日立評論

技術革新 IT

研究開発

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1. 金融分野におけるPBI活用技術

オンラインでの確実な本人認証の手段として,日立では,生体情報から秘密鍵を再現する日立独自のPBI(Public Biometrics Infrastructure)を開発し,便利で安全な認証基盤を提供している。

金融サービスのデジタル化の進展により,従来は対面や郵送で行われていた取引開始時の手続きを,顧客のスマートデバイスを介して,オンラインで実施する動きが広がっている。PBIの初期登録処理に,身分証明書の写真とカメラ画像の照合を加えることで,より厳格なオンライン本人確認を実現する。

また,近年,インターネットバンキングでは従来のパスワードに代わり,生体認証を活用したFIDO(Fast Identity Online)認証が導入されている。FIDOとPBIを連携させることで,スマートフォンを紛失した場合にもサーバ保管された公開テンプレートを活用し,サービスを継続利用することができる。

今後は,顧客協創を通じて本技術の社会実装を推進していく。

[1]金融分野におけるPBI活用技術[1]金融分野におけるPBI活用技術

2. パブリッククラウドへのリフト&シフトに向けた技術開発

システム開発の迅速化やコスト削減のために,パブリッククラウドへの移行が進んでいる。既存システムを有効活用しつつパブリッククラウドへと移行(リフト)させ,クラウド環境に適したシステムへと進化(シフト)させていく。

リフト&シフトを実施する場合,パブリッククラウドが提供しているサービスを適切に選定・連携し,セキュアに使用することが求められる。セキュリティ向上のためには,あるサービスから別のサービスへの連携に対し,適切に権限を設定することが必須である。付与する権限が適切かつ必要最小限であることを確認するためには模索が必要であり,工数がかかる。そこで,サービス間連携の権限付与に続いて,権限の必要性をテスト実行によって確認・判定し,これらを繰り返すことで最小権限を自動的に発見するエンジンを開発した。

今後も,リフト&シフトをセキュアかつ効率的に実現する技術の開発を行っていく。

[2]パブリッククラウドサービス連携のための最小権限発見エンジンの概要[2]パブリッククラウドサービス連携のための最小権限発見エンジンの概要

3. サイバーセキュリティリスク定量化

近年,サイバー攻撃の脅威は深刻化しており,その対象は工場・プラントなどの産業設備だけでなく,エネルギー,交通,金融といった社会を支える重要インフラにも広がるなど,さまざまな分野でサイバーセキュリティ対応の重要性が増している。

一方,セキュリティインシデントの発生リスクや対策の投資対効果(ROSI:Return on Security Investment)が不明瞭なため,事業責任者においても,どこまでコストをかけて対策をとるべきかという判断が困難となっている。

そこで,日立で開発を進めていた脆(ぜい)弱性情報に基づくシステムリスク評価技術をベースに,損害保険ジャパン日本興亜株式会社,SOMPOリスクマネジメント株式会社との共同研究により,自然災害のリスク評価モデル:CAT(Catastrophe)モデルに基づいた,サイバーセキュリティリスクの定量化方法を提案した。

具体的には,産業・重要インフラ分野において適切なセキュリティ投資判断を支援するため,損害発生モデルシミュレータにより,セキュリティインシデントによる年間損害額とその発生確率[EP(Exceedance Probability)カーブ:超過確率曲線]にて定量化する方法を検討・開発した。

[3]「損害発生モデルシミュレータ」による超過確率曲線の算出[3]「損害発生モデルシミュレータ」による超過確率曲線の算出

4. データ駆動型・人間中心サービス創発を加速するデータ流通技術

[4]データのカタログや変換機能を生成・提供するデータ流通技術[4]データのカタログや変換機能を生成・提供するデータ流通技術

Society 5.0やThailand 4.0,Digital Indiaなど,各国でデータ駆動型デジタル戦略が推進されている。日本には良質なデータが多量に存在するが,組織や分野によりデータの表現・構造が異なるため,十分に活用されていなかった。

