日立評論

キャリア無線通信機事業と位置情報システム事業の展開

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工場のスマート化を実現するサービス・システム・プロダクト

キャリア無線通信機事業と位置情報システム事業の展開

ハイライト

近年,金融サービスと情報技術を融合させて新たな価値を生み出そうとする動きが注目されており,その一つとしてキャッシュレス決済の普及が進められている。一方で,少子高齢化に伴う労働力減少を踏まえ,建設機械や農業機械の運転アシストや自動運転への期待も高まっている。

キャッシュレス決済では無線による通信が,自動運転では位置情報の取得がそれぞれ鍵となる技術の一つである。日立では無線通信と位置情報の親和性に着目し,携帯電話無線を活用した通信機(キャリア無線通信機)事業と,衛星測位を軸とする位置情報システム事業を並行して展開している。これらの事業は今後,産業分野でのIoTなどの技術の普及とともに発展していくことが期待される。

本稿では,飲料自動販売機のキャッシュレス決済と,建設機械・農業機械の自動運転向け測位ユニットの事例を紹介するとともに,これらの事例から得られた知見を産業分野へ展開していく方向性について考察する。

目次

執筆者紹介

白根 一登Shirane Kazuto

  • 株式会社日立産機システム 事業統括本部 ドライブシステム事業部 IoT機器設計部 所属
  • 現在,キャリア無線通信機の開発・設計に従事
  • 博士(工学)
  • 計測自動制御学会会員
  • 日本ロボット学会会員

岩城 隆志Iwaki Takashi

  • 株式会社日立産機システム 事業統括本部 ドライブシステム事業部 IoT機器設計部 所属
  • 現在,キャリア無線通信機の開発・設計に従事

谷川原 誠Tanikawara Makoto

  • 株式会社日立産機システム 事業統括本部 ドライブシステム事業部 企画部 所属
  • 現在,測位ユニットの開発・設計に従事
  • 博士(工学)

1. はじめに

近年,ネットワーク技術の進展に伴い,さまざまな社会課題への対策としてIoT(Internet of Things)への期待が高まっている。工場をはじめとする生産現場も例外ではなく,少子高齢化に伴う労働力減少に対応するための省力化やさらなる生産性向上,技術の伝承,エネルギー問題解決に向けた省エネルギー化など,さまざまな場面でIoTの活用が望まれている。

IoTを活用するためには,ネットワークへの接続が必須であり,接続方法としては有線通信と無線通信の二種類が考えられる。一般に有線通信は無線通信に比べて信頼性に優れ,無線通信は車両などの移動体に搭載が可能で,広範囲に多数配置されるものへの適用が容易といった利点がある。

一方,社会課題解決に向けて期待される技術としては,自律移動技術も挙げられる。代表的なものは自動車の自動運転であるが,それ以外にも建設機械や農業機械,搬送機械などの自律移動も検討されている。

移動体はその位置を時々刻々と変化させるため,多くの場合,移動体を利用するソリューションにおいてはその位置の特定が鍵となる。通常,移動体が何らかの情報を送受信するには無線による接続が必要となり,移動体から送信する情報にはその位置情報も含められる。こうした点で,無線通信と位置情報とは親和性が高い。

日立では,無線通信の中でも特にキャリア無線通信機事業と,位置情報システム事業を並行して推進している。キャリア無線は契約次第で回線の数や通信速度,ネットワークの構成を柔軟に設定することができるので,幅広い用途に活用できる。日立の無線通信機事業ではこれらの利点を生かすため,多目的に活用できる汎用の通信端末を提供している。また,キャリア無線は日本国内であれば屋内外を問わずユーザーが基地局を設置せずに使えるという利点があり,広範囲に設置する機器と特に相性が良い。そのため,特定の用途に特化した専用機器の開発・提供も行っている。

