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社会インフラを支える基幹系ユーティリティ・プロダクト

拡張性と信頼性で無停電化を支えるコネクテッドUPS

ハイライト

UPS(無停電電源装置)は,社会インフラを支える設備の無停電化に欠かせない重要な機器である。UPSを適用する電源システムは負荷の運用や設備の規模,保守性,拡張性,経済性など,ユーザーのさまざまな要望に応じて最適なシステムを構築する必要がある。

日立では幅広いUPSのラインアップとともに,高い信頼性や拡張性を備えた給電継続性の高い電源システムを提供している。また,2018年より販売を開始した小容量UPS「UNIPARA mini」では,故障発見時により迅速な対応を可能とし,利用者が安心してUPSの使用を継続できるようにIoTを活用した新たな保守サービスの提供を始めた。

目次

執筆者紹介

谷口 雅弘Taniguchi Masahiro

  • 株式会社日立インダストリアルプロダクツ 電機システム事業部 パワーエレクトロニクス設計部 所属
  • 現在,UPSの設計開発に従事

目黒 光Meguro Hikaru

  • 株式会社日立インダストリアルプロダクツ 電機システム事業部 パワーエレクトロニクス設計部 所属
  • 現在,UPSの設計開発に従事
  • 電気学会会員

木村 章夫Kimura Akio

  • 株式会社日立インダストリアルプロダクツ 電機システム事業部 パワーエレクトロニクス本部 パワエレシステム部 所属
  • 現在,UPSの企画・拡販業務に従事

佐藤 潤一Sato Junichi

  • 株式会社日立インダストリアルプロダクツ 電機システム事業部 パワーエレクトロニクス本部 パワエレシステム部 所属
  • 現在,UPSの企画・拡販業務に従事

1. はじめに

近年のデジタライゼーションの進展に伴い,情報社会を支える情報・通信システムはもとより,工場に使われるFA(Factory Automation)機器やセンサーまでもがネットワークにつながるIoT(Internet of Things)社会に移行する中,これらの機器の安定稼働に寄与するUPS(Uninterruptible Power System:無停電電源装置)の重要性はますます高まっている。

大規模なデータセンターの電源システムで用いられるUPSには,高い電源供給信頼性や電力変換効率が求められる一方,設備の拡大などに伴う負荷増加に対応するため,既存のシステムにUPSを容易に増設できる高い拡張性が求められる(図1参照)。また,パソコン・通信機器などの小型機器や工場のFA機器の場合,高信頼性はもちろんのこと設置面積の制約による省スペース化においてもニーズがある。

UPSの重要性が高まる中,日立では出力容量0.75〜1,000 kVA/台の幅広いUPS製品のラインアップをそろえることで,広範囲なニーズに対応している。また,保守サービスとして,利用者がUPSの稼働状況や蓄電池の劣化状態を計測し,日立のサービスセンターで遠隔監視するサービスの提供や,小容量UPSにおいてサーバとUPSを連動させることにより,運用管理の省力化に寄与する電源管理機能を提供している。さらに,新製品の小容量UPS「UNIPARA mini」シリーズ1)では,IoTを活用し,インターネット上のクラウドを介してUPSや蓄電池の運転状態・保守情報などを蓄積することでより迅速なサポートを可能とした「見守りサービス」の提供を始めた。本稿では,日立グループの次世代マニュファクチャリング2)を支える,コネクテッドUPSを紹介する。

図1|データセンターのUPS構成例大容量UPS,中容量UPS,小容量UPSなど各製品ラインアップを適用することで,さまざまな設備形態・用途に最適なUPS電源システムを構築することが可能である。

2. UPS電源システムへのニーズと対応

2.1 冗長システムによる信頼性向上

図2|並列冗長システムの構成例負荷設備の使用電力に対し,UPSの総出力容量が大きくなるように複数台のUPSを並列接続することで,故障などでUPSが停止した場合でも,残りの健全なUPSでUPS給電を継続することが可能となる。

図3|待機冗長システムの構成例予備UPSは常用UPSのバイパス回路に給電を行い,故障などで常用UPSがバイパス給電に切り替わった場合,予備UPSから負荷設備へUPS給電を継続することが可能である。