日立はこれまで,行政保有の統計情報などの構造化データに対して,蓄積された学習用の教師データを用いて新規データの所在や種類などのメタデータを抽出し,カタログに登録したり,共通のデータ表現・構造への変換作業を効率化したりする技術を開発してきた。現在,非構造型データやIoT(Internet of Things)データ向けに拡張し,メタデータや変換規則を生成するデータ流通技術を開発している。

今後は,利用者の移動や予定データを利用して鉄道からバス,タクシー,シェアサイクルといった交通手段にシームレスに乗り換えられる移動サービスなどのデータ駆動型・人間中心サービスの創発を加速すべく,社会実装を推進する。

5. デジタル都市モニタリング

都市空間の価値向上をめざして,超高感度振動センサーを適用したデジタル都市モニタリング技術を開発している。日立が開発した超高感度振動センサーは,世界最高感度(15 ng/√Hz※1)を持ちながら消費電力が小さいため,100 m超の広範囲の情報を長期間計測できる。この特長を生かして,都市空間にあるビルや道路,商業施設などさまざまな設備を広範囲に見守ることが可能である。

平常時には,埋設管の損傷を検知して保守・保全の効率を向上できるだけでなく,工事状況,群集の移動度などをモニタリングして都市空間の効率的な運用が可能となる。また,災害時は同じセンサーを使った建物の挙動や被災度※2)などの状況の把握により,被害の最小化や早期復旧に役立てることができる。

今後,さらにコンテンツを拡大して都市活動の可視化を進め,QoL(Quality of Life)の高い安全・安心な社会の実現に貢献していく。

※1)
2019年11月29日現在,日立製作所調べ。
※2)
株式会社大林組との共同研究にて開発中。

[5]デジタル都市モニタリング[5]デジタル都市モニタリング

6. 三次元TOFセンサーによる人物動作/動線認識システム

三次元TOF(Time of Flight)センサーは,画像解析や人感センサーでは測れないほど高精度に,そして広範囲で周囲の三次元データを測定できる。日立は,画像データを使わず三次元データだけで,動線や動作などの人物の動きを測定する技術を開発した。

この技術を用いて,小売店舗やオフィスでの従業員の動作を精緻に見える化することができ,従業員の作業モデルを作成することで,作業効率や逸脱動作有無,疲労度や健康状態を分析できる。また,分析結果を現場にフィードバックすることで,生産性の向上や職場の働きやすさの向上につなげることができる。

すでに,生産現場の逸脱作業検知システムでの実証実験や,小売店舗のレジなし精算システムへの採用事例などの実績がある。

労働人口の減少による生産性の低下という社会課題に対し,それを補うためのデジタルソリューションとして,人物の動きをセンシングし,分析した結果を現場にフィードバックする技術で解決する。

[6]三次元TOFセンサーによる人物動作/動線認識システム[6]三次元TOFセンサーによる人物動作/動線認識システム

7. デジタルトランスフォーメーションを加速するSoftware Defined Storage

[7]サーバ間データ保護技術[7]サーバ間データ保護技術

データを活用してビジネスを変革するデジタルトランスフォーメーションに適したストレージとして,SDS(Software Defined Storage)が注目されている。

SDSは,複数の汎用サーバをソフトウェアで統合してデータを格納するストレージプールを構成し,サーバを増設するだけで容量や性能をスケールアウトできる特長を持つ。そのため,データ活用に基づく新ビジネスをスモールスタートし,ビジネスの成長に合わせてITインフラを拡張したいという顧客ニーズに適したストレージである。

SDSはサーバ障害によるデータの消失を防ぐため,サーバ間でデータを冗長化して格納する機能を持つ。日立は,容量効率と高性能を両立するサーバ間データ保護技術を開発した。業務アプリからの書き込みデータをそのまま受信したサーバ(担当サーバ)に格納しつつ,データを別サーバに転送する。転送先サーバでは,異なる担当サーバのデータ同士を組み合わせて冗長符号を生成し,冗長符号のみを格納することで容量効率良くデータを保護する。また,ネットワークを介さず担当サーバから高速にデータを読み込むことが可能となり,デジタルトランスフォーメーションに必要な大規模データ分析を加速することができる。