一方,位置情報システム事業においては,GNSS(Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム)を用いた製品やシステムの提供を軸として展開している。GNSSの利用が可能なエリアは基本的に屋外に限定されるが,極めて高範囲に及ぶ。衛星測位のみを利用する場合,衛星からの信号が微弱でかつ電波の反射や干渉の影響を受けるため,得られる位置の誤差が数十メートルに及ぶ可能性などの課題があるが,補正情報を用いるなどの対策により誤差を10 mm程度に抑える手法も確立されつつある。こうした中,日立の位置情報システム事業では,用途に合わせた適切な方式の選択もしくは組み合わせによる専用品や,専用システムを提供している。

工場をはじめとする生産現場でのIoT活用は未だ発展の途上にあり,日立のキャリア無線通信機事業および位置情報システム事業の対象範囲も,現時点では工場などの生産現場より,サービス業や輸送,農業などの分野が中心である。

今後IoTの活用がさらに広がっていった際に,これらの分野で得た知見をどのように活用するべきか。次章からは,現在の日立のキャリア無線通信機事業および位置情報システム事業の概要と事例を紹介し,今後の展開について考察する。

2. キャリア無線通信事業とキャッシュレス決済での活用

2.1 マルチキャリア無線通信端末CPTrans-ME

日立が提供する汎用の通信端末の代表例として,マルチキャリア無線通信端末CPTrans-MEの外観を図1に,主要諸元を表1に示す。

CPTrans-MEをはじめとする日立の通信端末は,キャリア無線通信の機能とローカル通信の機能を備えており,これらの通信の橋渡しを行う製品である。CPTrans-MEの場合,ローカル側の通信インタフェースとしてEthernet※)とUSB(Universal Serial Bus)を備えており,IP(Internet Protocol)通信におけるルータとして動作する。このような通信端末を用いることにより,インターネットへの接続機能を持たない機器や設備を,キャリア無線通信を通じてインターネットへ接続することが可能となる。

※)
Ethernetならびにイーサネットは,富士ゼロックス株式会社の登録商標である。

図1|CPTrans-MEの外観CPTrans-MEは,株式会社日立産機システムが販売する汎用のマルチキャリア無線通信端末である。キャリア無線通信機能とともに,ローカル側のインタフェースとしてEthernetとUSB(Universal Serial Bus)を備える。

表1|CPTrans-MEの主要諸元CPTrans-MEはいわゆるキャリア無線のうち,LTEのみに対応している。アンテナを内蔵するとともに外部コネクタも備えており,切り替えて使用することができる。動作電圧や使用温度の範囲は産業用途への応用も見込んだ設計としている。

2.2 キャッシュレス決済における活用

一方,専用機器とは,IoTを活用した事業を展開しているメーカーやサービスプロバイダに対して提供する,キャリア無線通信機能を備えた専用のハードウェアである。ここでは,飲料自動販売機向け電子マネー決済ユニットの事例を紹介する。

飲料自動販売機における電子マネー決済は,交通系電子マネーを中心として駅などで広く利用されるようになった。その一方で,街頭に設置された自動販売機での電子マネー決済は,現時点では普及の途上という状況である。

新たな金融サービスとして,キャッシュレス決済には強い期待が寄せられている。中でも電子マネー決済の利便性は一般に広く認識されてきており,さらなる普及が望まれる。しかし,電子マネーによる決済を行うためには高速かつ安定した通信回線が必要であり,このことが飲料自動販売機における電子マネー決済の展開を阻む要因の一つとなっていた。これは電子マネー,すなわちIC(Integrated Circuit)カードが読み取られてから,実際に決済を行うサーバに情報が到達し,処理結果が装置に到達して決済完了を通知するまでの一連の手順が,所定の時間内に完了しなければならないためである。

装置の側に決済に関する情報を保持するようにすれば,低速な回線で電子マネー決済を実現することも可能ではあるが,その場合は決済装置側に十分な記憶領域や処理能力を用意する必要があり,結果として装置のコスト増につながる。また,装置が決済に関する情報を保持する時間が長くなるため,その間に装置が何らかの細工をされるなどして情報を消去される,改竄(ざん)されるといった危険性が相対的に増す。

また,駅などのように管理された環境であれば,有線通信なども利用して高速な回線を準備することは可能であるが,従来,街頭に設置された飲料自動販売機に対して高速な回線を用意することは容易でなかった。