近年,デジタル社会の急速な進展に伴い,データセンターの大規模化によって電源容量が増大し,大規模なUPSシステムの需要が高まりつつある3)。このようなシステムでは,機器への電源供給が停止した場合の影響は計り知れず,電源設備にUPSを導入することはもちろん,複数台のUPSを用いて電源システムに冗長性を持たせることで,信頼性をより高めることが必要とされる。代表的なシステム構成例としては,並列冗長システムや待機冗長システムなどがある4)

図2に,並列冗長システムの構成例を示す。複数の同じUPSを共通の出力母線に並列に接続し,負荷容量よりもUPSの総出力容量を大きくすることで,万一,UPSが故障・異常により停止した場合でも,残りの健全なUPSで給電を継続することが可能なため,冗長性を確保することができる。主力製品である中・大容量UPSの「UNIPARA」シリーズ(HIVERTER-UP201i,UP201e,UP203i,UPN471e)では,ユニットパラレル方式※1)を採用しており,並列冗長システムの構築において共通制御部をなくし,UPSごとに独立した制御装置を配置して他のUPSの影響を受けない構成としている。このような構成とすることで,保守点検時やUPS増設時に商用電源のバイパス給電に切り替えることなく,UPS給電を継続したままでUPSの解列※2)・並入※3)ができ,高い連続給電性と拡張性を実現している。

また,待機冗長システムは,常時負荷への給電を行う常用UPSと,平時は常用UPSのバイパス回路に給電を行う予備UPSで構成される(図3参照)。万一,常用UPSが異常などでバイパス回路に切り替わった場合は,常用UPSのバイパス回路を介して予備UPSから給電することにより,UPS給電を継続して冗長性を確保する方式である。UNIPARAシリーズでは,ユーザーの負荷運用や経済性,保守性などの状況に応じて並列冗長システム,待機冗長システムのいずれにも対応可能である。

※1)
バイパス回路を内蔵したUPSユニットを並列接続して並列システムを構成する方式。
※2)
並列運転している複数台のUPSシステムでUPS給電を継続したまま1台のUPSを停止すること。
※3)
並列運転している複数台のUPSシステムでUPS給電を継続したまま,停止しているUPSを並列運転状態にすること。

2.2 長寿命・省スペース化対応

UPSで用いられる蓄電池は大きな蓄電容量が必要なため,比較的安価である鉛蓄電池が広く用いられている。一方,鉛蓄電池は経年劣化により容量が低下するため5〜10年程度で交換が必要となり,ライフサイクルコストとして蓄電池交換費用がかかってしまう。このため,UNIPARA miniでは長寿命[期待寿命15年(周囲温度25℃)]のリチウムイオン蓄電池に対応することで,15年のライフサイクルにおける蓄電池交換を不要とした。さらに,リチウムイオン蓄電池は鉛蓄電池と比較してエネルギー密度が高く,設置面積を従来比で約4割低減※4)できる(30 kVA,停電補償時間10分)。

※4)
長寿命MSE蓄電池と比較した場合(株式会社日立インダストリアルプロダクツ調べ)。

3. IoTを活用した運用管理・保守ソリューション

3.1 電源管理の自動化対応

図4|電源管理ソフトによる自動化とスケジュール運転のイメージ専用の電源管理ソフトをサーバ側で使用することにより,停電時のサーバシャットダウンが可能である。また,遠隔でUPSを自動的に起動・停止させるスケジュール運転が可能である。

単機システム※5)に小容量UPSを使用する設備においては,停電発生時にUPSが給電を継続する間に負荷が掛かっているサーバやコンピュータを安全にシャットダウンすることが必要であるが,多数の小容量UPSが設置されているデータセンターにおいては,サーバのシャットダウン操作の省力化が求められる。小容量UPSのミニ・セーフシリーズ(HIVERTER-55,HIVERTER-775)など)やUNIPARA mini(HIVERTER-UP101es)では,専用の電源管理ソフトウェアを用いることで,停電時にサーバに対してシャットダウン信号を送信する機能を備えている。また,設備によっては夜間や休日などに負荷を停止するため,時間帯や曜日によって決められた時間だけUPS給電をするスケジュール運転を行いたいという需要がある。電源管理ソフトウェアでは,設定によりUPSのスケジュール運転を行うことも可能である(図4参照)。

