタイムに日立のクラウドに蓄積され,事務所のパソコンや外出先のタブレット端末から24時間365日にわたりリアルタイムに状態を監視することができる。

空気圧縮機からの警報など,異常が発生した場合は指定のメールアドレスに自動的に発報し,早期に対応することが可能である。また,不具合発生時にはトラブルシューティング機能により,パソコンやタブレット端末からトラブルの原因と解決方法を即座に確認できるため,軽微なトラブルについてはユーザー自身で対応することが可能である。またこの情報は日立産機システムのサービス部門にも自動配信しているため,ユーザー自身では解決が困難な場合でも,稼働情報を遠隔で確認することで原因を推定し,迅速でむだのない保守対応による設備のダウンタイム短縮を図ることができる(図4参照)。

図4|FitLive導入前後のフロー比較(イメージ図)機械からの警報発報を見逃すことなく,重大な故障への発展を未然に防ぎ,現地調査の前にデータを確認することで,復旧までの時間短縮が見込める。

3.2 LCC最適化のサポート

図5|FitLive稼働レポート機械の3か月間の稼働レポートから警報・故障を未然に防ぎ,効率的な運転方法や保全の計画をアドバイスする。

クラウドに蓄積された2年分の稼働情報は,必要に応じてグラフ化したり,ファイルとして出力したりすることが可能である。例えば設備変更に伴う供給圧力などの見直しや,温度や電流値などの変化から予防保全・故障原因を検討する際にトレンドグラフなどを見える化し,有効活用することで,運転計画の見直しや整備のタイミングなど,設備管理をサポートすることもできる。日立産機システムでは,FitLiveのデータから作成した稼働レポートを活用し,直近3か月間の警報・故障の履歴,点検の記録,各温度のトレンドグラフなどを基に,ユーザーへの運転状況の報告,設備の効率化につながるワンポイントアドバイス,メンテナンス計画の案内などを提供している(図5参照)。また,接続した複数の空気圧縮機の稼働情報を離れた場所から一覧で管理することができるため,管理業務工数の削減に貢献できる。

空気圧縮機ではあらかじめ決められた時間基準の保全[TBM(Time Based Maintenance)]を行うことが一般的であるが,FitLiveを利用すれば空気圧縮機が正常な状態のうちから異常発生の兆候を把握することができる。そのため,故障する前にメンテナンスを行うなど,空気圧縮機ごとに最適なタイミングで保守を行う状態基準保全[CBM(Condition Based Maintenance)]も可能である。これにより,空気圧縮機全体のLCCの低減に寄与することができる。

3.3 既存商流の営業力・提案力の強化

FitLiveでは,製品販売の商流に携わる企業や保守企業といった特約店・販売店がユーザー提供の機器データの閲覧を希望する場合,日立産機システムと閲覧契約を交わすことで,販売した製品のリアルタイムな稼働データをユーザー同意のうえで確認することが可能となっている。これにより,従来は製品の販売実績から各顧客の巡回,ヒアリングによる保守提案,リプレース提案などを行っていたものが,FitLiveの活用によって各顧客のデータをリアルタイムで把握することが可能となった。メーカーだけでなく,特約店・販売店も含めて顧客の課題解決に向けた提案を行うためのツールとなっている。

4. 今後の展望

FitLiveは低コストでIoT化を実現し,稼働データのリアルタイム監視,警報故障メールの配信などの監視サービスを提供している。現在,空気圧縮機5,000台分を超えるFitLiveのデータについてどのように活用するか新たな価値創出を模索しているところである。将来は予兆診断機能や機械の健康診断といった同出力・同地域における機械どうしの状況を自動的に判断し,故障するまでの予測時間や最適な保守提案の自動化などといった高付加価値なサービスの提供を検討している。

また,空気圧縮機をはじめとする,日立産機システムのプロダクトとしての「つながる製品」は,産業用インクジェットプリンタ,ホイスト,ポンプ,受変電機器などへの展開を計画している。また自社製品以外の産業機器についても接続を可能とするべく,圧力や電流センサーといったアナログ信号,警報や流量カウントといったデジタル信号の取り込みを可能とする産業機器対応型FitLiveをリリースし,さらなる設備保全管理の効率化を検討している。

5. おわりに

IoT対応空気圧縮機NEXT Ⅲ seriesにおいては,2017年12月のFitLiveのサービス開始から現在までに空気圧縮機5,000台分を超えるデータが蓄積された。これらのデータを解析・分析することで,製品のダウンタイム短縮やCBMなどはもちろん,製品開発やメンテナンスにも新たな活用の可能性が見えてきた。

今後も,日々蓄積されるデータを活用した新たなサービスメニューをFitLiveに付加し,顧客に対して高付加価値なサービスを提供していく。また,製品のライフサイクルにわたる信頼性(品質×時間)の向上を図るために,「つながる製品」とその応用ソリューションの開発に取り組んでいく所存である。

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