表2|飲料自動販売機向け電子マネー決済ユニットの主要諸元キャリア無線通信機能だけでなく,電子マネーとの通信を行うカードリーダや自動販売機と接続するためのコネクタなど,専用のハードウェアを備えている。また,屋外で使用される自動販売機を想定し,自動販売機に取り付けた状態での防水防塵構造としている。

これに対し,電子マネー決済サービスを提供するサービスプロバイダは,2010年頃から提供が開始されたLTE(Long Term Evolution),いわゆる第四世代無線(4G)に注目し始めた。LTEの特徴の一つは,それまでの第三世代無線(3G)と比較して高速な通信が可能なことである。LTEの活用はまず携帯電話,スマートフォンといった個人向けの製品で進んだが,近年では機械間通信(M2M:Machine to Machine)にも使用されるようになりつつある。

こうした中,日立は電子マネー決済サービスを提供するサービスプロバイダ向けに,飲料自動販売機向け電子マネー決済ユニットを提供している。この決済ユニットの主要諸元を表2に示す。

一般に,飲料自動販売機には外部機器を設置できる取り付け部と,そこに取り付けた機器と通信するためのインタフェースが用意されている。日立が提供する決済ユニットは,電子マネーの読み取り機構である非接触ICカードリーダを備えるとともに,この取り付け部とインタフェースも利用することができる。そのため,機器を後付けすることで既設の自動販売機を電子マネー決済に対応させることが可能であり,サービスプロバイダが飲料メーカー各社に電子マネー決済サービスを展開する際のハードルを下げることができる。

飲料自動販売機は,2018年末時点で日本国内に約240万台設置されているが1),その多くが未だ電子マネー決済には対応していない。今後,この電子マネー決済ユニットが飲料自動販売機のキャッシュレス化の進展に寄与していくことが期待されている。

3. 位置情報システム

図2|RTK-GNSSのシステム構成概略RTK-GNSS(Real Time Kinematic-GNSS)方式は,地上に基準局を設けることが特徴である。測位を行う装置は,衛星からの信号に加えて基準局からの補正情報を受信し,これらを利用して測位を行う。

表3|RTK-GNSS測位ユニットの主要諸元RTK-GNSS測位ユニットは屋外で使用される建設機械や農業機械での利用を想定しているため,広い動作温度範囲や防水防塵構造が特徴である。また,これらの機械で多く使用されるCANインタフェースにも対応している。

表4|RTK-GNSS向けアンテナの比較開発品のアンテナは測量向けアンテナに比べて寸法が小さく,体積比で約1/7である。一方で雑音指数やアンテナ最小利得については測量向けアンテナに比べてやや劣るが,概ね遜色なく,RTK-GNSS測位ユニットの用途に対して要求される水準の能力を備えている。

少子高齢化などに伴う労働力の減少を補う手段の一つは,機械化・自動化であるとされる。既に多くの人手作業が機械によって代替されているが,その中心は据え置き型の機械によって実現されるものであり,今後は移動を伴う機械による自動化の実現が期待される。

人・機械を問わず,移動のためには位置情報が重要である。移動には目的地点があり,移動体は自身と目的地点の相対的な位置関係を把握していなければ,適切な行動を決定できない。

位置情報を取得する手段としては,GPS(Global Positioning System)をはじめとする衛星測位が広く認知されている。既に自動車をはじめとする多くの機器に搭載されており,全世界で利用できること,さらに近年では装置の小型化が進み携帯電話やスマートフォンなどでも利用できるようになったことから,さまざまなサービスが提供されている。

GPSは米国の衛星による測位システムであるが,近年では各国がそれぞれの国家戦略に基づいて測位衛星インフラの整備を進めており,これらのインフラを総合して用いるGNSSも利用されるようになってきた。GNSSは利用できる衛星が多いことから,GPS衛星のみを用いる測位に比べて精度が高いとされ,測量などの分野で活用が進みつつある。