3.2 見守りサービス/月額定額サービス「ユニピタ」

UPSシステムの高信頼性を維持するためには,運用開始後に定期的な保守や監視を継続することが求められる。このような要望に対応するため,日立のUPSでは,通信インタフェースの追加により,UPSの運転状態や異常などを遠隔で監視することが可能である。専用ソフトウェアにより利用者自身で監視することはもちろん,オプションでオンライン(公衆回線)に接続すれば日立のサービスセンターへの自動通報が可能であるなど,24時間の監視体制で万一の異常発生時にも迅速な対応ができるオンライン保守サポートサービスを提供している。またUPSシステムの重要部品の一つである蓄電池は,周囲温度などの使用環境によって大きく寿命が変わるため,各電池の電圧や内部抵抗の状況を計測し,劣化状況を監視することがさらなる信頼性の向上に有効である。各蓄電池に監視装置を取り付けることで,UPSと同様に専用ソフトウェアによる監視やオンライン保守サポートサービスに対応している。

UNIPARA miniシリーズでは,IoTを活用した新たな保守ソリューション(見守りサービス)を提供している。図5に見守りサービスのシステム構成を示す。UNIPARA miniは,無線装置からのモバイル通信によってインターネット上のクラウドを介して日立のサービスセンターと接続され,従来のオンライン保守サポートサービスと同様の保守サービスを提供するとともに,サービスセンターには負荷率や周囲温度,蓄電池状態などの運転履歴データを蓄積していく。この運転状態のデータは,インターネットを経由した専用のポータルサイト(UPSオーナーズサイト)で利用者のパソコンなどから閲覧することが可能であり,各種お知らせ,問い合わせ・回答など,利用者と日立の間のコミュニケーションもサポートしている。UPSオーナーズサイトでは,納入時のドキュメント,納入設備の機器仕様,部品交換履歴などを閲覧できるドキュメント管理サービスも提供しており,負荷の増設や蓄電池の交換時期など,中長期的な設備稼働管理・保守作業計画に活用できる(図6参照)。また,サービス利用者の運転履歴データを蓄積・分析することにより,適切なタイミングで保守や更新についての提案を行うことが可能になると考えている。

さらに,UNIPARA mini本体と,蓄電池などの部品交換,そして見守りサービスによる日常監視・故障対応といった運用管理・保守に関わる各種サービスを合わせた5年間契約の月額定額サービス「ユニピタ」を準備している(図7参照)。初期費用を掛けることなくUPSを導入でき,さらに5年ごとに契約を見直すことにより,事業環境・技術動向の変化に柔軟に対応できる。また,運用管理・保守サービスも含まれるため,今までUPSになじみのなかった分野にも容易に導入することが可能である。

※5)
負荷に対し1台のUPSで給電するシステム。

図5|「見守りサービス」の構成クラウドを介してUPSの状態・監視データを蓄積する。利用者自身による監視データの閲覧はもちろん,24時間体制でUPSの状態を見守る日立のサービスセンターによる迅速な保守サポートが可能である。

図6|オーナーズサイトの画面例オーナーズサイトでは納入履歴や運転状況,納入図書などの情報を利用者がいつでも閲覧することが可能となっている。日立のサービスセンター側でも同様の情報を確認することができ,部品交換時期などの情報をタイムリーに提供することができる。

図7|ユニピタ利用時の月当たり保守費用の推移(概算)5年間の月額契約により,初期費用なしで,見守りサービスなどの保守サービスと一体となったUPSを導入できる。5年ごとに契約するため,5年間のみで終了することも可能である。

4. おわりに

本稿では,UPSに求められる高い信頼性や拡張性,省スペース化などのニーズに応える日立のUPSと,IoTを活用したさらなる信頼性の向上,利用者にとって便利で安心なサービスの提供開始について述べた。なお,UNIPARA miniで提供している見守りサービスについては,今後,大容量UPSの機種などにも適用を拡大していく予定である。

参考文献など

1)
日立ニュースリリース,省エネ・小型のUPS「UNIPARA-mini」シリーズを販売開始(2018.3)
2)
Hitachi IR Day 2019 インダストリーセクター,p12(2019,6)(PDF形式、2.77Mバイト)
3)
川畑克人,外:インターネットデータセンターの最新動向と各種開発(その2)-高信頼性・省エネルギー大容量UPSの構築-,電気設備学会 2008年全国大会(2008.9)
4)
市川智教,外:無停電電源システムのリニューアルの最新動向と技術,電気設備学会誌,35,5,pp.321〜324(2015.5)
5)
日立ニュースリリース,長寿命タイプを追加した汎用小型UPS「ミニ・セーフ」シリーズをリニューアル販売開始(2019.5)
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