8. CMOSアニーリング

[8]CMOSアニーリングの仕様[8]CMOSアニーリングの仕様

大規模なスケジューリング最適化やポートフォリオ最適化などを実現するために,組合せ最適化問題の実用解を高速に探索するCMOS(Complementary Metal-oxide-semiconductor)アニーリング技術の開発を行っている。

これまでは,ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)に実装した疎結合モデルを用いた手法を開発していたが,さらに,全結合モデル向けの最適化アルゴリズムを開発した。本アルゴリズムをGPU(Graphics Processing Unit)に実装し,10万変数の全結合組合せ最適化問題を用いて検証し,シミュレーティドアニーリングと呼ばれる従来手法より250倍高速に近似解を求められることを確認した。

全結合問題に対応する本アルゴリズムとこれまでの疎結合問題に対応したCMOSアニーリングマシンを顧客課題に応じて使い分けることで,幅広い実問題に対応する。今後,研究開発拠点として開設した「協創の森」を活用して,社内外のパートナーとともにソリューション協創を進め,複雑化する社会課題の解決に貢献する。

9. XAI:AI判断の根拠説明技術

[9]AI判断の根拠説明技術(XAI)の概要と応用例[9]AI判断の根拠説明技術(XAI)の概要と応用例

AI技術の発達に伴い,人命や財産に直結するミッションクリティカルな意思決定へのAIの応用に,社会的な期待が高まっている。その一方で,深層学習などに代表される近年の高度なAIは,その内部で行われる判断プロセスが非常に複雑であり,「AIがなぜそう判断したのか」を人が理解することが困難になっている。そのため,判断根拠の透明性や公平性が特に要求されるミッションクリティカルな分野におけるAIの活用に,不安の声も上がっている。

日立では,この期待と不安のギャップを埋めるために,既存の幅広いAIに対して,その判断根拠の説明機能をアドオンできるXAI(Explainable AI)技術を開発している。AIの活用現場において,その判断に人が納得したうえで意思決定に活用できるよう,さまざまな観点からの判断根拠を組み合わせて提示する。このように,複雑化したAIの判断を多角的に理解できるようにすることで,現場で安心・信頼して使えるAIの早期実現を支援する。

10. Augmented Data Analytics Framework

近年,ダークデータと呼ばれる企業内に眠っており二次利用や活用がされていない非構造データを活用し,生産性向上やコスト削減などビジネスに役立たせる取り組みに注目が集まっている。

例えば,金融機関では金融業界に関する専門知識をさまざまな帳票から抽出し,それに先進のデジタル技術を掛け合わせることで,個々の顧客ニーズを捉えた最適な金融サービスの提供が可能になるなど,金融機関における新規顧客の獲得や売上拡大に向けた取り組みの加速が期待できる。

しかし,ダークデータをビジネスに活用するためには,これらダークデータの中からビジネスに有用なデータを抽出し,後段のデータ分析処理で取り扱えるテーブル形式などのデータに変換する必要があり,これまで人が膨大な時間をかけて行ってきた。そこで日立は,膨大な文書から必要な情報を抽出するAugmented Data Analytics Frameworkを開発した。これにより,例えば製造業では,製品の仕様書や報告書類から熟練者の知識を抽出・再活用することで,熟練者不足の解消が期待できる。