一方で衛星測位は,人工衛星からの微弱な電波に基づいて測位を行うという原理上,衛星の配置や電波の干渉,反射などの影響により,GNSSであっても比較的大きな誤差を生じることがある。状況によって誤差は数十メートルを超える場合もあり,用途によっては使用に適さない場合がある。

これに対し,地上に基準局を設置して,衛星からの電波に加え基準局からの補正情報を利用することで精度と信頼性の向上を図る,RTK-GNSS(Real Time Kinematic-GNSS)と呼ばれる方式が提案されている。RTK-GNSSでは,一般に誤差10 mm程度の測位が可能であるとされている2)。RTK-GNSSの概略図を図2に示す。

RTK-GNSSは地上の基準局を必要とするため,基本的には基準局からの情報を受信できる範囲でしか使用できない。このため,ある程度限定された範囲での測位に適したシステムとなっている。

移動を伴う機械による自動化の代表的な例は,自動運転である。自動運転のターゲットとしては自動車が最も注目されているが,自動車以外に建設機械や農業機械の自動運転への期待も高い。

建設機械が移動する範囲は建設現場に,農業機械が移動する範囲は農地にそれぞれ限定される。このため建設機械や農業機械が自動運転のために正確な位置情報を取得するには,RTK-GNSSの活用が期待できる。

日立ではこの点に着目し,RTK-GNSSを用いた移動体向けの測位ユニットを2016年から販売している。この測位ユニットの主要諸元を表3に示す。

建設機械や農業機械などに搭載する測位ユニットは,十分に小型化されている必要がある。開発当時に課題であったのは,特にこのユニットで使用するアンテナであった。

当時,RTK-GNSSの用途は主に測量であった。そのため,使用されるアンテナは高感度である代わりにサイズが大きい傾向があり,本ユニットにはそのまま使用することができなかった。

そこで日立は,本ユニットのために専用の受信アンテナを開発した。開発当時入手可能であった測量用RTK-GNSSアンテナと,本ユニットのために開発したアンテナの比較を表4に示す。

開発したアンテナは測量向けアンテナに比べて体積にして約1/7の小型でありつつ,利得などの特性については概ね測量向けアンテナに比べて遜色ない性能を有している。これによりユニット全体の小型化が実現し,建設機械や農業機械など,移動体への搭載が可能となった。

本ユニットは小型であるとともに,広い動作温度範囲や防水防塵(じん)構造を備えていることも特徴である。これによって過酷な環境で使用される建設機械や農業機械にも搭載することができ,これらの機械の自動運転に資することが期待される。

4. おわりに

本稿では,日立におけるキャリア無線通信機事業と位置システム事業を概観した。特に,キャリア無線通信機事業に関しては飲料自動販売機向け決済ユニットの事例,位置システム事業に関しては移動体向けRTK-GNSSユニットの事例をそれぞれ紹介した。

これらの事例におけるキャリア無線通信や衛星測位に用いられる処理系は,既にモジュール化が進んでいる。このため,通信機能や測位機能を使うシステムは,このようなモジュールを部品として使用すれば容易に実現可能である。

一方で,本稿で紹介したような特定の用途に特化した専用機器を提供するには,その用途に対する深い理解を基礎として必要な開発を行っていかなくてはならない。例えば決済ユニットの場合は自動販売機への取り付け機構や通信インタフェース,RTK-GNSS測位ユニットの場合は専用アンテナがそれにあたる。

用途への理解が重要であることは,汎用の通信端末の場合でも同様である。顧客が通信端末を購入する際には,それを用いて実現したい目標がある。そのために適切な通信端末の使い方や設定方法,回線など必要となるサービスを適切に提供していくことが,端末の提案においては必要である。

本稿で紹介した事例はいずれも工場など生産現場での「つなぐ」技術を応用したものであり,今後さらに広い分野での活用を図っていく。ネットワークへの接続方式としてキャリア無線,ソリューションの鍵として測位システムが必要とされる際には,これまでに得た知見を基に,積極的な事業展開を図っていく所存である。

参考文献など

1)
一般社団法人全国清涼飲料連合会:清涼飲料水Q&A
2)
柳原徳久,外:RTK-GPS,情報処理,43,8,831〜835(2002.8)
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