[10]Augmented Data Analytic Frameworkの概要[10]Augmented Data Analytic Frameworkの概要

11. 少データで高精度学習可能な要素分解深層学習技術

日立は,認識対象物の特徴を要素分解しながら学習することで,少ないデータでも高精度に学習することができる画像認識AI向けの深層学習技術を開発した。

従来の深層学習技術を用いた画像認識AIは,想定される認識対象物と背景などの組み合わせを網羅したデータを集めて学習させる必要があり,データ収集および学習に多大な時間を要している。本技術では,認識対象物には直接関係しない背景などの特徴と,認識対象物の不変的な特徴を捉えることができる形状や色などの特徴に要素分解して学習し,かつ後者の特徴を選別して認識する画像認識AIを生成する。これにより,未学習の画像特徴を有する物体の認識精度が向上するため,事前に十分な学習データを集められないケースにおいても,高精度な画像認識AIの生成が可能となる。

今後は,公共エリアでの映像監視や産業分野における目視検査代替など,十分な学習データを集めにくいとされる分野への適用を進め,社会の安全・安心や生産現場の効率化に貢献していく。

[11]従来技術と開発技術との違い(画像内の人を認識する場合のイメージ)[11]従来技術と開発技術との違い(画像内の人を認識する場合のイメージ)

12. デジタル対話サービスを支える音声認識・対話技術

労働力不足や働き方改革などの社会課題に呼応して,企業内の音声・テキストデータの利活用および顧客応対自動化などの技術ニーズが高まっている。このニーズに対して日立は,サービスロボット適用を当初の目的に,音声対話技術を開発してきた。

その成果は2018年末にEMIEW3の実サービス開始につながり,加えて同年,デジタル対話サービスという名称でチャットボット機能,音声書き起こし支援機能が製品化された。特に音声書き起こし支援機能は,8チャネルのマイクアレイを会議の場に設置することで,複数方向からの発言音声を高精度にテキスト化できる特色ある製品となっている。製品リリース後も差別化機能の実現に向けて,ログから対話知識を抽出する成長型対話技術や複数話者同時音声認識などの技術開発を進めている。

今後,これらの強み技術を製品適用することでデジタル対話サービス事業を拡大するとともに,顧客企業のデジタルトランスフォーメーション実現に貢献していく。

[12]音声書き起こし支援サービスの構成[12]音声書き起こし支援サービスの構成

13. ソフトウェア構造理解を支援するVRソースコード可視化

ソフトウェア開発を効率化する技術として,大規模で複雑なソフトウェアの構造をVR(Virtual Reality)空間で可視化する技術を開発した。VR空間内にソフトウェア構造を建築物のメタファとして表現することで,ソースコードの直感的な理解を助けるとともに,ソフトウェアの問題箇所の発見を容易にした。

巨大なソフトウェアを改造する場合,ディスプレイなどの二次元平面では表示できる情報量に限界があり,ソフトウェアの構造理解が困難という課題がある。そのため,建築物をメタファとして用いたマクロなソフトウェア構造の理解支援技術,不具合につながりやすいソフトウェア特性の理解支援技術,ソフトウェアの動的な振る舞いの理解支援技術を開発した。

今後,日立は本技術を活用して効率的にソフトウェアを開発する環境を提供していく。

[13]VR空間における組織化された依存関係グラフ[13]VR空間における組織化された依存関係グラフ

14. AI活用システムの品質保証

[14]AI網羅検証技術[14]AI網羅検証技術

近年,AIを活用したシステムが増加しており,その品質保証が課題となっている。特に社会的影響の大きいミッションクリティカルシステムにおいては,AIの振る舞いが人命や経済に悪影響を与えないことを,システム稼働前に保証することが望ましい。しかし,AIへの入力値のケースが多数存在する場合,それら全てのケースを従来のテストで確認するには膨大な時間がかかる。そこで,ディープラーニングや決定木アンサンブル学習で開発したAIを対象とする網羅的な自動検証技術を開発した。

本技術では,AIが安全性などの制約を満たすことの証明を,AIおよび制約から生成される論理式の充足可能性判定問題に帰着させる。これにより,効率的に網羅検証を実現できる。決定木アンサンブル学習で作成した320本の決定木から成るAIに適用した結果,数十時間で網羅検証を完了できることを確認した。この技術により,安全・安心なAI活用システムの社会実装を実現する。

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